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36.影を暴く声
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「えっ…………成海くん?」
予想外の人物の登場に、声が裏返ってしまった。目を見開く俺の前で、扉に手をかけたままの成海くんは涼しい顔をして立っている。
どういうことだ。だってまさか、この状況って。
(成海くんが、なぴちゃなのか?)
心臓がバクバクとうるさい。不確定な事実に脳内が埋め尽くされ、何て声をかけたらいいのかわからない。
なぴちゃが俺に対して語りかけてきた言葉の数々を思い出せば、ますます訳がわからなくなった。
「沙也ちゃんじゃん、なにしてんの?」
「……え?」
しかし気まずさに頭をフル回転させる俺の前で、成海くんは不思議そうに首を傾げた。
「こんなとこに鍵掛けて閉じこもって、悪趣味すぎない?」
「え……いや、俺はその……え? な、成海くんは何でここに……」
「はー……疲れた。ジャン負けして肝試しがてらここに資料取ってこいって拓実にパシられたんだよ。マジでだるい」
成海くんは僅かに目を逸らしながらそう言い、肩を竦めた。
無意識に警戒していたらしい。成海くんの言葉でじわじわと肩の力が抜けていくのがわかった。
──成海くんじゃなかった!
よかった、と心の底から思ってしまった。だってもし、なぴちゃの正体が彼だったら、聞かれたくない言葉のあれこれがたくさん思い当たるからだ。
……じゃあ、本物のなぴちゃは?
成海くんの方が先に資料室に到着してしまったのだろうか。俺のスマホはシンと静まり返っていて、新たな通知を知らせてくれることはない。
「っげほ、めっちゃ埃っぽいんだけど。よくこんなとこにいれたね」
「いやー……あはは……」
まさか閉じ込められてましたとは言うわけにはいかない。苦笑する俺のそばで、成海くんが背の高い本棚に順番に目を通した後に、一冊の冊子を手に取った。
「あー見つけた。頼まれてたのコレだ」
「それって去年の文化祭資料?」
「うん。俺らの代は初めてだから参考にしたいんだって」
よく見ると、この時期にしては不自然なぐらい、彼の額には珍しく汗が滲んでいる。パシられたと言っていたが、そんなに急いでここに来たのだろうか。
じっと成海くんの横顔を凝視していると、彼は資料に目を落としたまま急に黙り込んでしまった。なんとなく、彼の纏う空気が不穏なものに変わったのを感じる。
「……ねえ、さっきからずっと隠れんぼしてるみたいだけど──いい加減出てきたら?」
成海くんは急に扉の方を振り返って、誰もいないはずのそこに声を掛けた。
不思議に思っていると、扉のガラスの向こうに背の低い影が映った。見かけた瞬間にぎょっとして心臓が跳ねる。
音もなかったし、入口の近くに誰かがいるなんて全く気付かなかった。どうして成海くんは気付いたんだろう……。
ゆらりと姿を現したその人を目にした途端、俺は思わず声をあげた。
「あれ、きみ……」
「……っ、ごめんなさい!」
俺が指をさすのと、その子が勢いよく頭を下げるのはほぼ同時だった。面食らって固まる俺の前で、膝を震わせる彼女のつむじが見える。
その子は確かに、俺のことを閉じ込めた女の子張本人だった。
「わ、わたし成海くんのことが好きで……振られたはらいせに、少しでも成海くんに嫌な思いさせてやりたいって思って……」
顔を上げた彼女が、視線を彷徨わせながらぽつぽつと語り始める。その声は酷く震えていて、今にも泣き出しそうだった。
「ふ、不仲だってSNSに流したのも……お兄さんの服にペンキつけたのもわたしです………」
「あー……あれ……」
思わず苦笑を漏らしてしまう。つけられた事実は変わらないが、犯人がわかってしまえば幾分かすっきりした。
でも、どうして成海くんのはらいせが俺なんだろう。普通はそういうのって、本人にするものじゃないのだろうか。
「今の話、どういうこと?」
予想外の人物の登場に、声が裏返ってしまった。目を見開く俺の前で、扉に手をかけたままの成海くんは涼しい顔をして立っている。
どういうことだ。だってまさか、この状況って。
(成海くんが、なぴちゃなのか?)
