※完結済 【R-18】白薔薇の騎士と純白の姫

白金犬

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第4章 激動の冬編

第114話 ミュリヌス攻略部隊本隊、強襲

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 隣のガルス領との領境に待機させていたミュリヌス攻略部隊本隊は、突如現れた龍の爪部隊の奇襲を受けて、混乱に陥っていた。

 カリオスや斥候部隊に選ばれたディードらはともかく、そこに残された彼らにとっては、そもそも大臣グスタフの叛意など、半信半疑であった。

 そんな彼らだったから、聖アルマイト王国領内において、まさかヘルベルト連合国の戦闘部隊に強襲されるなど夢にも思ってもおらず、見事なまでに不意を突かれたのだった。

「ジュリアス将軍、徐々に態勢を立て直しつつあります。状況は互角ーーいや、押し返しつつあります」

「そうですか。ありがとうございます。このまま油断なく押し切りましょう」

 残された本隊の指揮を任されていたのは、将軍というには、まだ随分と若い龍牙騎士だった。

 名をジュリアス=ジャスティンというこの騎士は、ミリアムやランディと同僚でありながら、その中でも唯1人の将軍格である。その才覚を買われて、カリオスの代理として攻略部隊の統率を担っていた。

 個人の武ではミリアムやランディに譲るものの、対局を見る視野の広さとその戦術手腕については、龍牙騎士の中でも特に優秀と評されている。

 そういった立場上、今回のように指揮官の役目を負うことが多く、若い彼にとっては周りの配下は年上ばかりだった。役職上は自分が上でも、決して年長者に対する敬意を忘れずに、ジュリアスは常に丁寧に部下達に命令を下していく。

「右翼の龍の爪が撤退を始めました」

「無理に追撃はしないで下さい。とにかく今は状況が分かりません。カリオス殿下がお戻りになるまでは、被害を最小限に留めることを優先して下さい」

 常に堅実・安全な判断をすることこそが、ジュリアスの方針であり持ち味であった。

 突如現れた龍の爪に、カリオス達の身が危ぶまれるが、ジュリアスは決して焦らない。今は目の前のことに冷静に対処を行うことがすべきことであり、カリオス達の身を案じるのはそのあとだ。その方が、結果的にカリオスを助けることとなる。

「左翼部隊、敵の戦線を突破しました。敵陣形が崩れていきます」

 奇襲によって、ある程度の被害は受けたものの、そもそも龍の爪と龍牙騎士団では兵の練度が違う。ジュリアスの落ち着いた指揮で、最小限の被害で冷静さを取り戻した攻略部隊は、徐々に龍の爪を押し返していた。

 劣勢を跳ね返していく報告の1つ1つにうなずきながら、それでもジュリアスは優越感に浸ることはない。努めて冷静のまま、このまま龍の爪を撃退するまで決して油断は許されない、自らを戒める。

 ――しかし、堅実であるジュリアスだからこそ、次に起こった事態は彼の想像の枠外だった。

「は、背後より敵襲! 龍の爪とは別部隊です!」

 突然慌てたように、ジュリアスがいる場所に、馬で駆け込んでくる伝令係。

 その報告の内容に、さすがのジュリアスは目を丸くした。

「別部隊? ま、まさかファヌスですか?」

 地理的にヘルベルト連合以外の武力介入の可能性があるのは、ファヌス魔法大国だ。ジュリアスの想像では、その程度が限界だった。

「し、白薔薇騎士団です!」

「は?」

 その言葉は、確かに聞こえていたが、とても信じられなくてジュリアスは聞き返した。それはジュリアスだけではなく、周りで聞いていた他の騎士達もそうだった。

「関所の白薔薇騎士団が、突然背後から襲い掛かってきて……数は少ないものの、彼女達の強さはすさまじく、次々と突破されて、今もこちらに近づいてきています」

「まさか……どうして白薔薇騎士団が僕らを攻撃するんですか?」

「わ、分かりませんっ!」

 あまりに無茶苦茶過ぎる事態に、ジュリアスも伝令係も、やけくそ気味の言葉を吐く。

「ど、どうしますか将軍閣下。このままでは……」

 白薔薇騎士団に襲い掛かられること自体が信じられないが、近衛兵である白薔薇騎士に龍牙騎士が突破されているというのも、それ以上に信じられない。一体何が起きているというのか。

