中二病客からピザの注文が来たけどどうすればいいですか

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中二病客からの注文

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「お電話ありがとうございます! ピザ・チックタックです!」

 鳴り響く呼び出し音に勢いよく受話器を取って応対するが、電話の向こう側の音声がなにやら雑音混じりで聞き取りにくい。

『――――ザザ――、ザザ…………なんと……、りなも……』

「……もしもし?」

 訝しげに思って聞き返すが、やっぱり雑音がひどい。現代日本でこんなに電話の感度が悪いこともないと思うが、もしかして圏外とかじゃないよな?
 俺は千久間ちくま拓郎たくろう。ピザ屋でバイトする大学生だ。長期休みで暇だからバイトでもしようかと探したら、自分の名前と似たような宅配ピザを発見して勢いで応募してしまったのだ。ある程度慣れてきたとはいえ、さすがに電話が聞き取りづらいとか面倒な客に当たったなと嘆息する。

『ザザ……、おぅすまぬ。これでよいか?』

 もう一度尋ね返そうか迷っていたところで、急に電話の声が鮮明になる。これで仕事が滞りなく進められると俺はホッと胸をなでおろした。

「あ、はい。ご注文でしょうか」

『あぁ、よろしく頼む』

「はい。ではご注文をどうぞ」

『ピザとやらをくれ』

「……へっ?」

 間髪入れずに来た返答に、変な声が漏れる。

『……うん? そこの店は、焼き立てピザを届けてくれるという店じゃろう?』

 何か問題でも? といった声音で続けられた言葉にしばし絶句する。ホッとなでおろしたはずの胸がまたもやざわついてきた。

「えーっと、ピザにもいろいろと種類がありまして……。お手元に当店のメニューなどが広告として届いていないでしょうか?」

『メニューとな……? 手元にはないな……』

 念のために確認すると、予想通りの答えが返ってきた。面倒だがこっちでもメニューを出して口頭説明するしかない。客に聞こえないように二度目の嘆息をしつつも、テーブルに広げてあるメニューを手繰り寄せる。

『そっちにはメニューとやらがあるのか?』

「え? あ、はい……、ありますが……」

『しばし待て』

「いや、あの……」

 戸惑いながらも返答がないのでしばらく待っていると、受話器の向こう側からブツブツと何か声が聞こえてくる。

『……万物を統べる青き者よ、我の願いを聞き入れ給え。この瞳を捧げるは、千里を超え……』

 おいおいおい、ちょっとやべー客に当たっちまったぞ。中二病全開じゃねーか。ただピザ注文するだけで何やってんのコイツ!? 適当におススメ注文させればいいかとか考えてたけどますますめんどくさそうな相手だな!

『あー、そっちの………………、読めん』

 何がだよ!? 一瞬だけちゃんとした注文してくれるのかと思ったじゃねーか!? っつーか読めんって何のことだよ!

「……とりあえず順番にメニューを読み上げますので、お好きなものをご注文ください」

 心の中でツッコんだところで話は進まない。ひとまずマニュアルに沿って対応するべく、受話器を持っていない反対側の手で最初のピザを指さす。

『ああ、その一つ下にあるピザをもらえないだろうか』

 と思ったらいきなりピザを指定してきた。ってか、一つ下のピザってどういうことだってばよ。まさか俺が指を差したのが見えてるわけでもあるまいに。

「えーっと……、これでしょうか」

 だがしかし、厄介な客の相手はすぐに終わらせるに限る。戸惑いつつも一つ下のピザを指さすと、受話器の向こうにいる相手にお伺いを立てる。

『ああ、それで間違いない。肉に白いソースのかかったそのピザで頼む』

 ……うん、確かにプルコギマヨピザだからその表現は間違ってはいない。っつーかメニュー持ってないって言ってたじゃん!? あれは嘘だったのか!? いやそうじゃない、こっちが指さしてるのが見えるんかいな!?

「……サイズはいかがいたしましょう」

 声に出してツッコミたいのをこらえて業務に忠実になる。なんというかさっきから背中の冷や汗が止まらない。

『あー、食べるのはわたしひとりだけだ』

「かしこまりました。ではSサイズでご用意させていただきます。他にご注文はございませんか」

『ああ、大丈夫だ』

「では、お名前とお電話番号とご住所をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 ふぅ……、とりあえず注文はこれで全部か。一つ目のミッション完了だぜ……。
 俺は額の汗を心の中で拭うと、記入した注文票を厨房へと滑り込ませる。

『名前はネネコ・マーサムだ』

 外国人かよ。まぁたまにいるからそこは問題ない。

『住所は……、セイグリッド王国の魔の森奥地だが……』

 待て待て待て待て! そんな地名聞いたことねーぞ! 厨房に送り込んでしまった注文票を慌てて取り返そうとするが、すでに他のバイトに持って行かれた後だ。
 くそっ、遅かったか! いたずら電話なのにピザ調理まで進まれたら俺の減点じゃねーか! だからと言って電話をないがしろにすることはできない。例えいたずらでも、客は客だ。変な言いがかりをSNSでばら撒かれても困る。

「……大変申し訳ありませんが、配達できるエリアは限られておりまして、当店からはだいたい半径二キロとなっております」

『あぁすまない。魔物は近寄らないように結界を張ってあるから安心したまえ』

 何の話!? って魔物って何よ!? それって安心できんの!?
 つかここまで拗らせたヤツ初めてだわ! もう勘弁してくれよ……。誰か電話変わってくれ!

