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朝ごはん
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『ようやく戻ったか。いつまで遊び惚けているつもりだ、いい加減待ちくたびれてしまったわ』
えっと………リンデンさんですよね。
『姉さん、体はもう大丈夫なんですか?』
『無理してまた倒れられるのは困っちゃうのよね』
ピーちゃんにポッポちゃん。
『ご主人様ぁ、寂しかったですぅ』
ハルちゃん。
『主よ、よくぞ戻られました』
サラさん。
よく眠ったはずなのに、まだ眠気が取れない。
そんな時ってあるよね。
瞼が重くて目が開かない。
でももう起きなくちゃ。
今日はやらなきゃならない事が山のようにあるはずなんだ。
ようやく目は開いたけど、頭の中はまだボーッとしている。
今日しなきゃならない事って何だっけ………?
顔を上げると、遠くの山並みの稜線が、それを縁取るように輝いている。
あぁ、日の出だ……。
なんか久しぶりに見たな…………。
『大丈夫ですか~ご主人様ぁ?』
「あぁハルちゃん、おはよー。ねぇ、凄く綺麗だねぇ」
朝日を迎え、次第に明るくなっていく景色は、所々違った緑色を映し出し、その向こうに青の中には白金の光を湛えた海が輝いていた。
森の中に点在する家や、町の家からは、一筋の煙が上がっている。
もう起きて朝ごはんの支度をしているのか…みんな働き者だねぇ……。
わたしだって家で暮らしていた頃は、早いうちから起きて朝ごはんの支度をして……。
「お腹空いた」
私は今、ものすごい空腹感に襲われている。
そう自覚したら、お腹が空いてお腹が空いて、居ても立っても居られないくらいお腹が空いたんだよぉ。
なぜか無性に母様の作るご飯が食べたいんだよぉ。
「我慢できない。ちょっと家に行ってご飯食べてくる」
そう言い立ち上がった私を、皆が慌てて止めようとしていたけれど、惜しい事にその前にパッと私は転移した。
しんと静まり返った室内。
母様まだ起きてないのかぁ。
でも背に腹は代えられない。
仕方が無い、久しぶりに料理でもするかな。
食糧庫を漁り、朝ごはんの食材を物色する。
卵が有って、ほうれん草とマッシュルーム、ベーコンまであるじゃない。
何か私がいた頃より材料が豊富かな。
あれ?パンは?パンが無い。
パンを一から作るとなると厄介だぞ。
仕方が無い、この際だから買いに行くか。
って、私お金持ってなかったよ。
なんて思いながらゴゾゴソやっていると、トントンと階段を下りて来る音がした。
「誰かいるの?いつ帰って来たの?シルベスタ…?それともイカルスなの?」
階段を降り、そう言いながら音のする方を向いた。
朝日が眩しい窓の前には、金色の光をまとった一人の女性がいた。
逆光のためその輪郭しか確認は出来ないが、すらっとし、長い髪を蓄えたその人影に見覚えがあった。
「あー、お早う母様。ねぇパンは無いの?」
「エ……エレオノーラ…なの?」
「うん、急に来てごめんね。ねぇパンが無いならメイサおばさんの所に行って買ってこようか?ただ私、財布を持って来なかったものだから、出来れば貸してほしいんだけど、手持ち有る?」
「えっ?ええ……財布ね……」
そう言い引き出しに手を掛ける。
エレオノーラ…エレオノーラなの?
あなたはあの山の頂で、ずっと眠り続けているエレオノーラなのよね?
震える手で財布を取り出し、そっとそれを差し出す。
「ありがと、パンはいつもので良いの?あっ、バタークリーム買っちゃダメ?」
「あ…い、いいわよ……」
あなたはエレオノーラなのよね?
何度行っても触れる事も叶わず、何時めざめるのか誰にも分からず、ただリンデンさんと共に眠り続けているエレオノーラなのよね?