「やはり、ミュリヌスでは何かが起こっているということですか。とても信じられませんが、グスタフ様が叛意を抱いているというのはどうやら……」

 未だにグスタフに敬称を付けているのはジュリアスらしいといえばらしいが、最前線のカリオス達と違って、そもそもがこの遠征に懐疑的なところがあるジュリアス達の認識など、その程度のものだったということだ。結果的にそれが油断となって、相手の奇襲を許してしまった。

「――それなら、尚のことここで戦力を減らすわけにはいきませんね」

 グスタフが反乱を企てているというのなら、本来のこの攻略部隊の役割通り、グスタフ側と一戦交える必要がある。しかも龍の爪の軍勢がこれだけ入り込んでいたり、白薔薇騎士が牙を剥いてきたところを見ると、想定以上に大規模な戦いになることは必至だ。

 それこそ『戦争』規模の戦いに発展する可能性すらある。

「退きましょう。ガルス領まで退いて、カリオス殿下を待ちます」

 前線では既に龍牙騎士が龍の爪を押し返している。こちらが撤退を始めれば追撃をしてくるだろうが、もう龍の爪の方は問題にならないだろう。それよりも数は少ないが、強さが未知数の白薔薇騎士を数で圧倒し、そのまま乗り切る。

 これが、ジュリアスが現状で取り得る最も堅実な判断だった。

「全軍撤退です! 後方に現れたという白薔薇騎士団と戦い、血路を開きます」

□■□■

 突然背後を突かれたからといっても、個々人の実力がどれだけ強かろうと、関所に詰めている程度の白薔薇騎士などせいぜい十数人程度。

 数千人単位で編成されている攻略部隊が壊滅させられるわけなどがない。

 それは事実その通り。

「これは……」

 しかしジュリアスは白薔薇騎士団に奇襲を受けたという後方部隊の場所に辿り着くと、その異様な様態に顔をしかめずにはいられなかった。

 むせ返るような血と死の匂い。

 数多くの血まみれになった龍牙騎士の死体に交じって、ぽつぽつと白薔薇騎士の死体が横たわっている。両者の数を比較すると、龍牙騎士の死体は白薔薇騎士のそれと比べると数十倍はあろうことが見てわかる。

 そして、生き残り立ちふさがる白薔薇騎士がまだ20人程度。彼女らは近衛兵であるが故、ジュリアスのように騎馬に乗っている騎士はおらず、全てが地に足をつけている。

 後方に布陣していた部隊数百人の龍牙騎士が、たったこれだけの白薔薇騎士に屠られたというのか。

「将軍、どうしますか?」

 馬上から惨劇を見下ろして唖然としているジュリアスに、指示を乞う龍牙騎士。その声で我に返ったジュリアスは、生唾を飲み込みながら剣を抜く。

「前線はどうなっていますか?」

「今のところ、龍の爪の追撃はなく、順調に後退出来ているようです」

「――そうですか。では、彼女達を突破すれば、ミュリヌスを抜けられますね」

 油断なく白薔薇騎士を見据えるジュリアス。その表情は緊張と驚愕だ。

 まさか、こんなところで本隊がこれほどの被害を受けるとは想定外だ。

 龍の爪の軍勢と、この白薔薇騎士の異常な力を考えれば、もうこの部隊をもってしてグスタフと戦うのは無理があるかもしれない。こうなってしまえば、1度本国へ戻って、戦力を整える必要がある。

 ――一昨年のネルグリア帝国に続いて、もう『戦争』が避けようもないことであると予感せずにはいられない。

「今は、それよりもここを突破することですね」

 散漫になりそうな集中力を繋ぎとめて、目の前の白薔薇騎士達へ意識を集中する。

「突破します! 続いて下さい!」

 剣を振りあげて、付き従う部隊と共に立ちふさがる白薔薇騎士団へ向かっていくジュリアス達。

「っぐあ!」

「ぎゃ!」

 信じられないことに、ジュリアス側の龍牙騎士が、白薔薇騎士を抜けずに、次々と切り伏せられていく。血飛沫を上げながら、馬から落ちて、絶命していく。

 ジュリアスも、苛烈な白薔薇騎士の攻撃を受けながら、しかし突破は成功させる。

 圧倒的な人数差がある以上、白薔薇騎士の方も撤退してくる龍牙騎士を皆殺しに出来るはずもない。味方がやられている間に突破して、そのまま撤退していく龍牙騎士が周りに見える。

