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第4章 罪の告白
3話③
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「……管理官ですか?! わかりました! 永田殺しの真犯人!」
柏葉館を飛び出し、覆面パトカーに戻った大輔と晃司は、行きと逆の席に乗った。大輔は助手席、晃司は運転席へと一言も交わすことなく、息ピッタリで乗り込んだ。
そして大輔は穂積に電話を掛けた。永田殺害の真犯人を知らせるために。
急な報せに電話の向こうの穂積が慌てる。
『なっ、どういうこと?! 堂本巡査は今なにを……』
「管理官は今どちらですか? 署ですか?」
穂積が荒間署にいるなら、すぐに署に戻ればよい。運転席で大輔の会話に聞き耳を立てる晃司がエンジンをかけ、待ちきれずに車を発進さたが――。
「T高?! まさか……高城隼人に会いにいってるんですか?!」
キッ! と急ブレーキがかかり、二人揃って前につんのめった。
シートベルトの大切さを噛みしめながら、大輔は電話に叫んだ。
「なんで高城隼人に会いに行ってるんですか?!」
『なんでって……僕が担当してる連続レイプ事件の犯人が逮捕されたから、こっちの手伝いに来たんだよ』
連続レイプ事件の犯人が逮捕されたのは本当だろうが、穂積が永田の事件を手伝いに来た、というのは嘘だ。
おそらく永田殺害の犯人逮捕が迫り、その際に万が一でも永田のわいせつ事件が外に漏れないよう見張るため、上層部から無理やり永田殺害の犯人逮捕に立ち会うよう命じられたのだ。
大輔は、電話越しの穂積の緊迫した声からそう察した。
「でも……それでなんで、今さら高城に会いに行くんです?」
『ホンボシの行方がいまだに掴めないし……。高城だけまだアリバイ確認してなかったから、念のためだけど……』
「その高城が真犯人なんです!」
受話器に叫ぶと、電話の向こうで息を呑むのが聞こえた。
大輔は自らを落ち着かせようと深呼吸した。
「今、柏葉館に行ってきてわかったんです。彼の弟がこの春から柏葉館に……て、会ったら説明します! 俺たちが着くまで、高城と話をするのは待ってください!」
『そんなこと言っても……』
そこで穂積が声をひそめた。
『僕一人で来てるわけじゃないんだ。一課の捜査員と一緒だから、勝手するわけには』
「大輔! ぶっ飛ばすぞ!」
電話の様子を窺っていた晃司がシートベルトを外し、大輔の足元に上半身ごと手を伸ばす。そこには赤色回転灯が収納されていた。
『先輩と一緒なの? とにかく今から高城に会ってくるから……』
「だっダメー!」
大輔は、二人に向かって叫んだ。 電話の向こうの穂積も、隣の運転席の晃司もポカンとする。
「警察だってバレないように……彼を刺激しないようにしないと、彼は追い詰められて、なにをするかわかりません!」
永田のことを尋ねた時、大輔の兄は激しく取り乱した。あれはもう過去のことだと言いながら、混乱し、声を荒げ、我を失っていた。
大人になった兄でさえ今でもあんなに動揺してしまうのだから、まだ若く、被害に遭ってから日の浅い高城が、他人から永田のことを問い詰められたら――きっと、悲惨な結末を迎える。
永田の遺体を思い出す。執拗に顔面を殴打されていた。
大輔は青くなって震えた。
運転席の晃司はなにかを察したのか、赤色回転灯はしまったままで体を起こした。助手席側にあるカーナビを操作し、行き先をT高にする。
T高は、車で十五分ほどの距離だった。
『……堂本巡査? 僕にどうしろと?』
「お願いします。あと十五分ほどでそちらに到着します。俺に、彼と話をさせてください。多分俺にしか……彼の気持ちはわからない」
高城と彼と話ができるのは、自分だけだ。大輔はそう信じていた。
幼き日に見た悪夢に、大輔も長年苦しめ続けられたのだから――。
少しの沈黙の後、電話の向こうで穂積が長いため息を吐いた。
『君は、俺の立場がどうなってもいいって言うんだね』
穂積は、部下である捜査一課の捜査員たちに秘密を抱えている。穂積が一課とは別に永田を調べていることは、一課の捜査員もとっくに気づいているだろう。ここで穂積が大輔たちを待てば、それを一課の捜査員たちに確信させることになる。
穂積は一課からの信用を、完全に失うかもしれない。彼が、自分の意思で一課に情報を隠したわけではなくても。
「俺が、捜査一課の方たちに話します。管理官は悪くないこと。俺が……管理官を守りますから」
大輔は高城を守りたかった。傷ついた彼の心と――尊厳を。
幼い兄を守れなかったから、今、高城隼人だけでも守りたかった。その一心だった。
電話の向こうの穂積が黙り込む。
『……大輔くん、君……』
大輔は必死だった。穂積が自分を名前で呼んでいることに、気づかないほど。
「はい! なんでしょう?!」
『……わかったよ。君たちが来るまで待つ』
「あ、ありがとうございます!」
大輔は電話を切った。
「小野寺さん! T高までお願いします! ……小野寺さん?」
晃司は、なぜかむくれていた。
「大輔って……性質悪いよな」
「はい?」
なんの話かわからなくて訊き返すと、晃司は「もういい!」とアクセルと踏み込んだ。
大輔はシートに身を沈めながら――守りたい少年のことを思った。
高城隼人は、兄だ。 大輔が守れなかった兄なのだ。
