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第2章
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(俺の名前もろくに覚えてねえ奴に抱いてほしいなんて思うなんて、俺も大概どうにかしてたな)
こういう状況になって初めて、自分がしようとしていたことの愚かさと思慮の浅はかさを思い知る。
どこから遡ればいいんだろうか。その場の勢いで番になったことか、それとも──。
(いやそもそも俺がオメガになんかならなかったら、こんなに悩むこともなかったんだろうな)
悔いるべきはオメガに生まれたこの自分だ。発情期に苦しみ、アルファに怯え、搾取されるだけの性別。
オメガなんて嫌いだと憎んでいたはずなのに、いつのまにかオメガである自分に慣れきってしまって、感覚が麻痺していたように思う。
生きるためにアルファに抱かれようなんて、やっぱり間違っている。そんな屈辱的なことをするぐらいなら、俺は──。
「……っオメガとして生きるぐらいなら、さっさと死んだ方がマシだ……」
視線を彷徨わせながら苦し紛れにこぼした言葉を、藤城は静かな表情で聞いていた。
ずっと動きを止めていた彼が、はー、と息を吐く声が頭上から聞こえる。
「ヒートが終わった後に家に帰ると、空き巣にでも入られたのかってぐらい部屋が荒れてんの」
「……なんの話だよ」
「最初は巣作りでもしてんのかと思ったけど、そんな形跡もないしさ。何度も繰り返すうちにわかったよ。おまえが荒れ狂って暴れてるだけだって」
藤城の言うことは正しかった。
三ヶ月に一度訪れる、オメガ特有の発情期。その度に熱を持て余して苦しみながら、自分の境遇を恨むことを止められず、何かに当たらないとやってこれなかった。
手当たり次第にその辺にあったものを投げ散らかしてから、深く被った布団の中で何度も自分を慰めた。卑しい生き物に成り下がったみたいで、耐えられなかった。
彼は淡々とした様子で言葉を続ける。
「オメガが嫌なのはよく知ってる。俺だってそもそも、自分がオメガであることを許せないおまえだから番にしたんだ」
「おまえなんかに、俺の気持ちがわかってたまるか」
「わかんねえよ、そんなもん。一生わかんねえし、わかってやる気もない。だけどずっとそうやって自分の置かれた境遇を恨んで喚いてばっかのおまえを見てるとイラついてくんだよ」
ところどころ口調を荒げながら、藤城が鬱陶しそうに顔をしかめる。
「泣いてもキレても喚いても死んでもどうしたって、おまえがオメガなのは変わんねえんだよ。いい加減認めろっつーの」
思いがけず、未紘は息を呑んだ。
「自己悲観ばっかうざいんだよ。オメガが嫌なら、おまえはおまえなりのオメガになってみればいいだろ」
「……なんだよ、それ」
「オメガって部分は変えられないけど、おまえのこれからの行動はどうとでも変えていけるんじゃねえの」
もしかして自分は今、励まされているのだろうか。アルファのくせにオメガが嫌いなこの男に。
だけど何故か、彼の言葉はすんなりと未紘の中に入ってきた。じわじわと温かくなっていく胸に気付いて、ハッとする。
小っ恥ずかしくなってきて、わざとむすっと口を尖らせた。
「うるせーよ。人のちんこ握っといて真面目に説教してくんな」
「おまえのせいで萎えちゃった。責任とってよ」
「人のせいにすんなばか。落ち着いたなら早く離せ──うあっ、なにすっ……!」
握り込まれていた手が再び上下に動き始める。先端に汁を塗り込むような触り方をされれば、敏感なそこはすぐにまた反応してしまう。
「あ、また硬くなってきた。おまえと違ってこっちは素直だね」
「だまれ……っうあ、急にはやくすんの、やめろ……っ」
さっきまでとは明らかに違う扱き方に、目の奥がチカチカする。立っていられなくなって前のめりになりながら、咄嗟に目の前にある藤城の服を掴んだ。
その仕草に気付いた彼は、満足そうに目を細める。そっと耳元に顔を寄せられて、唇から吐息混じりの声が吹き込まれた。
「出してもいいよ──未紘」
その瞬間に目の前が真っ白になって、背筋に熱が駆け上がった。びくびくと震えながら、自分のモノから熱い液体が吐き出されるのがわかる。
甘ったるい余韻が脳を揺らして、何も考えられない。
全力で走った後のように息を荒げていると、すぐ近くからクツクツと喉を鳴らすような笑い声が聞こえた。
「……あははっ、俺に名前呼ばれていっちゃった?」
「………………しね」
「そんな顔で言われても」
いけ好かないニヤけ顔を見上げながら思いきり睨み付けてやったのに、当の本人には全く響いていないようだ。
そもそも事の発端はこの男が変な薬を盛られたことから始まったはずなのに、何故自分ばかり気持ちよくさせられているのだろう。
