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予想外の襲撃
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「さあ、帰るかー」
ググっと伸びをして気分を入れ替えるとさっさと帰ることにする。本当は夜が明けてからでもよかったんだが、麻痺の首輪が気になってしょうがなかった。効果は丸一日って言われたから、切れる前に研究所に行ってハワードに見てもらおうと思ったのだ。
少しでも効果が残ってる間に着くように、全力で帰るつもりだ。王都の北門を出たら身体強化を全開にして走る。月明りがあるとはいえ、さすがに夜中の街道は真っ暗だ。
『ライティング』で明かりを灯し、同時に風の結界を纏って風圧も排除だ。もちろんここからは魔物も出るので『サーチ』の魔術も欠かせない。魔術領域に焼き込まれた魔術は、比較的多重発動が容易なのだ。
「うん?」
街道に出れば魔物の心配をしなければならないが、すぐに遭遇するということは珍しい。しかもここは王都が近い街道だ。国内で一番安全な街道と言っても過言ではないだろう。だというのに……。
「ゴブリンかな?」
全力疾走を少し緩め、『サーチ』の結果を吟味する。やっぱりゴブリンで間違いないようだ。三キロメートルほど先にゴブリンが五体、街道を横切るルートを移動しているのが確認できた。
「サクッと片付けてから行くか」
雑魚と言えど魔物が街道に出ているのはよろしくない。急いではいるが、そこまで時間が取られるものでもない。太ももに装着しているナイフを取り出してスピードを上げる。ゴブリンまであと十メートルというところで『ウインドカッター』の魔術を発動させ、直線上にいた相手を二体仕留める。
何が起こったかまだわかっておらず右往左往するゴブリンの首を手持ちのナイフで掻き切り、残り二体が一直線にくる場所へ移動すると再度『ウインドカッター』で仕留める。
「はぁ……」
大きく息を吐き出すと死体を一か所に固めて、『ファイアボール』の魔術で焼却処理をしておく。時間がないので今回はゴブリンの魔石は放置だ。どうせクズ魔石なので価値はないに等しい。
「さて」
身体強化をかけなおして走りだそうとした瞬間、遠くから何やら爆発音が聞こえてきた。音がした方向をよく見れば、森の向こう側で煙が立ち上っているのが見える。
「なんだ?」
ちょうど向かっている方向から見えたせいか、嫌な予感がしてしまう。――が、ここで立ち止まっていても何も始まらない。足に力を入れて駆け出すと、研究所へと向かう。
途中にある諜報部の村の石壁が見えてきたが、嫌な予感は膨れ上がるばかりだ。どう見ても煙は石壁の向こう側から立ち上っている。移動速度を上げるために余計な『サーチ』を切り、『身体強化』に全振りして走り抜ける。
「ってか石壁半分くらい崩壊してるじゃねぇか……」
いったい何があったのか。研究所へ向かうには村はスルーして問題ないが、この惨状を見てしまったからには確認しておきたい。村の石壁へと背中を張りつかせ、崩れた部分からのぞき込む。
「――っ!?」
目に飛び込んできたのは、崩れた建物だった。無事だった建物も多いが、その向こう側から煙が立ち上っているのが見える。月明りで薄暗くはあるが、いつもと違う村の様子に緊張が高まる。
「なんだよこれ」
やっぱり煙はこの村からだったのか。さすがにここをスルーして研究所に向かうわけにはいかなくなった。再度『サーチ』を展開し、村の中を詳細に精査する。死角となっている建物の向こう側に集中していると、よくわからない大きな物体を補足した。
「……えっ?」
建物のように内部に空間があったり、全体のシルエットが四角っぽい形状をしていない。真ん中はずんぐりと太くなっており、両先端は細くなっている形をしている。一方は地面に這っていて、もう片方の先端は空中へ突き出している形だ。中央の太い部分からは被膜のように薄い……翼が広がっている。
……もうこれドラゴンで間違いないんじゃねぇかな。
気づいた瞬間から冷や汗が止まらない。実際に見たことはないが、その脅威度は知っている。北方に広がる霊峰に住むと言われるドラゴン。近場にそんなものがあるからか、ドラゴン関係の伝承はこの国によく伝わっている。
本当かどうか疑っていたが、今この瞬間にそんな疑いは晴れた。晴れてしまった。
直後、ドラゴンらしき物体がいるあたりが急に明るくなり、同時に爆発音が響き渡る。建物の隙間から吹き飛ばされる人影のシルエットが見えたので、『サーチ』の範囲を絞って精度を取って集中する。
範囲を狭めたところで効果は同じだが、自分がサーチ結果を素早く把握するには範囲は狭いほどいい。
「副隊長!?」
しかし相手が誰だかわかった瞬間に飛び出してしまう。ドラゴンに気付かれるかもしれないという用心など吹き飛んでいたのだ。
壊れた石壁を乗り越えて一直線に副隊長の元へと駆ける。建物の陰から飛び出した瞬間に熱を感じて一気に飛び上がる。足元を赤く光る何かが素通りするのが見えた。
「やべー!?」
通り過ぎた先で着弾した建物が、先ほど聞いた爆発音を響かせる。こんなもの直撃食らったら耐えられる気がしない。
「何を……しているんですかっ!」
俺に気が付いた副隊長から鋭い声が飛んでくる。
何をと言われても、本来なら任務完了の報告をするために戻ってくるべきのはずなんだが。
「今すぐここを離れなさい!」
「えっ?」
「アレは私では手に負えません。私が時間稼ぎをしている間に今すぐ逃げるんです!」
