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第4章 激動の冬編
第74話 カリオスとコウメイ
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カリオスが事前に把握していた事情というのは、ルエールが精鋭を引き連れてミュリヌス地方へ向かった、本当にこの一事だけのようだった。他の詳細は全てコウメイが説明するとしかカリオスには伝わっていないということが、カリオスへ説明をしているうちに分かった。
さすがにルエールに対してうんざりしてしまうコウメイだったが、それでも愛娘があんなことになれば無理もないか……と、複雑な感情を胸中にしまいながら、カリオスに報告をする。
自分がミュリヌス地方へ行った際に起こった事――リリライトとグスタフに妙な関係、アンナに暗殺されかけたこと、助けてくれたシンパを残して王都に戻ってきたこと、それを受けてルエールがミュリヌス地方へ出立したこと。
コウメイの話を聞いたカリオスの評所は驚愕そのものだった。
話を聞き終わった今も、どこから呆けたような顔でコウメイの顔を見返してくる。
「――あのクソ豚野郎。見た目通りの、最低最悪の人間のクズだったってことか」
「おおよそ、その評価で間違いないかと」
カリオスの言葉を即座に肯定するコウメイ。
すると、カリオスは握りしめた拳を目の前の机に叩きつける。木造の机はメキメキと音とたてながら、亀裂を走らせる。
その強烈な音にコウメイは思わずビクリと身体を震わせる。
「リリは……リリライトはどうなっているんだっ!」
怒りの視線をコウメイに向けて、感情をそのまま言葉に乗せるカリオス。怒りの矛先を向けるべき相手がこの場にはいない――カリオスの視界に入る自分が、その対象になるのは止むを得ないことだ、とコウメイは恐怖しながらも、必死に冷静であろうと気を静める。
冷静に、自信を持った態度を保たねばならない。
カリオスの妹の溺愛ぶりはあまりにも有名だ。アンナの話を聞かせれば激昂するのは火を見るよりも明らか。怒りのあまりカリオスが暴走してしまえば、聖アルマイト国が大混乱に陥る可能性がある。そうすれば、隙あらば大陸の覇権を握らんとする諸国につけ入れられる隙を与えてしまうのだ。
誰よりも客観的な立場で事情を把握しているのは、コウメイ1人だけ。自分に課せられている責務は重い。コウメイは心して言葉を紡いでいく。
「グスタフには逆らえないような様子でしたが、嬉々として従っていたアンナ嬢とは全く違っていました。仕方なく従っている、という感じです。おそらく、アンナ嬢と同じ状態ではないかと考えられます」
「っざけんな! そんな証拠がどこにありやがるっ!」
まるでコウメイが諸悪の根源のように、視線で射殺すばかりの勢いで睨んでくるカリオス。
第1王子であるカリオスにそんな態度を取られれば恐怖で緊張が高まっていくが、さすがに理不尽さも禁じ得ない。
確かに当初課せられた任務とは少し違ったものの、グスタフの陰謀が進んでいることを掴んできたのだ。賞賛しろとは言わないが、叱責されたり罰を受けることではないだろう。
(まあ、そう言えたら苦労しないけど)
今のカリオスにそんな正論をぶつけても怒りを逆撫でするだけだろう。下手したら勢いのまま処刑されかねない。
「くそっ! リリがあのクソ野郎に汚されているなんて……うおおおおおおっ!」
あまりの怒りに、カリオスは咆哮しながら立ち上がり、机を蹴り飛ばす。
重量感たっぷりの重々しい音を立てて、カリオスの机がひっくり返ると、そのまま何度も何度も机に蹴りを叩きこむカリオス。派手な音を立てながら、机が崩壊し、その形を失い、ただの木の残骸と成り果てていく。
「はぁ、はぁ……どうしてっ! どうしてそんなことになったっ! リリが……どうしてそんな目に合わないといけないっ!」
残骸になった机をなおも蹴りつけてカリオスは血走った眼で声を荒げる。手加減なしの、怒りのままに暴力をふるい続けて、カリオスはあっという間に息を切らしていた。
そのタイミングを待っていたように、それまで黙っていたコウメイは静かに発言を再開する。
「殿下、落ち着いて下さい。今申し上げたように、第2王女殿下はまだグスタフの手に落ちていないと思います」
「だから、そんな証拠がどこにあるんだよっ!」
「そうじゃない証拠もないでしょう!」
カリオスの怒鳴り声に、コウメイは即座に反論する。それまで机に対する嵐のような暴力を振るっていたカリオスは、コウメイに向き変える。
怒りという感情にギラついた目をコウメイに向きながら、更に怒鳴り声を浴びせようとするカリオス――それに先んじて、カリオスよりも速くコウメイが次の言葉を発する。
