底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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思い残した物

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いろいろな事が有り、母様たちの”自由に生きてごらん”というアドバイスもあって、私は今、自分の思うがまま自由に生きています。

「でね、エレちゃん。今度実家に帰る時、エレちゃんも一緒に来てほしいなぁ、なんて思っちゃったりして……」
「隊長、それはお願いですか?命令ですか?」
「う~ん、命令…かな?」

全くもう!でも美女には逆らえないエレオノーラです。

「で、私の転移を使えばいいんですか?でも知らない場所にいきなり転移は不安だしなぁ」
「や~ん、そんな無粋な事しないで。ゆっくり馬車に乗りながら、楽しいお話をして、行く先々で美味しい物を食べたり、名勝を見たりして、楽しみながら行きましょうよ」
「………隊長、本当にご実家に用が有るんですか?」
「そうよ、たまには顔を見せろと言われたから、顔を見せに行くだけだけど」
「そう言う事は、シャインブルクさんとやって下さい」

なので、私はシャインブルクさんに事情を説明し、焚き付け、押し付けました。
シャインブルクさんは”仕方ないなぁ”といいつつも、まんざらでもない様子。
私、当日急な癪で寝込みますから、ドーンッと行っちゃって下さい。

当日、予定通り急な癪で臥せった私は、自室の窓から、にやにやしながら外を眺めています。
戦略に長けているシャインブルクさんは、前日突然やってきて、何やら理由を付けてこの城にお泊り、私が臥せった後も隊長を丸め込んでいました。
出発間際の馬車の前で、真っ赤になりながら何やらいちゃもんを付けている隊長を、まあまあと言って馬車に押し込み、旅立って行きました。
シャインブルクさん、頑張れーーー。


つまり、数日隊長とお出かけする予定だった私は、暇になってしまいましたね。
やろうと思えばいくらでも仕事は有りますが、せっかくだから、今日はミシェルに会いに行こうっと。


「ヤッホーーミシェル」

お墓の前でミシェルを呼び出します。
ほどなくして姿を現したミシェルだけど、どことなく雰囲気が違う。
影が薄いというか、なんと言うか……。
元々お化けだから、影が薄いのは当然なんだろうけど。

「やあ、エレオノーラ。しばらく。」
「うん、ミシェル元気だった?」

これも適した挨拶じゃないけど、ミシェルなら分ってくれる。

「最近どうしてた?」
「うん、貧乏暇なしってね、結構忙しくしてる」
「貧乏ねえ。エレオノーラなら、いくらでも自分の能力で稼げるでしょうに」
「そんなズルみたいな事は嫌い。自分が汗水垂らして稼いだ金こそに価値はあるってね」
「ふーん、まあそんなエレオノーラだからこそ、私は好きなんだけどね」
「や~んミシェルったら、私も好き!そう言えばミシェルはどうしていたの?相変わらずお空でぷかぷか?」

そうやって魂を休めて、転生へのステップを踏むのでしょう?

「それもあるけど、ずっと心残りだった事が出来たんだよ!」

心残り…もしやあれか?

「海?」
「そう、海!」

そうか、やっと行ってきたんだね。

「どうだった?やっぱり海は塩っ辛かった?」
「分からなかったよ」
「なぜ!?」

どうやらミシェルがこの状態になってから、味覚とか、必要のない物はあまり働かないそうな。

「そうか、楽しみにしてたのに残念だったね」
「まあね、でも最高だったよ。水はとても澄んでいて、碧くて、眩しくて。浅瀬では魚が泳ぐのが見えてね。何より風がとても気持ちが良かった……」
「ほーーー」
「何かね、清浄というか清らかというか、まるでエレオノーラと一緒にいる時みたいな感じなんだよ。その中にいるとね、もういいかな…なんて思ってきちゃうんだ」

そっか、もしかすると彼女はもう転生の準備に入るのかもしれない。
それがいい事だと思うけれど、やっぱり少し寂しいな…。

……………。

ダメだよ。
肝心な事をしてないじゃん。

「ねえミシェル。何日か私に付き合ってもらえるかな」
「うん、いいよ。一体何するの?」
「ちょっとね、旅行に行こうかと思うんだ」


取り敢えず母様たちに相談をし、イカルス兄様に報告して、私はバンウルフに向かう事にしました。
ミシェルはそんな事はしなくてもいいと言うけれど、ミシェルの為だけじゃないんだよ。
私の気持ちの為にも行きたいんだよ。

「隊長もいない事だし、エルの護衛に俺達も一緒に行くぞ!」

いや、そんな目立つ事したら相手に迷惑ですからやめて下さい。

「とにかく、私は大丈夫ですから。行ってきますね!」

そう言い残し、ごねるジョンさん達を残し、私は転移した。
さしあったっては、バンウルフに比較的近いサバストですかね。


さて、久々にサバストに降り立ったエレオノーラです。
いろいろ有ってみたい人もいますが、いつミシェルが成仏してしまうか分からないから、先を急ぎます。

「ミシェル、ここからバンウルフまでの馬車って出ているの?」
「出てるけど、馬車で行くの?かなりお金がかかるよ?」
「大丈夫。今の私はお金持ちなのだ」

まだ使わず残っていたお金も有るし、給料でほしい物も無し。
それを溜め込んで、今の私の懐はホカホカの熱々なんです。
それに馬車の料金は、私一人分しか掛からないから大丈夫なんです。
だからここは贅沢をして、直通馬車を使ってしまいましょう。




「平和だなぁ、皆一体何をしているんだろう」

帳簿から目を上げ、窓から青く澄み渡った空を眺め、そんなこと思う相変わらず影の薄いシルベスタでした(たまには登場しないと、忘れ去られちゃうから)
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