底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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隔たり

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「う~ん、久々の故郷だー」

たまに見覚えのない物も見かけるけれど、町の中はほとんど何も変わっていない……と、思う。
変わった物と言うか、何故か私を見るみんなの目が違うんだ。
昔だったら、町の皆は買い物に行く私を見かけると、”エレちゃん買い物かい?”とか、”気を付けて行きなよ”とか声を掛けてくれてたんだけど、今は遠巻きに私を見つめたり、涙を流すような人すらいる。
なぜだ、私何かしましたか~?(したよな)
これはあれだな。
私の後ろにいる鎧野郎のせいじゃないじゃないかな。

私がパンを買いに行こうと家を飛び出してから、あいつはずっと私の後をガシャガシャと煩い音を立てながら付いて来る。
何なんだ?ストーカーさんか?
確か家の前には二人の気配がしたけど、今付いてきているのは一人。
まさかと思うけど、あと一人は今頃家に押し入っているんじゃないだろうな。
まあそんな様子も無いから、取り敢えず引き返しはしないけれど。

「メイサおばさーん、パンちょうだーい」
「えっ!?え、えぇ、はい………お幾つほどさし上げましょうか」

幾つ?いつもだったら数を言わなくても、3つ袋に入れて渡してくれていたじゃない。
いや待てよ……。
私は財布と相談する事にした。

「あれ?結構入ってる…」

ならばここは大判振る舞いしようじゃないか。

「いつものパンを6つ。それからバタークリームと……ママレードも頂戴!」
「か、畏まりました…」

余計な物を買ってと母様に怒られるかもしれない。
でもたまにはいいよね。
まあ怒られたら怒られたで、謝ればなんとかなるさ。
しかしメイサ叔母さんまで、いつもと違うのはどうしてなんだ?
妙におどおどして不自然なんだよ。

「大変お待たせいたしました…」

そう言い、商品の入った袋を持ち上げるけれど、一向にこちらに渡そうとしてくれない。

「あっ、代金ですよね。全部でいくらですか」
「いえ、お代などとんでも有りません。ただこのお荷物を運ぶ方は…」

荷物を運ぶ人?
当然私ですけど?

「私がお運びします」

私と叔母さんの間にいきなりニュッと生えてきた腕は、私の後を付けてきたストーカーもどきの鎧さんの腕でした。
彼はすかさずおばさんの手から、パンの入った袋を受け取る。

「何するんですか!そのパンは私の……」

いや、まだお金を払っていないから私の物じゃないか。

「おばさん、全部でいくら?早く早く、母様達がお腹空かして待っているから」

お腹を空かせているのは私なんだけどね。
でも私のパンの権利を主張するためにも、早くお金を払う必要が有るんだよ。

「そ、そんな。神似者様からお金などいただく訳にはまいりません」

……何それ。

「我が国が安泰でいられるのも神似者様のおかげです。深くお礼申し上げます」

そう言い、おばさんが恭しく頭を下げる……。
周りを見れば、私を取り囲み、じっとこちらの様子を伺うたくさんの人々。
やがてその人達全てが地面に這いつくばり、額が地面にすれるほど下げている。

「や、やだなぁ、みんな何をしてるの……?」

何それ、何それ!何それ!!
きっとこの人たちは、私のやった事を知っている。
でも私はそんな事をしてほしくて頑張った訳じゃない。
私と一線を置き、頭を下げてもらいたいためにやった訳じゃ無いんだよ?
私を特別な目で見てもらいたくてやった訳じゃ無いんだ!

そう思うと、私はなぜか無性に悲しくなって、家に向かい駆けだした。




「母様!」

いきなり飛び込んできたエレオノーラは、私の首に腕をまわし肩を震わせる。

「エレオノーラ、一体どうしたの!?」

帰って来たらお小言の一つもかましてやろうと思っていたのだけれど、そんな気持ちは一瞬のうちにかき消えた。

「母様、私のしたことは間違ってはいなかったよね?」
「エレオノーラ?」

あぁそうか。
私には思い当たる事が有った。
きっとこの子は今、外で神似者として特別な扱いを受けたのだろう。
しかしそれは、この子の一番嫌がる事だと皆は知らない。

聞いた話では、この子のやらかした……起こした奇跡のような事で、色々な所で特別な目で見られるようになったと聞いた。
小さな頃から、隠れるように、目立たないように暮らしてきたこの子にとって、それは好ましくない状況であり、今まで慣れ親しみ、自由に生きてきたこの町は、この子にとって特別だったはずだ。
その町にまで奇異の目で見られるようになってしまった事は、きっと耐えがたい事だったのだろう。

この町は王都の外れと言えど、数々の噂が広がるには十分の所。
ましてや町には、この子を小さい頃から知っている人は数多くいる。
その子が数々の奇跡を起こし、力を使い果たしオルガの聖なる山で眠りについたと言う情報は瞬く間に広がって行った。
この子の眠る山まで巡礼に行った人も何人もいたほどだ。
そんな娘が突然姿を現したのだ。
町の人達がエレオノーラの事を恐れ、敬うのは想像できたのに、自分達の気持ちだけで手いっぱいだった私達は、この子のために根回しすらしていなかった。

「そうね、あなたは小さい頃から、メイサおばさんや色々な人に可愛がってもらっていたものね。それが突然距離を置くようによそよそしくなって悲しかったわよね」

こくんと頷くエレオノーラ。

「でもみんなはとてもあなたに感謝しているの。でもあなたのした事はあまりにも大きすぎて、その感謝をそれをどう表せばいいのか分からなかったのだと思うわ。だからきっと、王や貴族へ示す礼しか思い付かなかったのでしょうね」
「……でも、私はそんな事………」
「えぇ、あなたの気持ちは良く分かっているわ。ただあなたがした事に対し、周りの人の受取り方は、あなたの気持ちとかけ離れていたのよ。あなたにだって皆が悪意を持っていないと分かっているのでしょう?」

再びエレオノーラは頷く。

「皆はすぐあなたの事を理解してくれるはずよ?何たってあなたの小さい頃から可愛がってくれた人ばかりですもの」
「本当に?このまま私から離れて行かない?」

必死になるその表情は、幼い頃のエレオノーラを思い出させた。
いくら成人したと言っても娘は娘。
この子はいつまでも、私の可愛いエレオノーラなのだ。
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