「リリライト殿下だけではなく全てのことに証拠なんてない。アンナちゃんの容態以外は、全て憶測です。全ての根拠は現場を見てきた俺の証言だけですっ! だから俺を信じて下さいっ!」
まともな敬語を使う余裕もなく、コウメイはコウメイで必死に訴える。その必死の声に、カリオスの動きは止まったものの、怒りに染まった表情に変化はない。
その激情の圧力に屈しないよう、コウメイは唇を噛みしめて発言を続ける。
「そして、カリオス殿下の言う通りにならないよう、ルエール騎士団長が、急ぎリリライト様の下へ向かっているんです。団長は自分の娘のことだけじゃない。シンパさんや、忠誠を誓うあなたが溺愛しているリリライト様のために――これ以上、アンナちゃんと同じ被害を増やさないために! 俺が信じられないなら、ずっとあなたに仕えてきたルエール騎士団長を信じて下さい!」
大陸に名を馳せる戦士の家系――アルマイトの直系に生まれ、その戦士の地を色濃く受け継ぐカリオス。
そのカリオスが、溺愛する最愛の妹を凌辱されたと怒り狂っている。その怒りはすさまじく、コウメイではなくとも誰もが畏怖を禁じ得ないに違いない。
騎士としては頼りなさすぎる程のコウメイ。吹けばそのまま吹き飛ばされるくらいのか弱い存在である彼の必死の声――それにカリオスは止めていた身体をゆっくりと動かし始める。
そして先ほど自らが立つ際に吹き飛ばすようにして倒れた椅子を起こすと、そこにどっかりと腰を下ろして、うなだれるようにして顔を下に向けた。
「――お前の言う通りだ」
つい今まで激昂していた声とは打って変わって、重く沈んだような声を絞り出すようにするカリオス。
「リリライトのことになると俺は……。すまん」
そのカリオスの様子を一言で表すならば「意気消沈」――いや、ちょっと違うかな…などと頭の中でとぼけて見せるコウメイ。
それ程に、カリオスの身を焦がしていた怒りの炎が、コウメイの言葉によって消火されていくようだった。
それだけでなく、あっさりと己の非を認め、素直に謝罪するカリオスにコウメイは感心と尊敬の念を抱く。王族という立場の人間が、なかなか出来ることではないだろう。
「リリライトは大丈夫。信じていいか?」
うなだれるままのカリオスの言葉に、コウメイは「はい」と一言だけ答える。そうしてようやくカリオスは顔を上げて、コウメイの顔を見返した。
その顔は、多少元気が足りないような感じだったが、いつもの冷静な第1王子の顔に戻っていた。
「本当にすまんが、俺は冷静に考えられそうにない。どうすればいいのか、知恵を授けてくれないか」
おくびもなく、部下に弱音を吐き出し助けを求めるカリオス。しかしその顔には恥ずべきものは浮かんでいない。堂々と、カリオスはコウメイに助けを乞うていた。
それでいい、とコウメイは思う。
国を統べる者が、全てを完璧にこなせる天才である必要はない。人の上に立つ者に必要なのは、成すべきことを成すために全力を尽くせることだ。本人が足りないのは、下で支える者が補えばいいだけの話だ。
代々愚王と蔑まされる人物にはこれが足りない。全てを自分の思うがままに、己の力で推し進めようとする。全てを完璧にこなせる人間などいるはずがないのに、出来ない部分を他人に任せようとしない。結果、国と民と己を破滅させるのだ。
そういう意味で、カリオスには賢王たる資質を充分に備えた王子だと、コウメイは評するのだった。
「妹君の身が危ぶまれている状況なら、取り乱すのも当然です。そして、そこまで妹君のことで激昂される殿下ならば、国民が危険にさらされた時も同じように我が身の危険として激昂してくれるでしょう。冷徹に粛々と王らしく振舞われるより、私はそんな人間味溢れる王様の方が好感を持ちますね」
軽々とした口調の、そんなコウメイの言葉を聞くと、それまで落ち込んでいたともいえるカリオスは薄ら笑いを浮かべる。
「それを聞いて、俺は喜んでもいいのか? 王らしくないって言われているような気がするんだが」
「そうですね。私という人間などに好感を持たれたところで、殿下には何一つ得など無いでしょうしね。おおいに反省して、ご自分の身を振り返るとよろしいのでは」
それまでは緊張で、らしくない堅苦しい言葉しか吐けなかったコウメイが、ここにきてようやく本人らしい軽口を叩くようになった。
言いながら笑うコウメイに、やはりカリオスも笑いを浮かべていた。
「俺は、周りの人間に恵まれたようだな。ルエールといい、お前といい……これなら、グスタフの豚野郎が何を企んでいても問題無さそうだな」
カリオスが漏らした言葉に、コウメイはそれまで浮かべていた笑みをゆっくりと消していく。
果たしてそうだろうか。
コウメイの中でのグスタフの評価は決して高くない。得体の知れない「異能」だか「呪い」だかは懸念だが、それだけだ。所詮は己の欲望のままに生きているだけの低俗な人間。そんな人間の考えなど底が知れているし、その思考も読みやすい。
