底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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400㎞マラソン

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「ピーポーちゃん達、20㎞マラソン往復10回!」
『な、何を………』

そんな絶望的な顔をしても許しませんよ。

『仕置きをするつもりなら、そんな意味の分からない事ではなく、もっと有意義な事をすればいいじゃない!』
「意義は有るとも。隣の町まで道を作るのよ!あんた達が5往復しても道になっていなければ、更に5往復追加!真面目にやってね」

何たってあんた達には、魔力の源が無くても20年生き続けられるスタミナがあるって知っているんだから。
たかだか400㎞マラソンなんてへっちゃらでしょう?

『姉さん、せめて、せめて尾を返してもらえないでしょうか……』
「ダメだよ。楽をさせたらお仕置きにならないも~ん。そーれーと、お仕置きの最中、誰に何をされようとも手を出す事を禁止します!」

ドラゴンキングに難癖付けに行ったぐらいだ。
きっと己を知らず、我儘し放題の暴力振るいたい放題だったのだろう。
この砂漠状態の中に大した生き物はいないと思うが、万が一いたとしたらかなり飢えているに違いない。
何も考えず原因を作ったあんた達は、その苦しさを知らなければいけないだろう。
せめて親として、命にかかわる怪我をしないよう加護を付けてあげるから頑張っておいで。

「さあ、頑張っておいで。スタート!!」

その掛け声とともに、どたどたと飛び出していくピーポーちゃん達。
心無いものは、あんた達の姿を見て笑うかもしれない。
でもあんた達が頑張って成し遂げた事を、笑う奴なんていない。
もしもいたなら、私が責任を持ってそいつの正念を叩き直してあげるから。

さて、例えあの子たちが踏み固めたところで、そのホコリめいた砂が固まるとは思えない。
ならば私もやるべきことを早くやってあげなければ。

幸いにして、私の魔力はほぼ回復しているから、張り切ってやってみよー。

最初にやる事は、あの子たちの足跡に沿っての土壌改良。
さもなければ、あの子達がどれほど走ったところで、いつまで経っても道なんてできやしないものね。
はいイメージ、イメージ。
あの子達の走ったその足跡から肥沃な土が生まれ、そのふんわりとした栄養たっぷりの土が周辺に広がっていく。
まずスタート地点から徐々に広まった土は山の麓に届きその緑が土を伝い、徐々に広まる。
枯れた土の奥深くに眠っていた草や木の種も長い眠りから覚め、大きく伸びをするように地表を目指す。
そして芽吹いた植物は太陽に向かい、まるでそこだけ時間を早送りしたように、生き生きと伸びていく。
それらは瞬く間につぼみを付け、花開き、やがて種を宿し、それが風に乗り、広がった肥沃な地に散らばっていく。
それを目の当たりにしていた者達は、これを夢かと疑いたくなるような光景だった。

「聖女様」
「聖女様」
「「聖女様………」」

次々と村の人々が私の周りに集まり、ひれ伏していく。
そんな事しなくてもいいよ。
私は聖女様じゃないし、あなた達だってやらなければならない事が有るでしょう?
そんな暇が有ったら、自分の生活を立て直すため、頑張ってくださいね。

「エレオノーラ、取り敢えずそこまでにして一休みしなさい」
「兄様、私まだ大丈夫ですよ?」
「お前の大丈夫は信用できないんだ」

酷い言われようですね。
でもまあ私も喉が渇いちゃいましたし、一休みしますか。
変わりゆく風景が良く見える所に陣取り、村の娘さんが運んできてくれたフレッシュジュースと、フルーツを練り込んだパンをいただく。
改良された土地は、湧き出た水を全て吸い込む事をせず、小川となって流れていく。
やがれそれは、小さな流れと合流し、川になり、だんだん大きな流れとなる。
きっとそれは大河となり、海まで続いて行く事だろう。

『この泉にはお前達の魔力が含まれている。それが広がり、他から流れてくる、いろいろな流れと合流するだろう。だが泉の効力は薄れても、良い水であることに変わりはない。きっとこの土地は昔以上の良い土地になるだろう』
「それは何よりです」

リンデンさんの話を聞きつつも、あぁ、あのへんに森があるといいな………などと思っていると”ぼわっ”と、木が成長し、森が出来る。
すると、どこからともなく鳥が飛んできて、その森に降りてゆく。
あぁ、本当だ。
きっとこの土地は良い土地になるね。


「あっ」
「ん?どうしたんだエレオノーラ」
「すっかり忘れていたんですけど、私達ミシェルの像を建てに来たんですよね?」
『「あ~~~」』

しばらく兄様やリンデンさんは考え込んでいたけれど、結局二人が出した答えは同じだった。

「ミシェルの像は立てなくてもいい」
『像を建てればここには信仰する対象が二つになってしまうな』
「考えて見れば、対処物をミシェルの像に限定し、国内に何体か設置すれば、ましてそれに強力な加護が付となれば、新しい教団が出来てしまう可能性が高いな」
『何も像など作らなくとも、このユグドラシルと泉だけで、人はここを目指すだろうて』

分りました。
つまりここも、私がした事のみで、他に余計な事はしないと言う方針なんですね。
まあそれならそれで、楽っちゃぁ楽なんですけど、ちょっとつまらないなぁ。


『おぉ、あ奴らがようやく帰ってきたようだ』

見ればピーポーちゃん達が全速力で駆けて来ます。

「がんばれ~!…そう言えばリンデンさんて、あの子達のお知り合いでしたよね」
『だから知り合いというほどの仲では無いわ』
「ならばどういうご関係で?」
『いや、だからあいつらがわしに難癖をつけて来よってな。最初は放置しておったが、いくらたっても改めず、反省したと言っても謝罪もせん常識しらずのままだ。そんな奴らを誇り高きドラゴンと名乗らす訳にはいかないからな。少しお灸を据えてやったまでだ』

……なんか、どこかで話が繋がっているような気がする……………。

「リンデンさん、もしかしてドラゴンキングさんとお知り合いでは有りませんか?」
『わしの事じゃが』
「えっ……?」
『だからわしが、ドラゴンキングと呼ばれる者じゃ』

ひ、ひえ~~やっぱり~~~!!

「こ、これまでのご無礼の数々、どうぞお許しください!!!」
「どうしたんだエレオノーラ」

いきなり土下座をした私を見て、驚いた兄様が声を掛けてくる。

「兄様大変です!ドラゴンキングです!リンデンさんがドラゴンキングだったんです!!」
「なるほど、その風格とオーラ。やはり只者では無いと思っていました」
『フォッ、フォッ。やはりお前は見る目がある』
「光栄です」

なぜ会話が成立している……?

「兄様驚かないんですか!?ドラゴンキングですよ!神獣と呼ばれるドラゴンの頂点に立つ方なんですよ!!」
「そうだな、確かにとても尊い方だ、だがな………」
『わしは今、お前の僕 なのだが』

あ~~そうだったわ………。
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