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番外編 岸と岡本
20 Four years later 1
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「どうして多田ちゃんに譲ったんだよ。あの子、自分の気持ちに気付いてなかったし、樫木が多田ちゃんを諦めれば、お前にもチャンスあっただろうに」
二番館の玄関で岡本を待ち伏せする。
別に見張っていたわけではないが、たまたま岡本が出て行くのが見えて。こんな時間に棟を出て行く理由なんてない。朝の六時半過ぎ。朝飯には早い。廊下にも玄関あたりにもまだ人はいない。
樫木の雑用だろう。樫木に恩を感じてる岡本はよく樫木のお使いをやっている。今なら多田歩絡みだ。多田は一学年下の飄々としながらも何かを求めてる子。叶わなかった恋心を持て余して三年生の石井と半年ばかりセフレをやってた子だ。その石井が少々セフレの枠を越えてしまったがために多田とは関係が終了。そこへ社会科教師の樫木が穴を埋めようと滑り込もうとしている。一番好きな奴とは結ばれなかったみたいだが案外人から愛される子のようだ。多田本人は否定しまくりだが。少々斜に構えながらも若干見え隠れする弱さが人を惹き付けるのかもしれない。石井が捨てた(とは石井本人の談だが恋人関係を断られただけだろう)後に味見をさせてもらって感じたことだ。岡本には俺と多田は似ていると言われたが確かに系統は似ているかもしれない。
案の定、玄関のガラス扉越しに外を見ていれば岡本が寮の門を開けてやったのは多田だったわけだが。
「……なんでここにいるのかは面倒だから訊かないけど、譲るってどういうことだよ」
玄関のガラス越しに俺に気付いた岡本は本当に面倒くさそうに中に入ってきた後、そう答えた。
「お前、樫木のこと好きだったんだろ?」
早朝で誰もいないのをいいことに玄関で立って話すようなことじゃないことも訊いてみる。
「その話、今したい?」
まあそうくるわな。これから部屋からぞろぞろと人が出てくる時間になってくるわけだし。
「お前が逃げなければ、いつでも俺の部屋で」
「逃げるって……別に逃げはしないけど、なんで岸の部屋なわけ?」
「お前の部屋だと佐伯だとか益子だとか顔出すだろ」
生徒会長と副会長が仕事を終えたプライベートな時間に何の用があるのか知らんが書記の岡本の部屋をよく訪ねてるのだ。うっとおしい。さっさと自分の巣へ帰ってくれないと岡本の隣の部屋の俺はいつまでも一夜の約束した奴を呼び込めない。
「まあ確かに」
少し考えた岡本は、今晩行くと言った。
「そう言えば、岸はゴールデンウィーク家に帰るの?」
今年は三連休しかない。ウチの学校は私立のくせに非情にカレンダー通りだから地方から入学してる奴だとゆっくりできない日程だろう。
「いや別に帰る用事ないしな。帰ろうと思えばいつでも帰れるし」
何時間もかかるところに実家があるわけじゃない。
「そっか。僕も帰らない予定」
俺と中学は違うものの隣の学区でほぼ一緒の出身になるこいつも特に帰る理由がないのだろう。お家大好きというわけでもないだろうから。寮は長期休暇期間でも閉鎖されることはなく、一年中いても問題ない。そこは気が利いてるところだ。帰りたくない奴帰る場所がない奴、それぞれ事情もあるのだろう。岡本もその一人と言える。俺はまあ面倒臭いから帰らないだけで深い理由はない。二年の夏休みと冬休みはそれぞれ二日ほど岡本を家に招いた。それではしゃいだのは母親で「岡本君可愛い」を連発し俺も父親もドン引きで(多分岡本も)、それに気付いているだろうに気付かないフリをしてまた遊びに来てねなんて言っていた。岡本が嫌じゃなければこの夏もと思うが、受験生だしな。一年の時は樫木が数日連れ帰って、俺も日帰りで樫木の部屋で昼飯食って宿題を岡本とやってた。
「じゃあ、連休のどっかで一緒に晩飯食いに行くか?」
少しは大型連休気分を味わったっていいだろう。
「お前、約束あるんじゃないの?」
「年中盛ってるわけじゃねえって」
夜に誰かとベッドの約束があるんじゃないのかって言うが、そもそもそれは。
俺が週一、週二ペースで誰かとセックスしてるのをこいつは知ってる。自慢げに話をしたわけじゃなくて、たまたま目撃されてしまって。相手がドアの鍵をかけ忘れたってやつでどうにも言い訳できなくて。毎回相手が違うことも知っていて。このことについて何も言われたことがないから正直岡本がどう思っているのかわからないが、軽蔑されてシカトされてるわけじゃないところを見ると、逆に興味なしってことかもしれない、俺はどうでもいいってことかもしれない。それもなあ。
中学も違うのに、偶然というよりは強制的に俺たちは知り合ってる。大きな流れ的に言えばまあ偶然ではある。と、必死に飲み込んだ、少なくとも俺は。違うと思ったら終わりだと思ったから。そうなりたくなかったから。