脅威には成り得ないはずだ――それなのに、コウメイの不安はどうしても拭えない。
「一番の良いのは、ミュリヌス地方へ向かったルエール団長が、そのままグスタフを討つか或いは拘束してくることですが、私は――」
「ああ、今は俺とお前の2人だし、無理しなくてもいいぞ。「私」なんて柄じゃないだろ、お前は」
コウメイの言葉を遮るカリオスのその言葉に、コウメイは目を丸くしてしばらく黙っていたが、コホンを咳払いしながら「では」と後を続ける。
「俺は、その確率は五分五分だと思っています。ルエール団長の堅い性格なら、明確な証拠を掴まない限りは強引な手段を取れないでしょうし、グスタフもああ見えて強かな野郎です。そうなれば、グスタフは上手くルエール団長から逃れることも難しくないでしょう」
娘を凌辱されたという疑いが強くとも、ルエールはあくまでもルールに則るだろう。大臣たる人物を罪に問うことが出来る程の強烈な証拠、それをあのグスタフが易々と掴ませるはずがない。
「奴がどこまで悪だくみを進めているかは分かりませんが、最悪のケースを想定すれば、ヘルベルト連合そのものを既に手にしている可能性もあります」
「――そうだな。最悪のケースというが、むしろその方がしっくりくるくらいだな。不自然なまでの同盟締結や、禁止されているはずの奴隷売買の噂。あの豚野郎がヘルベルト連合と関係を結んで、裏で手を引いていると考えたらなんの不思議もない」
実はこの部分をカリオスに納得させるのが一番の難所だと思っていたのだが、意外にもカリオスはコウメイと同じ考えを既に巡らせていたようだ。これはコウメイにとって嬉しい誤算だった。
「ヘルベルト連合には『龍の爪』がいるからな。奴がヘルベルトに逃げ込んだら、確かに厄介なことになりやがるな」
ヘルベルト連合が有する戦力『龍の爪』。連合内の治安・秩序維持や外敵からの防衛など、連合国における様々な軍事的解決を主目的に活動する、大陸屈指の戦闘部隊の名前を口にするカリオス。経済に恵まれた連合国に加盟した国々が、人と物と金を結集して作り上げた部隊である。
「連合とは一戦やり合うことになるかもな。まあ、同盟条約違反をしているなら相応の制裁が必要だ。それに聖アルマイトに反逆したグスタフを匿うというなら、なおさらだ。戦争になったとしても、大義名分はある。そこらへんは心配しなくて大丈夫だぞ」
さすがは次期国王筆頭であるカリオスである。コウメイが言わんとしていること、懸念していることは、ほとんど見透かされているようである。
カリオスと話をしていくうちに、カリオスを説得するにあたり、コウメイが事前に感じていた緊張と不安は、どうも杞憂であったと知れる。
「ルエール団長には、リリライト殿下やシンパさんといった要人の身柄の安全を確保してもらうのが第一ですし、団長ともそう話しています。そうすればグスタフを取り逃がしたとしても、どうとでもなります」
いくら『龍の爪』が大陸屈指と言われていても、そもそも聖アルマイト王国と比較すれば、その国力差は歴然としている。戦争となり、聖アルマイト王国が負けることなど考えられない。下手をすれば、戦争になる前からヘルベルト連合は諸手を上げてグスタフの身柄を差し出してくる可能性すらある。
コウメイの言葉に、カリオスは大きくうなずく。
「分かった。急いでヘルベルト連合攻略部隊を編成しよう。全く、ネルグリアの問題が早く片付いてよかったぞ。これに手間取っていたら、ヘルベルト連合との戦争どころじゃなかったからな。まさか、そこまでお前の読み通りか?」
からかうように笑いながら言うカリオス。本気でそう思っているのか、冗談で言っているのか、どちらにも取れる表情だったが。コウメイはそれに対して何も答えず、ただ意味ありげに笑うだけだった。
「紅血騎士団が戻ってくるのはもうしばらく時間がかかるが、それでもラッキーだったな」
腕を組みながら言うカリオスの言葉の意味がくみ取れず、コウメイは首を傾げる。それとドアがノックされたのはほぼ同時だった。
「いいぞ、入ってこい」
このタイミングで誰が入ってくるというのだろうか。コウメイが怪訝な表情で入り口のドアを見ていると、そのドアが静かに開かれて1人の大男が入ってくる。
紅血騎士団の赤い鎧に屈強な身を包み、短い栗毛の髪を逆立てた無表情の巨体の騎士――聖アルマイト王国最強の騎士、紅血騎士団長ディード=エレハンダーだった。
「ディ、ディード卿……?」
コウメイが思わず名前を口にするが、聞こえなかったのか特に反応しない。部屋を見渡し、崩壊した机に目を見開いたくらいで、そのまま部屋の中に入ってくると、コウメイとカリオスを交互に見やる。
「何があったのです? この人物は、ルエール様の部下でしょうか?」
