【完結】無関心アルファと偽りの番関係を結んだら、抱かれないうちに壊れ始めました

紬木莉音

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第1章

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「最初からそういう契約だったよね。おまえと番ったのだって、おまえが俺で欲を満たすことを少しだって考えてなかったからだ」
「……っ」
「どんな心境の変化か知らないけど、その要求は飲めない。わかったらさっさと出ていって」

 全く取り合おうとしない藤城は、再び寝転がって本のページを捲り始める。
 しかし命の危機がかかっているわけで、未紘の方もそう簡単に折れるわけにはいかない。
 衝動に任せてずかずかと部屋に入ると、その手にあった本を取り上げて床に放り投げ、仰向けに寝転ぶ彼の上に覆い被さった。

「は……? 何してんの、おまえ……」

 藤城はぽかんとした顔をしていた。彼の顔の横に両手をついて、じっとその顔を見下ろす。

「抱くって言うまで出て行かねえ。無理って言うんなら力尽くでもヤってやる」

 人間というものは追い詰められると、こうも大胆な行動ができるらしい。藤城の上に乗り上げながら、自分自身の行動なのに信じられない。

 しばらくそうしていると、藤城は急に静かになった。見ればその顔は血の気が引いて真っ白になっていて、よく見ると自分の下でその手足がガタガタと震えている。
 
「っおい、どうした? なんか、顔色わる……」

 普通じゃない様子に驚いて、咄嗟にその顔に触れようとした。すると間髪入れずに、その手をぱしんと振り落とされた。

「はや、く、どけ……」

 掠れた声が耳に届いたので、未紘は慌てて藤城の上から飛び退いた。

 すると彼は口元を抑えながら蹲り、激しく背中を震わせ始めた。
 不規則な呼吸のせいで苦しそうに頭を下げている彼は、尋常じゃないほど汗をかいている。

 いつもは飄々とした様子の藤城の、こんな姿を見るのは初めてだった。

 俺のせいだ。異常事態の中でそれだけははっきりわかる。
 もしかしたら自分はとんでもない地雷を踏み抜いたのではないか。
 彼に触れることもできずに、そばで立ち尽くすことしかできなかった。

 どれぐらい経ったのだろうか。
 未紘が用意したコップ一杯分の水を一気に飲み干した藤城の顔は、ようやく少し落ち着いたようだった。

「……俺はこんな見た目だからか、昔から発情したオメガに絡まれることが異常に多くて」

 ソファーに腰掛ける彼は、どこか虚ろな瞳のまま、ぽつりぽつりと語り始めた。

「オメガに触れられると今みたいに発作が起きて、死にかける」
「……勝手なことして、ごめん」
「謝んなよ。不快なだけ」

 苦手だとは聞いていたが、ここまで酷いとは思ってもみなかった。勢いに任せて行動した自分が悔やまれる。
 肩を落とす未紘をよそに、藤城がため息混じりに言葉を続ける。

「とにかく、これでわかっただろ。俺にはおまえを抱くことはできない。金輪際俺に近寄んな」
 
 それはまるで死刑宣告のように聞こえた。
 オメガは一度番ってしまえば、二度と関係を解消することはできないのだ。番に抱いてもらえないのなら、今の未紘の場合、身の安全は保証されない。

(このまま一生怯えながら生きていくのか? そんなの耐えられねえ……)

 モヤモヤと心を曇らせながら、俯く藤城に対して何も言うことができずに、そっと彼の部屋を出るのだった。



 
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