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28.止まない雨
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「なんか沙也ちゃんが俺の部屋にいるの、変な感じすんね」
「あはは、俺も。前から思ってたけど成海くんの部屋って成海くんっぽくていいよね」
「なにそれ、貶してる?」
「いや褒めてる! いい意味でってこと!」
どうやら変な風に伝わってしまったらしい。全力で否定する俺を見て、成海くんが吹き出した。
「ふはっ、そんな必死になんないでよ。そういうとこも可愛いけど」
「……っ」
くしゃっとした笑顔も、可愛いという言葉も、全部が俺を喜ばせていく。
部屋が暗くてよかった。だって俺の顔、多分今赤いはずだから。
「……はー、なんか修学旅行みたいで楽しいね。ますます寝れなくなりそう」
「そうだね……」
成海くんにとってはそういう認識なのか。俺からしたら修学旅行なんていう純粋に楽しいものじゃなくて、もっと胸をくすぐられるような感じがする。
成海くんが隣にいる。いつもは成海くんが寝ているベッドに、並んで座っている。意識し出すと止まらなくて、さっきなぴちゃに言われたことだって頭に浮かんできて、咄嗟に考えないようにぎゅっと目を瞑った。
「……沙也ちゃんは」
うるさい心臓を必死に押し込める俺の隣で、成海くんがそう切り出した。やけに落ち着いたトーンなのが気になって、瞼を開いて顔ごと視線を向ける。
「母さんが再婚するって言ったとき、すぐに受け入れられた?」
「え?」
思ってもいない話題だったので、思わずそう聞き返してしまった。成海くんは少し微笑んだまま、俺の答えを待ってくれている。
その表情はどこか切なさに満ちていた。
「まあ、俺は割と。むしろ安心の方が大きかったかな。ずっと母さん一人で無理してたから」
「そっか。優しいね沙也ちゃんは」
「そんなことはないよ。成海くんだって……」
言いかけた言葉は口の中に飲み込まれていった。成海くんが俺の言葉を制止するように、困ったような視線を向けてきたからだ。
「俺はね、全然だめだった。再婚も、連れ子がいて兄弟ができることも、到底受け入れられなかった」
成海くんの口からそういう話が出るのは、初めてのことだった。俺は息を呑んで、口を引き結んだまま、彼の言葉の続きを待った。
「俺、家族にいい思い出がないんだ。両親が離婚したのが、俺がまだ幼稚園児の頃なんだけど、朝起きたら母さんがいなくなっててさ。父さんからは、母さんは遠くに行ったんだよって知らされたんだけど……」
静かに降る雨のように、ぽつぽつと成海くんは語り出した。
「俺には意味がわからなくて。小学生の頃かな、こっそり母さんに会いに行ったんだよ」
初めて聞かされる彼の過去。戸惑う心を押し込めつつ、その大人びた横顔を見つめることしか、俺にはできなかった。
「そしたらさ、知らない男と知らない子ども連れて、楽しそうに笑ってんの。本当にびっくりした。俺に気付いても、顔色ひとつ変えずに素通り。そこで初めて、俺は『捨てられたんだ』って気付いた」
窓の外では強風が吹き荒れている。何かがガラスに当たって、コツンと音が鳴った。
幼い頃の成海くんが頭に浮かぶようだった。きっと彼の心の中も、嵐のように激しく打ちのめされていたに違いない。縋りついた相手から突き放された彼の気持ちなんて、俺なんかに全てわかるはずもないが。
「家族って呆気なく崩壊するし、簡単に乗り換えられるんだってそこで知ったの」
隣で自虐的に笑う成海くんを見ても、同じように笑うことなんてできるはずもなかった。
「だから再婚とか、ああ母さんがやってたことかって、最初は否定的だったし、もうどうでもいいやって投げやりだったんだけど」
言いながら、ゆっくりと彼の視線が俺のほうに移る。
「沙也ちゃんってマジでめげないから」
「……俺?」
急に自分の名前が出てきて、思いがけず目を見開いてしまう。成海くんはさっきまでとは違う優しげな顔をして、うんと頷いた。
「俺がどんだけ無視しても話しかけてくるし、勝手に世話焼こうとするし。どうせコイツもすぐにいなくなるって思ってたから、関わらないようにしてたのに」
初めて成海くんの本音を聞いたような気がして、胸が痛くなる。
