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第二章 始まりの街アンファン
第71話 武器を装備しよう
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次に訪れたのは探索者ギルドだ。ギルドマスターの伝言通りにやってくると、当たり前ではあるが注目を浴びる。
スノウを知ってる人もいるので前よりもマシだけど、やっぱりびっくりして椅子から落ちる人は一定数いるようだ。
「例の魔物を連れてきたぞ」
カウンターに向かってクレイブが告げると、前回と同様に探索者ギルド職員に執務室へ促される。
「例のってなんだ?」
「ほら、終焉の森から出てきたってやつだよ」
「もう一匹も森の魔物なんだろ?」
「テイムされたって話だが……」
他の探索者からのうわさが聞こえてくる中を進み、執務室を目指して歩いていく。
扉をノックして部屋に入ると、予想通りギルドマスターが待ち構えていた。
「そいつが例の魔物か……」
「はい。目撃情報とほぼ一致する見た目なので間違いないかと」
椅子から立ち上がって近づいてくると、トールが警戒して一歩下がる。
「あまり人には慣れていないようだな」
「大人しい子ですよ」
落ち着けるように首をもふもふすると、そんなに怖い子じゃないよとアピールしておく。
「あ、でも他の人が触るとバチッてなるみたいですね」
「んん? なんだそれは」
ギルドマスターが首をかしげるが、実際にやってみればわかるはず。
「触ってみればわかりますよ」
クレイブが肩をすくめて言葉にするが、「ふむ」と言って近づいたギルドマスターからは逃げるように下がっていく。
「……ダメみたいですね」
フォレストテイルのみんなは触って漏れなくバチッてなったんだけどね。一緒にご飯食べた人は大丈夫とか?
「ふむ。……まぁ自分から近づいていかないんなら大丈夫か?」
疑問形ではあるが確かにそれだけで安心しきるのも根拠がないよね。
「トール」
声をかけつつも真正面に回り込んで両頬をやさしく手で挟み込む。
「人に迷惑かけたり、ケガさせたりしちゃダメだからね」
「クゥーン」
言い聞かせるようにお願いすると、また可愛い声が返ってきて顔をペロペロと舐められる。と、横からもスノウがペロペロと舐めてきた。
「うわっぷ、わかったよ。わかったから!」
「はは、警戒してたのがアホらしくなるな……」
ひたすら舐めてくるトールを見て、ギルドマスターが苦笑する。
「念のためコイツを目撃したっていう探索者にも確認してもらうか」
「そうですね。万が一ってこともありますし」
クレイブに同意するようにギルドマスターも深く頷いている。
「そんときゃまたここに来てもらうことになるがいいか?」
「はい。大丈夫ですよ」
なんとか二つの舌から逃れると了承しておく。これでトールじゃなかったってことになったら大変だ。連れてくるだけだし、いくらでも確認してもらおう。
「また顔合わせの日が決まったらクレイブを通して連絡する。同じ宿に泊まってるんだろ?」
「あ、はい」
「了解。ちゃんと伝えておきます」
二人そろって返事をすると、この日はこのまま解散となった。
宿に帰ってシルクさんに驚かれ、部屋にスノウとトールが寝そべれば床の踏み場がなくなったことをここに記しておく。もちろんトールの分の宿代は追加で払っておいた。
そして翌日。
「ふふふ」
思わず不敵な笑いが出てしまう。
『なんだ急に、気持ち悪いな』
「いいじゃないか別に」
機嫌のいい私は、キースの相変わらずの言葉も今日は聞き流せるのだ。
