本からはじまる異世界旅行記

m-kawa

文字の大きさ
93 / 153
第四章

転生者は異世界で何を見る? -冒険者ギルド-

しおりを挟む
「えっ? ……なにか問題でも?」

 びくびくしながら瑞樹が門衛に尋ねる。

「ん? あ、ああ……、問題ない、大丈夫だ。
 すまんな。珍しい種族を見たもんでな」

 もしかして仙化族ってやつか? 種族までわかるのか、あの板は。他に何が出るんだろうか……。
 門衛が他に驚いていないところを見ると、スキルマで表示されるものではなさそうだが。
 何にしろ、仙化族とやらはこの世界では珍しいようである。理由が気になるところだが、厄介なものでないことを祈るばかりだ。

「種族まで出てくるんですか?」

 びっくりされた本人である瑞樹が門衛に尋ねている。

「ああ、出てくるぞ。犯罪歴と種族の他に表示されるのは年齢と性別だな」

 聞きたかったことをしゃべってくれる門衛。手間が省けて助かります。
 しかし板に手を置いただけでそこまでわかるのか。一体何で判断してるのか。

「ほれ、これが仮身分証だ。これで街の中に入っていいぞ」

 門衛がカウンターの下からクレジットカード大の、金属なのかプラスチックなのかよくわからない材質のカードを三枚取り出して渡してきた。

「仮……、ですか?」

「おう、有効期限はないが、早めに正式な身分証を用意するこったな。入街税が払えない代わりの借用書みたいなもんだから、ほっとくと利子がえらいことになるぞ」

 門衛の兄ちゃん曰く、利子は十日で銅貨一枚だそうだ。瑞樹が「トイチかよ」と貨幣の価値を知らずに呟いたが、肯定の頷きが返ってきたので銅貨十枚で銀貨一枚なのだろう。
 身分証をもらえるところを尋ねると、手っ取り早いのは冒険者ギルドという回答が返ってきた。他にもギルドはあるが、冒険者ギルドが一番入る条件が緩いらしい。
 そこで日銭を稼いで仮身分証を返却するといいとアドバイスをもらった。

「じゃあ改めて。サイグリードの街へようこそ。
 しっかし、運がよかったな。同じ状況で怪我でもしてたら、借金奴隷で身売りするしかないところだぜ」

 冒険者ギルドの場所を聞いて見送られる間際に、笑顔で怖いことを言われた。つまりこの世界には奴隷がいるんですね。



 小屋を出て改めて街の中を見回してみる。
 街道から続く広い大通りを行きかう人の影は少ない。
 というのも街の南であるこちらの門は、だだっ広い草原と森があるおかげで、主に出入りするのは採集に出かける冒険者しかいないとのことだ。
 木造の二階建ての建物が続く大通りを中央に向かって歩いていくと、徐々に歩く人の数が増えてくる。それに伴い道の両脇に露店もちらほらと出始め、いい匂いも漂ってきた。
 と、そこにはどうやら人以外もいるようだ。様々な形の耳を頭の上から生やしたいわゆる獣人といった種族も見かける。中にはドワーフと思われる、背が低く横幅の広い髭もじゃの姿もあった。

「ファンタジーだね……」

 行きかう人を眺めながら瑞樹がつぶやいている。
 だがしかし、門衛が珍しいと言うだけあって、耳の先が尖っている姿は見当たらなかった。そういえばエルフっぽい長い耳も見当たらないな。

「とにかく言われた通り冒険者ギルドに行こうか。お金を稼がないと今晩は野宿になっちまう」

 門から歩くこと三十分ほど。中央広場手前に冒険者ギルドはあった。入口上部には、盾を背景に二本の剣が交差したエンブレムが看板のようにかかっている。
 開けっ放しの入口に躊躇いなく入って行くと、後ろからフィアとおっかなびっくりの瑞樹もついてくる。

「おお……?」

 荒くれ者の巣窟でも想像していたのだろうか。後ろから予想外を思わせる疑問形の瑞樹の声がした。
 うん、確かに思ったより人が少ない。正面にあるカウンターの向こう側には5人ほど職員らしき人物が並んでいるが、そのうち二つは空いているようだ。残りの三つも人はいるが、後ろに並ぶ人はいない。
 左側を見ると紙が貼られた掲示板がいくつか並んでおり、それを物色する人が数名。右側は打ち合わせなどに使われるのであろうか、十卓のテーブルとイスがあるが、半分も埋まっていない。
 数名の視線を浴びるがすぐに興味を失ったように元の会話に戻る者が多かったが、若干名はこちらに視線を向けたままの者もいるようだ。
 入り口で突っ立っているわけにもいかないので、空いているカウンターへと向かう。

「おう兄ちゃん、見ない顔だな。……隣に行かずにこっちに来るたぁ、オレに何の用だ?」

 片目に鋭い刃物でやられたかのような大きな傷がついた隻眼で筋肉質の獣人の男が、隣を指示しながらニヤリと笑う。
 その頭についている耳は猫だろうか。愛嬌のあるはずの動物の耳だが、オッサンの厳つい顔と傷ですべてが台無しだ。むしろ怖い。
 目を逸らすようにオッサンが示す隣を見ると、無表情のスラリとした黒髪ストレートの美人がカウンターにいた。
 どうでもいいが、美人じゃなくてこっちにきた理由を尋ねられたわけか?

「いや、単に入口から一番近かっただけだが」

 「じゃあ隣に行ってきます」とボケをかまそうかとも思ったが、常識も何も知らない場所でやらかすことでもないと思い素直に理由を口にする。
 実を言うと隣にいる美人の職員に気づいてなかっただけだが、近いからという理由も嘘ではない。

「んだよ、つまんねぇ奴だな。――まあいいさ、仕事の依頼にでも来たのかい?」

「いや、身分証が欲しくて来たんだ」

 オッサン職員の声に、俺たちは揃って仮身分証をカウンターへと差し出すと。

「ああ……、そういうことか。……苦労したんだなぁ」

 なぜか憐憫の眼差しを向けられた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる

ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

半世紀の契約

篠原皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。  そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。  しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!  命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。  そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。 ――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。

処理中です...