底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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知らぬ間に

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えっと、確か農家のおじさんが、植物が成長するのには窒素とリン酸と…………。
後は忘れた…と言うか知らない。
まあいいか、私に必要なのはイメージだ。

私はこの土地がどう変わったらいいかをイメージする。
あくまでイメージだよ?
しくじったら取り返しがつかなくなるかもしれないから、考えがまとまったら実行するつもり。

この岩山は、緑が豊富で…そう、うちの裏にある山菜が良く採れるような山……ついでにいろいろな果実もたくさん採れる山になるといいな。
この山頂の大きな池には、常に豊富な湧き水で満たされ、それが川や滝となり、滾々と流れていく。
その川にはたくさんの魚が泳ぎ、生命を育んでいく。
それから麓まで流れた水は、途中の湧き水や川と合流し、大きな川となって海まで続くんだ。
そこから広がる森や野原にはいろいろな動物が住んで、鳥も渡ってくる。
大きな畑は養分がたっぷりで、たくさんの野菜が採れるんだ。
そうだ、採れた野菜を他の町に出荷できるよう、道も必要だね。
そうなれば、この地を離れていた人達も、いずれ戻って来るかもしれない。
とにかくここは、自然豊かで、清浄な土地になるといいな。
争い事も無く、皆穏やかに暮らせるところ。
そんな所になってほしい。

とイメージを膨らませたところで、いざ実行に移し…。
あれ?あ…れ……?…………………。

暗転。



気が付くと私は、粗末な部屋のベッドで寝ていました。
まずい、何寝てるんだよ私。
やらなきゃならない事は山積みなのに、のんびりしていちゃダメだろ。
そう思い起き上がろうとすると、力強い腕に阻まれた。

「良かった、目が覚めたか」
「兄様?」
「心配したぞ。リンデン殿がいてくれてよかった。私一人では焦るばかりでどうしていいか分からなかったからな」

確か以前、これに似た事が有ったような気がする。
あの時は使い切る直前だから、何とか出来たけれど、もしかしてやっちゃったか?

「魔力切れ……ですか?」
「ああ、お前に全て任せ切りにした私にも責任があるが、お前ももう少し、自分を労わってくれ」
「心配をかけてすいませんでした」

そうかー魔力切れかー。
この地が生まれ変わるのが楽しくて、その事まで気が回らなかったよ。

「私はどれほど眠っていたのですか?」
「二日だ。まあ正確に言えば二日と半日。今は真夜中だ」

どうりで、お腹がペコペコのはずですね。
と言っても現在は真夜中。
我儘を言う訳にはいきません。

”グ~~~~ッ”
この、正直者め!
口では言いませんでしたが、お腹が空腹を訴えてしまいました。

「そうか、腹が減るようならもう安心だろう。少し待っていろ」

そう言って兄様は隣の部屋に行ったと思ったら、籠一杯の果物を持って来てくれました。

「寝ている者を起こすのは忍びないからな。今はこれで我慢してくれ」

いえいえ、そんな美味しそうな果物を食べれるなんて、願っても無い事ですよ。

私は兄様がむいてくれた果物を、せっせと口に運びます。

「すいません兄様。この土地の改良は明日からちゃんとやりますね(もぐもぐ)」
「そう無理をせず、徐々にやればいい。とにかく最優先する事は……」
「水の確保ですね(もぐもぐ)」
「いや、お前の限度を知る事だ。このままお前が無理をすれば、いずれ命を落としかねないからな」

そんなもんでしょうか?

「分かりました。これからは皆さんに心配を掛けないよう、自分の魔力と相談しながらやっていきます」
「あぁ、そうしてくれ」

何か、私って皆に心配ばかり掛けている気がする(ようやく自覚してきたか?)
それにしてもこの果物、瑞々しくてとても甘い。
リンデンさんが採って来てくれたのかな?

「ああそれはあの岩山に実ったものだ。いや、今はもう岩山では無いな」
「はい?」
「お前が倒れた後、あの山が劇的に変化をし出したのだ。岩は土に変わり、湧き出ていた水の量が増え、見る間にあの池を満たした」
「ふむふむ(もぐもぐ)」
「そして、そこでずっと眠っていたと思われる草木の種が芽吹き、こうにょきにょきと成長し、あっという間に森を形成した上に、こうして果実を付けるほどになった」
「ふむふむ(もぐもぐ)」
「その現象は、あの山のふもとで止まり、湧き出た水は麓から先は細々とした川を形成し、その後は地面に消えている」

なるほど、あの岩山までは知らぬ間にやっちゃったって事ですね。

「ごちそうさまでした。兄様、大体の状況は分かりました。私、明日から頑張りますね」
「いや、お前の頑張りは度を超えているからな。頑張らない程度でやってくれ」
「え~~」



どうやら私の泊まっていたのは、村長さんのお宅だったようです。
夜中にたっぷり果物を食べたにもかかわらず、朝起きるとやはりお腹は空いていました。
朝ごはん、朝ごはん。
まあ貧しい村ですから、そう期待もしていなかったのですが、食卓に並んだのは自然の幸溢れるラインナップでした。

「聖女様のご回復、お慶び申し上げます」

聖女様?誰ですかそれ………。
まあ勘違いと分かっていますけど、兄様が勘違いさせておけと言うので、そう言う事にしておきます。

「神似者と聖女なら、まだ聖女の方がましだろう」

そうかもしれませんね……。

たらふく食べて満足した私は、仕事の続きをしようと外に出てビックリ。

「何ですか……あれは」

山の頂上に、とてつもなく大きな木が生えていました。

「どうやらお主の魔力と、あ奴らの魔力の相乗効果で、頂上は面白い事になっておるぞ」
「リンデンさん!」
「魔力は戻ったようだな。あまり心配をかけるでない」
「ごめんなさい。でも面白い事ですか?一体何が……」
「まあ行ってみるがいい」

分りました。
ならば自分の目で確かめようと、私は頂上に向かいます。


「別にどうとした物は無さそうなんだけどな……」

確かに岩山だった時に比べ、大きく様変わりはしているけれど、この巨木以外はうちの裏山と大して変わった様子はない。
と、思う。

「それにしても、この木の大きさは規格外だなぁ」

かなり広い山の頂上をすっぽり覆うように枝を広げ、気持ちの良い木漏れ日を醸し出している。
その下には清浄な水を湛えた泉が広がり、その湖畔には美しい花が咲き乱れていた。

「何とも気持ちの良い所だな」
「そうですね。それで、どれが面白いものなんですか?」
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