2 / 153
第一章
ロードライフオンライン -初心者の館-
しおりを挟む
「ようこそ! 初心者の館へ!」
目の前ではどこかで見たことあるようなオッサンが両手を広げて満面の笑みを浮かべている。
「…………」
俺はそれを無言で眺めるだけだ。しかし何を言ってるんだこのオッサンは。
というかここはどこだ。確か俺は自室で露店の売れ行きを見ようと思ってモニタの電源を……。
そこではっと思い出す。俺はどこに手をついたっけ?
思わず自分の右手を見ると、さっきまで飲んでいた缶ビールが握られている。
「――あれ?」
もう片方の手には、例の本が握られていた。
自分の服装を確認するが、自室にいたときと特に変わったところはない。部屋着である赤いラインが三本入った黒いジャージ上下のままだ。
――なんだコレ?
「おいおい、少年、聞いてるのか?」
思考を遮るように目の前のオッサンが告げてくる。
「あ、ああ……」
どうやらオッサンを無視して思考に耽ることはさせてくれなさそうだ。つーか、少年って歳でもないんだがな。
「ここは初心者の館だ。何の職業に就きたいか話を聞くことができるぞ。
……というか少年。変わった服だな」
どこかで見たことのあるオッサンが、どこかで聞いたことのあるセリフを吐きながら、俺の服装に疑問を抱いている。
ここまできてようやく思い出した。俺が今プレイしているロードライフオンラインの最初のシーンだ。
割と長いことサービスを続けているネットゲームだからだろうか、キャラメイクをして最初にくる場所というのが、初心者の館と呼ばれる場所だ。
職業によって転職できる街が異なっているんだが、この初心者の館で話を聞いて、なりたい職業を告げるとその町に送ってくれるのだ。
サービス開始当初はそんな方式じゃなく、最初に出現する街はランダムだったんだが、いつの間にかこうなっていた。これも新規参入者のほぼいなくなったゲームの成れの果てだろうか。
オッサンはそのゲームと似たような職業についての話を延々としている。一応相槌を打ったりしているが、ゲームのように一方的にしゃべるとかいうものではなく、きちんとオッサンに意思があると感じられる。
このゲームでは以下の職業がある。
前衛職戦士のウォリアー、素早さ重視のシーフ、弓使いであるアーチャー、商人であるマーチャント、魔法使いのマジシャンに、防御回復系のアコライトの計六種類の職業だ。
そしてそれぞれの職業にあったスキルを使うことが可能だ。
「で、どの職業がいい?」
「じゃ、マジシャンで」
条件反射のように答える。俺はMMORPGなどで選ぶ職業は最初はだいたいマジシャンや魔法使いといったものだ。なんとなくで特に理由などはないが。今回も例に漏れず即答となった。
「あいよ。じゃあゲフィーリアの街に送るぜ。がんばりな!」
オッサンが言うや否や、自身が立っている場所に魔方陣が出現したかと思うと視界が暗転した。
と思った瞬間に、目の前には別の風景が広がる。
「おお……、おおぅ」
若干の眩暈を感じつつも周囲を見回す。ゲーム画面をモニタ越しに見ているのとは異なり、そこにはリアルな風景が広がっている。
赤茶色のレンガ造りの建物が立ち並び、広場らしき中央には噴水が設置されている。
そこそこの人が行き交う通りではあるが、こちらに注目する人はいない。……いや、多少はいた。さっきのオッサンの反応から予測すると、恐らく突然人間が現れたことではなく、俺の服装が原因だろうか。
しばらく周囲を観察していると、ふと地面に魔方陣が描かれているのに気づいた。
なにっ? また転送されるのか? と一瞬疑ったが、魔方陣の中心は俺ではなく後ろにずれている。
振り返ったと同時に、魔方陣の中心に人が現れた。
「おっしゃ! やるぞー!」
突然現れた青年が叫ぶと同時に走り出して去っていく。
ああ、初心者の館から来た人ね。つーかどこから湧いて来るんだ、ここの人間は……。しかし、ここは本当にゲームの中なのだろうか? NPCのはずだった初心者の館のオッサンとはきちんと会話が成り立っていた。何度話しかけても同じセリフしか言わないということはない。
ふと自分の頬を思いっきり抓ってみる。
痛い。
うーん。もしゲームみたいにHPがゼロになったらどうなるんだろうか。ゲームであればセーブポイントの街でHPが1になって復活するのだが……。
いや、HPゼロがイコール『死』とは限らないな。気絶するとかそういうものかもしれないし。……まあ試してみる気はありませんがね。
それよりもだ。せっかくゲフィーリアの街に来たんだから、マジシャンとやらに転職しようじゃありませんか。
右手にまだ持ったままだった缶ビールを飲みながら歩き出す。転職できるのはマジシャンギルドだ。ゲームであれば、この街の中央広場のひとつ外周にある環状道路の北西に確かあったはずだ。
左手に持っている不思議な本で、自分の家に本当に戻れるのかどうか不安ではあったが、魔法を使うという実体験ができるかもという好奇心のほうが勝っていた。
目の前ではどこかで見たことあるようなオッサンが両手を広げて満面の笑みを浮かべている。
「…………」
俺はそれを無言で眺めるだけだ。しかし何を言ってるんだこのオッサンは。
というかここはどこだ。確か俺は自室で露店の売れ行きを見ようと思ってモニタの電源を……。
そこではっと思い出す。俺はどこに手をついたっけ?
