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第7章
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触れるだけのキスは一瞬のようにも、長い時間をかけたようにも感じられた。顔が離れると、藤城は困ったように眉を下げて微笑んだ。
頑なに閉じていたはずの心が溶かされかけているのがわかる。
居た堪れなくなって視線を逸らしたそのとき、どくんと鼓動がひとつ大きく鳴った。
「っ、あっ……」
次の瞬間、焼けるように心臓が熱くなるのを感じた。呼吸は浅く脈は速くなり、みるみるうちに全身に熱が回り始める。
自分の身体なのに、そうじゃないみたいに制御が効かない。この感覚を自分はよく知っている。
「未紘? どうし──」
異変に気づいた藤城に触れられて、びくっと大袈裟に身体が震えた。たった一瞬触れられただけで、馬鹿になりそうなほど気持ちがいい。
蕩けた瞳で顔を上げると、彼は目を見開いて息を呑んだ。
「……ヒート?」
「っ、はやく、出てって……」
多量のフェロモンを感じ取ったのか、次第に藤城も苦しそうに息を乱し始める。
これまでヒートのときに彼がそばにいたことがなかったから、自分のフェロモンにあてられる彼の姿は新鮮だ。
「はぁ……っ」
何度経験しても慣れる気がしない。細胞から作り替えられていくみたいに、頭の中が快楽を得ることでいっぱいになる。
自分でだって直視したくないぐらいなのに、あんな自分を彼に見られるわけにはいかない。
しかし口元を覆って僅かに身を屈めている藤城は、一向に部屋を出ていく気配がない。
「っ、おい藤城、なにしてんの、マジではやく……」
立っているのが辛くて、壁に寄りかかりながら声を掛ける。
すると離れるどころか、どういう訳か腰を引き寄せられて、力強く抱きしめられた。
「……っおま、なに考えて……っ!」
「そばにいたらだめ?」
「でも……」
言い淀んでしまう未紘を安心させるように、回された腕にぎゅっと力が込められた。
「おまえが望むなら何もしない。嫌がることは絶対しないから」
耳元で掠れた声が聞こえて、くすぐったさに目を細めた。
他人と比べたことはないが、自分のヒートは重い方だと思う。
はしたない自分の姿を見られるなんて拷問でしかない。理性がぐずぐずに溶けて、いらないことを口走ってしまうかもしれない。
「……っ、やっぱり──」
拒絶しようと口を開きかける。しかし自分に回されている藤城の腕が、小刻みに震えていることに気が付いた。
それによく見れば、未紘を抱き締める彼の身体は、自分以上に火傷しそうなほど熱い。
ヒート時にオメガが放出するフェロモンは、アルファの理性を簡単に奪うほど濃く香る。
だからこの状況でとっくに襲われていたっておかしくないはずなのに、藤城は静かに未紘を抱き締めるだけだ。
──オメガとか番とか関係ない。俺は未紘と一緒にいたい。
あの言葉は本気なのだろうか。でも、アルファが本能に抗うことができるなんて信じられない。今まで自分が出会ってきた中に、そんな人間はいなかった。
「……いやだ」
小さく声を漏らすと、自分に回されていた腕の力が僅かに緩められた。拒絶と受け取ったのだろう。
離れていこうとする腕を今度は未紘の方から掴んで、もう一度自分の体に巻き付ける。
「何もしないとか、そんなのずるいだろ。出ていかねーんだったら、責任持って最後まで、面倒見ろよ」
自分の痴態を黙って観察される趣味はない。そんなのは建前だ。
そばにいたら触れてほしくなるに決まってる。
未紘が言うと、藤城が息を呑むのがわかった。ふっと緩やかにその口端が上がる。
「いいよ。未紘のしてほしいこと、全部してあげる。どうしてほしい?」
自分を甘やかすような声に胸がくすぐったくなる。きゅう、と下腹が疼くのを感じた。
いくら心では拒絶しても、身体は正直に藤城を求めている。
番だから? 自分がオメガだから?
ヒートがきているから?
