※完結済 【R-18】白薔薇の騎士と純白の姫

白金犬

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第4章 激動の冬編

第112話 フォルテア森林帯の激闘Ⅵ――ディードVSミリアム

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 龍牙騎士団長ルエール=ヴァルガンダルに次ぐ実力の持ち主と称される龍牙騎士ミリアム=ティンカーズ。

 貴族らしい上品な物腰、騎士らしく真面目で誠実な性格という堅物に見える一方で、独特な幼女然とした声が特徴の女性騎士。

 女性ながら、間違いなく次代の龍牙騎士団の核を担うだろうと、ルエールを始めとした聖アルマイト王国の騎士は皆そう思っていた。

 その、龍牙騎士ナンバー2と評されるミリアムが、これまでに誰にも見せたことのないような淫蕩な笑みを浮かべながらディードの前に立ちふさがっている。

「ディード様、ごめんなさい。こんなつまらないことはさっさと終わらせて、早く帰って旦那様とセックスしたいんです。くすくす、今日こそ妊娠して、あの方との子供を授かって見せます」

 陶然とした表情で嬉しそうに語るミリアムは、ディードの存在など意識の外にあった。うっとりと顔に添えている左手の薬指には、珍しい装飾がされた指輪がつけられている。

 そのミリアムの狂気を前に、ディードは強靭な精神力で表情には出さないが、とてつもない絶望感に苛まれる。

 あのミリアムをして、こうまで狂わせるグスタフの「異能」――自然、ディードの怒りも、『神輿』の上でふんぞり返っているグスタフに向けられる。

「さぁ。それでは参りましょうか」

 ミリアムは腰の鞘から剣を抜く。

 本人そのものは狂っていても、ミリアムの出で立ちは龍牙騎士であった頃と全く同じ。白銀で統一された白薔薇騎士団に混ざって、1人だけ異色の緑の鎧。ディードに向けた剣も、団長ルエールより授かった「龍牙・偽」という、淡い緑色の刀身をした、特別な騎士剣だった。

「――行きます」

 笑みを浮かべていたミリアムの表情が一変――騎士の顔つきに戻ると、地面を蹴って間合いを詰めてくる。

 王国最強たるディードを相手に、ミリアムがとる戦法は先ほどのリアラと同じ。大槍という得物に対して、至近距離で剣戟を叩きこもうとしてくる。

(速い……!)

 そのミリアムの敏捷さは、ディードが知るものとは比べ物にならない程だった。明らかに不自然な力で強化されているのが分かる。

 間合いに入ってくるミリアムの予想以上の素早さにディードは反応が遅れる。

 しかし、斬りかかってくるミリアムの騎士剣を、なんとかディードは大槍の柄で受け止める。

「さすが、対応が速い……!」

 ミリアムが騎士剣を押してくるのを、ディードはそのまま押し返す。

 そのミリアムの筋力もまた、異様に強化されているのが分かる。ディードも立場上、ミリアムと手合わせをしたことが何度かあるが、もともと彼女は力押しで何とかする戦闘スタイルではないはずなのに、力押しでディードを圧倒しようとしてくる。

「はぁっ!」

 硬直状態に陥る前に、ミリアムが動き出す。

 剣を振り、上下右左あらゆる方向からの斬撃を連続してディードに叩きこんでいく。

 素早いだけではなく、一撃一撃が重く力強い攻撃。

 ディードは亀の如く、その場に踏みとどまりながら、最小の動きで槍を動かして、その動きに対応していく。

「あはは、どうしました? 紅血騎士団長ともあろうお方が、一龍牙騎士程度に手も足も出ないですか?」

 その笑みは、弱者をいたぶる嗜虐の悦びに染まった笑み。努力などは全くない、ただ天から振ってきた強大な力で弱者を圧倒することが嬉しくて仕方ないという、歪んだ悦びだ。

 変わり果ててしまった仲間の騎士に、ディードの怒りが沸点に達した。

「っおおおおお!」

 これまで、どれだけ苛烈な戦場の中でも、無表情で黙したまま、ひたすら敵を惨殺していた紅血騎士団長ディード=エレハンダーが、怒りの形相を露わにして吼える。

 ディードは、嵐のように繰り出されるミリアムの剣戟ーーその中で、最も油断が大きい一撃を見定めると、それに対して大槍を力任せに振るって弾き返す。

「っきゃ!」

 その豪快過ぎる一撃に、ミリアムは小さな悲鳴を上げながら騎士剣「龍牙・偽」を後方へ弾き飛ばされる。そして自分の両手はバンザイの恰好をするように、上へ弾き上げられた。

