無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい

m-kawa

文字の大きさ
62 / 81
第二章 始まりの街アンファン

第62話 閑話 監視対象

しおりを挟む
「コヴィル様、呼び出しに応じて参りましたわ」

 ノックをして執務室へと入ると、アンファンの街の代官であるコヴィルが書類の山から顔を上げた。

「ああ、サキリスか。よく来てくれた」

「相変わらずお忙しそうですわね」

「はは、まあね。そっちのソファに掛けて少し待っていてくれ」

「わかりましたわ」

 そう答えると、サキリスと呼ばれた女が部屋の隅にあるティーポットから二人分のお茶を注いでソファの前のテーブルへと持って行く。とっくに冷めているがないよりはマシだろう。

「待たせたな」

 しばらくお茶を飲みながら待っていると、コヴィルが書類を片付けて執務机前のソファへとやってきた。

「いえ。今回は何のご用ですの?」

「うむ。とある人物の人となりを見てきて欲しいと思ってな」

「人となり……ですか。詳細を伺っても?」

 コヴィルがお茶に口をつけて唇を潤すと、フォレストテイルから聞かされた話を思い出しながら詳細を言葉にしていく。

「ああ、ターゲットの名前はアイリスという。見た目は女児の格好をしているらしいが四歳の男の子らしい」

「へぇ。それにしても子どもですか。……コヴィル様にそんな趣味がおありだとは知りませんでした」

 さらに女児の格好をしている男の子ときたものだ。仕える主がそんな特殊性癖持ちだなんてと、冗談半分にサキリスは思っていた。

「はは、茶化しているようだが、舐めてかかると痛い目を見るぞ」

「そうですわね。コヴィル様が観察対象として挙げたんですもの」

「わかっているならいい。さて、そのアイリスだが……」

 もったいつけるようにしてコヴィルがカップに淹れられたお茶を一口含む。

「まず、終焉の森の魔物をテイムしている」

「は?」

 主の言葉が理解できずに素の声が出てしまう。終焉の森といえば、魔物が多く生息している、未だに全容が知れない未知の森だ。生息する魔物はどれも強力で、我が国を上げて森を切り開くことも不可能だとされている。

「連れているのは虎の魔物らしいが、探索者ギルドでも目撃例はひとつもないらしい」

「新種……ですか」

「おそらくな」

 そしてコヴィルからは、フォレストテイルからもたらされた情報が次々と語られていく。

「……それ本当に四歳児なのかしら?」

「疑うのも無理はない。というか私も信じられないでいるくらいだ」

 全てを聞き終えてなお懐疑的な表情を見せるサキリスだったが、コヴィルも気持ちは同じようだ。

「ひとまず詳細はわかりました。観察と言うことですが接触はNGでしょうか?」

「いや、接触してもらっても構わない。話が本当なら優良物件だ。ぜひとも我が陣営に取り込みたいと思っている」

「なるほど、承知いたしましたわ。私も興味が湧きましたので」

「ほどほどにな」

「ええ、それでは失礼いたしますね」

 コヴィルの元を辞去しながらサキリスは当面の行動の予定を立てる。まずはアイリスが泊まっているアンファンの宿へいくべきか。たまにあの食堂でご飯は食べるし、特に問題はないはずだ。



 食堂でアイリスが連れている虎の魔物を見た瞬間、サキリスを絶望が襲った。あれをどうにかできるイメージが湧いてこない。この街などあっという間に壊滅しそうである。
 それを思えばアイリスのなんと愛らしいことか。見た目だけなら確かに女児だ。今度は年齢だけでなく性別まで疑わしくなってきたが……。
 とにかく絶対に敵に回してはいけない相手だとサキリスは認識した。

「フォレストテイルと仲は良さそうね」

 一緒に夕飯を食べている五人と一匹を視界に入れながら、久しぶりのアンファンの食事に手を付ける。

「あら、またシルクの料理の腕上がってるじゃないの」

 予想外の収穫に笑顔を浮かべると、監視対象の話へと耳を傾ける。どうやら働きたいらしいけどどう考えても四歳児の思考ではない。見た目は確かに四歳児くらいには違いないが、それなりに成熟した大人と会話しているようにも感じる。