「他に何か買ってくるものは有る?」
「えっ、いいえ別に………」
「わかった。それじゃあパン買ったらすぐに帰って来るから」
そう言い、扉を開け、外に出ていこうとするその女性は、ふた月ほど前に見たエレオノーラと酷似していた。
エレオノーラ、エレオノーラ。
ようやく目を覚ましてくれたの?
そして私のもとに帰って来てくれたの?
手を伸ばし、出ていこうとするエレオノーラを呼び止めようとする。
このまま出て行って、もう二度と帰ってこないかもしれない。
そんな事を思い、恐怖を感じる。
でも、その思いが通じたのか、彼女は足を止めこちらを振り返った。
「そうだ、私がパンを買いに行っている間に、オムレツを作っておいてほしいな。久しぶりに母様のオムレツが食べたくなっちゃったの。そうそう、せっかくベーコンが有るんだから忘れないでね」
そう言い、溢れる光の中に飛び出していくエレオノーラ。
あぁ、私の娘はいつの間にこんなに美しくなったのだろう。
朝の光よりさらに輝く黄金色の髪をなびかせ、私とよく似た菫色の瞳。
生き生きとしたステップを踏み、動き出した朝の街に飛び出していく………。
じゃないでしょ。
「ちょっと待ちなさーーい!!エレオノーラーーー!!!」
「一体どうしたんだいジャクリーン!?」
エルが慌てた様子で二階から駆け下りてくる。
「あ、いえ、エレオノーラがメイサの所にパンを買いに行ったんだけど」
「えっ!?」
「ベーコン入りのオムレツを頼まれて、呼び止めたのにさっさと行っちゃったみたいなの」
「は?」
「パンなら昨日買ったのが、テーブルの上にあるのに、一体どこを見ているのやら」
「ジャクリーン………」
そう呼び、エルネスティはそっと私を抱きしめる。
「大丈夫だよ。エレオノーラはいつか必ず目覚める。そしてここに帰って来てくれるよ」
まあ、そうなったみたいだけど、とにかくあの子が帰って来る前にオムレツを作っておいてあげなくちゃ。
えっと………リンデンさんですよね。
『姉さん、体はもう大丈夫なんですか?』
『無理してまた倒れられるのは困っちゃうのよね』
ピーちゃんにポッポちゃん。
『ご主人様ぁ、寂しかったですぅ』
ハルちゃん。
『主よ、よくぞ戻られました』
サラさん。
よく眠ったはずなのに、まだ眠気が取れない。
そんな時ってあるよね。
瞼が重くて目が開かない。
でももう起きなくちゃ。
今日はやらなきゃならない事が山のようにあるはずなんだ。
ようやく目は開いたけど、頭の中はまだボーッとしている。
今日しなきゃならない事って何だっけ………?
顔を上げると、遠くの山並みの稜線が、それを縁取るように輝いている。
あぁ、日の出だ……。
なんか久しぶりに見たな…………。
『大丈夫ですか~ご主人様ぁ?』
「あぁハルちゃん、おはよー。ねぇ、凄く綺麗だねぇ」
朝日を迎え、次第に明るくなっていく景色は、所々違った緑色を映し出し、その向こうに青の中には白金の光を湛えた海が輝いていた。
森の中に点在する家や、町の家からは、一筋の煙が上がっている。
もう起きて朝ごはんの支度をしているのか…みんな働き者だねぇ……。
わたしだって家で暮らしていた頃は、早いうちから起きて朝ごはんの支度をして……。
「お腹空いた」
私は今、ものすごい空腹感に襲われている。
そう自覚したら、お腹が空いてお腹が空いて、居ても立っても居られないくらいお腹が空いたんだよぉ。
なぜか無性に母様の作るご飯が食べたいんだよぉ。
「我慢できない。ちょっと家に行ってご飯食べてくる」
そう言い立ち上がった私を、皆が慌てて止めようとしていたけれど、惜しい事にその前にパッと私は転移した。
しんと静まり返った室内。
母様まだ起きてないのかぁ。
でも背に腹は代えられない。