そう、今日はベルトが出来上がる日なのだ。自分専用にサイズを測って作ってもらったベルトだ。なんだか普段の買い物よりもワクワクしている。
朝ごはんを食べて宿を出ると、職人エリアのある街の東側へと向かう。以前訪れた革職人の工房へと顔を出すと、カウンターで作業していた毛むくじゃらの職人がこっちを見てポカンと口を開ける。
「……あぁ、お前さんか。……増えたのか?」
しばらくして再起動した職人が、トールを見て眉を寄せる。
「おはようございます。昨日拾いました」
トールの首をぽんぽんと撫でると甘えた声がする。
「拾ったってお前……。まあいいか。ちゃんとできてるぞ」
後ろの棚から小ぶりなベルトを持ってくるとカウンターに乗せる。
「ほれ。着けてみろ」
「おおー」
細かい産毛が密集して生えているような見た目の、明るい茶色をしたベルトだ。肌触りはさらさらで気持ちいい。さっそく腰に回して着けてみると、ちょうど左右に短剣を挿す輪っかになった部分がくる。鞄から短剣を取り出して左右に下げてみるとちょっとだけずっしりとくるけど、その重量の分だけ腰にフィットする感じがした。
「ははっ、その可愛らしい服にゃちょっと合わんな」
確かに服装にまで気が回ってなかった。でもまぁいいや。ちゃんと短剣を装備できたし、これで付与の恩恵に与れるわけだ。
右を見て左を見るが後ろは見えない。工房に鏡なんて置いてないので当たり前だが、そういえば宿にも鏡はなかった。
「うん。いいんじゃないかな」
「当たり前だろ。結局革はワイバーンの被膜を使った。そこらのなまくら剣じゃ斬れないから安心して使ってくれ。……あとはなんか不備あったら持ってきな。程度にもよるが、簡単な修理や調整なら一回だけタダでやってやる」
前も聞いたけどワイバーンといえば、翼竜の代表格みたいな魔物じゃなかったっけ。両手の代わりが翼になった竜もどきという話だ。もどきなのに翼竜の代表格って矛盾してるけど、それくらいには強い魔物で有名だったはずだ。
それにしても一回タダとは太っ腹だね。
「いいんですか?」
「ああ、気にするな。こっちもいい仕事させてもらったからな」
肩をすくめてそう言うと、釣りだと言って余った分のお金が返ってくる。
「ありがとうございました」
こうして短剣を両腰に下げた私は、気分良く工房を後にした。
スノウを知ってる人もいるので前よりもマシだけど、やっぱりびっくりして椅子から落ちる人は一定数いるようだ。
「例の魔物を連れてきたぞ」
カウンターに向かってクレイブが告げると、前回と同様に探索者ギルド職員に執務室へ促される。
「例のってなんだ?」
「ほら、終焉の森から出てきたってやつだよ」
「もう一匹も森の魔物なんだろ?」
「テイムされたって話だが……」
他の探索者からのうわさが聞こえてくる中を進み、執務室を目指して歩いていく。
扉をノックして部屋に入ると、予想通りギルドマスターが待ち構えていた。
「そいつが例の魔物か……」
「はい。目撃情報とほぼ一致する見た目なので間違いないかと」
椅子から立ち上がって近づいてくると、トールが警戒して一歩下がる。
「あまり人には慣れていないようだな」
「大人しい子ですよ」
落ち着けるように首をもふもふすると、そんなに怖い子じゃないよとアピールしておく。
「あ、でも他の人が触るとバチッてなるみたいですね」
「んん? なんだそれは」
ギルドマスターが首をかしげるが、実際にやってみればわかるはず。
「触ってみればわかりますよ」
クレイブが肩をすくめて言葉にするが、「ふむ」と言って近づいたギルドマスターからは逃げるように下がっていく。
「……ダメみたいですね」
フォレストテイルのみんなは触って漏れなくバチッてなったんだけどね。一緒にご飯食べた人は大丈夫とか?
