モーニングコーヒーはぬるめで

慶野るちる

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本編

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「岡本は自然な流れを作りたいみたいだけど俺はそんなまどろっこしいやり方じゃダメだと思うのよ、多田ちゃんはお鈍さんだから」
 さっきも言われたよな、それ。
「ほら、お鈍さんだから何の話かちっともわからんて顔してるでしょ、そういうとこよ」
 頭が悪い、って言う意味ならそうだろう。
「だからストレートに訊いた方がいい。樫木のこと、どう思ってるの?」
「どうって別に何も」
 セフレにどう思うかなんて。身体の相性が良ければそれでいいだろ。
「じゃあ好きって言われたらどうする?」
「え? それはないでしょ」
 そのもしもはない。急に何言ってんだ。ないない。
「なんで?」
「なんでって、教師だし、面倒を起こさないよう見張ってるわけだし」
「それ、樫木が言ったの?」
「言ってはないですけど、似たようなことは言われましたし他に何があるんですか。先生が俺にかまう理由」
 まあ、あるとすれば一石二鳥の性欲処理?
「んー、そこで最初に戻るわけよ」
「最初ってどれですか」
「好きって言われたらどうする?」
「……え?」
「石井にはがっつり拒否ってた感じだったろ」
「いや、あの人は疲れてて」
「要は半年セフレやっててもそれ以上の感情はなかったわけでしょ。じゃあ樫木はどうなのってことよ、多田ちゃん」
「なんで石井さんと先生が横並びなんですか」
「さあ、なんでだろうね。一つ言えるのはさ、樫木は多田ちゃんと寝たのがバレれば当然クビ。多田ちゃんはどんな主張をしても被害者扱いでお咎めなし。このリスクを負う樫木の理由ってなんだろうね?」
「それは俺も思いましたよ、そんなに担当クラスから体を張ってまで問題児を出したくないのかと。でもそうなんだろうなって。教師なら思うんでしょ」
「だから、どうしてそっちへ思考が行くの」
「先生は俺のことが……ってことですか?」
 斜め上だろ。
「そうそう、いいよ、多田ちゃん。その調子。それですべて樫木の行動に説明がつくか思い出してみればいいよ」
「悩んで傷ついてる子供が大好きとか、性癖がちょっとアレなことを言ってましたが」
「物は言いよう。教師はほっとかないだろ、そういう子供は」
 あのねえ、と岸さんは椅子から立ち上がって、俺の横に腰を下ろした。
「多田ちゃんはさ、石井と並べて訊いて即答しなかっただろ? 石井に抱く感覚と一緒なら一緒だって、普通即答よ?」
「俺が先生に何か感じるところがあるからだって言いたいんですか?」
「だってそうでしょ。そりゃあれよ、何も言わないちゃんと言わない樫木が悪いのよ。半端なことするから」
「ちょっと待ってください」
 話が進みすぎだろ。
「ん?」
「樫木先生が俺のことを、ってどうして岸さんが断定するんですか」
 いつの間にかそういうことになってるのはおかしいだろ。話をしてないって言ってただろ。これはもしもの話だったろ。
「あー……見た感じ?」
「はあ?」
「樫木が何も言わないのはまああの人も教師だしね、それなりに考えるところはあるんだと思うよ」
 岸さんはベッドから立ち上がって、その軽くなった分俺が少し沈む。
「というところで、終わりね」
「え、ちょと……」
 ニヤニヤと笑った岸さんは部屋を出て行った。
 岸さん……適当すぎるだろ。
 あわや言いくるめられそうになった。もう、樫木と俺は何の関係もない。岸さんは一体何がしたいんだ。樫木が俺のことを、ってないだろ。
 そうだったとしたらもっと。
 いやいやいや、だったら、も、もしも、も、ない。
 今の状態が、すべてだ。俺が外へ出ないためのストッパーであっただけで、俺が中で調達、もしくはやめるなら樫木は俺の前に立つことはない。
 そういうことだろ。
 …………。
 俺、何やってんだ。
 なんか。
 もう、どうでもよくなったな。
 北見への固執も。その感情の消し方も。誰かとセックスすることも。
 何かを考えることも。
「疲れたな……」
 急かされるのは苦手だ。溢れる前提でコップにどんどん水を入れられても飲み干せない。
 とりあえず、眠ろう。
 何も考えたくないから。
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