【完結】無関心アルファと偽りの番関係を結んだら、抱かれないうちに壊れ始めました

紬木莉音

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第7章

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「お疲れ~」
「お疲れさま~」

 バックヤードに入ってきた同僚は、未紘の姿を目にするなりきょとんとした顔をしている。

「あれ、和田じゃん。今日も入ってんの? 昨日も夜勤じゃなかった?」
「社畜極めてんだよ。今週ずっと夜勤だから昼夜逆転してて、今目ぇギンギン」
「やばすぎ、大学行けてんの?」
「まあ一応。行っても寝てるだけだけど」

 言いながら一つ大きな欠伸をこぼすと、やっぱり眠いんじゃね、と同僚に呆れたように笑われてしまった。
 コンビニバイトも今日で六連勤目。この六日間、一度も藤城と顔を合わせていない。
 それもそのはずだ。なんていったって、こちらから意図的に避けているのだから。

〈バイトが忙しいから、しばらく夕飯作れない。ごめん〉
〈わかった〉

 藤城とメッセージのやり取りをしたのがちょうど一週間前。それから今日まで何度か電話が掛かってきたが、ずるずる無視してここまできてしまった。

(会いたくねー……。会ったら絶対、顔に出る……)

 スマホを握り締め、はーっとため息を吐きながら項垂れる。少し前まで藤城のことを考えるだけで浮かれていたはずなのに、今は真逆だ。
 
 ──ただの利害関係なんでしょ? 互いに干渉しないから楽だって、そう話してたよ。

 にやりと笑う九条の顔が頭に浮かぶ。あんなことを聞かされても今まで通り接することができるほど、単純で鈍感な頭はしていない。
 互いに干渉しないこと。そのルールを最初に破ったのは未紘だ。それが藤城の望みだったはずなのに、いつしか自分を受け入れてくれる彼に甘えてしまっていた。
 
 抱いてもらうという望みは叶った。だからもう、彼に近付く必要はない。
 そのはずなのにチクチクと胸が痛む。現に藤城に会っていないこの数日間は、信じられないぐらい毎日がつまらない。いつのまにか彼と過ごす日々が自分にとって特別になっていたことに気付かされる。

 それでも逆に良かったのかもしれない。直接拒絶された方がきっとダメージが大きい。期待した分裏切られたときのショックが大きいことは、もうとっくに知っている。

「戻ります、休憩あざした」
「おー」

 表に戻った未紘は、どこかぼんやりとしたまま商品を補充をしていく。一人でいると色々考えてしまうからとあえて忙しくしたはずなのに、結局こうして頭の中でぐるぐる思考を巡らせてしまうのだから、皮肉なものだ。

(番の解消、か……)

 藤城にとっての正解は何だろう。形式的な番になるならば、自分よりももっと適任がいるのではないか。
 九条がオメガだと知らないとしても、知らないままなら彼に触れられるということは──もしかしたら九条がオメガだと知っても、発作は出ないのでは?
 特別なのは何も自分だけじゃない。たまたま彼の特別枠に滑り込めただけで、オンリーワンではないのに。

「すみません、レジいいですか」
「──っす。失礼しました」

 ぼんやりとしていたら背後から客に声を掛けられてしまった。素早く立ち上がってカウンターの中に回り込む。

「お待たせしました──」

 視線を上げた未紘は、息を呑んで、大きく目を見開いた。

「……藤城さん」
「今更さん付けしてんじゃねえよ」
「な、何の用すか」

 心臓が止まるかと思った。数日ぶりに見る藤城の破壊力がえげつなくて、思わず胸を押さえてしまう。
 黒いパーカーを着てフードを被っている彼は、一目見ただけで不機嫌だとわかるような顔と態度をしている。ポケットに手を突っ込んで首を捻りながらこちらを見下ろしてくる様は、まるでカタギの人間とは思えない。

「つか俺バイト先教えたっけ?」
「なんでずーっと連絡無視してんの。家にも一瞬しか帰ってこねえし、いい加減にしろよテメエ」
「……」

 これはまずい。何せ未紘の質問が一瞬でなかったことにされている。普段より上品でない口調は彼が怒っているという何よりの証拠だ。
 
「藤城さん、俺今バイト中なんでまた後日話しましょう。ここではちょっと」
「待ってたら家に帰ってくんの? いつ? 理由も言わずに散々無視しといて? 信じられると思う?」
「あー……えーっと……」

 顔を寄せられて少し仰け反りながら、未紘は視線を彷徨わせる。このままだと埒が明かない。バックヤードから同僚の視線を感じた未紘は、急かされるように言葉を発していた。

「か、帰るから、今日。バイト終わったら……七時ぐらいだけど」
「……あっそ。それじゃあ半休とるから、家で待ってるね。言っとくけど逃げても無駄だから」

 じゃ、と言い残して、藤城はあっさり去っていった。レジには彼が買おうとしていた飲料水が一本残されている。
 帰ってくる約束を取り付けるためにわざわざ店まで来たのだろうか。
 腹の底からじわじわ染みてくるような、何とも言えない気持ちを抱えたままのその後の勤務は、集中できるはずもなくミスの連続だった。





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