「ふむ。……まぁ自分から近づいていかないんなら大丈夫か?」
疑問形ではあるが確かにそれだけで安心しきるのも根拠がないよね。
「トール」
声をかけつつも真正面に回り込んで両頬をやさしく手で挟み込む。
「人に迷惑かけたり、ケガさせたりしちゃダメだからね」
「クゥーン」
言い聞かせるようにお願いすると、また可愛い声が返ってきて顔をペロペロと舐められる。と、横からもスノウがペロペロと舐めてきた。
「うわっぷ、わかったよ。わかったから!」
「はは、警戒してたのがアホらしくなるな……」
ひたすら舐めてくるトールを見て、ギルドマスターが苦笑する。
「念のためコイツを目撃したっていう探索者にも確認してもらうか」
「そうですね。万が一ってこともありますし」
クレイブに同意するようにギルドマスターも深く頷いている。
「そんときゃまたここに来てもらうことになるがいいか?」
「はい。大丈夫ですよ」
なんとか二つの舌から逃れると了承しておく。これでトールじゃなかったってことになったら大変だ。連れてくるだけだし、いくらでも確認してもらおう。
「また顔合わせの日が決まったらクレイブを通して連絡する。同じ宿に泊まってるんだろ?」
「あ、はい」
「了解。ちゃんと伝えておきます」
二人そろって返事をすると、この日はこのまま解散となった。
宿に帰ってシルクさんに驚かれ、部屋にスノウとトールが寝そべれば床の踏み場がなくなったことをここに記しておく。もちろんトールの分の宿代は追加で払っておいた。
そして翌日。
「ふふふ」
思わず不敵な笑いが出てしまう。
『なんだ急に、気持ち悪いな』
「いいじゃないか別に」
機嫌のいい私は、キースの相変わらずの言葉も今日は聞き流せるのだ。
そう、今日はベルトが出来上がる日なのだ。自分専用にサイズを測って作ってもらったベルトだ。なんだか普段の買い物よりもワクワクしている。
朝ごはんを食べて宿を出ると、職人エリアのある街の東側へと向かう。以前訪れた革職人の工房へと顔を出すと、カウンターで作業していた毛むくじゃらの職人がこっちを見てポカンと口を開ける。
「……あぁ、お前さんか。……増えたのか?」
しばらくして再起動した職人が、トールを見て眉を寄せる。
「おはようございます。昨日拾いました」
トールの首をぽんぽんと撫でると甘えた声がする。
「拾ったってお前……。まあいいか。ちゃんとできてるぞ」
後ろの棚から小ぶりなベルトを持ってくるとカウンターに乗せる。
「ほれ。着けてみろ」
「おおー」
細かい産毛が密集して生えているような見た目の、明るい茶色をしたベルトだ。肌触りはさらさらで気持ちいい。さっそく腰に回して着けてみると、ちょうど左右に短剣を挿す輪っかになった部分がくる。鞄から短剣を取り出して左右に下げてみるとちょっとだけずっしりとくるけど、その重量の分だけ腰にフィットする感じがした。
「ははっ、その可愛らしい服にゃちょっと合わんな」
確かに服装にまで気が回ってなかった。でもまぁいいや。ちゃんと短剣を装備できたし、これで付与の恩恵に与れるわけだ。
右を見て左を見るが後ろは見えない。工房に鏡なんて置いてないので当たり前だが、そういえば宿にも鏡はなかった。
「うん。いいんじゃないかな」
「当たり前だろ。結局革はワイバーンの被膜を使った。そこらのなまくら剣じゃ斬れないから安心して使ってくれ。……あとはなんか不備あったら持ってきな。程度にもよるが、簡単な修理や調整なら一回だけタダでやってやる」
前も聞いたけどワイバーンといえば、翼竜の代表格みたいな魔物じゃなかったっけ。両手の代わりが翼になった竜もどきという話だ。もどきなのに翼竜の代表格って矛盾してるけど、それくらいには強い魔物で有名だったはずだ。
それにしても一回タダとは太っ腹だね。
「いいんですか?」
「ああ、気にするな。こっちもいい仕事させてもらったからな」
肩をすくめてそう言うと、釣りだと言って余った分のお金が返ってくる。
「ありがとうございました」
こうして短剣を両腰に下げた私は、気分良く工房を後にした。
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