心臓がバクバクとうるさい。不確定な事実に脳内が埋め尽くされ、何て声をかけたらいいのかわからない。
なぴちゃが俺に対して語りかけてきた言葉の数々を思い出せば、ますます訳がわからなくなった。
「沙也ちゃんじゃん、なにしてんの?」
「……え?」
しかし気まずさに頭をフル回転させる俺の前で、成海くんは不思議そうに首を傾げた。
「こんなとこに鍵掛けて閉じこもって、悪趣味すぎない?」
「え……いや、俺はその……え? な、成海くんは何でここに……」
「はー……疲れた。ジャン負けして肝試しがてらここに資料取ってこいって拓実にパシられたんだよ。マジでだるい」
成海くんは僅かに目を逸らしながらそう言い、肩を竦めた。
無意識に警戒していたらしい。成海くんの言葉でじわじわと肩の力が抜けていくのがわかった。
──成海くんじゃなかった!
よかった、と心の底から思ってしまった。だってもし、なぴちゃの正体が彼だったら、聞かれたくない言葉のあれこれがたくさん思い当たるからだ。
……じゃあ、本物のなぴちゃは?
成海くんの方が先に資料室に到着してしまったのだろうか。俺のスマホはシンと静まり返っていて、新たな通知を知らせてくれることはない。
「っげほ、めっちゃ埃っぽいんだけど。よくこんなとこにいれたね」
「いやー……あはは……」
まさか閉じ込められてましたとは言うわけにはいかない。苦笑する俺のそばで、成海くんが背の高い本棚に順番に目を通した後に、一冊の冊子を手に取った。
「あー見つけた。頼まれてたのコレだ」
「それって去年の文化祭資料?」
「うん。俺らの代は初めてだから参考にしたいんだって」
よく見ると、この時期にしては不自然なぐらい、彼の額には珍しく汗が滲んでいる。パシられたと言っていたが、そんなに急いでここに来たのだろうか。
じっと成海くんの横顔を凝視していると、彼は資料に目を落としたまま急に黙り込んでしまった。なんとなく、彼の纏う空気が不穏なものに変わったのを感じる。
「……ねえ、さっきからずっと隠れんぼしてるみたいだけど──いい加減出てきたら?」
成海くんは急に扉の方を振り返って、誰もいないはずのそこに声を掛けた。
不思議に思っていると、扉のガラスの向こうに背の低い影が映った。見かけた瞬間にぎょっとして心臓が跳ねる。
音もなかったし、入口の近くに誰かがいるなんて全く気付かなかった。どうして成海くんは気付いたんだろう……。
ゆらりと姿を現したその人を目にした途端、俺は思わず声をあげた。
「あれ、きみ……」
「……っ、ごめんなさい!」
俺が指をさすのと、その子が勢いよく頭を下げるのはほぼ同時だった。面食らって固まる俺の前で、膝を震わせる彼女のつむじが見える。
その子は確かに、俺のことを閉じ込めた女の子張本人だった。
「わ、わたし成海くんのことが好きで……振られたはらいせに、少しでも成海くんに嫌な思いさせてやりたいって思って……」
顔を上げた彼女が、視線を彷徨わせながらぽつぽつと語り始める。その声は酷く震えていて、今にも泣き出しそうだった。
「ふ、不仲だってSNSに流したのも……お兄さんの服にペンキつけたのもわたしです………」
「あー……あれ……」
思わず苦笑を漏らしてしまう。つけられた事実は変わらないが、犯人がわかってしまえば幾分かすっきりした。
でも、どうして成海くんのはらいせが俺なんだろう。普通はそういうのって、本人にするものじゃないのだろうか。
「今の話、どういうこと?」
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