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メイドとお風呂
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「解せぬ」
どうしてこうなった。
とある屋敷の一室で唸る俺――アフィシアである。
ハワードからは『お主』としか呼ばれなかったから、自分の名前を意識することはなかった。だがボルドルから名前を聞かれて、素直に本名の『田中拓哉』と答えられなかったのだ。今のところカタカナの名前の人物しか遭遇していないので、こういった和名は怪しさ満点だろう。最初にハワードから聞いた名前がとっさに出てしまった。
まあ名前のことはいい。問題は、今の服装だ。紺色のワンピースに白いエプロンをつけ、頭にはホワイトブリムを装備している。
――なぜメイド服なのだ。
意味が分からない。とりあえず用意されていた服がこれしかなかったから着てみたんだが、俺はメイドの仕事をさせられるんだろうか。とりあえずこうなった過程を振り返ってみるか。
ハワードのところから森の中の山道を担がれて走ること十分少々。途中で緑色の肌をした人型の何かを蹴飛ばしていた気がするが、きっと気のせいだろう。
しばらくすると三メートルほどの高さの石壁に囲まれた集落に到着した。ポツポツと何軒か建つ木造の家の間を通り、ほどなくして奥にある大きな屋敷へと入っていく。
玄関ホールは吹き抜けになっており、そこから伸びる階段が左右から弧を描いて二階へと続いている。寂しくない程度には調度品が置いてあり、質素でありながらもどこか威厳を感じさせる佇まいである。
「おかえりなさいませ」
左側階段下の通路から女が出てきたかと思うと、姿勢よくペコリを頭を下げる。見事な金髪碧眼のぽっちゃりとした体型のおばちゃんだ。着ている服も相まって、メイド長といった風格が漂っている。
「ああ、メアリーか。さっそくだけどこの子をよろしく頼むよ」
「うおおぉああぁぁ!」
それだけ告げると担いでいた俺をメアリーと呼ばれた人物に向かって放り投げる。口調は丁寧だけど行動がなんか雑だなこの人!
がっしりとお姫様抱っこされる形で受け止めると、「かしこまりました」と礼を一つして通路へと連れられる。
それにしても今まで過ごした研究所と比べれば、なんと豪華な屋敷だろうか。牢屋にでもぶち込まれない限りは待遇は改善しそうだが、どこに向かってるんだろうか。
「ところで……、ここはどこですか?」
不安を解消するならば、答えてくれそうな人に聞くのが一番だろう。担がれながらもボルドルに聞いてみたけど答えてはくれなかったのだ。
「おや、アンタ何も聞いてないのかい?」
先ほどの丁寧な口調から、雰囲気が親しみやすそうなものにがらりと変わる。
「ええっと、聞いても教えてくれなかったもので」
俺の受け応えにけらけらと笑うメアリーさん。
「うちの旦那様は相変わらずだね。……さぁ着いたよ」
いつの間にか突き当りまできていたようで、扉を開けて中に入ると俺を下ろしてくれた。
「ここもまあ言ってしまえば訓練場だね。特化した場所ではあるけども。今日は来たばっかりだし、本格的には明日からかな」
訓練場? ……結局やることは変わらないのかと思うとがっかりだ。キツイものじゃなけりゃいいんだが。
「はぁ……」
「とりあえずこの先に風呂があるから入っといで。着替えはここに置いておくからね。終わったらこの廊下の玄関ホールに一番近い部屋に来なさい」
生返事をしてしまったが、風呂だと!? この世界に来てから風呂どころかシャワーすら浴びてなくて気分は沈みまくっていたところだ。幸いというか飯も週一で問題ないくらい代謝が低いせいか、体臭もほとんどない状態ではあるが。
「はい!」
「はは、元気なのはいいことさね」
思わず素直に返事が出てしまった。日本人たるもの生活習慣の一部として必須なお風呂に入れるというのであれば、何をためらう必要があるだろうか。
奥の扉を開けるとそこは脱衣所だ。一枚しか着ていない布を躊躇なく脱ぎ捨てると、風呂場へと続く扉を開けて中へ入る。
「マジか……」
目の前にある木で組まれた浴槽に、思わず声が漏れる。警戒もせずに木桶に湯気の立つお湯を汲んで体に掛ける。そのまま湯舟へとゆっくり入ると。
「あ゛あ゛あ゛……」
おっさん臭い言葉が出てきた。うん。これはしょうがないね。
一息ついたところでようやく周囲の様子に気を配れるようになってきた。青と赤のレバーがついているが、水とお湯が出てくるんだろうか。シャワーはないようだが、石鹸らしきものもあるし、不自由はしなさそうだ。
俺はとにかく久しぶりの風呂を堪能するのだった。
こうしてお風呂から上がり、着替えたところで冒頭の状況だ。機嫌よく風呂から上がったはずが、今ではテンションだだ下がりだ。体をタオルで拭いていたところで自分の体が女になってしまったことで上がっていたテンションがもとに戻り、この体になって初めてパンツを穿いてあまりにものフィット感にもやっとし、疑問に思いつつも最後まで着てしまったメイド服にとどめを刺された感じだ。
