底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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責任を取りなさい

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『…エレオノーラよ』
「大丈夫です。私忘れっぽいたちなので、ドラゴンの名付けの事なんてすぐ忘れちゃいますし、そこにいる兄様にはドラゴン語なんて分かりませんから(あっ、イカルスさんいたんだっけ)」
『まあほどほどにな。しかし、何と言うか、哀れな姿じゃの………』

まだ呆然としているドラゴンズ。
羽も無く、尾も無いその姿は、まるで逃げるためにシッポを切り落とした、どデカいトカゲのようですね。

『リンデンさん、これで魔力は封印されたのですか?』
『あぁ、封印はできたが、さて、魔力もろくに使えないこいつらに一体何をさせるかな?』
『決まっています。労働ですよ』

汗水を流してこそ、その苦労は身に刻まれるんです(経験者は語る)。

「さて、善は急げ。さっさとやっちゃいますか」

まずはこいつらの切り落とした尾が腐らないように魔法をかける。

「さああんた達、自分のしっぽを持って、寝ていた場所まで運びなさい!」

その言葉で、ようやく気を取り戻したピーちゃんとポッポちゃんは、グシグシと泣きながら各々のしっぽを持ち、岩山を登り始めた。
時々転びそうになるその不安定さは、今までの移動はほとんど羽根に頼っていたと言う事。
少々足腰を鍛えてやるか。

やがてシッポを抱えたまま、穴に降りようとしているドラゴンズに、シッポはその穴に投げ込めと指示をし、あの子たちは泣く泣くそれに従う。
あんた達そんなに柔に見えないし、それにはコーティングを掛けてあるから、めったな事じゃ傷つかないよ。
さっさとしないと、時間が無くなるよ。
あと二往復しなきゃならないんだから。

やがて作業も終わり、私は山頂に移動してその穴をふさぐよう命じた。
そうだ、場所を忘れないように、杭でも刺しておくか。
そう思ったけれど、身近にそんな物は無い。
仕方ないからカリオンに戻り、その辺から適当に小さな木を引っこ抜いた。


「さ~て、目印も立てたしこれなら忘れないでしょう。もし私が忘れたなら後で教えてね」

まああんた達なら忘れたくても、忘れる訳にはいかないものね。
私は岩山の頂上に差した木に満足し、20年後には一体どれぐらいに成長しているのかを想像し、そっとほくそ笑む。
尤もそんなに長く、ドラゴンズをこき使うつもりは無いけれど。

「さて、どうすれば良いだろう」

岩山の頂上で、ぐるりとあたりを見渡す。
集落は山の北側に固まり、なるべく日を遮るようにしている訳か。
後は殆どが赤茶けた大地、ほんの僅かだが村の近くに緑が見える。
多分それが畑なのだろう。
こりゃぁ、奴らには汗水垂らして頑張ってもらう必要が有るな。
確か村からだいぶ離れたところに井戸が有って、水はそこから運んでいたはず。
だけどあいつらが居つく前は、この山から水が湧き出し、幾筋もの川が流れていたと言っていたな。
確かに此処は、大きな池があっても支障が無いほどの面積がある。
取り敢えずこの山の中心、木を立てた真下にはあいつらの魔力の源を埋めちゃったから、池は少しずらした所にして、分水嶺のように四方八方に水を流す事にしよう。

まずは予め池になる窪みを掘っておくか。

「おーい、あんたたち此処においで~~」
『え~、今降りて来たばかりなんですよ~』

まあ確かに、ここに三往復したね?

「うん知ってる~。でも早くおいで~」

この風景を見ていると、あんたたち遊ばせておく気にはならないから。
だから、私が怒り出す前に、早く登っておいで~。

『全く竜づかいが荒いんだから………』

ぶつぶつ言いながらも、二頭はようやく頂上に着いた。

『で、次は何をすればいいんですかぁ?』
「ここに穴を掘って」
『はあぁぁぁ~~!?今ここ埋めたばかりっすよね』
「埋めたのはあそこ。掘るのはここ。分った?」
『たかだか数メートル違うだけじゃないですか!なに無駄な事させるんすか!』
「ほー、ここに穴を掘るのは嫌だと」
『嫌っす!』

よし分かった。
そんなにここに穴を掘るのが嫌なんだね。

「それじゃああそこに穴を掘って」

そう言い、私はさっきこの子達が埋めたばかりの場所を示した。
あんた達のしっぽが埋まっているから考慮してやったのに、それを無下にするのか。
まあそれを望んだのはあんた達だ。
これ以上我儘は言わせないよ。

私を怒らせたらまずいと悟ったのか、ドラゴンズはようやく穴を掘り始めたけれど、相変わらずぶつぶつ言っている。
まあその気持ちは分かるよ。
一度埋めた場所を再び掘るのは空しかろう。
だが、そうなったのはあんた達のせいだからね。
まあシッポや羽根にはコーティングしてあるから、腐る事は無いと思うけど、一応腐らない事を祈っておこうか。


『姉さん、こんな感じでいいですか……』
「まあそんな物かな」

もし湧き出した水が多かったなら、その時は私が何とかしよう。
ならば初めからあんたがやれば良かっただろうって?
だって私が最初から全部やったら、あの子達の仕事が無くなっちゃうじゃん。

さて、後は湧きだした水が、昔の川の跡に沿って流れてくれる事を祈るのみだ。

「リンデンさ~ん、行くよ~~」

私は掘った穴の淵に跪き、いつものように手を組んだ。
地中の奥深くの水脈から水を引っ張り出すんだ、これはかなり大変な仕事になるな。


と思ったら、けっこうすんなりと水が湧き出しちゃった。

「何故だ?」
「多分、こいつらが眠っていたから、水脈は壊されること無く、水はある程度の所まで上がっていたのだろう」

いつの間にか頂上まで登って来ていた兄様が、湧き出す水を眺め、その分けを推理していた。
なるほど納得。
だけど池には泥水が湧き出し、それもすぐに地中に吸収される。
こんなんじゃぁ、緑復活なんか出来やしない。

「こいつらのせいで、岩が風化し乾き切っている。現に水が湧いたところですぐ地中に吸い込まれているだろう?これを何とかしないと、元の姿を取り戻すにはかなりの時間が必要になるな」

結局こいつらのせいですか……。
まあ仕方が無い。
一応私はこの子たちの名付け親。
子供のしりぬぐいは親の仕事と、古今東西決まっていますからね…………。
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