表情をほとんど変化させずに、感情の色を見せない言葉でディードがカリオスに問う。龍牙騎士団のローブを羽織っていることから、何となくコウメイのことは察しているようだ。
「そいつは、コウメイ。ルエールが不在なもんで、今はそいつが龍牙騎士団の団長代理だ。まあ見た通り腕力じゃなくて、こっちでの才能を買われてな」
カリオスは自分の頭を指さしながらそう言うと、ディードはコウメイを観察しながら、溜めた息を大きく息を吐き出した。無表情のままであるその様子から、そのため息には何の意味が込められているのか、いまいちよく分からない。
「ラミアとセットでネルグリアに置いてくると、帝国民が怖がるもんでな。強引にこいつだけ連れ戻してきたんだよ。平和な王都でこの男の仕事は何があるかと悩んでいたもんだが、案ずることはなかったな」
そう言うカリオスの表情から察するに、ディードをヘルベルト攻略部隊に参加させるつもりなのだろう。
王国最強の騎士――以前にそう称されていたのは龍牙騎士団長のルエール=ヴァルガンダルだった。現国王ヴィジオールが、まだ最前線でその剛腕を振るっていた頃から、王国最強の騎士と呼ばれていたルエール。
そのルエールに、弱冠27歳という年齢で土をつけた騎士。それがディード=エレハンダーという男だった。
ごく普通の騎士として紅血騎士団に入団したディードは、めきめきと頭角を現し、実に呆気なく当時の王国最強の騎士ルエールを負かしたのだ。
それをきっかけに、「最強騎士」は世代交代。新たな王国最強の騎士としてディードの名は大陸中に知れ渡ると同時に、史上最年少で紅血騎士団の騎士団長――王国3騎士に存在を連ねることになった男だった。
その強さは折り紙付きであり、今回のグスタフの陰謀――ヘルベルト連合との戦争においては、これ以上なく頼りになる存在であろう。
紅血騎士団の参加はコウメイの頭には無かったため、これもまた嬉しい誤算の1つである。
「やっぱり、あんな豚野郎に大事な妹を任せるべきじゃなかったな。まあ、ここまでやれば、奴の好きなようにはならないだろう。こうなりゃ、徹底的にぶっ潰してやる。最後まで付き合えよ、コウメイ」
パンと両拳を叩き合わせるカリオスに、コウメイは頼もしさを感じながら力強くうなずいた。一方、ディードは無表情のままだったものの、話についていけておらず取り残されたような空気を作っていた。
思いのほか呆気なく上手くいったカリオスの説得。
コウメイからしてみると、大臣というグスタフの立場を重視した慎重論や、コウメイの言葉を信じない楽観論などを取られるのが心配だった。カリオスとは直接話したことがなく、人物像も知らなかったためどう転ぶかが読めなかったが、本当に杞憂だったようだ。
これで全ての準備は整った。
いくら用意周到にグスタフが陰謀を進めていたとしても、ここまですれば奴も成す術がないだろう。
龍牙騎士団が差し向けられるだけでもグスタフにとっては絶望的だろうし、更にそれに王国最強の騎士であるディードが加わるのだ。これではどう転んでもヘルベルト連合、グスタフ側に勝利の可能性は皆無のはずだ。
――だからこそ、コウメイの胸中ではいつまで経っても不安がぬぐえない。
(この可能性を、奴が考えないか?)
聖アルマイト王国に、カリオスに全てが露見されれば、どうしようもないことなどグスタフは承知しているだろう。だからこそ自身の大臣という立場も利用しながら、秘密裏に事を進めてきたはずだ。
それが今こうして露見してしまっている。それは勿論、コウメイというイレギュラーの存在が原因で、グスタフの想定外だろう。この時点で、グスタフの目論見は失敗していると言っていい。
しかし、それでも考えないだろうか。
用意周到かつ慎重に進めたところで、現実には何が起こるか分からないのだ。その際に、圧倒的な武力を向けられる事――この最悪の可能性を、あの男が考えないだろうか。
そんなはずはない。
あれだけ自らの欲望のままに生きる人間が、まず考えるのは己の保身のはずだ。自らの身の安全が保証されないならば、聖アルマイト王国に反目するなどといった大胆な悪だくみなど絶対に実行に移さない。
ということは、万が一最悪な事態になっても、どうにかする自信か確証が、グスタフにはあるのだ。だからこそ、実行に移したのだ。
そして、最大の懸念であるグスタフの「異能」が繋がってくると、コウメイは戦慄するほどに、得体の知れない不安が膨らんでいく。
本来の目標である龍牙騎士団の派兵に加えて王国最強の騎士の参加が得られたのだ。これは予想以上の成果であったし、もうすっかり安堵してもいいくらいだ。
しかし話がうまく進めば進むほど、コウメイの不安は晴れるどころか、ますますその曇らせた感情を色濃くしていく。
