底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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殿下の決心

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「あなたは、あの火災から病弱になったと聞いた。あなたの体は本当に大丈夫なのか?こうしている今だって無理をしていませんか?」
「体……ですか?」

エルちゃん、そんな心当たりが無いような顔してちゃダメです。
シナリオをよく思い出しなさい。

「あっ、あれですか。それについては……”ワタシハナニモオボエテマセン”」

何、その棒読み。
そのセリフも大方リン姉様からの指示だと思うけれど。

「……………そう言えば…あなたはサバストで火災に巻き込まれ、最近まで意識不明の重体だったはず……。それがなぜ何度も命の危険に遭遇し、この辺境でこうしているのですか?」

あああぁぁぁ……、殿下、気が付いちゃった?どうして気が付いたの!?
今まで誤魔化せたと思っていたのに。

「ワタシハナニモオボエテマセン」

うん、それはいい返事だと思うよ、だけどそれじゃあ通らない時も有るんだよ。
エレちゃんだって気付いてるんでしょう?
現に冷や汗だらだらだよ?

「殿下に申し上げます。これ以上彼女を追い詰める事はおやめください」
「しかし、おかしいではないか!確かに彼女の兄上はここで仕事を持っている。彼女がこの地を頼って来ても何らおかしいことは無い。だが、一連の出来事を聞くと、辻褄が合わないのだ」

そりゃぁ嘘ぶっこいてますから、合わなくなるのが当然。
でもこれ以上追及すると、あんたの立ち位置が、さらに彼女から遠のきますぜ。

「エレオノーラ、なぜだ?一体あなたに何が有った。本当の事を言ってくれ!」
「あの、それは………隊長~~」

どうやらエルちゃんは私に助けを求めているようだけど、無理、私にだって良い言い訳が出てこない。

「あの、あ、あれですよあれ、あ~~私がディア・アレルヤだから?そのせいで何だって出来ちゃうんですよ、きっと」
「ディア・アレルヤ………?」
「はい!」
「その名は覚えがある。確か幼い頃、寝物語で聞いたな」
「そうなんですか?」
「ディア・アレルヤは神の眷属の一人であり、全てを司る者、小さい頃は悪い事をすると罰しに来ると聞いた覚えがある」
「やですね、確かに私は悪い事は嫌いですが、全人類の事なんて分からないし、神様なんかじゃありませんよ。それと神様に似ていると言われているのは母様の事です」

分りましたか?とにっこり笑っているけど、それ間違っているから。

「エレちゃんや、ディア・アレルヤ=神似者なのよ。リンデンさんも言っていたでしょ?だからディア・アレルヤで有るあなたが、神似者と呼ばれる者なの。因みにリン姉様は神似者の似者なの。分かった?」
「へーそうなんですか?」

この様子じゃ、信じてないな。

「本当に……ディア・アレルヤが降臨したのか?それも彼女が………」

なるほど、それならば今までの事も腑に落ちる……。
ディア・アレルヤならば自分を癒す事も容易。
だがそれならば私は、彼女の足元にも及ばない存在になり下がったか……。
私の望みは潰えた……。
だがもし私が………。

殿下、まだ勘違いしている事も有るようですが、まあ彼女の存在からすれば、それも細かい事。
しかしこれであなたの望みは泡と消えましたね。
でも彼女は神ではなく神似者、言うなれば神ではなく一人の人間です。
いずれエレちゃんの考えが変わり、結婚を考えるようになれば、その望みも復活する可能性は有りますが、一体どうなるんでしょうね?
その時は誰を選ぶのでしょう、この天然さんは。


「ディア・アレルヤ・エレオノーラ様。私は全てを捨てる事にします。いえ、捨てるのではない。全てをあなたに捧げます」
「いらない」

あぁぁぁ、エルちゃん。
そんな残酷な事をそんなにハッキリと………。

「私はあなたを必要としません。あなたは、あなたを本当に必要としている人のために生きなくてはいけません」
「私には…自分が仕える主を、望む事すら叶わないのですか」
「少なくとも、守らなければならない者を持つ方は、それを考えねばいけません」
「そう…ですね……」

そう言い、悲しそうに微笑む殿下があまりにも哀れです。
でもエレちゃん自身も、似たような経験が有るから、それがとても酷い言葉と分かっているようだ。

「でも、お友達が困っている時は、私はいつでも助けるわ。だから殿下……アレクシス様。もし私の力が必要になった時は、いつでも仰ってくださいね」
「エッ、エレオノーラ!」

感極まった様子で、エレオノーラを抱きしめる彼は、地獄から一転し、天国にでも登った様子です。
まあ今は見逃してあげましょう。

「エレオノーラ、私を友達として下さるのですか!?ええ、過ぎた望など持ちません。私は時々あなたと会い、言葉を交わせるだけで十分です。そしていつか、あなたが必要とした時、その時はあなたを守らせて下さい」
「えぇ、もしその時が来たなら、よろしくお願いします」

まあそんな時は永遠に訪れないと思うけれどね。


「ちなみに殿下、私はエレオノーラ様から第一の騎士を名乗る事を許されているんですよ」

へへへ、どうだ、羨ましいだろう。

「おや隊長、残念だったな。俺たちはそれよりもずっと前から、エルを守ると伝えてある。いわば第一の騎士は俺達って事だ」
「何だと!!」

いつの間にか、ジョンさん達が近くに来ていました。
にらみ合う二組、一触即発目前です。

『何やら面白そうな話をしておるな』

バサッバサッと大きな音と風圧。
おお、お待ちしておりました。

「いらっしゃいリンデンさん」
『言葉に甘え馳走になりに来た。わしの分は残っているか?』
「えぇ、もちろんですよ」
『それではさっそく……と、その前に、因みにわしはこの者と同じ神似者であり、この者に名を貰い部下…という者になった。つまり私の地位はお前らより高いと言う訳だ』
「と、リンデンさんは仰っています」

「ずるいー!」
「横暴だー!」
「ドラゴンまでもが……」
「俺達の方が早かったんだぞ!」

みんな色々と言いたい事はあるだろうが、”許す”と許可を得た者は私一人。
つまり私が一番よね、エルちゃん。
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