「いやもう……なんでやねん」
俺はもう一度ツッコんでいた。
どうしてこうなった。
とある屋敷の一室で唸る俺――アフィシアである。
ハワードからは『お主』としか呼ばれなかったから、自分の名前を意識することはなかった。だがボルドルから名前を聞かれて、素直に本名の『田中拓哉』と答えられなかったのだ。今のところカタカナの名前の人物しか遭遇していないので、こういった和名は怪しさ満点だろう。最初にハワードから聞いた名前がとっさに出てしまった。
まあ名前のことはいい。問題は、今の服装だ。紺色のワンピースに白いエプロンをつけ、頭にはホワイトブリムを装備している。
――なぜメイド服なのだ。
意味が分からない。とりあえず用意されていた服がこれしかなかったから着てみたんだが、俺はメイドの仕事をさせられるんだろうか。とりあえずこうなった過程を振り返ってみるか。
ハワードのところから森の中の山道を担がれて走ること十分少々。途中で緑色の肌をした人型の何かを蹴飛ばしていた気がするが、きっと気のせいだろう。
しばらくすると三メートルほどの高さの石壁に囲まれた集落に到着した。ポツポツと何軒か建つ木造の家の間を通り、ほどなくして奥にある大きな屋敷へと入っていく。
玄関ホールは吹き抜けになっており、そこから伸びる階段が左右から弧を描いて二階へと続いている。寂しくない程度には調度品が置いてあり、質素でありながらもどこか威厳を感じさせる佇まいである。
「おかえりなさいませ」
左側階段下の通路から女が出てきたかと思うと、姿勢よくペコリを頭を下げる。見事な金髪碧眼のぽっちゃりとした体型のおばちゃんだ。着ている服も相まって、メイド長といった風格が漂っている。
「ああ、メアリーか。さっそくだけどこの子をよろしく頼むよ」
「うおおぉああぁぁ!」
それだけ告げると担いでいた俺をメアリーと呼ばれた人物に向かって放り投げる。口調は丁寧だけど行動がなんか雑だなこの人!
がっしりとお姫様抱っこされる形で受け止めると、「かしこまりました」と礼を一つして通路へと連れられる。
それにしても今まで過ごした研究所と比べれば、なんと豪華な屋敷だろうか。牢屋にでもぶち込まれない限りは待遇は改善しそうだが、どこに向かってるんだろうか。
「ところで……、ここはどこですか?」
不安を解消するならば、答えてくれそうな人に聞くのが一番だろう。担がれながらもボルドルに聞いてみたけど答えてはくれなかったのだ。
「おや、アンタ何も聞いてないのかい?」
先ほどの丁寧な口調から、雰囲気が親しみやすそうなものにがらりと変わる。
「ええっと、聞いても教えてくれなかったもので」
俺の受け応えにけらけらと笑うメアリーさん。
「うちの旦那様は相変わらずだね。……さぁ着いたよ」
いつの間にか突き当りまできていたようで、扉を開けて中に入ると俺を下ろしてくれた。
「ここもまあ言ってしまえば訓練場だね。特化した場所ではあるけども。今日は来たばっかりだし、本格的には明日からかな」
訓練場? ……結局やることは変わらないのかと思うとがっかりだ。キツイものじゃなけりゃいいんだが。
「はぁ……」
「とりあえずこの先に風呂があるから入っといで。着替えはここに置いておくからね。終わったらこの廊下の玄関ホールに一番近い部屋に来なさい」
生返事をしてしまったが、風呂だと!? この世界に来てから風呂どころかシャワーすら浴びてなくて気分は沈みまくっていたところだ。幸いというか飯も週一で問題ないくらい代謝が低いせいか、体臭もほとんどない状態ではあるが。
「はい!」
「はは、元気なのはいいことさね」
思わず素直に返事が出てしまった。日本人たるもの生活習慣の一部として必須なお風呂に入れるというのであれば、何をためらう必要があるだろうか。
奥の扉を開けるとそこは脱衣所だ。一枚しか着ていない布を躊躇なく脱ぎ捨てると、風呂場へと続く扉を開けて中へ入る。
「マジか……」
目の前にある木で組まれた浴槽に、思わず声が漏れる。警戒もせずに木桶に湯気の立つお湯を汲んで体に掛ける。そのまま湯舟へとゆっくり入ると。
「あ゛あ゛あ゛……」
おっさん臭い言葉が出てきた。うん。これはしょうがないね。
一息ついたところでようやく周囲の様子に気を配れるようになってきた。青と赤のレバーがついているが、水とお湯が出てくるんだろうか。シャワーはないようだが、石鹸らしきものもあるし、不自由はしなさそうだ。
俺はとにかく久しぶりの風呂を堪能するのだった。
こうしてお風呂から上がり、着替えたところで冒頭の状況だ。機嫌よく風呂から上がったはずが、今ではテンションだだ下がりだ。体をタオルで拭いていたところで自分の体が女になってしまったことで上がっていたテンションがもとに戻り、この体になって初めてパンツを穿いてあまりにものフィット感にもやっとし、疑問に思いつつも最後まで着てしまったメイド服にとどめを刺された感じだ。
「いやもう……なんでやねん」
俺はもう一度ツッコんでいた。
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