彼があんな態度をとっていたのは、家族へのトラウマのせいだったのか。それも知らずに俺は、自分勝手に彼に押しかけてばかりだった。
「あはは、俺も。前から思ってたけど成海くんの部屋って成海くんっぽくていいよね」
「なにそれ、貶してる?」
「いや褒めてる! いい意味でってこと!」
どうやら変な風に伝わってしまったらしい。全力で否定する俺を見て、成海くんが吹き出した。
「ふはっ、そんな必死になんないでよ。そういうとこも可愛いけど」
「……っ」
くしゃっとした笑顔も、可愛いという言葉も、全部が俺を喜ばせていく。
部屋が暗くてよかった。だって俺の顔、多分今赤いはずだから。
「……はー、なんか修学旅行みたいで楽しいね。ますます寝れなくなりそう」
「そうだね……」
成海くんにとってはそういう認識なのか。俺からしたら修学旅行なんていう純粋に楽しいものじゃなくて、もっと胸をくすぐられるような感じがする。
成海くんが隣にいる。いつもは成海くんが寝ているベッドに、並んで座っている。意識し出すと止まらなくて、さっきなぴちゃに言われたことだって頭に浮かんできて、咄嗟に考えないようにぎゅっと目を瞑った。
「……沙也ちゃんは」
うるさい心臓を必死に押し込める俺の隣で、成海くんがそう切り出した。やけに落ち着いたトーンなのが気になって、瞼を開いて顔ごと視線を向ける。
「母さんが再婚するって言ったとき、すぐに受け入れられた?」
「え?」
思ってもいない話題だったので、思わずそう聞き返してしまった。成海くんは少し微笑んだまま、俺の答えを待ってくれている。
その表情はどこか切なさに満ちていた。
「まあ、俺は割と。むしろ安心の方が大きかったかな。ずっと母さん一人で無理してたから」
「そっか。優しいね沙也ちゃんは」
「そんなことはないよ。成海くんだって……」
言いかけた言葉は口の中に飲み込まれていった。成海くんが俺の言葉を制止するように、困ったような視線を向けてきたからだ。
「俺はね、全然だめだった。再婚も、連れ子がいて兄弟ができることも、到底受け入れられなかった」
成海くんの口からそういう話が出るのは、初めてのことだった。俺は息を呑んで、口を引き結んだまま、彼の言葉の続きを待った。
「俺、家族にいい思い出がないんだ。両親が離婚したのが、俺がまだ幼稚園児の頃なんだけど、朝起きたら母さんがいなくなっててさ。父さんからは、母さんは遠くに行ったんだよって知らされたんだけど……」
静かに降る雨のように、ぽつぽつと成海くんは語り出した。
「俺には意味がわからなくて。小学生の頃かな、こっそり母さんに会いに行ったんだよ」
初めて聞かされる彼の過去。戸惑う心を押し込めつつ、その大人びた横顔を見つめることしか、俺にはできなかった。
「そしたらさ、知らない男と知らない子ども連れて、楽しそうに笑ってんの。本当にびっくりした。俺に気付いても、顔色ひとつ変えずに素通り。そこで初めて、俺は『捨てられたんだ』って気付いた」
窓の外では強風が吹き荒れている。何かがガラスに当たって、コツンと音が鳴った。
幼い頃の成海くんが頭に浮かぶようだった。きっと彼の心の中も、嵐のように激しく打ちのめされていたに違いない。縋りついた相手から突き放された彼の気持ちなんて、俺なんかに全てわかるはずもないが。
「家族って呆気なく崩壊するし、簡単に乗り換えられるんだってそこで知ったの」
隣で自虐的に笑う成海くんを見ても、同じように笑うことなんてできるはずもなかった。
「だから再婚とか、ああ母さんがやってたことかって、最初は否定的だったし、もうどうでもいいやって投げやりだったんだけど」
言いながら、ゆっくりと彼の視線が俺のほうに移る。
「沙也ちゃんってマジでめげないから」
「……俺?」
急に自分の名前が出てきて、思いがけず目を見開いてしまう。成海くんはさっきまでとは違う優しげな顔をして、うんと頷いた。
「俺がどんだけ無視しても話しかけてくるし、勝手に世話焼こうとするし。どうせコイツもすぐにいなくなるって思ってたから、関わらないようにしてたのに」
初めて成海くんの本音を聞いたような気がして、胸が痛くなる。
彼があんな態度をとっていたのは、家族へのトラウマのせいだったのか。それも知らずに俺は、自分勝手に彼に押しかけてばかりだった。
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