2 / 12
悪役令嬢との出会い
2話 火葬
しおりを挟む
深呼吸した。
改めて状況を整理してみる。
ここら一体はおそらく狩人たちの憩いの場だ。
炊事に使う釜や、薪を割るに使う大きな切り株や、丸太で作った質素なテーブルと椅子が視界に入る。
「……」
改めて、四つの死体にも目を移した。
三つは汚い格好のは、おそらく野盗のものだろう。
身なりの良い方は……先ほど聞こえてきた言葉から察するに、おそらく今対峙している女性の従者。
そして問題のその女性。
背が高く、目の覚めるような美しい顔立ちの緑色の髪、高価そうなドレス。
しかし目立つのはそういった所ではない。
手が血だらけなのだ。
つまり、野盗は彼女が殺した。
「あらあら随分美形の盗賊さんかと思ったら……あなたこの前お会いしたばかりですね」
「……?」
女性は無機質な声で語りかけてきた。
この前会ってる?
まったく記憶にないが。
「マーク・アシュベリーさんだったかしら? この国で朱のメイジって呼ばれてる魔導士」
「どこかで会ったか?」
「三日前にお会いしたばかりです。ほら、この国の貴族の晩餐会で」
「……あっ」
「あなたは貴族の護衛の仕事をしていたしたよね」
やっと思い出した。
目の前の女性は盗賊たちが言っていた通り、大陸中の有名人だった。
彼女はメリンダ・ルイザ・キプリング。
とある小国で贅の限りをつくした大臣の娘。
少し前のメリンダの迂闊な一言が、その小国の民の感情を刺激して革命の引き金になった。
そのことは喜劇的に大陸中に知れ渡っている。
†††††
さてどうしたものか。
メリンダ・ルイザ・キプリングは私を盗賊の一味だと思っているかもしれない。
誤解は解かねば。
とりあえず魔法剣を消し、両手を上げる。
「落ち着いて聞いて欲しい、私はその盗賊共とは無関係だ。たまたまここに居合わせただけだ」
言葉と仕草で精一杯危害を加えるつもが無いことを示す。
伝わっただろうか。
「そんなの言われなくてもわかります」
メリンダのほうも血だらけの手を下げる。
誤解はされてない、良かった。
「……」
ひとまず落ち着くと、再びこの異常な状況が気になり始める。
「この野盗共、まさか君が殺したのか?」
半信半疑な質問だった。
この場に他に誰もいないから、消極法でのもの。
心のどこかで、そんなはずはないと思っていた。
「ええ、そうですよ。私が殺しました」
「……!?」
「暗殺は得意なので」
メリンダは質問に人形のように無表情で答えてきた。
暗殺が得意?
目の前の女性はそんな存在のはずはないのだが。
「……」
とりあえず余計な詮索は後だ。
彼女の近くに倒れている男性の素性も気になる。
「その人は?」
あまり刺激しないように、慎重になりながら質問した。
「私の従者です。目を離した隙に盗賊たちに殺されてしまって」
「ここで弔うか?」
「そうですね、彼は天涯孤独の身。ここにお墓を作っても問題はないでしょう」
無機質な声で、無表情のまま淡々と言葉を連ねてくる。
この女性、少なくとも従者が死んで悲しいといった感情はないようだ。
†††††
仲間二人と合流するまでには時間がある。
メリンダの従者の埋葬を手伝う事にした。
「あなたの故郷はソレイド王国だな。火葬で良いのか?」
「ええ、構いませんよ。穴は私が掘るので」
「お、おい」
彼女は噂通りの冷酷非情な者かと思っていた。
しかし血まみれの従者の遺体を抱きかかえて手を組ませ、事もあろうに自分で森の中に穴を掘り始める。
……素手で。
「……」
唖然としてその様子を眺めてしまっていた。
これまでの過程でメリンダのドレスは血に土に汚れ、美しい緑色の髪も同様だ。
いや、そんなことより。
なぜ素手で硬い地面を掘れている?
「この方には長年お世話になりました。育ての親と言っていい」
独り言のようにつぶやく。
しかし、その言葉に違和感を得た。
「あなたはソレイド王国の亡き大臣の娘だろう? その男は教育係か何かだったのか?」
「……!」
私の言葉に、メリンダは初めて感情の変化を見せる。
目を見開いて少し動揺している。
「ああ、気が動転していました。この従者は帝国民の方でしてね、最近私が雇っただけの関係でした」
「そ、そうか」
「それよりも、朱のメイジさん。噂の炎で遺体を火葬して欲しいのですが」
私の魔法の事を知っているのか。
「それと、そこの盗賊さんたちもお願いします。ちゃんと弔ってあげましょう」
「……?」
なんだろう。
メリンダの発言にゾッとした。
彼女は自分を襲おうとて返り討ちにした者たちを……自分を守ろうとした従者と同じように考えている気がした。
それはまるで、善悪の概念がないような。
改めて状況を整理してみる。
ここら一体はおそらく狩人たちの憩いの場だ。
炊事に使う釜や、薪を割るに使う大きな切り株や、丸太で作った質素なテーブルと椅子が視界に入る。
「……」
改めて、四つの死体にも目を移した。
三つは汚い格好のは、おそらく野盗のものだろう。
身なりの良い方は……先ほど聞こえてきた言葉から察するに、おそらく今対峙している女性の従者。
そして問題のその女性。
背が高く、目の覚めるような美しい顔立ちの緑色の髪、高価そうなドレス。
しかし目立つのはそういった所ではない。
手が血だらけなのだ。
つまり、野盗は彼女が殺した。
「あらあら随分美形の盗賊さんかと思ったら……あなたこの前お会いしたばかりですね」
「……?」
女性は無機質な声で語りかけてきた。
この前会ってる?
まったく記憶にないが。
「マーク・アシュベリーさんだったかしら? この国で朱のメイジって呼ばれてる魔導士」
「どこかで会ったか?」
「三日前にお会いしたばかりです。ほら、この国の貴族の晩餐会で」
「……あっ」
「あなたは貴族の護衛の仕事をしていたしたよね」
やっと思い出した。
目の前の女性は盗賊たちが言っていた通り、大陸中の有名人だった。
彼女はメリンダ・ルイザ・キプリング。
とある小国で贅の限りをつくした大臣の娘。
少し前のメリンダの迂闊な一言が、その小国の民の感情を刺激して革命の引き金になった。
そのことは喜劇的に大陸中に知れ渡っている。
†††††
さてどうしたものか。
メリンダ・ルイザ・キプリングは私を盗賊の一味だと思っているかもしれない。
誤解は解かねば。
とりあえず魔法剣を消し、両手を上げる。
「落ち着いて聞いて欲しい、私はその盗賊共とは無関係だ。たまたまここに居合わせただけだ」
言葉と仕草で精一杯危害を加えるつもが無いことを示す。
伝わっただろうか。
「そんなの言われなくてもわかります」
メリンダのほうも血だらけの手を下げる。
誤解はされてない、良かった。
「……」
ひとまず落ち着くと、再びこの異常な状況が気になり始める。
「この野盗共、まさか君が殺したのか?」
半信半疑な質問だった。
この場に他に誰もいないから、消極法でのもの。
心のどこかで、そんなはずはないと思っていた。
「ええ、そうですよ。私が殺しました」
「……!?」
「暗殺は得意なので」
メリンダは質問に人形のように無表情で答えてきた。
暗殺が得意?
目の前の女性はそんな存在のはずはないのだが。
「……」
とりあえず余計な詮索は後だ。
彼女の近くに倒れている男性の素性も気になる。
「その人は?」
あまり刺激しないように、慎重になりながら質問した。
「私の従者です。目を離した隙に盗賊たちに殺されてしまって」
「ここで弔うか?」
「そうですね、彼は天涯孤独の身。ここにお墓を作っても問題はないでしょう」
無機質な声で、無表情のまま淡々と言葉を連ねてくる。
この女性、少なくとも従者が死んで悲しいといった感情はないようだ。
†††††
仲間二人と合流するまでには時間がある。
メリンダの従者の埋葬を手伝う事にした。
「あなたの故郷はソレイド王国だな。火葬で良いのか?」
「ええ、構いませんよ。穴は私が掘るので」
「お、おい」
彼女は噂通りの冷酷非情な者かと思っていた。
しかし血まみれの従者の遺体を抱きかかえて手を組ませ、事もあろうに自分で森の中に穴を掘り始める。
……素手で。
「……」
唖然としてその様子を眺めてしまっていた。
これまでの過程でメリンダのドレスは血に土に汚れ、美しい緑色の髪も同様だ。
いや、そんなことより。
なぜ素手で硬い地面を掘れている?
「この方には長年お世話になりました。育ての親と言っていい」
独り言のようにつぶやく。
しかし、その言葉に違和感を得た。
「あなたはソレイド王国の亡き大臣の娘だろう? その男は教育係か何かだったのか?」
「……!」
私の言葉に、メリンダは初めて感情の変化を見せる。
目を見開いて少し動揺している。
「ああ、気が動転していました。この従者は帝国民の方でしてね、最近私が雇っただけの関係でした」
「そ、そうか」
「それよりも、朱のメイジさん。噂の炎で遺体を火葬して欲しいのですが」
私の魔法の事を知っているのか。
「それと、そこの盗賊さんたちもお願いします。ちゃんと弔ってあげましょう」
「……?」
なんだろう。
メリンダの発言にゾッとした。
彼女は自分を襲おうとて返り討ちにした者たちを……自分を守ろうとした従者と同じように考えている気がした。
それはまるで、善悪の概念がないような。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる