底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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ハルピュイア

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『まあこの樹なのだが、どうやらユグドラシルの苗木となったようだな』

ユグドラシル?確か世界樹と呼ばれる架空の植物でしたよね?あの世界を支えていると言う。

『詳しい事はわしも知らん。何せ人間の間では架空の物とされているほどだからな。わしとて、それが存在している程度にしか教えてもらった事が無い』
「では、なぜこれがユグドラシルだと……」
『何となく……だな。何者かがわしにそうだと教えているのじゃよ』
「そうなんですか」
『ああ、そうだ』

何となく、その”何者”に心当たりが有るけれど、あえて口には出すまい。
その存在を認めると、この先また厄介事に巻き込まれそうな気がするから。
たとえそれを想像できても、絶対に”神だ”なんて口に出来ないよ。

でも一体なぜこんな所にユグドラシルが出現したのだろう(その一環をあんたも担っていると自覚しろ)。
今あるユグドラシルが寿命を迎えるのか。
新たな樹が必要となるほどの厄災が来るとか、世界にこれ以上の恵みがもたらされるのか。
まあそれは”何者”のみぞ知る事であって、私達が考えても、どうにか出来る事じゃないから放っておこう。

「それなら、この樹はとっても長生きするのですね」
『その大いなる者が見放さない限りはな』

私達はその気持ちのいい場所にしばらく立たずみ、樹が醸し出す極上の自然の音楽を楽しんだ。(ユグドラシルの葉擦れの音だよ)

「凄いですね……」
『あぁ、いいな…。だがお主がもっと驚く事も有るぞ』
「まだ有るんですか!?」
『あぁ、まあ見ていろ』

リンデンさんが見ていろと言うので、しばらくそこに立ってじっと見ていたんですが、何の変化も無いんですけど……。

『来たな』
「はい?」

何が来たんだろうと思っていたら、大きくてどす黒い一羽の鳥が、こちらに向かって飛んでくる。
それは時々ふらふらとし、何とも危なっかしい様子だ。

「あの子、ケガをしているのでしょうか?」
『いや、多分病だろう』

病気ですか。
でも見ているだけでもとても可愛そうで、何とかしてあげなければと思ってしまう。

『お主の気持ちは分かるが、もう少し様子を見ておれ』

リンデンさんがそう言うので、もう少しなら大人しくしますけど、もう少しってどのくらいですか?
私、すぐにでも助けに行きたいんですけど。
しかしその小鳥はフラフラしながらも樹に辿り着き、その枝からじっと泉の様子をうかがっていると思ったら、そのままバシャッと落ち、水中でバシャバシャと藻掻いている様子。

「た、大変!」

慌てて泉に飛び込もうとしたけれど、リンデンさんに物理的に引き止められてしまったエレオノーラです。
痛いです。
私とあなたの大きさを、少しは考えて下さい。

『まあまあ、そう怒るでない。ほれよく見ていないと見逃すぞ』

私がじたばたしようと、襟首をつかんだリンデンさんの指は緩む事は有りません。
仕方なくもう少し様子を伺いますが、それでももしあの鳥が危うくなるようだったら、その時は例えリンデンさんでも容赦しませんよ。

すると、今まで飛沫が上がっていた水面が静かになり、波紋一つ立たなくなる。
それを見た私は我慢が出来なくなり、慌てて泉に飛び込む。
バシャバシャッ。
私は冷たく凍るような水を搔き分け、あの鳥が沈んたと思われる所に急いだ。

「お願いだから生きていて」

ようやくその場所に辿り着き、その鳥を探そうと手を伸ばし…………。

ザバアァーー!!
水面が盛り上がったと思ったら、そこからいきなり白い少女が現れた。
えっと……この子はいつこの泉に入ったのでしょうか?

「あの……、今そこに黒い鳥さんがいませんでしたか?」
『あぁ、黒い鳥ね。それ私だから』
「いえ、あなたじゃ無くて、鳥さんが…」
『だからそれ私』

いえ、私が探しているのは女の子じゃなくて、鳥だから。

『お前達、取り敢えず上がって来い』

そうですね。
私は冷たい水に漬かっていたせいか、さっきから歯の根も合わないほど、ガタガタと寒気がします。
取り敢えずリンデンさんの所に避難しましょう。
私は彼女の手を掴み、引っ張るように歩き・だ・し・た。

「それ…羽根…ですね?」
『うん』

まあリンデンさん達にだって羽根ぐらいある。
羽根が有るからと言って、差別はいかんよ。
そう思いながらも、チラチラと彼女を見ながら歩いてるんですけど、浅瀬に近づくにしたがって、明らかに違ってくる。
この子、人間じゃないよ。
だって羽根はえてるし、下半身はまるで鳥みたいなんだもの。

『どれ、病は癒えたようだな』
『病じゃないよ、呪いだよ』
『まあ似たような物だろう』

話を聞いていると、どうやら二人はお知り合いの様子。

『こ奴はハルピュイアじゃ。またどこかで悪さでもして、呪いを貰って来たのであろう』
『悪さじゃあーりーまーせん。暇だったから、目に付いた洞窟で探検していたら、いつの間にかこうなっていたんだよ』
『お前の事じゃ、それが本当かどうか分かった物でも無いがな』
『あんたにお仕置きされてから、心を入れ替え、悪い事なんてたまにしかやってませんっての』
『はぁーーっ……』

それってやっているって、自白しているんですけど。

『あー、お姉さんでしょ、あの泉を作ったの。助かったよありがとう』
「確かに作ったのは私ですが、何かお役に立てましたか?」
『たった、たった。すごーく』

それは何よりです。

『まだ意味は分からぬか。実はお主が作ったあの泉は、お主の魔力と地下に埋まっているピーとポッポの魔力と相まって、どうやら癒しの水となり湧き出しておるのだ』
「癒しの水?………ポーションみたいなものですか?」
『まあポーションでもあるな。お主の魔力を含んでいるのだから、体力を回復する事も出来るし、傷も癒せる。呪いも解ける。それ以外にもいろいろな効果はあるだろう』

またとんでもない事をやっちゃった気がする………。
だけど…。

「それじゃあピーポーちゃん達に、埋まっている物を返すと、その効果は無くなってしまうのですか?」
『まあ、お主の魔力が消えないうちであれば、たとえ掘り出してもある程度の効果は残るが、今とは比べられないほど微々たる物になるだろう』
「そっか、ちょっと残念だけど、仕方ないですね…」
『そんなー、せっかくいいものを見つけたのに、それじゃあ私が呪われた時どうすれば良いのよ!』
「呪われないようにすればいいと思う」

そう言っても、そんなに便利な物なら、ケガや病気の人がここに来れば治るし、ましてや呪いも解けるのであれば、出来ればこれを残したい……なんて思うけれど、泉をそのまま残すとなると、あの子たちは後20年もすれば魔力切れで死んじゃうから、そんな事は出来ないし………。
どっちもどっちで、さて、どうしたものだろう。
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