「とにかく、最後まで油断大敵だな」
現時点では、これ以上ない程の対応が出来ているはずだ。これで万事問題ない。全て上手くいくはず。
そう自分に言い聞かせるように、誰にも聞こえない声でコウメイは1人そうつぶやいたのだった。
さすがにルエールに対してうんざりしてしまうコウメイだったが、それでも愛娘があんなことになれば無理もないか……と、複雑な感情を胸中にしまいながら、カリオスに報告をする。
自分がミュリヌス地方へ行った際に起こった事――リリライトとグスタフに妙な関係、アンナに暗殺されかけたこと、助けてくれたシンパを残して王都に戻ってきたこと、それを受けてルエールがミュリヌス地方へ出立したこと。
コウメイの話を聞いたカリオスの評所は驚愕そのものだった。
話を聞き終わった今も、どこから呆けたような顔でコウメイの顔を見返してくる。
「――あのクソ豚野郎。見た目通りの、最低最悪の人間のクズだったってことか」
「おおよそ、その評価で間違いないかと」
カリオスの言葉を即座に肯定するコウメイ。
すると、カリオスは握りしめた拳を目の前の机に叩きつける。木造の机はメキメキと音とたてながら、亀裂を走らせる。
その強烈な音にコウメイは思わずビクリと身体を震わせる。
「リリは……リリライトはどうなっているんだっ!」
怒りの視線をコウメイに向けて、感情をそのまま言葉に乗せるカリオス。怒りの矛先を向けるべき相手がこの場にはいない――カリオスの視界に入る自分が、その対象になるのは止むを得ないことだ、とコウメイは恐怖しながらも、必死に冷静であろうと気を静める。
冷静に、自信を持った態度を保たねばならない。
カリオスの妹の溺愛ぶりはあまりにも有名だ。アンナの話を聞かせれば激昂するのは火を見るよりも明らか。怒りのあまりカリオスが暴走してしまえば、聖アルマイト国が大混乱に陥る可能性がある。そうすれば、隙あらば大陸の覇権を握らんとする諸国につけ入れられる隙を与えてしまうのだ。
誰よりも客観的な立場で事情を把握しているのは、コウメイ1人だけ。自分に課せられている責務は重い。コウメイは心して言葉を紡いでいく。
「グスタフには逆らえないような様子でしたが、嬉々として従っていたアンナ嬢とは全く違っていました。仕方なく従っている、という感じです。おそらく、アンナ嬢と同じ状態ではないかと考えられます」
「っざけんな! そんな証拠がどこにありやがるっ!」
まるでコウメイが諸悪の根源のように、視線で射殺すばかりの勢いで睨んでくるカリオス。
第1王子であるカリオスにそんな態度を取られれば恐怖で緊張が高まっていくが、さすがに理不尽さも禁じ得ない。
確かに当初課せられた任務とは少し違ったものの、グスタフの陰謀が進んでいることを掴んできたのだ。賞賛しろとは言わないが、叱責されたり罰を受けることではないだろう。
(まあ、そう言えたら苦労しないけど)
今のカリオスにそんな正論をぶつけても怒りを逆撫でするだけだろう。下手したら勢いのまま処刑されかねない。
「くそっ! リリがあのクソ野郎に汚されているなんて……うおおおおおおっ!」
あまりの怒りに、カリオスは咆哮しながら立ち上がり、机を蹴り飛ばす。
重量感たっぷりの重々しい音を立てて、カリオスの机がひっくり返ると、そのまま何度も何度も机に蹴りを叩きこむカリオス。派手な音を立てながら、机が崩壊し、その形を失い、ただの木の残骸と成り果てていく。
「はぁ、はぁ……どうしてっ! どうしてそんなことになったっ! リリが……どうしてそんな目に合わないといけないっ!」
残骸になった机をなおも蹴りつけてカリオスは血走った眼で声を荒げる。手加減なしの、怒りのままに暴力をふるい続けて、カリオスはあっという間に息を切らしていた。
そのタイミングを待っていたように、それまで黙っていたコウメイは静かに発言を再開する。
「殿下、落ち着いて下さい。今申し上げたように、第2王女殿下はまだグスタフの手に落ちていないと思います」
「だから、そんな証拠がどこにあるんだよっ!」
「そうじゃない証拠もないでしょう!」
カリオスの怒鳴り声に、コウメイは即座に反論する。それまで机に対する嵐のような暴力を振るっていたカリオスは、コウメイに向き変える。
怒りという感情にギラついた目をコウメイに向きながら、更に怒鳴り声を浴びせようとするカリオス――それに先んじて、カリオスよりも速くコウメイが次の言葉を発する。
「リリライト殿下だけではなく全てのことに証拠なんてない。アンナちゃんの容態以外は、全て憶測です。全ての根拠は現場を見てきた俺の証言だけですっ! だから俺を信じて下さいっ!」
まともな敬語を使う余裕もなく、コウメイはコウメイで必死に訴える。その必死の声に、カリオスの動きは止まったものの、怒りに染まった表情に変化はない。