仕方が無い、久しぶりに料理でもするかな。
食糧庫を漁り、朝ごはんの食材を物色する。
卵が有って、ほうれん草とマッシュルーム、ベーコンまであるじゃない。
何か私がいた頃より材料が豊富かな。
あれ?パンは?パンが無い。
パンを一から作るとなると厄介だぞ。
仕方が無い、この際だから買いに行くか。
って、私お金持ってなかったよ。
なんて思いながらゴゾゴソやっていると、トントンと階段を下りて来る音がした。
「誰かいるの?いつ帰って来たの?シルベスタ…?それともイカルスなの?」
階段を降り、そう言いながら音のする方を向いた。
朝日が眩しい窓の前には、金色の光をまとった一人の女性がいた。
逆光のためその輪郭しか確認は出来ないが、すらっとし、長い髪を蓄えたその人影に見覚えがあった。
「あー、お早う母様。ねぇパンは無いの?」
「エ……エレオノーラ…なの?」
「うん、急に来てごめんね。ねぇパンが無いならメイサおばさんの所に行って買ってこようか?ただ私、財布を持って来なかったものだから、出来れば貸してほしいんだけど、手持ち有る?」
「えっ?ええ……財布ね……」
そう言い引き出しに手を掛ける。
エレオノーラ…エレオノーラなの?
あなたはあの山の頂で、ずっと眠り続けているエレオノーラなのよね?
震える手で財布を取り出し、そっとそれを差し出す。
「ありがと、パンはいつもので良いの?あっ、バタークリーム買っちゃダメ?」
「あ…い、いいわよ……」
あなたはエレオノーラなのよね?
何度行っても触れる事も叶わず、何時めざめるのか誰にも分からず、ただリンデンさんと共に眠り続けているエレオノーラなのよね?
「他に何か買ってくるものは有る?」
「えっ、いいえ別に………」
「わかった。それじゃあパン買ったらすぐに帰って来るから」
そう言い、扉を開け、外に出ていこうとするその女性は、ふた月ほど前に見たエレオノーラと酷似していた。
エレオノーラ、エレオノーラ。
ようやく目を覚ましてくれたの?
そして私のもとに帰って来てくれたの?
手を伸ばし、出ていこうとするエレオノーラを呼び止めようとする。
このまま出て行って、もう二度と帰ってこないかもしれない。
そんな事を思い、恐怖を感じる。
でも、その思いが通じたのか、彼女は足を止めこちらを振り返った。
「そうだ、私がパンを買いに行っている間に、オムレツを作っておいてほしいな。久しぶりに母様のオムレツが食べたくなっちゃったの。そうそう、せっかくベーコンが有るんだから忘れないでね」
そう言い、溢れる光の中に飛び出していくエレオノーラ。
あぁ、私の娘はいつの間にこんなに美しくなったのだろう。
朝の光よりさらに輝く黄金色の髪をなびかせ、私とよく似た菫色の瞳。
生き生きとしたステップを踏み、動き出した朝の街に飛び出していく………。
じゃないでしょ。
「ちょっと待ちなさーーい!!エレオノーラーーー!!!」
「一体どうしたんだいジャクリーン!?」
エルが慌てた様子で二階から駆け下りてくる。
「あ、いえ、エレオノーラがメイサの所にパンを買いに行ったんだけど」
「えっ!?」
「ベーコン入りのオムレツを頼まれて、呼び止めたのにさっさと行っちゃったみたいなの」
「は?」
「パンなら昨日買ったのが、テーブルの上にあるのに、一体どこを見ているのやら」
「ジャクリーン………」
そう呼び、エルネスティはそっと私を抱きしめる。
「大丈夫だよ。エレオノーラはいつか必ず目覚める。そしてここに帰って来てくれるよ」
まあ、そうなったみたいだけど、とにかくあの子が帰って来る前にオムレツを作っておいてあげなくちゃ。
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