だから今度こそ――守ってみせる。
大輔はシートベルトを、強く握りしめた。
柏葉館を飛び出し、覆面パトカーに戻った大輔と晃司は、行きと逆の席に乗った。大輔は助手席、晃司は運転席へと一言も交わすことなく、息ピッタリで乗り込んだ。
そして大輔は穂積に電話を掛けた。永田殺害の真犯人を知らせるために。
急な報せに電話の向こうの穂積が慌てる。
『なっ、どういうこと?! 堂本巡査は今なにを……』
「管理官は今どちらですか? 署ですか?」
穂積が荒間署にいるなら、すぐに署に戻ればよい。運転席で大輔の会話に聞き耳を立てる晃司がエンジンをかけ、待ちきれずに車を発進さたが――。
「T高?! まさか……高城隼人に会いにいってるんですか?!」
キッ! と急ブレーキがかかり、二人揃って前につんのめった。
シートベルトの大切さを噛みしめながら、大輔は電話に叫んだ。
「なんで高城隼人に会いに行ってるんですか?!」
『なんでって……僕が担当してる連続レイプ事件の犯人が逮捕されたから、こっちの手伝いに来たんだよ』
連続レイプ事件の犯人が逮捕されたのは本当だろうが、穂積が永田の事件を手伝いに来た、というのは嘘だ。
おそらく永田殺害の犯人逮捕が迫り、その際に万が一でも永田のわいせつ事件が外に漏れないよう見張るため、上層部から無理やり永田殺害の犯人逮捕に立ち会うよう命じられたのだ。
大輔は、電話越しの穂積の緊迫した声からそう察した。
「でも……それでなんで、今さら高城に会いに行くんです?」
『ホンボシの行方がいまだに掴めないし……。高城だけまだアリバイ確認してなかったから、念のためだけど……』
「その高城が真犯人なんです!」
受話器に叫ぶと、電話の向こうで息を呑むのが聞こえた。
大輔は自らを落ち着かせようと深呼吸した。
「今、柏葉館に行ってきてわかったんです。彼の弟がこの春から柏葉館に……て、会ったら説明します! 俺たちが着くまで、高城と話をするのは待ってください!」
『そんなこと言っても……』
そこで穂積が声をひそめた。
『僕一人で来てるわけじゃないんだ。一課の捜査員と一緒だから、勝手するわけには』
「大輔! ぶっ飛ばすぞ!」
電話の様子を窺っていた晃司がシートベルトを外し、大輔の足元に上半身ごと手を伸ばす。そこには赤色回転灯が収納されていた。
『先輩と一緒なの? とにかく今から高城に会ってくるから……』
「だっダメー!」
大輔は、二人に向かって叫んだ。 電話の向こうの穂積も、隣の運転席の晃司もポカンとする。
「警察だってバレないように……彼を刺激しないようにしないと、彼は追い詰められて、なにをするかわかりません!」
永田のことを尋ねた時、大輔の兄は激しく取り乱した。あれはもう過去のことだと言いながら、混乱し、声を荒げ、我を失っていた。
大人になった兄でさえ今でもあんなに動揺してしまうのだから、まだ若く、被害に遭ってから日の浅い高城が、他人から永田のことを問い詰められたら――きっと、悲惨な結末を迎える。
永田の遺体を思い出す。執拗に顔面を殴打されていた。
大輔は青くなって震えた。
運転席の晃司はなにかを察したのか、赤色回転灯はしまったままで体を起こした。助手席側にあるカーナビを操作し、行き先をT高にする。
T高は、車で十五分ほどの距離だった。
『……堂本巡査? 僕にどうしろと?』
「お願いします。あと十五分ほどでそちらに到着します。俺に、彼と話をさせてください。多分俺にしか……彼の気持ちはわからない」
高城と彼と話ができるのは、自分だけだ。大輔はそう信じていた。
幼き日に見た悪夢に、大輔も長年苦しめ続けられたのだから――。
少しの沈黙の後、電話の向こうで穂積が長いため息を吐いた。
『君は、俺の立場がどうなってもいいって言うんだね』
穂積は、部下である捜査一課の捜査員たちに秘密を抱えている。穂積が一課とは別に永田を調べていることは、一課の捜査員もとっくに気づいているだろう。ここで穂積が大輔たちを待てば、それを一課の捜査員たちに確信させることになる。
穂積は一課からの信用を、完全に失うかもしれない。彼が、自分の意思で一課に情報を隠したわけではなくても。
「俺が、捜査一課の方たちに話します。管理官は悪くないこと。俺が……管理官を守りますから」
大輔は高城を守りたかった。傷ついた彼の心と――尊厳を。
幼い兄を守れなかったから、今、高城隼人だけでも守りたかった。その一心だった。
電話の向こうの穂積が黙り込む。
『……大輔くん、君……』
大輔は必死だった。穂積が自分を名前で呼んでいることに、気づかないほど。
「はい! なんでしょう?!」
『……わかったよ。君たちが来るまで待つ』
「あ、ありがとうございます!」
大輔は電話を切った。
「小野寺さん! T高までお願いします! ……小野寺さん?」
晃司は、なぜかむくれていた。
「大輔って……性質悪いよな」
「はい?」
なんの話かわからなくて訊き返すと、晃司は「もういい!」とアクセルと踏み込んだ。
大輔はシートに身を沈めながら――守りたい少年のことを思った。
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だから今度こそ――守ってみせる。
大輔はシートベルトを、強く握りしめた。
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