「どちらにしろ、第一印象は悪くないわね」

 しばらく観察してそう結論付けると、部屋へと戻るアイリスを見送ってこの日はアンファンの食堂を出た。



 翌日も朝からアンファンの食堂で朝食を摂る。

「やっぱり美味しくなってるわね」

 ゆっくりと朝食を味わっていると、ターゲットのアイリスが従魔を連れて食堂へやってきた。もうすでに慣れたもので、他の客である探索者も気さくにアイリスと話をしている。
 食べ終わって部屋へと戻ったかと思うと、食堂からは見えないがカウンターへと出てきた気配を感じた。

「今日は出かけるのかしらね」

 サキリスも食べ終わった食器を片付けると、宿を出て行ったアイリスの後を追う。大通りを街の中央へと向かった後、南へと舵を切る。

「そっちは歓楽街なんだけど、何か用でもあるのかしら?」

 興味深そうに周囲を見回しながら歩くアイリスのあとを付ける。従魔がちらりと振り返ったが、何食わぬ顔でついて行く。私の本来の職場もこっちなんだから、何も問題はないはずだ。

 道端にパンツ一枚で転がっている男を見てアイリスが足を止めている。ここらあたりでは日常茶飯事ではあるが、思ったよりも驚いているようだ。もしかして知らずに入り込んできたのかもしれない。

 そう気が付いたサキリスは、変なのに絡まれる前にアイリスへと声を掛けることにした。

「あらぁ、可愛らしいお嬢ちゃんがこんなところに何しに来たのかしら?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット
ファンタジー
【12/6 日間ランキング17位!】 「魔法で直せば一瞬だ。お前の手作業は時間の無駄なんだよ」 そう言われて勇者パーティを追放されたシスター、エリス。 彼女の魔法は弱く、派手な活躍はできない。 けれど彼女には、物の声を聞く『構造把握』の力と、前世から受け継いだ『DIY(日曜大工)』の知識があった。 傷心のまま辺境の村「ココン」に流れ着いた彼女は、一軒のボロ家と出会う。 隙間風だらけの壁、腐りかけた床。けれど、エリスは目を輝かせた。 「直せる。ここを、世界で一番温かい『帰る場所』にしよう!」 釘を使わない頑丈な家具、水汲み不要の自動ポンプ、冬でもポカポカの床暖房。 魔法文明が見落としていた「手間暇かけた技術」は、不便な辺境生活を快適な楽園へと変えていく。 やがてその温かい家には、 傷ついた銀髪の狼少女や、 素直になれないツンデレ黒猫、 人見知りな犬耳の鍛冶師が集まってきて――。 「エリス姉、あったか~い……」「……悔しいけど、この家から出られないわね」 これは、不器用なシスターが、壊れた家と、傷ついた心を修繕していく物語。 優しくて温かい、手作りのスローライフ・ファンタジー! (※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)

捨てられ王女ですが、もふもふ達と力を合わせて最強の農業国家を作ってしまいました

夏見ナイ
ファンタジー
魔力ゼロの『雑草王女』アリシアは、聖女である妹に全てを奪われ、不毛の辺境へ追放された。しかし、彼女を慕う最強の騎士と、傷ついた伝説のもふもふとの出会いが運命を変える。 アリシアの力は魔力ではなく、生命を育む奇跡のスキル『万物育成』だった! もふもふ達の力を借り、不毛の大地は次々と奇跡の作物で溢れる緑豊かな楽園へと変わっていく。 やがて人々が集い、彼女を女王とする最強の農業国家が誕生。その頃、アリシアを捨てた祖国は自滅により深刻な食糧難に陥っていた――。 これは、優しき王女が愛する者たちと幸せを掴む、心温まる逆転建国ファンタジー。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」 現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。 渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。 私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル! 「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」 提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。 家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。 裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。 錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。 主人公無双×のんびり錬金スローライフ!

処理中です...