(──いや、違うな。そんな次元じゃないことは、本当はとっくに気付いてるくせに)
もっとずっと心の奥の深い部分で、本当はずっと彼を求めていたのかもしれない。
必死に閉じ込めていた本音を、ヒートのせいにするなら打ち明けても許されるだろうか。
「…………もういっかい、キスして、ほしい」
柔らかく微笑んだ藤城の顔がそっと近付く。反射的に瞼を伏せると、呼吸を奪うような甘い口付けが落とされた。
頑なに閉じていたはずの心が溶かされかけているのがわかる。
居た堪れなくなって視線を逸らしたそのとき、どくんと鼓動がひとつ大きく鳴った。
「っ、あっ……」
次の瞬間、焼けるように心臓が熱くなるのを感じた。呼吸は浅く脈は速くなり、みるみるうちに全身に熱が回り始める。
自分の身体なのに、そうじゃないみたいに制御が効かない。この感覚を自分はよく知っている。
「未紘? どうし──」
異変に気づいた藤城に触れられて、びくっと大袈裟に身体が震えた。たった一瞬触れられただけで、馬鹿になりそうなほど気持ちがいい。
蕩けた瞳で顔を上げると、彼は目を見開いて息を呑んだ。
「……ヒート?」
「っ、はやく、出てって……」
多量のフェロモンを感じ取ったのか、次第に藤城も苦しそうに息を乱し始める。
これまでヒートのときに彼がそばにいたことがなかったから、自分のフェロモンにあてられる彼の姿は新鮮だ。
「はぁ……っ」
何度経験しても慣れる気がしない。細胞から作り替えられていくみたいに、頭の中が快楽を得ることでいっぱいになる。
自分でだって直視したくないぐらいなのに、あんな自分を彼に見られるわけにはいかない。
しかし口元を覆って僅かに身を屈めている藤城は、一向に部屋を出ていく気配がない。
「っ、おい藤城、なにしてんの、マジではやく……」
立っているのが辛くて、壁に寄りかかりながら声を掛ける。
すると離れるどころか、どういう訳か腰を引き寄せられて、力強く抱きしめられた。
「……っおま、なに考えて……っ!」
「そばにいたらだめ?」
「でも……」
言い淀んでしまう未紘を安心させるように、回された腕にぎゅっと力が込められた。
「おまえが望むなら何もしない。嫌がることは絶対しないから」
耳元で掠れた声が聞こえて、くすぐったさに目を細めた。
他人と比べたことはないが、自分のヒートは重い方だと思う。
はしたない自分の姿を見られるなんて拷問でしかない。理性がぐずぐずに溶けて、いらないことを口走ってしまうかもしれない。
「……っ、やっぱり──」
拒絶しようと口を開きかける。しかし自分に回されている藤城の腕が、小刻みに震えていることに気が付いた。
それによく見れば、未紘を抱き締める彼の身体は、自分以上に火傷しそうなほど熱い。
ヒート時にオメガが放出するフェロモンは、アルファの理性を簡単に奪うほど濃く香る。
だからこの状況でとっくに襲われていたっておかしくないはずなのに、藤城は静かに未紘を抱き締めるだけだ。
──オメガとか番とか関係ない。俺は未紘と一緒にいたい。
あの言葉は本気なのだろうか。でも、アルファが本能に抗うことができるなんて信じられない。今まで自分が出会ってきた中に、そんな人間はいなかった。
「……いやだ」
小さく声を漏らすと、自分に回されていた腕の力が僅かに緩められた。拒絶と受け取ったのだろう。
離れていこうとする腕を今度は未紘の方から掴んで、もう一度自分の体に巻き付ける。
「何もしないとか、そんなのずるいだろ。出ていかねーんだったら、責任持って最後まで、面倒見ろよ」
自分の痴態を黙って観察される趣味はない。そんなのは建前だ。
そばにいたら触れてほしくなるに決まってる。
未紘が言うと、藤城が息を呑むのがわかった。ふっと緩やかにその口端が上がる。
「いいよ。未紘のしてほしいこと、全部してあげる。どうしてほしい?」
自分を甘やかすような声に胸がくすぐったくなる。きゅう、と下腹が疼くのを感じた。
いくら心では拒絶しても、身体は正直に藤城を求めている。
番だから? 自分がオメガだから?
ヒートがきているから?
(──いや、違うな。そんな次元じゃないことは、本当はとっくに気付いてるくせに)
もっとずっと心の奥の深い部分で、本当はずっと彼を求めていたのかもしれない。
必死に閉じ込めていた本音を、ヒートのせいにするなら打ち明けても許されるだろうか。
「…………もういっかい、キスして、ほしい」
柔らかく微笑んだ藤城の顔がそっと近付く。反射的に瞼を伏せると、呼吸を奪うような甘い口付けが落とされた。
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