 そして、ディードが槍を振って起こった風が、一瞬遅れてミリアムの身体に吹きつき、その美しい金髪が揺れる。

「な、な……」

 力任せにも程がある。

 ミリアムは、元々厳しい鍛錬で鍛え上げられた身体能力を、グスタフの「異能」でさらに異常なまでに強化されている。そのミリアムの攻撃を、こうまで力押しで跳ね返すとは。

 これが紅血騎士団長、聖アルマイトの頂点に君臨する王国最強。

「があああああっ!」

 ディードが大槍を振り上げて、風車のように頭の上で回す。

 その余りある迫力を前にミリアムは、身体をゾクリとさせる。その感覚は、グスタフの「異能」で極限まで鈍っているはずなのに、圧倒的な死の恐怖が彼女を襲う。

(し、死ぬっ!)

 本気で死を覚悟しながら、それでも生存本能に従い、後ろに倒れそうな身体を必死に支えて、後ろに飛び退がろうとする。その退がるミリアムを逃さないように、振り下ろされるディードの大槍。

 周りで見ている者達の身体を揺さぶる程の轟音――地面が割れ、地走りのように割れ目が伝っていく。

 ミリアムの身体は――

 僅かにディードの大槍をかすめる程度の距離まで後退出来ていたのは奇跡だった。地面に尻をついた情けない恰好で、目の前に振り下ろされた大槍の威力に、身体をガタガタと震わせる。

「うあ……あ、あああ……」

 単純で、圧倒的な恐怖。

 「異能」だのなんだのと関係ない。

 そもそも生物として格が違うとすら感じさせるほどのディードの威圧感。

 その根源的な恐怖に、ミリアムは涙をこぼして、身体をガクガクと震わせる。下腹部からは、ジワリと湯気をたたせた液体が漏れ出ていた。

「もう元に戻らぬというのなら、せめて俺が……!」

「ひっ……い、いやっ!」

 地面に突き刺さった槍を引き抜き、肩に担ぐディード。その瞳には、明確な殺意と怒りが込められている。それだけで心臓が止まってしまいそうな視線で射抜かれたミリアムは、そのままじたばたと後ずさっていく。

「ええーい! 何をしとるか、戦いもセックスも中途半端なクソ雌がぁっ! リアラは余裕じゃったというのに、なんというざまじゃあ! 戦え! 戦うんじゃあ! 逃げたら、2度とセックスは無しじゃあ! 永遠に貞操帯を付けたまま、死ぬまで生殺しじゃああ!」

「い、いやああああああっ!」

 『神輿』の上から汚すぎるヤジと唾液を飛ばすグスタフ。

 その狂った脅し文句は、ミリアムの生存本能すら上回って、彼女の理性を、思考をむしばんでいく。この世の地獄を思わせるような絶叫を上げながら、ミリアムはぶつぶつとつぶやいていく。

「いや。セックス出来ないなんて、もうオチンポでオマンコ穿られないなんて、しゃぶれないなんて、無理! 中出ししてもらえないなんて、無理! 有り得ない! そんなの死ぬ! 死んじゃう! 死ぬ死ぬ死ぬ! 無理無理無理! そんなのいやぁぁぁぁっ!」

 グスタフと同じように狂った絶叫を上げるミリアム。

 何かに怯えたように急いで立ち上がると、後ろに弾き飛ばされた「龍牙・偽」を慌てて拾い上げる。

 その表情は、既にディードに対する恐怖は掻き消えていたが、それ以上の恐怖がミリアムを駆り立てていた。それは、性行為が出来ないことに、圧倒的な恐怖を感じていたのだった。

「し、死んで! 殺されて下さい、ディード様。お願い……!」

 悲痛な表情で、涙を浮かべながら懇願するミリアムは、そのまま「龍牙・偽」を鞘に収める。

 彼女が持つ最強の一撃必殺の技――彼女の師でもある団長ルエールから直伝された「居合術」の構えを取る。

 その、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔と、騎士として研鑽された構え――あまりに異常過ぎる光景。