徐々にクリアになってきた頭で下を見れば、藤城のモノはまだしっかりと天を向いている。
(なんでコイツこんなに余裕なんだよ……ムカつく)
こういう状況になって初めて、自分がしようとしていたことの愚かさと思慮の浅はかさを思い知る。
どこから遡ればいいんだろうか。その場の勢いで番になったことか、それとも──。
(いやそもそも俺がオメガになんかならなかったら、こんなに悩むこともなかったんだろうな)
悔いるべきはオメガに生まれたこの自分だ。発情期に苦しみ、アルファに怯え、搾取されるだけの性別。
オメガなんて嫌いだと憎んでいたはずなのに、いつのまにかオメガである自分に慣れきってしまって、感覚が麻痺していたように思う。
生きるためにアルファに抱かれようなんて、やっぱり間違っている。そんな屈辱的なことをするぐらいなら、俺は──。
「……っオメガとして生きるぐらいなら、さっさと死んだ方がマシだ……」
視線を彷徨わせながら苦し紛れにこぼした言葉を、藤城は静かな表情で聞いていた。
ずっと動きを止めていた彼が、はー、と息を吐く声が頭上から聞こえる。
「ヒートが終わった後に家に帰ると、空き巣にでも入られたのかってぐらい部屋が荒れてんの」
「……なんの話だよ」
「最初は巣作りでもしてんのかと思ったけど、そんな形跡もないしさ。何度も繰り返すうちにわかったよ。おまえが荒れ狂って暴れてるだけだって」
藤城の言うことは正しかった。
三ヶ月に一度訪れる、オメガ特有の発情期。その度に熱を持て余して苦しみながら、自分の境遇を恨むことを止められず、何かに当たらないとやってこれなかった。
手当たり次第にその辺にあったものを投げ散らかしてから、深く被った布団の中で何度も自分を慰めた。卑しい生き物に成り下がったみたいで、耐えられなかった。
彼は淡々とした様子で言葉を続ける。
「オメガが嫌なのはよく知ってる。俺だってそもそも、自分がオメガであることを許せないおまえだから番にしたんだ」
「おまえなんかに、俺の気持ちがわかってたまるか」
「わかんねえよ、そんなもん。一生わかんねえし、わかってやる気もない。だけどずっとそうやって自分の置かれた境遇を恨んで喚いてばっかのおまえを見てるとイラついてくんだよ」
ところどころ口調を荒げながら、藤城が鬱陶しそうに顔をしかめる。
「泣いてもキレても喚いても死んでもどうしたって、おまえがオメガなのは変わんねえんだよ。いい加減認めろっつーの」
思いがけず、未紘は息を呑んだ。
「自己悲観ばっかうざいんだよ。オメガが嫌なら、おまえはおまえなりのオメガになってみればいいだろ」
「……なんだよ、それ」
「オメガって部分は変えられないけど、おまえのこれからの行動はどうとでも変えていけるんじゃねえの」
もしかして自分は今、励まされているのだろうか。アルファのくせにオメガが嫌いなこの男に。
だけど何故か、彼の言葉はすんなりと未紘の中に入ってきた。じわじわと温かくなっていく胸に気付いて、ハッとする。
小っ恥ずかしくなってきて、わざとむすっと口を尖らせた。
「うるせーよ。人のちんこ握っといて真面目に説教してくんな」
「おまえのせいで萎えちゃった。責任とってよ」
「人のせいにすんなばか。落ち着いたなら早く離せ──うあっ、なにすっ……!」
握り込まれていた手が再び上下に動き始める。先端に汁を塗り込むような触り方をされれば、敏感なそこはすぐにまた反応してしまう。
「あ、また硬くなってきた。おまえと違ってこっちは素直だね」
「だまれ……っうあ、急にはやくすんの、やめろ……っ」
さっきまでとは明らかに違う扱き方に、目の奥がチカチカする。立っていられなくなって前のめりになりながら、咄嗟に目の前にある藤城の服を掴んだ。
その仕草に気付いた彼は、満足そうに目を細める。そっと耳元に顔を寄せられて、唇から吐息混じりの声が吹き込まれた。
「出してもいいよ──未紘」
その瞬間に目の前が真っ白になって、背筋に熱が駆け上がった。びくびくと震えながら、自分のモノから熱い液体が吐き出されるのがわかる。
甘ったるい余韻が脳を揺らして、何も考えられない。
全力で走った後のように息を荒げていると、すぐ近くからクツクツと喉を鳴らすような笑い声が聞こえた。
「……あははっ、俺に名前呼ばれていっちゃった?」
「………………しね」
「そんな顔で言われても」
いけ好かないニヤけ顔を見上げながら思いきり睨み付けてやったのに、当の本人には全く響いていないようだ。
そもそも事の発端はこの男が変な薬を盛られたことから始まったはずなのに、何故自分ばかり気持ちよくさせられているのだろう。
徐々にクリアになってきた頭で下を見れば、藤城のモノはまだしっかりと天を向いている。
(なんでコイツこんなに余裕なんだよ……ムカつく)
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