回避と麻痺のスキルを極めたタンクの俺、いい会社に就職するために夏休み中はVRゲームを頑張る。

なめ沢蟹

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憑依魔法習得

2話 マッパー

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 素直に感心した。
 雑魚とはいえ、マリモはA難度エリアに生息するモンスターをあっと言う間に2体狩ってしまった。 
 A難度となると、敵の動きが速かったり見つけにくかったりでなかなか通常攻撃は当たらないらしいのだが・・・・・・。
 とにかく、残るはあと一匹。
「シュトー!」
 後方からマリモの声が聞こえる。
 やはり彼女には俺よりもモンスターの動きが見えているのか。
「よっと。危ない危ない」
 保護色で森の景色に溶け込んでいたグリーンパンサーに不意を突かれた。
 しかし俺は難なく回避する。
 間近の存在なら、保護色だろうがなんだろうが関係ない。
「パラライズタッチ!」
 そして直接触るタイプの毒の魔法を発動する。
 これは詠唱が約1秒で済む
「・・・・・・!」
 俺の掌に毒の魔力が集まり、気味が悪い光を放つ。
 そのまま得意の古流武術の要領で掌打を放つ。
「ギエッ!」
 また人間みたいな悲鳴をあげて、緑色のモンスターはマヒして動けなくなった。
 すかさず後方から炎の矢が飛んでくる。
 そして最後のグリーンパンサーも派手な断末魔と音を立てて消え、コインに変わる。
「あれえ? A難度っていっても、今までと大して変わらないね」
 コインを拾いながらマリモはそう語る。
「そうだなあ。まあでも油断は禁物」
 俺もコインを拾う。
 パーティーを組んでるからコインは2人のデータに反映される。
 マップ記録をメインにコイン拾いやアイテム整理、そういう雑用専門を一人置く一党は多いらしい。
 しかしウチは2人組だ。
 いろんな事を分担してやらないといけない。
「おやおや、隙だらけだね。それに君たちのパーティーに『マッパー』はいないのか」
「・・・・・・!?」
「コインやドロップアイテムの収集はマッパーがやるものだぞ」
 突然、森の奥から渋い低めの声が聞こえてきた。
 マリモと顔を見合わせた後、声のする方に視線を送る。
 そこには、ガッシリした体格にどこかの学校の制服を着た眼鏡の男が立っていた。
 なぜファンタジーなバーチャル世界でその衣装なのか・・・・・。
 そしてよく考えると、この人はレーダーに映っていた人か。
「あれ? どこかで・・・・・・」
「ん?」
 なんだろう?
 マリモが目の前の男を興味深そうに眺めてる。 
 今まで他のプレーヤーに会っても彼女はそんな反応をしなかったが・・・・・・。

†††††

 見知らぬ短髪のガタイのいい男と遭遇。
 年は・・・・・・なんとなく1個くらい上な気がする。
 まずは話しかけてみた。
「アンタ日本人か?」
 率直な質問。
 見た目日本人っぽくて日本語で話しかけてきたからそう思った。
「ああ、そうだよ。しかしこのエリアに日本人は珍しいね。たいていは欧米人か中国人なんだが」
「へえ」
「しかし君たち、子供なのに相当の実力者だね。このゲームはサービス開始以来のめり込んでいる感じかい?」
 フレンドリーな人だ。
 そして困った質問を投げかけられた。
「・・・・・・」
 またマリモと目が合う。
「えっと、私は登録してから十日目くらいかな?」
「俺もそんなもん」
「え? 本当か?」
「うんまあ」
「驚いたな」
「・・・・・・」
 少し言葉を濁す。
 他プレーヤーのこういう質問に正直に答えると、疑いの目を向けられる事も多い。
 それほど俺らの実力はゲーム初心者としてはあり得ないって事らしいんだが・・・・・・。
「まあ、そういう事もあるだろうね」
「ん?」
「このゲームは現実の能力が大きく反映される。素の能力の高い新人がベテランより優秀なのはよくある事だ」
「は、はあ」
 生返事を返してしまった。
 結局何が言いたいのか。 
「ゴホン」
「・・・・・・?」
 男は思わせぶりに咳払いをする。
 そして丁寧に語り始めた。
「単刀直入に言う。今日だけ僕をマッパーとして雇ってくれないかな?」
 そう来たか。 
「いつも組んでる仲間たちがしばらくログインできない状況なんだ。・・・・・・お互いにメリットが話だと思うが?」
「・・・・・・マッパーか」
 確かに、俺とマリモのコンビは道に迷ったりコイン拾いにとまどったり、後は肝心な時にアイテムボックスに何も入ってなくて攻略が遅れるときがある。
「マッパー? シュトー、なんだっけ? それ」
 マリモが不思議そうな顔をしている。
 しかし・・・・・・こいつ改めて見るとアイドル並みに可愛い顔してる。
「うーん簡単に言うと、戦闘以外のサポート職らしい。そうは言ってもある程度の回避能力は必要だし、素の空間把握力とかテキパキした判断力とかも必要な職・・・・・・らしい」
 聞きかじった程度の情報を話す。
「おやおや、君たち本当にこのゲームを始めたばかりなんだね」
 少し呆れたような声が聞こえてきた。
「エーテルランドストーリーは他のVRゲームと違ってね、マップをゲームが表記してくれないんだ」
「ん? 他のゲームは表記してくれるのか?」
「ああ。それに他のゲームはアイテムを使いやすいし、ドロップアイテムを拾うのも簡単。このゲームはあえてその辺面倒くさくしてる」
「なんで?」
「さあ? リアリティを出すためじゃないか? あいつらの考えそうな事だ」
「・・・・・・あいつら?」
「いや、なんでも無い」  
 なんだろう?
 まるで開発者を知っているかのような言い方だった。
「とにかく、道に迷ったり、コインやドロップアイテムを拾ってる最中に他のモンスターに襲われるのもこのゲームの醍醐味だ」
「ふーん」
「それで? 雇ってくれる? 君たちにとっては今日のプレーのスコアは約7割になるわけだが」
「ん? 7割?」
「ほら、2等分が3等分になるわけだし」
「う、うん」
 よく計算が出来ない。
 チラリとマリモの顔を見た。
 けっこう偏差値の高い高校に行ってる彼女がそこを突っこまない。
 信用していいか?
「マリモどうする?」
「私は構わないよ。こんな所を一人でウロウロしてるなら、それなりに実力高い人だろうし」
「僕の場合、そっち方面は逃げまわる能力だけだけどね」
「ふーん。あ、それに正直私も弓を撃つのに専念したい。シュトー、あんたは今日のスコア減るのいいの?」
「俺? 俺は元々夏休み中だけしかこのゲームやらないつもりだし」
「それは何回も聞いた」
「とにかくスコアとか気にしてないから、サクサク進めるなら報酬なんか減っても気にしない」 
「へえ」
「そう、決まりね。よろしく、島田《しまだ》くん」
「ん?」
 マリモが男に握手を求める。
 しかし、彼を知っているのか。
「おや、もしかして君は命尾《めいお》学園の生徒かい?」
「ん? メイオ?」
「うん。あなた転校生だよね? 何度か廊下ですれ違った」
「ああ、気づかなった」
「へえ」
 やっぱり知り合いなのか。
 同級生かな。
 

 


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