モーニングコーヒーはぬるめで

慶野るちる

文字の大きさ
20 / 49
番外編 岸と岡本

20 Four years later 1

しおりを挟む
「どうして多田ちゃんに譲ったんだよ。あの子、自分の気持ちに気付いてなかったし、樫木が多田ちゃんを諦めれば、お前にもチャンスあっただろうに」
 二番館の玄関で岡本を待ち伏せする。
 別に見張っていたわけではないが、たまたま岡本が出て行くのが見えて。こんな時間に棟を出て行く理由なんてない。朝の六時半過ぎ。朝飯には早い。廊下にも玄関あたりにもまだ人はいない。
 樫木の雑用だろう。樫木に恩を感じてる岡本はよく樫木のお使いをやっている。今なら多田ただあゆむ絡みだ。多田は一学年下の飄々としながらも何かを求めてる子。叶わなかった恋心を持て余して三年生の石井と半年ばかりセフレをやってた子だ。その石井が少々セフレの枠を越えてしまったがために多田とは関係が終了。そこへ社会科教師の樫木が穴を埋めようと滑り込もうとしている。一番好きな奴とは結ばれなかったみたいだが案外人から愛される子のようだ。多田本人は否定しまくりだが。少々斜に構えながらも若干見え隠れする弱さが人を惹き付けるのかもしれない。石井が捨てた(とは石井本人の談だが恋人関係を断られただけだろう)後に味見をさせてもらって感じたことだ。岡本には俺と多田は似ていると言われたが確かに系統は似ているかもしれない。
 案の定、玄関のガラス扉越しに外を見ていれば岡本が寮の門を開けてやったのは多田だったわけだが。
「……なんでここにいるのかは面倒だから訊かないけど、譲るってどういうことだよ」
 玄関のガラス越しに俺に気付いた岡本は本当に面倒くさそうに中に入ってきた後、そう答えた。
「お前、樫木のこと好きだったんだろ?」
 早朝で誰もいないのをいいことに玄関で立って話すようなことじゃないことも訊いてみる。
「その話、今したい?」
 まあそうくるわな。これから部屋からぞろぞろと人が出てくる時間になってくるわけだし。
「お前が逃げなければ、いつでも俺の部屋で」
「逃げるって……別に逃げはしないけど、なんで岸の部屋なわけ?」
「お前の部屋だと佐伯だとか益子だとか顔出すだろ」
 生徒会長と副会長が仕事を終えたプライベートな時間に何の用があるのか知らんが書記の岡本の部屋をよく訪ねてるのだ。うっとおしい。さっさと自分の巣へ帰ってくれないと岡本の隣の部屋の俺はいつまでも一夜の約束した奴を呼び込めない。
「まあ確かに」
 少し考えた岡本は、今晩行くと言った。
「そう言えば、岸はゴールデンウィーク家に帰るの?」
 今年は三連休しかない。ウチの学校は私立のくせに非情にカレンダー通りだから地方から入学してる奴だとゆっくりできない日程だろう。
「いや別に帰る用事ないしな。帰ろうと思えばいつでも帰れるし」
 何時間もかかるところに実家があるわけじゃない。
「そっか。僕も帰らない予定」
 俺と中学は違うものの隣の学区でほぼ一緒の出身になるこいつも特に帰る理由がないのだろう。お家大好きというわけでもないだろうから。寮は長期休暇期間でも閉鎖されることはなく、一年中いても問題ない。そこは気が利いてるところだ。帰りたくない奴帰る場所がない奴、それぞれ事情もあるのだろう。岡本もその一人と言える。俺はまあ面倒臭いから帰らないだけで深い理由はない。二年の夏休みと冬休みはそれぞれ二日ほど岡本を家に招いた。それではしゃいだのは母親で「岡本君可愛い」を連発し俺も父親もドン引きで(多分岡本も)、それに気付いているだろうに気付かないフリをしてまた遊びに来てねなんて言っていた。岡本が嫌じゃなければこの夏もと思うが、受験生だしな。一年の時は樫木が数日連れ帰って、俺も日帰りで樫木の部屋で昼飯食って宿題を岡本とやってた。
「じゃあ、連休のどっかで一緒に晩飯食いに行くか?」
 少しは大型連休気分を味わったっていいだろう。
「お前、約束あるんじゃないの?」
「年中盛ってるわけじゃねえって」
 夜に誰かとベッドの約束があるんじゃないのかって言うが、そもそもそれは。
 俺が週一、週二ペースで誰かとセックスしてるのをこいつは知ってる。自慢げに話をしたわけじゃなくて、たまたま目撃されてしまって。相手がドアの鍵をかけ忘れたってやつでどうにも言い訳できなくて。毎回相手が違うことも知っていて。このことについて何も言われたことがないから正直岡本がどう思っているのかわからないが、軽蔑されてシカトされてるわけじゃないところを見ると、逆に興味なしってことかもしれない、俺はどうでもいいってことかもしれない。それもなあ。
 中学も違うのに、偶然というよりは強制的に俺たちは知り合ってる。大きな流れ的に言えばまあ偶然ではある。と、必死に飲み込んだ、少なくとも俺は。違うと思ったら終わりだと思ったから。そうなりたくなかったから。
「そうだね、一日ぐらいは」
 あれからもう四年が経とうとしてるのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

キスの仕方がわかりません

慶野るちる
BL
全寮制男子校に入学した市原はクラス委員長になったため書類を提出しに生徒会室に行くと、そこに一人いた、初対面の副会長の近藤に襲われてしまう。  混乱するも相部屋の同級生・松川に助けられて元気を取り戻したある日、生徒会長の桜野から仕事を手伝って欲しいと依頼される。  最初は近藤に無視されていたが手伝う中で近藤から告白され、近藤への印象が少しずつ変わっていく市原だが。 表紙:Photo by Markus Spiske on Unsplash / powered by かんたん表紙メーカー様

バスケ部のイケメン先輩に誘惑されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 他にも書きたいのがいっぱいある。

有能副会長はポンコツを隠したい。

さんから
BL
2.6タイトル変更しました。 この高校の生徒会副会長を務める僕・東山 優真は、普段の仕事ぶりから次期生徒会長の最有力候補と言われている。……んだけど、実際は詰めの甘さやうっかりミスを根性論でカバーしてきたポンコツだ。 こんなに頑張れているのは、密かに思いを寄せている安西生徒会長のため。 ある日、なんの奇跡か会長に告白され晴れて恋人同士となった僕は、大好きな人に幻滅されないためにポンコツを隠し通すと決めたけど……!?(内容は他サイト版と同じですが、こちらの方がちょっと読みやすいはずです)

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...