「グスタフ、貴様……っ!」

 いよいよディードは、『神輿』の上へ視線を滑らすが、グスタフは面白そうにニタニタと笑っているだけだ。

 奴への怒りは尽きないものの、目の前のミリアムを何とかしなければならない。すぐに意識をミリアムへ戻す。

 「居合術」――ディードも尊敬するルエールが得意とする、洗練された光速の剣術。かつてはディードもルエールより伝えられたことがあったが、ディードをもってしても会得出来なかった技を、ミリアムは習得したのだ。

 長重武器を扱うディードとは、とことん相性の悪い技だ。鈍重なディードの動きに対して、ミリアムの居合術は後出しでも余裕でディードの先を制することが出来る。

 ミリアムの間合いに入れば、あっという間にディードの首は銅と別れを告げるだろう。

 構えを取りながら、ミリアムはじりじりと間合いを詰めてくる。

 ディードが優位に立つには、大槍というリーチの長さを生かし、ミリアムの間合いの外――ディードの槍の間合いぎりぎりで攻撃を仕掛けることだ。このまま、先ほどのように至近距離まで踏み入れられれば、ディードの命は刈り取られる。

 とてつもない緊張感に包まれる2人の空気――

 そして、ミリアムがディードの槍の間合いぎりぎりに入ろうかというその瞬間――地面を全力で蹴る。

 槍の間合いを保つために下がるであろうディードを追撃するために、もうワンステップ踏もうと、更に下半身に力をこめようとしたとき、ミリアムは我が目を疑った。

「なっ?」

 驚愕に目を見開くミリアム。

 下がると思っていたディードが、そのままミリアムにぶつかるように前に進んできたのだ。自ら死の間合いに入り込んでくるディードに、ミリアムの反応が一瞬遅れる。

「で、でも……これで…!」

 ここはミリアムの必殺の間合い。

 この距離では防御する手立てなどない。そもそも、槍や腕で防御しようとしてもミリアムの居合術はそれごと両断する。

 王国最強の騎士を殺した――そんなこともよりも、これからも思うがままに性の快楽が貪れる。そんな狂った欲望に喜悦の表情を浮かべるミリアムは

「……あれ?」

 しかしその一瞬後、呆けた表情になる。

 鞘に収めた剣を引き抜こうとしたのだが、動かないのだ。

 一瞬の判断が生死を分ける場面において、それは致命的な隙。

 きょとんとするミリアムが顔を上げると、ディードの巨体が目と鼻の先にまで接近しており、その太い左手が、ミリアムが握る腰の騎士剣に向けて伸びていた。

「あ」

 どんなに破壊力がある砲台も、発射されなければ威力を発揮できない。

 極めて単純な理屈。溢れる水を蓋で抑えるように、ディードは、鞘から剣が抜かれる前に、手の平でミリアムの剣の柄頭を抑えたのだった。

 あまりにも間抜けすぎる声を出すミリアムは、もう回避も防御も出来ない。

 ディードは、ミリアムの騎士剣を抑えているのとは逆の手――右手一本で、軽々と大槍をくるりと回す。

「顎が割れるくらいは覚悟しろ――!」

 そのまま槍の柄で、ミリアムの顎を下から上へ強烈に打ち上げる。

「がぶぁっ……!」

 顎を突き抜けて、脳を直接揺さぶられるような強烈な一撃に、ミリアムは成す術もなく意識を刈り取られる。

 ディードの攻撃を受けたミリアムは、身体が軽く浮きあがり、そのまま仰向けに倒れると、ピクリとも動かなくなる。口の中を切ったのか、唇の端から赤い液体がこぼれ落ちてくる。

 勝敗は決した。

 これが王国最強たる所以――ミリアム程の手練れであっても、悪魔の術で強化されている程度では太刀打ちなど出来ないのだ。

「カリオス殿下っ! ディードさんっ! 撤退っ! 撤退でーす!」

 フェスティア達と対峙していたコウメイ達の方も戦局が一区切りついたのか、カリオスが言うところの「頭脳役」が、必死に指示を飛ばしてくる。

 激闘は最終幕――勇気ある撤退戦を迎えることとなる。
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