「そうだね、一日ぐらいは」
あれからもう四年が経とうとしてるのか。
二番館の玄関で岡本を待ち伏せする。
別に見張っていたわけではないが、たまたま岡本が出て行くのが見えて。こんな時間に棟を出て行く理由なんてない。朝の六時半過ぎ。朝飯には早い。廊下にも玄関あたりにもまだ人はいない。
樫木の雑用だろう。樫木に恩を感じてる岡本はよく樫木のお使いをやっている。今なら多田歩絡みだ。多田は一学年下の飄々としながらも何かを求めてる子。叶わなかった恋心を持て余して三年生の石井と半年ばかりセフレをやってた子だ。その石井が少々セフレの枠を越えてしまったがために多田とは関係が終了。そこへ社会科教師の樫木が穴を埋めようと滑り込もうとしている。一番好きな奴とは結ばれなかったみたいだが案外人から愛される子のようだ。多田本人は否定しまくりだが。少々斜に構えながらも若干見え隠れする弱さが人を惹き付けるのかもしれない。石井が捨てた(とは石井本人の談だが恋人関係を断られただけだろう)後に味見をさせてもらって感じたことだ。岡本には俺と多田は似ていると言われたが確かに系統は似ているかもしれない。
案の定、玄関のガラス扉越しに外を見ていれば岡本が寮の門を開けてやったのは多田だったわけだが。
「……なんでここにいるのかは面倒だから訊かないけど、譲るってどういうことだよ」
玄関のガラス越しに俺に気付いた岡本は本当に面倒くさそうに中に入ってきた後、そう答えた。
「お前、樫木のこと好きだったんだろ?」
早朝で誰もいないのをいいことに玄関で立って話すようなことじゃないことも訊いてみる。
「その話、今したい?」
まあそうくるわな。これから部屋からぞろぞろと人が出てくる時間になってくるわけだし。
「お前が逃げなければ、いつでも俺の部屋で」
「逃げるって……別に逃げはしないけど、なんで岸の部屋なわけ?」
「お前の部屋だと佐伯だとか益子だとか顔出すだろ」
生徒会長と副会長が仕事を終えたプライベートな時間に何の用があるのか知らんが書記の岡本の部屋をよく訪ねてるのだ。うっとおしい。さっさと自分の巣へ帰ってくれないと岡本の隣の部屋の俺はいつまでも一夜の約束した奴を呼び込めない。
「まあ確かに」
少し考えた岡本は、今晩行くと言った。
「そう言えば、岸はゴールデンウィーク家に帰るの?」
今年は三連休しかない。ウチの学校は私立のくせに非情にカレンダー通りだから地方から入学してる奴だとゆっくりできない日程だろう。
「いや別に帰る用事ないしな。帰ろうと思えばいつでも帰れるし」
何時間もかかるところに実家があるわけじゃない。
「そっか。僕も帰らない予定」
俺と中学は違うものの隣の学区でほぼ一緒の出身になるこいつも特に帰る理由がないのだろう。お家大好きというわけでもないだろうから。寮は長期休暇期間でも閉鎖されることはなく、一年中いても問題ない。そこは気が利いてるところだ。帰りたくない奴帰る場所がない奴、それぞれ事情もあるのだろう。岡本もその一人と言える。俺はまあ面倒臭いから帰らないだけで深い理由はない。二年の夏休みと冬休みはそれぞれ二日ほど岡本を家に招いた。それではしゃいだのは母親で「岡本君可愛い」を連発し俺も父親もドン引きで(多分岡本も)、それに気付いているだろうに気付かないフリをしてまた遊びに来てねなんて言っていた。岡本が嫌じゃなければこの夏もと思うが、受験生だしな。一年の時は樫木が数日連れ帰って、俺も日帰りで樫木の部屋で昼飯食って宿題を岡本とやってた。
「じゃあ、連休のどっかで一緒に晩飯食いに行くか?」
少しは大型連休気分を味わったっていいだろう。
「お前、約束あるんじゃないの?」
「年中盛ってるわけじゃねえって」
夜に誰かとベッドの約束があるんじゃないのかって言うが、そもそもそれは。
俺が週一、週二ペースで誰かとセックスしてるのをこいつは知ってる。自慢げに話をしたわけじゃなくて、たまたま目撃されてしまって。相手がドアの鍵をかけ忘れたってやつでどうにも言い訳できなくて。毎回相手が違うことも知っていて。このことについて何も言われたことがないから正直岡本がどう思っているのかわからないが、軽蔑されてシカトされてるわけじゃないところを見ると、逆に興味なしってことかもしれない、俺はどうでもいいってことかもしれない。それもなあ。
中学も違うのに、偶然というよりは強制的に俺たちは知り合ってる。大きな流れ的に言えばまあ偶然ではある。と、必死に飲み込んだ、少なくとも俺は。違うと思ったら終わりだと思ったから。そうなりたくなかったから。
「そうだね、一日ぐらいは」
あれからもう四年が経とうとしてるのか。
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