その激情の圧力に屈しないよう、コウメイは唇を噛みしめて発言を続ける。
「そして、カリオス殿下の言う通りにならないよう、ルエール騎士団長が、急ぎリリライト様の下へ向かっているんです。団長は自分の娘のことだけじゃない。シンパさんや、忠誠を誓うあなたが溺愛しているリリライト様のために――これ以上、アンナちゃんと同じ被害を増やさないために! 俺が信じられないなら、ずっとあなたに仕えてきたルエール騎士団長を信じて下さい!」
大陸に名を馳せる戦士の家系――アルマイトの直系に生まれ、その戦士の地を色濃く受け継ぐカリオス。
そのカリオスが、溺愛する最愛の妹を凌辱されたと怒り狂っている。その怒りはすさまじく、コウメイではなくとも誰もが畏怖を禁じ得ないに違いない。
騎士としては頼りなさすぎる程のコウメイ。吹けばそのまま吹き飛ばされるくらいのか弱い存在である彼の必死の声――それにカリオスは止めていた身体をゆっくりと動かし始める。
そして先ほど自らが立つ際に吹き飛ばすようにして倒れた椅子を起こすと、そこにどっかりと腰を下ろして、うなだれるようにして顔を下に向けた。
「――お前の言う通りだ」
つい今まで激昂していた声とは打って変わって、重く沈んだような声を絞り出すようにするカリオス。
「リリライトのことになると俺は……。すまん」
そのカリオスの様子を一言で表すならば「意気消沈」――いや、ちょっと違うかな…などと頭の中でとぼけて見せるコウメイ。
それ程に、カリオスの身を焦がしていた怒りの炎が、コウメイの言葉によって消火されていくようだった。
それだけでなく、あっさりと己の非を認め、素直に謝罪するカリオスにコウメイは感心と尊敬の念を抱く。王族という立場の人間が、なかなか出来ることではないだろう。
「リリライトは大丈夫。信じていいか?」
うなだれるままのカリオスの言葉に、コウメイは「はい」と一言だけ答える。そうしてようやくカリオスは顔を上げて、コウメイの顔を見返した。
その顔は、多少元気が足りないような感じだったが、いつもの冷静な第1王子の顔に戻っていた。
「本当にすまんが、俺は冷静に考えられそうにない。どうすればいいのか、知恵を授けてくれないか」
おくびもなく、部下に弱音を吐き出し助けを求めるカリオス。しかしその顔には恥ずべきものは浮かんでいない。堂々と、カリオスはコウメイに助けを乞うていた。
それでいい、とコウメイは思う。
国を統べる者が、全てを完璧にこなせる天才である必要はない。人の上に立つ者に必要なのは、成すべきことを成すために全力を尽くせることだ。本人が足りないのは、下で支える者が補えばいいだけの話だ。
代々愚王と蔑まされる人物にはこれが足りない。全てを自分の思うがままに、己の力で推し進めようとする。全てを完璧にこなせる人間などいるはずがないのに、出来ない部分を他人に任せようとしない。結果、国と民と己を破滅させるのだ。
そういう意味で、カリオスには賢王たる資質を充分に備えた王子だと、コウメイは評するのだった。
「妹君の身が危ぶまれている状況なら、取り乱すのも当然です。そして、そこまで妹君のことで激昂される殿下ならば、国民が危険にさらされた時も同じように我が身の危険として激昂してくれるでしょう。冷徹に粛々と王らしく振舞われるより、私はそんな人間味溢れる王様の方が好感を持ちますね」
軽々とした口調の、そんなコウメイの言葉を聞くと、それまで落ち込んでいたともいえるカリオスは薄ら笑いを浮かべる。
「それを聞いて、俺は喜んでもいいのか? 王らしくないって言われているような気がするんだが」
「そうですね。私という人間などに好感を持たれたところで、殿下には何一つ得など無いでしょうしね。おおいに反省して、ご自分の身を振り返るとよろしいのでは」
それまでは緊張で、らしくない堅苦しい言葉しか吐けなかったコウメイが、ここにきてようやく本人らしい軽口を叩くようになった。
言いながら笑うコウメイに、やはりカリオスも笑いを浮かべていた。
「俺は、周りの人間に恵まれたようだな。ルエールといい、お前といい……これなら、グスタフの豚野郎が何を企んでいても問題無さそうだな」
カリオスが漏らした言葉に、コウメイはそれまで浮かべていた笑みをゆっくりと消していく。
果たしてそうだろうか。
コウメイの中でのグスタフの評価は決して高くない。得体の知れない「異能」だか「呪い」だかは懸念だが、それだけだ。所詮は己の欲望のままに生きているだけの低俗な人間。そんな人間の考えなど底が知れているし、その思考も読みやすい。
脅威には成り得ないはずだ――それなのに、コウメイの不安はどうしても拭えない。
「一番の良いのは、ミュリヌス地方へ向かったルエール団長が、そのままグスタフを討つか或いは拘束してくることですが、私は――」
