エルフの魔法剣士、悪役令嬢と共に帝王の暗殺を企む

なめ沢蟹

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悪役令嬢との出会い

3話 悪役令嬢の不可解な言動

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 穴の中に遺体を四つ並べた。
 メリンダがそうしろと言ったからだ。
「本当にいいのか? 一緒に燃やすぞ?」
「ええ、生前の彼はこういう事で特別扱いをして欲しくない方だったので」
「……?」
 悪女と呼ばれた者が、金で雇った短い付き合いの者をよく知ってる。
 そんなものなのだろうか。
「少し離れてろ! 熱いぞ」
「はい」
 魔力を練り上げる。
 奇妙な音が鳴り響く。
 そして空間に穴を開けた。
「時空魔法?」
 それを見てメリンダがつぶやく。
 驚いた。
 小国の財産を贅沢三昧で消費したなどという娘が、魔法の詳細がわかるのか。
 空間に空いた穴から炎が吹き出る。
 そしてあっという間に四つの遺体を灰にした。
「面白い魔法ですね。朱のメイジ……てっきりあなたは精霊魔法使いかと思ってましたわ」
「違う。私は魔法剣士兼、召喚士だ」
「なるほど」
 本当に奇妙な娘だ。
 今まで何にも興味を示さない感じだったのに、私の魔法を鋭い目つきで観察している。
 それはまるで、暗殺者そのものの出す雰囲気だった。
 ただし、その気配を隠せてない駆け出しの暗殺者といった具合だが……。
「こんなに深い穴は必要ありませんでしたね」
 メリンダは今度は森に空いた穴に土をかけ始める。
 繰り返すが、素手で。
 素手でそんなことを出来ていることはともかく、探鉱夫も驚く体力だ。
 様々な事が、私のイメージする悪女と異なる。
「さて、火葬ありがとうございました」
「あ、ああ」
 深々と礼を言われた。
 どう反応していいかわからず、適当な返事をしてしまう。
「借りが出来ましたね、何かお礼はできませんでしょうか?」
「ん?」
 意外な言葉をかけてきた。
 これも反応に困る。
「そんなものはいらない」
「そう……ですか」
 メリンダは困った顔で素直に引き下がる。
 さて、どうしたものか。
「あなたはこれからどうするんだ? 新聞の情報で知る限り、親族はすべて亡くなってるはずだが」
 言葉に気をつけて尋ねた。
 彼女の血族、すなわち小国ソレイド王国の大臣の一族は……。
「ええ、みんな処刑されましたからね」
 あっけらかんと返された。
 死んだ従者には一定の敬意を見せたのに、肉親はそんな感じで語るのか。
「帝国に亡命中なのだろう? 晩餐会に出席していたとはいえ、長くこのポーリサ王国にいては危険なのでは?」
 とにかくこんな所にこんな恰好で放置するわけにもいかない。
 なんとか未成年の彼女を保護してくれる人物を聞き出そうとしたが……。
「その帝国で度重なる暗殺の危機に会って、こっちの王国に亡命しにきたわけでして」
「……」
「まあ全員返り討ちにしましたし、盛られた毒なんかも私には効かなかったのですが」
 思わずポカーンと口を開けていた。
 彼女の言う事は本当なのだろうか?
「信用できるのはこの従者だけでした。この国の貴族も私の受け入れは拒否なされたようですし」
「そ、そうか」
 そんな絶望的な状況で、なぜこの娘は淡々と現状を語れるのか不思議だ。
「ま、いいんですけどね」
「え!?」
「しばらくはこの森で虫や野草を食べて過ごしますよ。朱のメイジさん、見たところお忙しいのでしょう?」
「忙しいのは確かだが、虫や野草!?」
「なら、私なんて捨て置いてくださいな。さようなら」
「お、おい……」
 手を振られた。
 そのまま森の奥に消えようとしている。
 これは……ほっといていいのか?

†††††

 今は秋の終わりだ。 
 空を見上げると、雪がチラホラ降ってきた。 
 まだ積もるような雪ではないだろうが、寒い事には変わりはない。
 周りの木々は紅葉も終えて葉を落として始めている。
 木の実の恩恵なども、これからはほとんど受けられないだろう。
「おい、待てメリンダ……さん」
 呼び止めてしまった。
 森の奥に消えようとしていたメリンダは、またしても無機質な表情で振り返る。
「まだ何か?」
「この王国に亡命の件、私から政府につなげるぞ」
「本当ですか?」
「ああ、少しツテがあってな」
 これは本当だ。
 何しろ今の私は王子の直属の部下だ。
「だからしばらくは私と共に行動しろ。これから冬になる。こんな所で何日も過ごせるわけがないだろう」
「それは大丈夫なんですが……お言葉に甘えさせていただきます」
 メリンダは踵を返し、こちら側に歩いてきた。
 さて、どう扱ったらいいものか。
 最悪私の造りだした魔法空間で大人しくしててもらうとするか。
 そうと決まれば……。
「あなた。その恰好では動きにくいだろう? 男物で良ければ着がえないか?」
 提案してみた。
 彼女の服装はロングのドレス。
 どう考えても、森で活動する姿じゃない。
「……良いのですか?」
「ああ、ちょうどこの前一式買い替えたばかりでな、私のお古ということになるが」
「もちろん構いません。ありがたく使わせてただきます」
「そうか」
 了承を得たので、私はまた空間に穴を開けた。
「……」
 その様子を興味津々な表情で見つめられる。
「ほら」
 魔法で造りだした空間から、ブーツからズボンからマントから、エルフがよく身につける装備のセットを取り出した。       
 そのまま手渡す。
「ありがとうございます」
 メリンダは礼を言って受け取る。
 しかし、少し不思議そうな顔をしているのが気になった。
「これ、背が高いあなたの物にしては小さいような?」
「ああ、ここ半年急激に背が伸びてな」
「え?」
 私の発言に驚かれる。
「背が伸びたって、あなたおいくつなんですか?」
 そう来たか。
 その質問に答えると、大抵の者に驚かれるのだが。
「十七だ」
 とりあえず答えた。
 すると、目を丸くされた。
「と、年下だったんですか。てっきり二十代半ばか、エルフである事を考慮するとその倍の可能性も考えていました」
「……」
 さすが悪女。
 人が気にしている事をズケズケと口にしている。
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