訓練のとき、まだ一撃すら入れることができないあのボルドル副隊長の怒声が、俺の耳に響き渡った。
ググっと伸びをして気分を入れ替えるとさっさと帰ることにする。本当は夜が明けてからでもよかったんだが、麻痺の首輪が気になってしょうがなかった。効果は丸一日って言われたから、切れる前に研究所に行ってハワードに見てもらおうと思ったのだ。
少しでも効果が残ってる間に着くように、全力で帰るつもりだ。王都の北門を出たら身体強化を全開にして走る。月明りがあるとはいえ、さすがに夜中の街道は真っ暗だ。
『ライティング』で明かりを灯し、同時に風の結界を纏って風圧も排除だ。もちろんここからは魔物も出るので『サーチ』の魔術も欠かせない。魔術領域に焼き込まれた魔術は、比較的多重発動が容易なのだ。
「うん?」
街道に出れば魔物の心配をしなければならないが、すぐに遭遇するということは珍しい。しかもここは王都が近い街道だ。国内で一番安全な街道と言っても過言ではないだろう。だというのに……。
「ゴブリンかな?」
全力疾走を少し緩め、『サーチ』の結果を吟味する。やっぱりゴブリンで間違いないようだ。三キロメートルほど先にゴブリンが五体、街道を横切るルートを移動しているのが確認できた。
「サクッと片付けてから行くか」
雑魚と言えど魔物が街道に出ているのはよろしくない。急いではいるが、そこまで時間が取られるものでもない。太ももに装着しているナイフを取り出してスピードを上げる。ゴブリンまであと十メートルというところで『ウインドカッター』の魔術を発動させ、直線上にいた相手を二体仕留める。
何が起こったかまだわかっておらず右往左往するゴブリンの首を手持ちのナイフで掻き切り、残り二体が一直線にくる場所へ移動すると再度『ウインドカッター』で仕留める。
「はぁ……」
大きく息を吐き出すと死体を一か所に固めて、『ファイアボール』の魔術で焼却処理をしておく。時間がないので今回はゴブリンの魔石は放置だ。どうせクズ魔石なので価値はないに等しい。
「さて」
身体強化をかけなおして走りだそうとした瞬間、遠くから何やら爆発音が聞こえてきた。音がした方向をよく見れば、森の向こう側で煙が立ち上っているのが見える。
「なんだ?」
ちょうど向かっている方向から見えたせいか、嫌な予感がしてしまう。――が、ここで立ち止まっていても何も始まらない。足に力を入れて駆け出すと、研究所へと向かう。
途中にある諜報部の村の石壁が見えてきたが、嫌な予感は膨れ上がるばかりだ。どう見ても煙は石壁の向こう側から立ち上っている。移動速度を上げるために余計な『サーチ』を切り、『身体強化』に全振りして走り抜ける。
「ってか石壁半分くらい崩壊してるじゃねぇか……」
いったい何があったのか。研究所へ向かうには村はスルーして問題ないが、この惨状を見てしまったからには確認しておきたい。村の石壁へと背中を張りつかせ、崩れた部分からのぞき込む。
「――っ!?」
目に飛び込んできたのは、崩れた建物だった。無事だった建物も多いが、その向こう側から煙が立ち上っているのが見える。月明りで薄暗くはあるが、いつもと違う村の様子に緊張が高まる。
「なんだよこれ」
やっぱり煙はこの村からだったのか。さすがにここをスルーして研究所に向かうわけにはいかなくなった。再度『サーチ』を展開し、村の中を詳細に精査する。死角となっている建物の向こう側に集中していると、よくわからない大きな物体を補足した。
「……えっ?」
建物のように内部に空間があったり、全体のシルエットが四角っぽい形状をしていない。真ん中はずんぐりと太くなっており、両先端は細くなっている形をしている。一方は地面に這っていて、もう片方の先端は空中へ突き出している形だ。中央の太い部分からは被膜のように薄い……翼が広がっている。
……もうこれドラゴンで間違いないんじゃねぇかな。
気づいた瞬間から冷や汗が止まらない。実際に見たことはないが、その脅威度は知っている。北方に広がる霊峰に住むと言われるドラゴン。近場にそんなものがあるからか、ドラゴン関係の伝承はこの国によく伝わっている。
本当かどうか疑っていたが、今この瞬間にそんな疑いは晴れた。晴れてしまった。
直後、ドラゴンらしき物体がいるあたりが急に明るくなり、同時に爆発音が響き渡る。建物の隙間から吹き飛ばされる人影のシルエットが見えたので、『サーチ』の範囲を絞って精度を取って集中する。
範囲を狭めたところで効果は同じだが、自分がサーチ結果を素早く把握するには範囲は狭いほどいい。
「副隊長!?」
しかし相手が誰だかわかった瞬間に飛び出してしまう。ドラゴンに気付かれるかもしれないという用心など吹き飛んでいたのだ。
壊れた石壁を乗り越えて一直線に副隊長の元へと駆ける。建物の陰から飛び出した瞬間に熱を感じて一気に飛び上がる。足元を赤く光る何かが素通りするのが見えた。
「やべー!?」
通り過ぎた先で着弾した建物が、先ほど聞いた爆発音を響かせる。こんなもの直撃食らったら耐えられる気がしない。
「何を……しているんですかっ!」
俺に気が付いた副隊長から鋭い声が飛んでくる。
何をと言われても、本来なら任務完了の報告をするために戻ってくるべきのはずなんだが。
「今すぐここを離れなさい!」
「えっ?」
「アレは私では手に負えません。私が時間稼ぎをしている間に今すぐ逃げるんです!」
訓練のとき、まだ一撃すら入れることができないあのボルドル副隊長の怒声が、俺の耳に響き渡った。
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