「ああ、今は俺とお前の2人だし、無理しなくてもいいぞ。「私」なんて柄じゃないだろ、お前は」
コウメイの言葉を遮るカリオスのその言葉に、コウメイは目を丸くしてしばらく黙っていたが、コホンを咳払いしながら「では」と後を続ける。
「俺は、その確率は五分五分だと思っています。ルエール団長の堅い性格なら、明確な証拠を掴まない限りは強引な手段を取れないでしょうし、グスタフもああ見えて強かな野郎です。そうなれば、グスタフは上手くルエール団長から逃れることも難しくないでしょう」
娘を凌辱されたという疑いが強くとも、ルエールはあくまでもルールに則るだろう。大臣たる人物を罪に問うことが出来る程の強烈な証拠、それをあのグスタフが易々と掴ませるはずがない。
「奴がどこまで悪だくみを進めているかは分かりませんが、最悪のケースを想定すれば、ヘルベルト連合そのものを既に手にしている可能性もあります」
「――そうだな。最悪のケースというが、むしろその方がしっくりくるくらいだな。不自然なまでの同盟締結や、禁止されているはずの奴隷売買の噂。あの豚野郎がヘルベルト連合と関係を結んで、裏で手を引いていると考えたらなんの不思議もない」
実はこの部分をカリオスに納得させるのが一番の難所だと思っていたのだが、意外にもカリオスはコウメイと同じ考えを既に巡らせていたようだ。これはコウメイにとって嬉しい誤算だった。
「ヘルベルト連合には『龍の爪』がいるからな。奴がヘルベルトに逃げ込んだら、確かに厄介なことになりやがるな」
ヘルベルト連合が有する戦力『龍の爪』。連合内の治安・秩序維持や外敵からの防衛など、連合国における様々な軍事的解決を主目的に活動する、大陸屈指の戦闘部隊の名前を口にするカリオス。経済に恵まれた連合国に加盟した国々が、人と物と金を結集して作り上げた部隊である。
「連合とは一戦やり合うことになるかもな。まあ、同盟条約違反をしているなら相応の制裁が必要だ。それに聖アルマイトに反逆したグスタフを匿うというなら、なおさらだ。戦争になったとしても、大義名分はある。そこらへんは心配しなくて大丈夫だぞ」
さすがは次期国王筆頭であるカリオスである。コウメイが言わんとしていること、懸念していることは、ほとんど見透かされているようである。
カリオスと話をしていくうちに、カリオスを説得するにあたり、コウメイが事前に感じていた緊張と不安は、どうも杞憂であったと知れる。
「ルエール団長には、リリライト殿下やシンパさんといった要人の身柄の安全を確保してもらうのが第一ですし、団長ともそう話しています。そうすればグスタフを取り逃がしたとしても、どうとでもなります」
いくら『龍の爪』が大陸屈指と言われていても、そもそも聖アルマイト王国と比較すれば、その国力差は歴然としている。戦争となり、聖アルマイト王国が負けることなど考えられない。下手をすれば、戦争になる前からヘルベルト連合は諸手を上げてグスタフの身柄を差し出してくる可能性すらある。
コウメイの言葉に、カリオスは大きくうなずく。
「分かった。急いでヘルベルト連合攻略部隊を編成しよう。全く、ネルグリアの問題が早く片付いてよかったぞ。これに手間取っていたら、ヘルベルト連合との戦争どころじゃなかったからな。まさか、そこまでお前の読み通りか?」
からかうように笑いながら言うカリオス。本気でそう思っているのか、冗談で言っているのか、どちらにも取れる表情だったが。コウメイはそれに対して何も答えず、ただ意味ありげに笑うだけだった。
「紅血騎士団が戻ってくるのはもうしばらく時間がかかるが、それでもラッキーだったな」
腕を組みながら言うカリオスの言葉の意味がくみ取れず、コウメイは首を傾げる。それとドアがノックされたのはほぼ同時だった。
「いいぞ、入ってこい」
このタイミングで誰が入ってくるというのだろうか。コウメイが怪訝な表情で入り口のドアを見ていると、そのドアが静かに開かれて1人の大男が入ってくる。
紅血騎士団の赤い鎧に屈強な身を包み、短い栗毛の髪を逆立てた無表情の巨体の騎士――聖アルマイト王国最強の騎士、紅血騎士団長ディード=エレハンダーだった。
「ディ、ディード卿……?」
コウメイが思わず名前を口にするが、聞こえなかったのか特に反応しない。部屋を見渡し、崩壊した机に目を見開いたくらいで、そのまま部屋の中に入ってくると、コウメイとカリオスを交互に見やる。
「何があったのです? この人物は、ルエール様の部下でしょうか?」
表情をほとんど変化させずに、感情の色を見せない言葉でディードがカリオスに問う。龍牙騎士団のローブを羽織っていることから、何となくコウメイのことは察しているようだ。
「そいつは、コウメイ。ルエールが不在なもんで、今はそいつが龍牙騎士団の団長代理だ。まあ見た通り腕力じゃなくて、こっちでの才能を買われてな」
