【完結】無関心アルファと偽りの番関係を結んだら、抱かれないうちに壊れ始めました

紬木莉音

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第7章

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「あーあ、だるすぎ。こんなにデリカシーのない奴と番うとか、芹くんなに考えてんの?」
「なんで女装してるんすか?」
「黙れよ。女装じゃないから、これは正装。僕は女性として生きてるの、これ以上首突っ込んできたら容赦しないよ」
「はあ……それで、何の用すか」

 何か深い事情があると察した未紘は、揉め事に巻き込まれたくない一心で話を切り上げた。
 未紘の問いかけにつまらなそうに顎をしゃくった九条は、面倒くさそうに言葉を発した。

「単刀直入に言うね。芹くんと番を解消してほしい」
「え?」

 想像の斜め上をいく回答に、ぽかんと目を丸くしてしまう。そんな未紘をよそに、九条は腕を組みながらふんぞり返った様子で言葉を続ける。

「僕の方がおまえよりずーっと前から芹くんが好きだったんだ。なんでおまえなんかが芹くんと番ってんだよ。ホントは今すぐに解消させたいぐらい」
「でも、番の解消は」
「どちらかが死ぬしかない、でしょ。わかってるよそんなことは」
「…………もしかして俺に死ねと?」
「やだなぁ、そんな物騒なこと言わないよぉ」

 そう言う割には目の奥が笑っていないし、どこか本気のように感じるのは気のせいではないだろう。身の危険を感じながら頬を引き攣らせていると、いきなり彼がずいっと身を乗り出した。

「でもね、実は裏技があるんだ」
「裏技?」
「そう。表向きにはどちらかが死ぬまで解消できないことになってるけど、一部の人達にしか知られていないもう一つ手段がある」
「それって……」
「アルファ側からの強制解除。ちょっと面倒臭いんだけど、僕はその方法を知ってる」

 九条はにこりと目尻を垂らした。

「だから、芹くんにお願いして?」

 天使のような顔から出てくる、悪魔のような言葉に、未紘は今度こそ言葉を失ってしまった。

「番を解消しようって、番くんから言ってくれない? 僕に言われたとかは言わないでさ」

 すぐに頷くことはできなかった。黙り込む未紘の前で、九条がクスクスと笑い出す。

「芹くん言ってたよ、おまえとの番はカモフラだって」
「……なんで、それを」
「ただの利害関係なんでしょ? 互いに干渉しないから楽だって、そう話してたよ」

 頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。すぐに自分が恥ずかしくなった。
 少しでも距離が近づいている気がしていた自分が、キスまで期待していた自分が。

「……でも九条さんはベータですよね、ネットに載ってました。俺が番を解消したって、番にはなれないはずでは?」
「うんそうだよ。ベータってことになってる」

 どこか釈然としない物言いに眉根を寄せると、クスクスと笑い声が飛んできた。

「僕、本当はオメガなんだ。芹くんはオメガが嫌いでしょ? 嫌われたくないから隠してるの」
「……は? じゃあ、藤城は知らないんすか」
「うん。男ってことは知られてるけど、オメガだってことは知られてない。然るべきときに僕から言うから、絶対に勝手に言うなよ」

 呆然とする未紘を睨み付けると、九条はがたっと音を立てて荒々しく立ち上がった。

「そんなわけだから、芹くんには自分から話してね。あんまり遅いと僕も痺れ切らしちゃうかも。よろしく~」

 言うだけ言うと彼は風のように去っていき、ばたんと玄関の方でドアが閉まる音がした。
 未紘は依然として椅子に座ったまま、テーブルの上でぐっと拳を握り締める。

(オメガなのに隠して接するなんて、そんなのアイツが知ったら──)

 藤城はただのオメガ嫌いじゃない。オメガという生き物にトラウマがあって、生命の危機を感じるほど生理的にオメガを受け付けないのだ。
 それなのに、そんな藤城の痛みを受け入れようともせずに誤魔化して近付くあの男のことが、どうしても許せないと思った。
 
(アイツが知ったら、きっと悲しむし、傷付く)

 自分から言うなんてとんでもない。できれば何も知らずにいてほしい。
 でも、伝えてしまえばあの二人の関係は崩れるのだろうか。
 そんな風に考えてしまう自分が酷く最低な人間に思えて、力なく首を垂れることしかできなかった。
 

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