回避と麻痺のスキルを極めたタンクの俺、いい会社に就職するために夏休み中はVRゲームを頑張る。

なめ沢蟹

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憑依魔法習得

1話 葉っぱの獣を討伐

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 バーチャルリアリティゲーム、エーテルランドストーリー。
 夏休み中の今、俺が一日中ハマってるゲームだ。
 いや、ハマってると言ったら語弊があるかな?
 楽しんでやってるわけじゃない。 
 ある人物から命じられた「試練」としてやってる。
「試練か・・・・・・」
 独り言をつぶやいてしまう。
 このリアルなリアルなVRゲーム内では、独り言くらいは記録されないらしいが・・・・・・。
「まずはこのゲーム内でわけのわからん試練を果たす」
 独り言を続けてしまう。
「そんで命尾流《めいおりゅう》の免許皆伝になれば、あの命尾グループのどっかの会社に正社員で入れる」
 自分に言い聞かせる。
 そう、俺がこのゲームをしている理由は、就職活動の一端だったりする。
「シュトー」
「・・・・・・!」
「そろそろ森に入ろう」
 女性の声が聞こえてきた。
 慌てて独り言を止める。
 振り返ると、大正時代を思わせる古風な衣装に大型の和弓を持った身長の高い美少女が立っていた。
 あ、シュトーってのはこのゲームでの俺のハンドルネーム。 
 登録するとき、たまたま母さんが買ってきたシュトーレンを切って食ってた。
 そのまま深く考えずにシュトーレンの一部を入力した。 
「どうしたの? 怖じ気づいた?」
 少女はセミロングの黒髪をなびかせながら笑う。
 しかし、大正時代の服にブーツを合わせるのはいかがなものか。
 どうせゲーム内では装備は汚れはしない。
 足袋に草履でも合わせたほうがいいと思うのだが。 
「別に死んでもログアウトするだけだ。ビビるわけないだろ」
 質問にはそう答えた。
 実際そうだからな。
「でもランキングさがっちゃうでしょ?」
「何回も言ったろ? ランキングには興味ない。そもそも俺らは始めたばかりだから下がるも何もないだろ」
「まあ、そうだけど。やっぱりゲーム内とはいえ、死ぬのは嫌だなあ。どんな感じなんだろ?」
「まだ強制ログアウト未経験の俺らって地味に凄いらしいな」
「そういやこの前掲示板に書かれてたね。私たちってそこそこ有名になってきたかな?」
「・・・・・・」
 さっきから、和服美少女は少し上からポンポンと俺の肩を叩きながら語る。
 ・・・女性にタッパで負けてる俺って。
 たしかマリモは身長172センチって言ってたかな?
 あ、マリモって目の前の少女のハンドルネーム。
 いったい何を文字ったんだか。
 未だに彼女の本名は知らない。
 とにかく、仕切り直す。
「マリモ。確認するけど、今回のミッションはこの森の奥で『憑依魔法』を覚えてくる。だったよな?」
「そうそう。そうしないと本命のミッションが受けられないし」
「ん、じゃあ頑張ろうか」
 依頼内容の確認は終わった。
 さて、行くか。
 これまでのBランクまでのミッションは2人でサクサク成功させてきた。
 それは異例の事だとオペレーターに驚かれたが・・・。
 これからのミッションの難度はA。
 それって、全世界で5000万人は登録してるこのエーテルランドストーリーの上位1万人しか成功の可能性が無いミッションって事だ。
 昨日までとはわけが違う。
 俺は唇を噛みしめて、盗賊風の衣装の襟を正した。

†††††

 うっそうとした森の景色が続く。
 濃い緑の香り。
 鳥や虫の鳴き声。
 木漏れ日。
 肌にまとわりつく微風。
 相変わらずどれもゲーム内の作られた景色とはとても思えない。 
 技術の進化ってすごいものだ。
「そういえばシュトーって現実のほうの体ってベッドに寝せてる?」
 前を歩いていたマリモが突然振り返り質問してきた。
「お前、後衛なのにタンカーの俺の前歩くなよ」
「まだ敵の気配無いし、いいでしょ?」
「まあそうだけど」
「それより、体どうしてるの?」
 俺がゲームやってる本体のほうをどうしてるか、それの何がそんなに気になるのか。
「座禅組んで背筋伸ばしてる」
「え? 何それ? 僧? 私は普通にベッドに寝ころんでメット被ってるよ」
「それって後頭部痛くなるだろ?」
「ざーんねーん。私のメットは高めの柔らかタイプ。むしろ枕代わり」
「あっそ」
 今の話の何が面白いのか、ケタケタと笑う。 
 マリモは俺の一つ上の十八らしいが、どうにも子供っぽい。
「・・・・・・!?」
 会話が途切れる。
 センサーに反応があった。
 慌てて空中に『レーダー』を表示する。
 現れた半透明の青い板には、赤い光が3つと青い光が2つ映し出されていた。
 ・・・いや、よく見るとNPCの緑の光もレーダーの端に映っている。
「前方に敵影3つ。他プレーヤーは近くに1人ね」
 別に解説されなくても自分の見てるからわかるんだが、マリモはこういう時はわざわざ申告してくる。
「ん、じゃあいつも通り」
「了解」
「例によって喋れなくなるから、連絡はメッセージでな。お前昨日は詠唱中の俺にひっきりなく話しかけるし」
「あー、はいはい。わかってる」
「どうだか」
 その言葉を最後に、俺とマリモの会話は途切れた。
 魔法の詠唱。
 すなわち、ゲーム内の精霊に語りかけて超常現象を起こす準備。
 俺の場合風の精霊と毒の精霊と相性がいい。
「・・・・・」
 高速で唇を動かす。
 何気にこれってレアなスキルらしい。
 そしてあっという間に詠唱が終わる。
「パラライズ!」
 風で範囲を広げた麻痺の毒の魔法。
 それをまだ見ぬ敵の方向に向けてぶっ放す。
 NPCの人にも効果が及ぶかもしれない。
 しかし、そうなったら回避出来ないのが悪い。
「ギエエエ」
 獣の苦しむ声が聞こえてきた。
 聞き覚えがある。
 確か炎が弱点のグリーンパンサー。
「マリモ! あんまり詠唱練れてない。多分麻痺の効果は約10秒!」
 前衛として情報を伝える。
 口元が自由になったので口頭で伝えた。
「グリーンパンサーだ。保護色で森に溶け込んで・・・・・・」
「・・・・・・」
 目の前の緑色の猫科のモンスターが森に同化して見える情報は、彼女には必要なかった。
 後ろから2本の炎の矢が飛んでくる。
 それは一直線に2体のモンスターに向かっていった。
「ギャアーーー」
 人間みたいな断末魔が響く。
 直後、金属音が森に鳴り響く。
 体長約2メートルの現実のパンサーによく似たモンスター。
 でもこいつらの体表の緑色は葉っぱの塊。
 足はよく見ると蔓。
 一応植物系のモンスター。
 グリーンパンサーは炎の矢に貫かれた後に消滅し、大きめのコインが不自然に地面をバウンドしていた。
 
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