 突破したジュリアスが振り返ると、想像以上の龍牙騎士が血を流して地面に倒れ伏していた。対して白薔薇騎士の方は、人数はほぼ減っていないように見える。

「先に行って下さい」

 ジュリアスは、自分と同じように突破に成功した騎士にそう告げると、後ろの白薔薇騎士達に向き変える。

「し、将軍は……?」

「私は、少しでも彼女達の数を減らします。このままでは、まだ続いて撤退してくる部隊にも甚大な被害が出ます」

 かつては同じ国で、第1王子と第2王女と対象は違うものの、共に聖アルマイトという同じ国家のために剣を捧げた者同士。

 そんな相手の命を害することには強い抵抗があったジュリアスが、その甘さを捨てる。

 1人でも多くの白薔薇騎士を排して、これ以上の被害を食い止める。それが龍牙騎士として自分が果たすべき役目だ。

 来た方向へ向きを転換させるジュリアス。突破したはずのジュリアスが戻ってくるのに気づいてジュリアスに対応する白薔薇の騎士達。

 白薔薇の騎士達とジュリアスが交差する際、ジュリアスの騎士剣が、白薔薇騎士達の剣が、舞うように交差して、打ち合って、斬撃を繰り出す。

 ジュリアスが走り抜けた後、ジュリアスに斬りかかった2人の白薔薇騎士が血を噴き出してそのまま倒れて動かなくなる。

 そしてジュリアスは再び向きを変えて、残る白薔薇騎士達と向き合う。

 味方からは感嘆するような唸りが、白薔薇騎士には一気にピリッとした緊張感が走るのが分かる。

「お願いです。可能なら殺したくはありません。投降して下さい」

 同僚にミリアム、ランディといった超級の天才がいるせいで、どうしても個人の実力は軽視されがちなジュリアス。

 しかし、忘れてはいけない。

 彼はそのミリアムやランディでさえ成していない将軍格を授けられる程の実力者なのだ。その評価が戦術指揮の才覚に因るものが大きいとしても、それは個人の実力が劣ることにはならない。

 ジュリアスもまた、平均的な騎士と比べれば抜きんでた実力の持ち主だ。一般の龍牙騎士が相手にならない程に強化された白薔薇騎士といえど、ジュリアスの相手をするには到底及ばない。

 圧倒的な実力差を見せつけるジュリアスに、たじろぐ白薔薇騎士達。この隙に味方を突破させることが出来れば――

 そんなジュリアスの思惑をかき消すように、とある白薔薇騎士の声が響く。

「みんな、下がりなさい。彼の相手は私がします」

 現れたのは、透き通るような美しい緑色の髪を後ろでまとめた白薔薇騎士。年齢はジュリアスと同じ20代の半ばから後半といったところか。他の白薔薇騎士と同じように、その細身の身体を白銀の鎧に包んでいる彼女は、1人で前に出てきて馬上のジュリアスと対峙する。

「そういえば、君はミュリヌス領関所に詰めていましたね」

 彼女はジュリアスもよく知る白薔薇騎士。

 ジュリアスと彼女は、学生時代に共に学んだことがある仲のためお互いに知っている仲。

 しかし、彼女を一方的に知っているというならば、ジュリアス以外でも、聖アルマイトの騎士の大半がそうだろう。

 彼女の名は、クリスティア=レイオール。

 白薔薇騎士団長シンパ=レイオールの歳の離れた、異母姉妹だった。

「ごめんなさい、ジュリアス」

 ふわりとした、まるで体重を感じさせないような軽やかな所作で細身の剣を構えるクリスティア。久しぶりの友人との再会にも関わらず、親愛などといった親しみの感情は全くこもっていない。

 その瞳にあるのは、ただひたすらに純粋で圧倒的な殺意。

「オチンポのために、死んでください」

 彼女もまた、既に狂わされているリアラやリリライトと同じように、狂気に満ちた言葉を真顔で呟きながら、友人との殺し合いに臨む。
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