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第二章 マリーベル逃亡編

幸せになりたい 1

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とうとう、おじさまに捕まってしまった。
でもそこに、何処かしら安堵している自分がいる事に気付いた。

「良かった、マリーベル。
ようやく会えた………。」

そして、私の腕の中にいるデーヴィットを見て、全てを悟ったのだろう。
大きく目を見開いてその子をひとしきり見つめてから、またワンワンと泣き出した。

お、おじさま、ここは人目の多い往来です。
何処か、目立たない所に移動しましょ?

そう言った事を、私は後から後悔した。

連れてこられたのは何と王宮。
デーヴィットは今まで見た事の無い所で興奮している。

「かーちゃ、ちーろ。」

「そうよ、お城よ。
デーヴィットはおりこうさんね。」

「その子は…、その……。
デーヴィットというのか?」

「はい…、そうです。」

デーヴィットとおじさまは、驚くほどよく似ている。
金色の髪と、緑の目。
顎の形もそっくりだ。
誰が見ても、即座に親子と思うだろう。

「あの、おじさま。
出来ればジゼルの家に行きませんか。」

「それはダメだ、あの人と一緒では確実に私は言い負かされてしまう。」

まあ、多分そうなるでしょうね。
でも私は知らずに、ジゼルに助けを求めようとしたようだ。

「私は君と二人だけで、ちゃんと向かい合って話がしたいんだ。」

「…分かりました。」

そう、私は今まで逃げてばかりで、おじさまとちゃんと向かい合い、話をした事など無かった。
自分で勝手に判断し、勝手に逃げ出したのだ。

私は卑怯者だ。


やがて通された謁見室でおじさまは、

「陛下、申し訳ないが、暫く部屋をお借りしたい。」

そう言った。

えっ、陛下?つまりこの方は王様?
たかが隣の国のパン屋の娘が、ここにいてもいい筈が無い。

しかし陛下は驚くでもなく、
私を見てから、デーヴィットを見て、最後におじさまを見てからニヤッと笑った。

「成程な。そういう訳か。」

そう一人で納得していた陛下。

「このところのあなたの奇行の訳は納得した。
お嬢さん、ゆっくりして行きなさい。
そしてよく二人でよく話し合う事。
分ったね。」

陛下の考えている事は、多分全て当たっています。

やがて通された個室は、まあ、個室と呼べないような立派な部屋でしたが、
専属のメイドさんがいて、
私達にお茶、デーヴィットにはジュースを出してから、そそくさと出て行った。


「マリーベル…………、
その子は私の子だね?」

コクンと頷く私、

「もしかして、君が私の下から去ったのは、その子の為?」

少し躊躇い、やはり再び頷く。

「でも、この子のせいでは有りません。
すべて私の我儘です。」

「いや、悪いのは全て私だ。
私が身勝手な事ばかりして、
君の気持ちを思いやれなかった。
今まで君に、苦しい思いをさせてすまなかった。」

おじさまはそう言って頭を下げた。

「マリーベル、……
君はまだ…、少しは…私の事を思ってくれているだろうか……。」

私はコクコクと頷く。

「マリーベルは、この先どうしたい?」

それを今言われても困ってしまう。

確かに私はおじさまの事を愛しています。
しかし、私とおじさまでは、住む世界が違います。
でも、この子には父親の存在を感じながら育ってほしい。
かといって、私とおじさまが一緒に住むのは無理。
おじさまはきっと、私にお城で一緒に暮らしてほしいのでしょう。
親子3人で暮らしたいはずです。

でも、身分違いの私の事を、快く思わない人は沢山いる筈。
きっと、この子に後ろ指を指す人もいると思います。

私はこの子に、そんな日陰を背負ったような生活をさせたくありません。

でも、この子に王家の血が流れているのは確かです。

もしかしたら、血筋を利用して、利益を得ようとする人が出てくるかもしれません。
そんな事になったら、おじさまを困らせてしまう。
この子の命にもかかわる話です。
でしたらやはり、おじさまにしっかり守っていただけるよう、お城で暮らすべきなのでしょう。

でも…………。

あぁ、いくら考えても堂々めぐり、

私は一体どうしたらいいのでしょう。


「私には、どうしていいのか分かりません。」

「そうだね、私にもわからない…。
どうしたら私たち3人、平穏に暮らしていけるのか……。」

その時コンコンと、ドアを叩く音がした。

「まあ、大体の予想は付いたけど、難しい問題だよね。」

「国王陛下……。」

「私にも一つ提案が有るんだけど、聞いてもらえるかな?」

そう言って、グレゴリー帝国第8代 テオドール陛下はニヤリと笑った。



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