「……ぶふっ」

 首を巡らせると、一緒にバイトを始めた大学のツレのヅッキーが笑いをこらえている。ポンポンと俺の肩を叩いたあと、「お疲れ」と言ってそのまま店の二階へと上がって行った。
 時計を見ると二十一時半だ。ラストオーダーを過ぎたのでこれ以上注文は入ることはないが、ヅッキーはこれでバイトが終わりらしい。歯噛みをしながら背中を睨みつけるが、それで事態が好転するはずもなく。

『もちろんこちらに来ることはできないだろうから、送り迎えはしよう』

 客の言葉で我に返るが、送り迎えってなんだよ! こっちは宅配ピザだぞ? 送り迎えできんなら、店頭まで取りに来いよ!

「当店でお持ち帰りされるのであれば五百円引きとなりますが……」

 怒鳴りたい気持ちを抑えてさりげなく来店しろと告げてみる。

『ふふふ、何を言っている。届けてくれるのがいいんじゃないか』

 ――が、まったく効果はなかった。

「……それでは、Sサイズのプルコギマヨピザひとつで1360円になります」

 脱力して両膝を地面に付きそうになったがかろうじてこらえる。

『……しまった。……向こうの世界の金がないぞ』

 何やら不穏な声が聞こえたがもうどうでもいい。最悪自分で買って今日の晩飯にしてやれば問題ない。もう早くこの電話終わらせたい。

「大丈夫です。今から三十分後にお届けに上がります」

 ぜんぜん大丈夫じゃないが大丈夫だ。大丈夫ったら大丈夫なのだ。

『いやそういうわけにはいかない。代金はしっかり払わせてもらおう』

「そ、そうですか。ありがとうございます」

『うむ。楽しみにしている』

「本日はご注文ありがとうございました」

 速攻で電話の切りボタンを押した。もうこれでもかと連打した。

「はぁぁぁぁ……」

 今からピザの調理を止めに入ってももう遅い。もうこのピザは自分の晩飯確定だ。配達は自分でしよう。自宅に持って行けば誰にもバレないだろう。
 魂が口から抜けそうになりながら店内の片づけを進めていると、ピザが焼きあがってきた。俺はもう一度深いため息をつくと、ピザを保温バッグに突っ込んで店を出る。

「……ナニコレ」

 駐輪場に出ると、ど真ん中に重厚な扉が鎮座していた。扉の裏側に回ってみても何があるわけでもなく。

「いやいや、すげー邪魔なんだけど!」

 バイクが出られないほどではないが、激しく邪魔な位置に扉が存在している。だがしかし、好奇心が勝ってしまったようで扉を開けてみると。

「………………ナニコレ」

 そこには森が広がっていた。ギャーギャーとよくわからない獣の鳴き声も聞こえる。そして森の中には小ぢんまりとした屋敷が建っている。魔女でも出そうなたたずまいだ。一瞬、中二病客の『送り迎えする』という言葉が蘇る。

「はっ……、んなわけ……」

 首を振りつつも扉をくぐってみる。そのまま無視してバイクで自宅へ届ける気は起こらなかった。邪魔ではあるが、この「ど○でもドア」が気になったのだ。
 扉の向こうは湿気が高いのか、しっとりとした空気がまとわりつく。

「……なんで昼なんだよ」

 もうわけがわからん。さっきまでは夜だったはずだ。太陽は見えないが、周囲はある程度明るい。
 恐る恐る屋敷へと近づいて玄関を観察していると、おもむろにその玄関が開いた。

「早かったな」

 そこにはつばの広いとんがり帽子を被った、全身黒で統一されたワンピースを着た魔女がいた。さすがに箒は持っていないが、第一印象がもう魔女っぽい。

「……えーっと」

「そちらの通貨はよくわからんのだが、これでいいか」

 戸惑っているうちに握りこぶし大の布袋を渡される。じゃらりと金属音を響かせるそれを受け取ると、とりあえず保温バッグからピザの入った箱を渡す。

「おお……、すごくいい匂いじゃな」

 袋の中を覗き込むと、黄金色のコインが十数枚入っている。

「あぁ、釣りはいらんぞ。気を付けて帰るがよい」

 それだけ言うと、魔女は屋敷へと引っ込んで行った。

「……なんだよコレ」

 辺りには相変わらずギャーギャーとよくわからない獣の鳴き声が響いている。怖くなって恐る恐る振り返ると、そこにはくぐってきた扉がまだあった。しかしよく見ればだんだんと奥に開いていた扉が閉まってきている。いや……、ちょっと待って! もしかしてこれ閉じたら帰れなくなるんじゃね?

「ちょ、待っ……!」

 急いで駆け出して扉へと向かう。隙間が残り数センチというところで扉に手が届き、ほっと安心したがそれは一瞬で崩れ去った。
 力を入れても扉が開いてくれないのだ。閉まるスピードは緩んだ気はするが、それでも懸命に扉を押しても開かない。むしろ徐々に閉まってくるのだ。

「な……、なんでだよ……!?」

 

ホッとしたのもつかの間に、急いで扉へと走り寄って向こう側へと抜ける。

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 激しく脈打つ心臓を右手で抑えながら振り返ると、通ってきた扉は影も形もなくなっていた。

「……なんだったんだよ」

 手元に残ったじゃらじゃらと音を立てる布袋が、魔女の存在感を伝えてくる。ずっしりとした袋の中身を取り出してみるが、見たこともないコインだ。

「……金貨だったりすんのかな。……売れたらいいけど」

 しかし結局、ピザの代金である1360円の回収はできていない。そのことに気がついた俺は、その場に頽れるしかなかった。
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