底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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また会おうね

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『あ・ん・た・は~~!!』
「いたっ!痛いよミシェル!」

私は今、再びミシェルに小突かれていた。
いや、小突かれると言うより、殴られていると言った方が近いだろう。

『あんたは学習すると言う事を知らないの!?』
「そんな訳ないじゃん」

私だって勉強すれば、それなりに覚える事は出来るんだよ。
だから裁縫も出来るし、帳簿も付けれるようになったし、料理だって結構作れるし、毒キノコだって見分けられるんだから。

『そう言う事を言ってるんじゃなぁ~~い!!』

あんたの意図が分からないよ。
言いたい事が有るなら、はっきり言ったらいいじゃん。

『私忠告したよね。無理な事、バカな事をするなって。それをまた何やってくれちゃってるのよ!』

あぁ、その件ね。

「だって仕方ないじゃない。あのままだと被害が大きすぎて、緑の御方や、たくさんの人が死んじゃうところだったんだから……」
『だからって、あんた一人が全部背負って、命を賭ける事無いでしょう!?』
「だって、たくさんの人の命と私一人の命だったら、考える事も無いでしょうに」
『あーんーたーはー!まだそんな事を!!確かに沢山の命が失われるのは悲しい事かもしれないよ。でもね、災害はいつでも起こり得る事だし、その災害で亡くなる人はたくさんいる。それは自然の摂理であって、あんたのせいじゃない。あんたが一人で自分の命を掛けてまでやる事じゃないんだよ。それにあんたの命だって、その大切な命の中の一つだって事を忘れちゃならないんだよ!見て見なよ!!』

雲の切れ目からミシェルの指さす方を見下ろせば、あの山頂で、私がリンデンさんと寄り添うように眠っている。
そして少し離れたところで母様が泣いていた。
父様は辛そうな表情で母様の肩を抱いている。
兄様達は何とか私に近づこうと、力任せに何もない空間を叩いている。

兄様多分無理だと思うよ。
それってきっと、地の神様が張った結界だと思うから。

あの時聞こえた声は、たぶん地の神様と緑の御方だろう。
きっと緑の御方は助かったんだ。
そしてああ言ってもらえたなら、後はあの方達にお任せしても大丈夫、私の使命は終わったんだ。
そう思い気を抜いちゃったんだよねー。
結果こうしてミシェルに怒られる羽目になってしまったんだけど。

『あんたが無茶したせいで、ああして涙している人たちがいるんだよ。その事を分かったうえで、よーく反省しな!』
「はーい…」

そう返事はしたが、私の心は反省する気にはなれなかった。
後悔などこれっぽっちもする気は無い。
たとえあそこに転がっている私の体に二度と戻れなくとも、私のやった事が無駄では無かった以上、それはやり甲斐のある事だったんだ。

『……ふんっ、勝手にすればいいよ…』

どうやらミシェルは、頭から私のやった事を否定している訳ではないようだ。
ただ私が無茶をし、そのためにまた死にかけた事を怒っているらしい。
分っているよ、そんな事。


取り敢えずこの状態でいても、下界の私は腐る様子が無い。
ならば体はまだ私と繋がり、生きていると言う事だろう。
今は回復のために、魂だけ此処に居るとみた。
だがここで私は何をしていればいいのか?
横たわり安静にしてた方が良いの?
健康のために運動でもする?
今までの死にかけた時の記憶はすっぱり消えていて、以前はどうしていたのか、どうすれば良いのか全然分からない。
ならば分からないなら分からないで、何でもしてみようじゃないか 

『どうでもいいけれど、私だって暇じゃないんだからね、さっさと体力回復して体に戻ってよね』

そんなに邪険にしなくたっていいじゃない。
私だってさっさと帰って、やりたい事が有るんだい!

『奥様だってもう若くは無いんだからね。もしあたしが行くまでに子供が生まれない体になっちゃったらどうしてくれるの。あんたがいつまでもグズグズしてるなら、あたしはさっさとあんたに見切り付けて、奥様の所に行っちゃうんだからね』
「えっ、えっ、えっ、それってもしかして………」
『へへ、なんと私は奥様の子供として生まれ変われることになりました!』

ミシェルはそう言い、得意そうな顔をし、ヴィサインをする。

『冗談じゃなく、なんちゃってじゃなく、あたし本当に奥様と旦那様の子供として生まれ変わるんだよ。どうよ、羨ましいでしょう』
「良かった、良かったねミシェル…。あなたの願いが叶ったんだね。神様って本当にいるんだね……」

いや、確かにいたな…………。

『ありがとう。そう言えばあんたにことづけが有ったんだ。”ほんの礼だ”だってさ』

どうやらどこかの誰かから口添えでもあったようだ。

少しの間だったら付き合ってやるよって、照れくさそうにミシェルが言う。
多分、私にこうしてまた会えたのが嬉しいんじゃないかな。
もうミシェルったらツンデレちゃん。
私もあなたにまた会えて、とても嬉しいよ。

あなたも私も、今は何でもできる自由の身だ。
ならば何度目かの再会を祝い、思い切り遊ぼうじゃないか。


『ほら、舐めて見なよ。全然塩辛くないんだから』
「げっ、メチャクチャしょっぱいじゃない、嘘つき」
『嘘なんてついていないよ。何ならあたし、コップでがぶ飲みしてやろうか』
「やめなよ体に悪いから」

どうやら私は下で眠っている体とシンクロしているせいか、五感を引きずっているようだ。
だからミシェルにぶたれると痛いし、こうやって海水を舐めれば味を感じる。

まずこうしてミシェルと一緒に海に来た。
それから二人で色々な所に行き、いろいろな事をした。
時にはあの山に行き、眠っている自分やリンデンさんを眺めたりした。
ピーポちゃん達は山の麓の所々で、山を取り囲むように眠っている。
まるでこの山を登る人をチェックしているようだ。

春になると色々な人が、私達の眠るこの山頂を目指す。
そして結界の外から、まるで神様を崇めるようにリンデンさんを眺め、帰っていく。
その人達の中に邪な思いを抱いた人を感じると、ピーポちゃんやハルちゃんやサラさんが追い払っていた。
面倒を掛けてごめんね。
体に戻ったら恩返しするからね。


『エレオノーラ、あたしそろそろ行ってもいいかな……』

私が眠りについてから、一体どれぐらいの時が過ぎたんだろう。
ミシェルと一緒に遊んでいて、とても楽しくて、つい時間を忘れていた。

「そうだね。そろそろ行った方が良いね。私はあとどれぐらいで体に戻れるか分からないけれど、そう遠い話じゃ無いと思うんだ」

これはただの願望かもしれない。
実際はまだ5年も、10年も、50年も掛かるかもしれない。
出来れば100年は勘弁してほしい。

『そうだね、エレオノーラもだいぶ元気になって来たみたいだし、そう時間はかからないでしょう』
「本当!?」
『ほんとほんと、このミシェル様が保証するよ』
「良かった。ねえミシェル、それなら私はまた、あなたに会えるね」
『そうだね、でも多分私はあんたの事を忘れていると思うよ。だって何も知らない真っ新の赤ん坊に生まれるんだから』
「それでも会いに行くよ。だから待っていてね。そしてちゃんとまた友達になろうよ」
『あぁ、楽しみにしているよ』


それから二人でバンウルフに向かった。
そしてミシェルが笑いながら手を振り、ランツ様の屋敷に消えていくのを見送った。


「一人になっちゃったな……」

まあくよくよしていても仕方が無い。だから今は、今晩だけは、あの山の山頂でリンデンさんと一緒に眠ろう。
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