カリオスは自分の頭を指さしながらそう言うと、ディードはコウメイを観察しながら、溜めた息を大きく息を吐き出した。無表情のままであるその様子から、そのため息には何の意味が込められているのか、いまいちよく分からない。
「ラミアとセットでネルグリアに置いてくると、帝国民が怖がるもんでな。強引にこいつだけ連れ戻してきたんだよ。平和な王都でこの男の仕事は何があるかと悩んでいたもんだが、案ずることはなかったな」
そう言うカリオスの表情から察するに、ディードをヘルベルト攻略部隊に参加させるつもりなのだろう。
王国最強の騎士――以前にそう称されていたのは龍牙騎士団長のルエール=ヴァルガンダルだった。現国王ヴィジオールが、まだ最前線でその剛腕を振るっていた頃から、王国最強の騎士と呼ばれていたルエール。
そのルエールに、弱冠27歳という年齢で土をつけた騎士。それがディード=エレハンダーという男だった。
ごく普通の騎士として紅血騎士団に入団したディードは、めきめきと頭角を現し、実に呆気なく当時の王国最強の騎士ルエールを負かしたのだ。
それをきっかけに、「最強騎士」は世代交代。新たな王国最強の騎士としてディードの名は大陸中に知れ渡ると同時に、史上最年少で紅血騎士団の騎士団長――王国3騎士に存在を連ねることになった男だった。
その強さは折り紙付きであり、今回のグスタフの陰謀――ヘルベルト連合との戦争においては、これ以上なく頼りになる存在であろう。
紅血騎士団の参加はコウメイの頭には無かったため、これもまた嬉しい誤算の1つである。
「やっぱり、あんな豚野郎に大事な妹を任せるべきじゃなかったな。まあ、ここまでやれば、奴の好きなようにはならないだろう。こうなりゃ、徹底的にぶっ潰してやる。最後まで付き合えよ、コウメイ」
パンと両拳を叩き合わせるカリオスに、コウメイは頼もしさを感じながら力強くうなずいた。一方、ディードは無表情のままだったものの、話についていけておらず取り残されたような空気を作っていた。
思いのほか呆気なく上手くいったカリオスの説得。
コウメイからしてみると、大臣というグスタフの立場を重視した慎重論や、コウメイの言葉を信じない楽観論などを取られるのが心配だった。カリオスとは直接話したことがなく、人物像も知らなかったためどう転ぶかが読めなかったが、本当に杞憂だったようだ。
これで全ての準備は整った。
いくら用意周到にグスタフが陰謀を進めていたとしても、ここまですれば奴も成す術がないだろう。
龍牙騎士団が差し向けられるだけでもグスタフにとっては絶望的だろうし、更にそれに王国最強の騎士であるディードが加わるのだ。これではどう転んでもヘルベルト連合、グスタフ側に勝利の可能性は皆無のはずだ。
――だからこそ、コウメイの胸中ではいつまで経っても不安がぬぐえない。
(この可能性を、奴が考えないか?)
聖アルマイト王国に、カリオスに全てが露見されれば、どうしようもないことなどグスタフは承知しているだろう。だからこそ自身の大臣という立場も利用しながら、秘密裏に事を進めてきたはずだ。
それが今こうして露見してしまっている。それは勿論、コウメイというイレギュラーの存在が原因で、グスタフの想定外だろう。この時点で、グスタフの目論見は失敗していると言っていい。
しかし、それでも考えないだろうか。
用意周到かつ慎重に進めたところで、現実には何が起こるか分からないのだ。その際に、圧倒的な武力を向けられる事――この最悪の可能性を、あの男が考えないだろうか。
そんなはずはない。
あれだけ自らの欲望のままに生きる人間が、まず考えるのは己の保身のはずだ。自らの身の安全が保証されないならば、聖アルマイト王国に反目するなどといった大胆な悪だくみなど絶対に実行に移さない。
ということは、万が一最悪な事態になっても、どうにかする自信か確証が、グスタフにはあるのだ。だからこそ、実行に移したのだ。
そして、最大の懸念であるグスタフの「異能」が繋がってくると、コウメイは戦慄するほどに、得体の知れない不安が膨らんでいく。
本来の目標である龍牙騎士団の派兵に加えて王国最強の騎士の参加が得られたのだ。これは予想以上の成果であったし、もうすっかり安堵してもいいくらいだ。
しかし話がうまく進めば進むほど、コウメイの不安は晴れるどころか、ますますその曇らせた感情を色濃くしていく。
「とにかく、最後まで油断大敵だな」
現時点では、これ以上ない程の対応が出来ているはずだ。これで万事問題ない。全て上手くいくはず。
そう自分に言い聞かせるように、誰にも聞こえない声でコウメイは1人そうつぶやいたのだった。
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