エルフの魔法剣士、悪役令嬢と共に帝王の暗殺を企む

なめ沢蟹

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悪役令嬢との出会い

1話 盗賊と悪役令嬢

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 国境付近まで来ていた。
 今は秘密の任務を続行中だ。
 三日ほど森を歩き続けている。
「おや、この森で誰かに会うとは珍しい。君もエルフか」
「こんにちは」
 たまたま会ったエルフの狩人に挨拶をした。
 ……本当は気配を感知して、偶然を装って近づいたのだが。
「……」
 さりげなく観察する。
 見た目八十才くらいの中年だ。
 この辺の事情に詳しいとありがたいのだが。
「ん?」
「……何か?」
 中年のエルフのほうも、私の顔をジロジロと見ている。
 これでも私は王都では有名人だ。 
 素性を知っててくれると、情報が聞き出しやすくなるのだが。
「金髪の長髪に、長身に、赤のローブを纏った男前のエルフ。あんたもしや、朱のメイジか? 王都で遠目で見たことがあるぞ」
「ああ。私はそう呼ばれているな。マーク・アシュベリーだ。よろしく」
「おお、王都最強の魔導士に出会えるとは。握手、いいかな?」
「もちろん」
 スムーズに事が進んでる。
 さて、ここからだ。
「この辺に、羽の生えた一つ目の巨大な魔物が出るって話を聞いたことがないか?」
「ん?」
 本題に入る。
 こういう目撃情報は地元の者の証言に頼るしかない。
 何しろ、目当ての魔物は人に危害を加えないから懸賞金もかからず、まったく謎なのだ。
「羽の生えた一つ目のデカい魔物? ああ、半年ほど前に見かけたなあ」
「本当か?」
 ビンゴだ。
 まさかこの地方に来ていきなり見つかるとは。
「あんたの探してる魔物と同じ奴かはわからんが、こんな奴だ」
「おお、描いてくれるのか」
 中年のエルフは指先に魔力を集めて空中に絵を描きはじめた。
 なかなか特徴を捕らえた上手い絵だ。  
 そして、目当ての魔物に間違いない。
「……ダウジングバット」
 思わず口にしていた。
 中年はそれに反応する。
「ああ、思い出した。あれがダウジングバットか。そういや爺さんがあの魔物は大陸中の魔力を正確に把握してる、なんて言ってたなあ」
「……」
「まあ迷信だろうがな。仮にその話が本当でも、検証しようがないな」
 ガハハと笑ってる。
「ありがとう、助かったよ。その魔物を探してたんだ。この辺にいるんだな?」
「ああ、この先の洞窟の近くだ。でも中には入るなよ。いくら朱のメイジといえども、あそこの魔物は手に負えないと思うぜ」 
「……!」
「それと、最近この辺に野盗が出る。王都かお隣の帝国から流れてきた奴らだと思うが……ま、そっちはあんたの敵じゃないか」
「盗賊? とにかく情報の提供、感謝する」
 礼を言ってその場を離れた。
 そのまま仲間に通信魔具で連絡する。

†††††

 目当ての魔物の情報を得た事を、仲間二人に連絡する。
「さすがですね。マーク殿」
「森での行動はエルフにはかなわねえな」
 賞賛された。
 次に釘を刺される。
「マーク、単独で行動するなよ」
「わかってる」
「まずは合流しましょう」
 二人と待ち合わせの場所を決めた。
 さて、そうなると暇だ。
 今は一刻も早く……あいつの元に駆けつけたいのだが。
 もどかしさで落ち着かなくなる。
「くそっ」
 叫んでいた。 
「……」
 すぐに自分を戒め、深呼吸して落ち着く。
 これは師が生前に、私に教えてくれた方法だ。
 結果的に耳をすます事になる。
 深い森の中で、小鳥のさえずりや木の葉が風に揺れる音が聞こえてくる。
「少しは落ち着いたな」
 やはりエルフにとって、森は心地よい。
「……!」
 しかし、すぐに落ち着いている場合ではなくなる。
 近くに複数の魔力の気配を感じ、物騒な会話が微かに聞こえてきた。
 気になって、その方向に忍び足で近づく。
「例のおバカな発言をしたお嬢様が、この森に来てるとよ」
「ああ、帝国にもこの王国にも居場所がないわけか」
「これは美味しくいただくか。そのあと売り飛ばせば高値で売れるだろ。大陸中の有名人だしな」
「違えねえ。あの女、中身はクズでも外見は最高らしいしな」
「……」
 ゲスな会話に唇を噛み締める。
 耳が良いというのも困ったものだ。
「助けるか」
 本当はそんな事をしている暇はない。
 しかし……。
 あいつなら、ここで動かない私を良しとしないはずだ。
「行くか」
 忍び足のまま、私は複数の魔力の気配がする方へどんどん近づく。
 
†††††

 森の中を全力で走ってる。
 しかし間に合わないかもしれない。
「くっ」
 野盗と思われる複数の魔力が走り出したのを感じた。
 その先に、弱い魔力を二つ感じた。
 明らかにその二つが狙われている。
「や、やめろ! このお方を誰だと思っている! 無礼者たちめ!」
「……!」
 叫び声が聞こえてきた。
 これはいよいよ不味い。
「間に合え!」
 足に魔力を込める。
 仲間の一人のレンジャーのようには上手くできないが、これで少しは速く走れる。
「痛っ」
 注意力が散漫になっていた。
 小枝が頬をかする。
 しかし構ってはいられない、そのまま進む。
「……」
 走りながらも、魔力を練って魔法剣を生成した。
 野盗らしき者たちは炎で焼き殺す事になるとは思うが、念のため護身用だ。
 右手から独特な高い音が鳴り響き、片手剣を模した魔力の塊が出来上がる。
 次の瞬間……。
「おい、嘘だろ!? なんだこの女!」
「に、逃げるぞ! ギャ、ギャアーーー!」
「……?」
 断末魔が複数聞こえてきた。
 エルフじゃなくても聞こえるような大きな声だ。
 何事かと、足を早める。
 そして、木々がない拓けた空間に出た。
「……!」
 視界に入ってきたのは、複数の男性の遺体だった。
 血まみれで汚い格好をしたのが三人分。 
 そして身なりのいい中年が一人、仰向けで血を流して倒れていた。
「あら、あなたも盗賊さんかしら? それなら死んでいただきます」
「……!」
 ゾッとするような高い澄んだ声が聞こえてきた。
 まるで感情がないような。
 人形が声を発したらこんな感じだろうかとイメージしてしまうような、無機質な声。
 目の前には、手を血まみれに染めた美しい女性が立っていた。 
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