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第二章 始まりの街アンファン

第65話 ベルト

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 店を出るとそそくさと街の中央へと来た道を引き返す。

『なんだ、帰るのか』

 場違いなところに来てしまったのは間違いなかったと確信していると、キースのからかいの言葉が届く。

「南側はなんとなくどんなところかわかったからね」

『アイリスにはまだ早かったか』

 大人が夜に遊ぶ場所ということは理解した。私自身も精神的には大人だと思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。見た目は子どもになったし、もう子どもでいいかと思う。

 というわけでお昼からは気分転換だ。短剣を腰元からぶら下げて普段から装備できるようにしようと思う。せっかくの秘宝具アーティファクトだし、付与効果を普段から受けられるようにしておいて損はない。
 以前街の東側を探索したときにいろいろ店を見かけたけど、食料品をメインにしていた気がする。武器を扱うお店もいいけど一度追い出された経緯もあるし、ここは革職人にベルトを注文するのもいいかもしれない。

「おう、いらっしゃい。……こりゃまたかわいらしいお客さんで」

「あ、どうも」

 さっそく見つけたお店に入ると、けむくじゃらでずんぐりした体型の店主に迎えられる。背が低いからかカウンターも低くなっていて、向こう側がよく見えるようになっている。カウンターに苦い思い出のある私としては好感の持てるお店だ。

「おつかいか?」

「あ、いえ、自分用のベルトが欲しくて」

「ほう」

 客と分かったからか、店主の視線が背後のスノウから私に固定される。

「短剣を下げる腰のベルトが欲しいんです」

「んん? お前さんがか?」

 私の注文にいぶかしげな表情が返ってくる。

「ちゃんとお金はありますよ」

 武器屋での二の足は踏むまいと、慌てて鞄からお金の入った袋を取り出してじゃらじゃらと音を立てる。

「ああ、わかったから落ち着け。親はいねぇのかとか気になることはあるが、金を払ってくれるならちゃんとした客だ。詮索はしねぇ」

 店主の言葉にホッと胸をなでおろす。追い出さなければ何も問題はない。

「ん~、短剣用のベルトはあるにはあるが、全部大人用だな。特注になるぞ?」

 つまり特別料金がかかるということだろうか。
 首をひねっているとカウンターの奥からいくつかベルトを持ってきてくれる。

「こういうやつのお前さん用を作るわけだな」

 左右の片側だけに剣を下げられるもの、両方ついているもの、左右に二本ずつ下げられるものの三種類だ。さすがに自分の小さい腰に二本ずつというのは無理がありそうだ。

「じゃあこれのタイプで」

 左右に一本ずつ剣が下げられるタイプを選ぶと、店主から了解の言葉が返ってくる。

「現物があるならぴったり作れるがどうする?」

 見本として見せてもらったものは、短剣をぶら下げる部分が輪っかになっているけど紐で縛ったり調節できるようになっている。どうせ特注するならとことんいくことにする。

「これにサイズを合わせてもらえますか」

 鞄から二本の短剣を取り出してカウンターの上に乗せると、店主から「ほう」と言葉が漏れる。

「……こりゃまた高そうな短剣だな」

 ええまぁ、秘宝具アーティファクトですし。

「こんなものぶら下げて歩いたら襲ってくれって言ってるようなもんだが」

 短剣を手に取りながらちらりとスノウへと視線を向ける。

「相棒が一緒ならまぁ牽制にはなるか? まぁ気を付けるんだな」

『カモネギだな』

 店主の言葉を解釈すれば、狙われやすいということだろうか。キースはもはや何を言っているかわからないのでスルーするしかない。

「あとは素材の種類だな。使いたい革はあるか?」

「うーんと、特にないですけど……、丈夫で長持ちすれば何でもいいです」

 どんなのがあるのか特に詳しいわけでもないし、見た目もそれほど気にしないので実用一辺倒だ。

「そうか。短剣の高級さを考えればワイバーンの被膜を使ってもいいが、使うのが嬢ちゃんには高級すぎるか……? いや予算にもよるが……」

 お金を持ってるアピールはしたけど、そういえば具体的な金額は告げていなかった。装備品はケチるなという探索者の格言もあるし、ここは出すべきところだろう。

「じゃあこれで」

 袋から小金貨を一枚取り出すとカウンターに乗せる。

「は?」

「……足りないですか?」

 簡単に切れて武器を取り落とすなどあってはならない。些細なことが生死につながるのが探索者という職業だ。以前あこがれていただけあって、この手の情報は嫌というほど集めた時期もある。

「いやいや逆だ! どんな高級品作らせる気だ!」

 と思ったら違ったらしい。でも私としてもしっかりしたものは作ってもらいたい。

「あ、じゃあこれでお願いします」

「話聞いてたか!?」

「そこは予算が許す限り丈夫で長持ちするものを作ってもらえたら」

「あーもー、わぁったよ! 作りゃいいんだろ。二日後に取りに来い。それまでに最高のやつを用意してやんよ!」

「よろしくお願いしますね」

 半ばヤケクソのような調子で店主が叫ぶ。何にしても作ってもらえるのであれば問題ない。満足した私は上機嫌でお店を出るのだった。
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