思わず自分の右手を見ると、さっきまで飲んでいた缶ビールが握られている。
「――あれ?」
もう片方の手には、例の本が握られていた。
自分の服装を確認するが、自室にいたときと特に変わったところはない。部屋着である赤いラインが三本入った黒いジャージ上下のままだ。
――なんだコレ?
「おいおい、少年、聞いてるのか?」
思考を遮るように目の前のオッサンが告げてくる。
「あ、ああ……」
どうやらオッサンを無視して思考に耽ることはさせてくれなさそうだ。つーか、少年って歳でもないんだがな。
「ここは初心者の館だ。何の職業に就きたいか話を聞くことができるぞ。
……というか少年。変わった服だな」
どこかで見たことのあるオッサンが、どこかで聞いたことのあるセリフを吐きながら、俺の服装に疑問を抱いている。
ここまできてようやく思い出した。俺が今プレイしているロードライフオンラインの最初のシーンだ。
割と長いことサービスを続けているネットゲームだからだろうか、キャラメイクをして最初にくる場所というのが、初心者の館と呼ばれる場所だ。
職業によって転職できる街が異なっているんだが、この初心者の館で話を聞いて、なりたい職業を告げるとその町に送ってくれるのだ。
サービス開始当初はそんな方式じゃなく、最初に出現する街はランダムだったんだが、いつの間にかこうなっていた。これも新規参入者のほぼいなくなったゲームの成れの果てだろうか。
オッサンはそのゲームと似たような職業についての話を延々としている。一応相槌を打ったりしているが、ゲームのように一方的にしゃべるとかいうものではなく、きちんとオッサンに意思があると感じられる。
このゲームでは以下の職業がある。
前衛職戦士のウォリアー、素早さ重視のシーフ、弓使いであるアーチャー、商人であるマーチャント、魔法使いのマジシャンに、防御回復系のアコライトの計六種類の職業だ。
そしてそれぞれの職業にあったスキルを使うことが可能だ。
「で、どの職業がいい?」
「じゃ、マジシャンで」
条件反射のように答える。俺はMMORPGなどで選ぶ職業は最初はだいたいマジシャンや魔法使いといったものだ。なんとなくで特に理由などはないが。今回も例に漏れず即答となった。
「あいよ。じゃあゲフィーリアの街に送るぜ。がんばりな!」
オッサンが言うや否や、自身が立っている場所に魔方陣が出現したかと思うと視界が暗転した。
と思った瞬間に、目の前には別の風景が広がる。
「おお……、おおぅ」
若干の眩暈を感じつつも周囲を見回す。ゲーム画面をモニタ越しに見ているのとは異なり、そこにはリアルな風景が広がっている。
赤茶色のレンガ造りの建物が立ち並び、広場らしき中央には噴水が設置されている。
そこそこの人が行き交う通りではあるが、こちらに注目する人はいない。……いや、多少はいた。さっきのオッサンの反応から予測すると、恐らく突然人間が現れたことではなく、俺の服装が原因だろうか。
しばらく周囲を観察していると、ふと地面に魔方陣が描かれているのに気づいた。
なにっ? また転送されるのか? と一瞬疑ったが、魔方陣の中心は俺ではなく後ろにずれている。
振り返ったと同時に、魔方陣の中心に人が現れた。
「おっしゃ! やるぞー!」
突然現れた青年が叫ぶと同時に走り出して去っていく。
ああ、初心者の館から来た人ね。つーかどこから湧いて来るんだ、ここの人間は……。しかし、ここは本当にゲームの中なのだろうか? NPCのはずだった初心者の館のオッサンとはきちんと会話が成り立っていた。何度話しかけても同じセリフしか言わないということはない。
ふと自分の頬を思いっきり抓ってみる。
痛い。
うーん。もしゲームみたいにHPがゼロになったらどうなるんだろうか。ゲームであればセーブポイントの街でHPが1になって復活するのだが……。
いや、HPゼロがイコール『死』とは限らないな。気絶するとかそういうものかもしれないし。……まあ試してみる気はありませんがね。
それよりもだ。せっかくゲフィーリアの街に来たんだから、マジシャンとやらに転職しようじゃありませんか。
右手にまだ持ったままだった缶ビールを飲みながら歩き出す。転職できるのはマジシャンギルドだ。ゲームであれば、この街の中央広場のひとつ外周にある環状道路の北西に確かあったはずだ。
左手に持っている不思議な本で、自分の家に本当に戻れるのかどうか不安ではあったが、魔法を使うという実体験ができるかもという好奇心のほうが勝っていた。
5
あなたにおすすめの小説
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました
チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。
完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。
【捕食】
それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。
ゴブリンを食べれば腕力を獲得。
魔物を食べれば新スキルを習得。
レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。
森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。
やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。
これは――
最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる
ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる