エルフの魔法剣士、悪役令嬢と共に帝王の暗殺を企む

なめ沢蟹

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悪役令嬢との出会い

4話 悪役令嬢の三つの魔法

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 しばらくだが、希代の悪女と呼ばれたメリンダを保護することになった。
 そのまま拓けた広場で仲間を待つ。
「ん?」
 驚いた。
 少し目を離した隙に、メリンダは枯れ枝や落ち葉を集めていた。
「焚き火をするのか?」
「ええ、お世話になるんですもの。それくらいはしないと」
「そ、そうか」
 感心な事だ。
 そう思って火を貸そうとした。
 しかし、その必要はなかった。
 指を鳴らす音が耳に入る。
「おおっ」
 次の瞬間、点火用の枯れ草に火が付く。
「君、精霊魔法が使えるのか」
「ええ。三属性使えます」
「さ、三属性?」
 驚いた。
 大抵の魔法を扱う者が使える魔法の属性は一つだ。
 二つでも稀。
「私の知るかぎり、二つ以上の魔法を使えるのは三人しか知らないな」
「……? あなたは火と雷が使えると聞いてますが?」
「違う。私が使えるのは、時空魔法だけ」
「ああ、そういえばさっきの炎は召喚だと言っていましたね」
 ずいぶん物わかりがいい。
 小国とはいえ大臣の娘、メリンダは幼い頃から何かの英才教育を受けていたのかもしれない。
「君は天才なんだな」
 素直に褒めた。
 実際先ほど述べた三人の複数の属性を操る者たちは天才肌だ。
 十以上の属性を操った亡き師は別格として、弟弟子や新たに仲間になった少女の二人も相当の使い手。
「まさか。私は魔導士としては落ちこぼれですよ」
「ん?」
 しかし、謙遜の言葉が入る。
「私の魔力量なんて、あなたの百分の一にも満たない。魔力感知ができるあなたならわかるでしょう?」
「それは確かに……」
 私が魔力を感知出来ることを知っているのか。 
 もっとも、私を含めた最近王都で話題の四人の若手は全員それが出来るのだが。
「少なくとも私の持つ三つの属性のうち、二つは生活に便利なだけですよ」
「ほう」 
「さっきの焚き火への点火。私の魔力ではあの程度の火力しかでないのです」
「ほう」
 話が弾む。
 案外気が合うタイプだ。
「興味あるな。他のも見せてくれないか?」
「ポーリサ王国最強の魔導士が?」
「いいから見せてくれよ。ソレイド王国の魔法、興味がある」
「はあ、まあこれはルシモス帝国の魔道書の魔法なんですが」
「帝国の? なおさら気になる」
「では」
 案外サービス精神がある。
 希代の悪女はまた魔力を高め始める。
 そして、転がっていた木の器を拾った。
「見ててください」
 美しい顔が少し得意気になる。
 完全に無表情というわけではないのか。
 そしてこの感じは……水の精霊魔法か。
「ほら、器が綺麗になりました」
「え?」
「次は器に水を張って、飲みます!」
「ええ?」
 悪女は腰に手を当てて木の器で水を飲み始めた。
 まさか彼女の水魔法とは……。
「こうやって、大気中の水分を集めて食器を洗ったり、飲み水を確保出来たりします」
「……」
「これが二つ目です」
 思ったよりショボい魔法だ。
 反応に困る。
「す、素晴らしい魔法じゃないか」
「ありがとうございます」
 一応褒めておいた。
 二つともサバイバル生活でなら確実に役に立つのは確かだ。
「じゃあ、三つ目を紹介しますね」
「いや……」
 もういいと言おうとした。 
 この分だと、風で洗濯物を乾かす魔法とか、雷で肩こりをほぐす魔法とか見せられる気がしたのだ。
「……!」
 しかし緩んだ空気は一瞬で変わる。
 強い魔物の魔力を感じた。
 そう、だからメリンダを避難させようとしたのだが……。
「三つ目、こちらに向かってくる魔物を倒しがてら説明しますね」
「……」
 この娘……私より先に魔物の接近に気づいていた。 
 まさか、魔力感知が使えるのか。

†††††

 何かが向かってくる。 
 メリンダは明らかにそれをわかっている。
 しかし、まったく動揺していない。
「熊でも来てくれれば肉が食べれたのですが……魔物ですか」
「……」
「魔物って、倒しても宝玉になるだけですしね」
 わけのわからない事を言っている。
 これは、私が倒すしかないか。
「メリンダ! 下がってろ」
「……? どうして?」
「相当強い奴が来る」
 元大臣の娘をつい呼び捨てしてしまった。
 後で謝っておこう。
 とにかく向かってくる魔物の撃退だ。
「……」  
 護身用に魔法剣を再び生成した。
 そして炎を浴びせる準備もする。
 ……木々がなぎ倒され、踏みつぶされる音が聞こえてきた。
 本当に大物だ。
「マッドヴァイパーか。厄介だな」
 現れたのは泥や木の葉で生成された蛇の形を模した魔物だった。
 実際の大蛇と違い、所々生物のフォルムとしておかしい部分がある。
「あれ? マッドヴァイパーって人は襲わないと聞きましたが」
「たしかに人間は狙われないな。しかしこいつらはエルフ、特に魔力の高い者を好んで捕食する」
「ああ、この子。あなた目当てに来たんですね」
 ポンと手を叩いてる。
 この状況で冷静とは、希代の悪女……いろいろ頭のネジが飛んでるのか。
「とにかく下がってろ!」
 マッドヴァイパーが広場にたどり着き、カマ首を持ち上げる。
 予想以上の大きさだ。
 目測で体調二十メートル。
「一回の炎で殺せないかもしれない。メリンダ! 森の奥へ! そいつの狙いは私だ!」 
 再度叫ぶ。
「……!」
 しかし、いつの間にかそばにいたはずのメリンダの気配は消えていた。
 逃げた。
 そう思い、ひとまず安堵して泥の大蛇に向き合う。
 ……しかし。
「……なっ」
 驚いて魔法剣を落としてしまう。
 視界に入って来たのは、約十メートル上空で大蛇の脳天に腕を突っ込むメリンダだった。
 あの位置は、魔物の核となる宝玉の位置。
 今度こそ間違いない。
 メリンダは私よりも高い精度の魔力感知を使いこなしている。
「クギャアーーーッ!」
 宝玉を強引に引っこ抜くが見えた。
 マッドヴァイパーが断末魔を上げた後、その場に大量の泥が残る。
 信じられない。
 一流の賞金稼ぎでも手こずるような相手を、温室育ちのはずの令嬢が一人で一瞬で倒してしまった。
「マークさん」
「……」
 メリンダは軽やかトンっと地面に降り立つ。
「これが私の三つめの能力です。空中を走ることができます」
「……」
 言葉が出ない。
 浮遊魔法も驚いた。 
 しかしそれ以上に、彼女のあの素手での攻撃力が信じられない。
 
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