70 / 109
殿下の決心
しおりを挟む
「あなたは、あの火災から病弱になったと聞いた。あなたの体は本当に大丈夫なのか?こうしている今だって無理をしていませんか?」
「体……ですか?」
エルちゃん、そんな心当たりが無いような顔してちゃダメです。
シナリオをよく思い出しなさい。
「あっ、あれですか。それについては……”ワタシハナニモオボエテマセン”」
何、その棒読み。
そのセリフも大方リン姉様からの指示だと思うけれど。
「……………そう言えば…あなたはサバストで火災に巻き込まれ、最近まで意識不明の重体だったはず……。それがなぜ何度も命の危険に遭遇し、この辺境でこうしているのですか?」
あああぁぁぁ……、殿下、気が付いちゃった?どうして気が付いたの!?
今まで誤魔化せたと思っていたのに。
「ワタシハナニモオボエテマセン」
うん、それはいい返事だと思うよ、だけどそれじゃあ通らない時も有るんだよ。
エレちゃんだって気付いてるんでしょう?
現に冷や汗だらだらだよ?
「殿下に申し上げます。これ以上彼女を追い詰める事はおやめください」
「しかし、おかしいではないか!確かに彼女の兄上はここで仕事を持っている。彼女がこの地を頼って来ても何らおかしいことは無い。だが、一連の出来事を聞くと、辻褄が合わないのだ」
そりゃぁ嘘ぶっこいてますから、合わなくなるのが当然。
でもこれ以上追及すると、あんたの立ち位置が、さらに彼女から遠のきますぜ。
「エレオノーラ、なぜだ?一体あなたに何が有った。本当の事を言ってくれ!」
「あの、それは………隊長~~」
どうやらエルちゃんは私に助けを求めているようだけど、無理、私にだって良い言い訳が出てこない。
「あの、あ、あれですよあれ、あ~~私がディア・アレルヤだから?そのせいで何だって出来ちゃうんですよ、きっと」
「ディア・アレルヤ………?」
「はい!」
「その名は覚えがある。確か幼い頃、寝物語で聞いたな」
「そうなんですか?」
「ディア・アレルヤは神の眷属の一人であり、全てを司る者、小さい頃は悪い事をすると罰しに来ると聞いた覚えがある」
「やですね、確かに私は悪い事は嫌いですが、全人類の事なんて分からないし、神様なんかじゃありませんよ。それと神様に似ていると言われているのは母様の事です」
分りましたか?とにっこり笑っているけど、それ間違っているから。
「エレちゃんや、ディア・アレルヤ=神似者なのよ。リンデンさんも言っていたでしょ?だからディア・アレルヤで有るあなたが、神似者と呼ばれる者なの。因みにリン姉様は神似者の似者なの。分かった?」
「へーそうなんですか?」
この様子じゃ、信じてないな。
「本当に……ディア・アレルヤが降臨したのか?それも彼女が………」
なるほど、それならば今までの事も腑に落ちる……。
ディア・アレルヤならば自分を癒す事も容易。
だがそれならば私は、彼女の足元にも及ばない存在になり下がったか……。
私の望みは潰えた……。
だがもし私が………。
殿下、まだ勘違いしている事も有るようですが、まあ彼女の存在からすれば、それも細かい事。
しかしこれであなたの望みは泡と消えましたね。
でも彼女は神ではなく神似者、言うなれば神ではなく一人の人間です。
いずれエレちゃんの考えが変わり、結婚を考えるようになれば、その望みも復活する可能性は有りますが、一体どうなるんでしょうね?
その時は誰を選ぶのでしょう、この天然さんは。
「ディア・アレルヤ・エレオノーラ様。私は全てを捨てる事にします。いえ、捨てるのではない。全てをあなたに捧げます」
「いらない」
あぁぁぁ、エルちゃん。
そんな残酷な事をそんなにハッキリと………。
「私はあなたを必要としません。あなたは、あなたを本当に必要としている人のために生きなくてはいけません」
「私には…自分が仕える主を、望む事すら叶わないのですか」
「少なくとも、守らなければならない者を持つ方は、それを考えねばいけません」
「そう…ですね……」
そう言い、悲しそうに微笑む殿下があまりにも哀れです。
でもエレちゃん自身も、似たような経験が有るから、それがとても酷い言葉と分かっているようだ。
「でも、お友達が困っている時は、私はいつでも助けるわ。だから殿下……アレクシス様。もし私の力が必要になった時は、いつでも仰ってくださいね」
「エッ、エレオノーラ!」
感極まった様子で、エレオノーラを抱きしめる彼は、地獄から一転し、天国にでも登った様子です。
まあ今は見逃してあげましょう。
「エレオノーラ、私を友達として下さるのですか!?ええ、過ぎた望など持ちません。私は時々あなたと会い、言葉を交わせるだけで十分です。そしていつか、あなたが必要とした時、その時はあなたを守らせて下さい」
「えぇ、もしその時が来たなら、よろしくお願いします」
まあそんな時は永遠に訪れないと思うけれどね。
「ちなみに殿下、私はエレオノーラ様から第一の騎士を名乗る事を許されているんですよ」
へへへ、どうだ、羨ましいだろう。
「おや隊長、残念だったな。俺たちはそれよりもずっと前から、エルを守ると伝えてある。いわば第一の騎士は俺達って事だ」
「何だと!!」
いつの間にか、ジョンさん達が近くに来ていました。
にらみ合う二組、一触即発目前です。
『何やら面白そうな話をしておるな』
バサッバサッと大きな音と風圧。
おお、お待ちしておりました。
「いらっしゃいリンデンさん」
『言葉に甘え馳走になりに来た。わしの分は残っているか?』
「えぇ、もちろんですよ」
『それではさっそく……と、その前に、因みにわしはこの者と同じ神似者であり、この者に名を貰い部下…という者になった。つまり私の地位はお前らより高いと言う訳だ』
「と、リンデンさんは仰っています」
「ずるいー!」
「横暴だー!」
「ドラゴンまでもが……」
「俺達の方が早かったんだぞ!」
みんな色々と言いたい事はあるだろうが、”許す”と許可を得た者は私一人。
つまり私が一番よね、エルちゃん。
「体……ですか?」
エルちゃん、そんな心当たりが無いような顔してちゃダメです。
シナリオをよく思い出しなさい。
「あっ、あれですか。それについては……”ワタシハナニモオボエテマセン”」
何、その棒読み。
そのセリフも大方リン姉様からの指示だと思うけれど。
「……………そう言えば…あなたはサバストで火災に巻き込まれ、最近まで意識不明の重体だったはず……。それがなぜ何度も命の危険に遭遇し、この辺境でこうしているのですか?」
あああぁぁぁ……、殿下、気が付いちゃった?どうして気が付いたの!?
今まで誤魔化せたと思っていたのに。
「ワタシハナニモオボエテマセン」
うん、それはいい返事だと思うよ、だけどそれじゃあ通らない時も有るんだよ。
エレちゃんだって気付いてるんでしょう?
現に冷や汗だらだらだよ?
「殿下に申し上げます。これ以上彼女を追い詰める事はおやめください」
「しかし、おかしいではないか!確かに彼女の兄上はここで仕事を持っている。彼女がこの地を頼って来ても何らおかしいことは無い。だが、一連の出来事を聞くと、辻褄が合わないのだ」
そりゃぁ嘘ぶっこいてますから、合わなくなるのが当然。
でもこれ以上追及すると、あんたの立ち位置が、さらに彼女から遠のきますぜ。
「エレオノーラ、なぜだ?一体あなたに何が有った。本当の事を言ってくれ!」
「あの、それは………隊長~~」
どうやらエルちゃんは私に助けを求めているようだけど、無理、私にだって良い言い訳が出てこない。
「あの、あ、あれですよあれ、あ~~私がディア・アレルヤだから?そのせいで何だって出来ちゃうんですよ、きっと」
「ディア・アレルヤ………?」
「はい!」
「その名は覚えがある。確か幼い頃、寝物語で聞いたな」
「そうなんですか?」
「ディア・アレルヤは神の眷属の一人であり、全てを司る者、小さい頃は悪い事をすると罰しに来ると聞いた覚えがある」
「やですね、確かに私は悪い事は嫌いですが、全人類の事なんて分からないし、神様なんかじゃありませんよ。それと神様に似ていると言われているのは母様の事です」
分りましたか?とにっこり笑っているけど、それ間違っているから。
「エレちゃんや、ディア・アレルヤ=神似者なのよ。リンデンさんも言っていたでしょ?だからディア・アレルヤで有るあなたが、神似者と呼ばれる者なの。因みにリン姉様は神似者の似者なの。分かった?」
「へーそうなんですか?」
この様子じゃ、信じてないな。
「本当に……ディア・アレルヤが降臨したのか?それも彼女が………」
なるほど、それならば今までの事も腑に落ちる……。
ディア・アレルヤならば自分を癒す事も容易。
だがそれならば私は、彼女の足元にも及ばない存在になり下がったか……。
私の望みは潰えた……。
だがもし私が………。
殿下、まだ勘違いしている事も有るようですが、まあ彼女の存在からすれば、それも細かい事。
しかしこれであなたの望みは泡と消えましたね。
でも彼女は神ではなく神似者、言うなれば神ではなく一人の人間です。
いずれエレちゃんの考えが変わり、結婚を考えるようになれば、その望みも復活する可能性は有りますが、一体どうなるんでしょうね?
その時は誰を選ぶのでしょう、この天然さんは。
「ディア・アレルヤ・エレオノーラ様。私は全てを捨てる事にします。いえ、捨てるのではない。全てをあなたに捧げます」
「いらない」
あぁぁぁ、エルちゃん。
そんな残酷な事をそんなにハッキリと………。
「私はあなたを必要としません。あなたは、あなたを本当に必要としている人のために生きなくてはいけません」
「私には…自分が仕える主を、望む事すら叶わないのですか」
「少なくとも、守らなければならない者を持つ方は、それを考えねばいけません」
「そう…ですね……」
そう言い、悲しそうに微笑む殿下があまりにも哀れです。
でもエレちゃん自身も、似たような経験が有るから、それがとても酷い言葉と分かっているようだ。
「でも、お友達が困っている時は、私はいつでも助けるわ。だから殿下……アレクシス様。もし私の力が必要になった時は、いつでも仰ってくださいね」
「エッ、エレオノーラ!」
感極まった様子で、エレオノーラを抱きしめる彼は、地獄から一転し、天国にでも登った様子です。
まあ今は見逃してあげましょう。
「エレオノーラ、私を友達として下さるのですか!?ええ、過ぎた望など持ちません。私は時々あなたと会い、言葉を交わせるだけで十分です。そしていつか、あなたが必要とした時、その時はあなたを守らせて下さい」
「えぇ、もしその時が来たなら、よろしくお願いします」
まあそんな時は永遠に訪れないと思うけれどね。
「ちなみに殿下、私はエレオノーラ様から第一の騎士を名乗る事を許されているんですよ」
へへへ、どうだ、羨ましいだろう。
「おや隊長、残念だったな。俺たちはそれよりもずっと前から、エルを守ると伝えてある。いわば第一の騎士は俺達って事だ」
「何だと!!」
いつの間にか、ジョンさん達が近くに来ていました。
にらみ合う二組、一触即発目前です。
『何やら面白そうな話をしておるな』
バサッバサッと大きな音と風圧。
おお、お待ちしておりました。
「いらっしゃいリンデンさん」
『言葉に甘え馳走になりに来た。わしの分は残っているか?』
「えぇ、もちろんですよ」
『それではさっそく……と、その前に、因みにわしはこの者と同じ神似者であり、この者に名を貰い部下…という者になった。つまり私の地位はお前らより高いと言う訳だ』
「と、リンデンさんは仰っています」
「ずるいー!」
「横暴だー!」
「ドラゴンまでもが……」
「俺達の方が早かったんだぞ!」
みんな色々と言いたい事はあるだろうが、”許す”と許可を得た者は私一人。
つまり私が一番よね、エルちゃん。
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる