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洞窟の試験
1話 洞窟
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途中道草を食ったが、私たちは再び洞窟に向かって歩いていた。
メリンダは髪も短くなってスッキリしているが、表情は浮かない。
……先ほど初めて会ったときは無機質で人形のような印象を得たが、感情の揺れ幅が小さいだけでそうでもないのか。
「先ほどの話、信じます?」
少し後ろを歩いていたメリンダが、私とヒューに話しかけてきた。
さて、どう答えるべきか。
「半信半疑だし、もう検証しようもない。というのが本音だな」
正直に答えた。
ヒューも賛同する。
「そうだな。ソレイド王国大臣の一族は全員処刑されたしな」
メリンダはそれを聞いて歩くスピードを速め、私たちの前に出て振り返る。
「それは半分は信じたという事ですか?」
そう解釈したか。
「それはそうだ。君の強さは長年特殊な訓練をしなけば到達できるものではない。特に魔力感知は、幼少期から優秀な指導者が付く事が必須」
「普通は貴族のお嬢さんにそんな訓練させないわな」
語っていて、自分の幼少期を思い出す。
仙人のような師の元、三人の兄弟弟子と共に瞑想や目隠しでの訓練などいろいろな事をした。
「でも、帝国はたまたま本物とすり替えるための、緑色の髪の双子の赤ん坊を用意できた。ここは信じてもらえないと思ったのですが……」
なんだそんな事か。
その辺は帝国が過去に何をしたか予測できる。
「大方、将来ソレイド王国の重要人物になりそうな者を見極め、そいつと似た特徴を持つ人材を確保してたんだろ」
「だな。結果として、大臣になる者に目を付けたわけか。希少な緑色の髪の男女を事前に確保するくらいやりそうだ」
「ああ、何しろルシモス帝国だしな」
「……」
メリンダは目を丸くしている。
「緑色の髪……後の権力者になるであろう者と似た特徴を持つ赤ん坊を確保」
「……?」
「そんな事のために、帝国が長年かけた大がかりな工作が行われた可能性。それは疑わないのですね」
今度はうつむいた。
その姿を見て……。
彼女は何かとてつもない後悔を抱いている。
そんな気がした。
「いやあ。帝国ならそれくらいやるでしょ?」
「え?」
ヒューの言葉にメリンダは驚く。
「そもそもこいつの恋人が浚われたのも、その帝国お得意の壮大な計画の一部みたいだし」
「ヒュー、喋りすぎだ」
気になって制した。
少なくとも私はメリンダをまったく信用していない。
「どちらにせよ、お喋りはもう終わりだな」
ヒューが獣道の先を指さす。
「ダウジングバットが生息する洞窟、多分あれだな」
そこには、少し盛り上がった地形にぽっかりと大きな穴が開いていた。
†††††
先ほど中年のエルフと、文献による記述を思い出す。
自然に二人に説明していた。
「この洞窟はおそらく大地の魔力で満ちている。中には先ほどのマッドヴァイパーのような強力な魔物がウジャウジャいると思え」
自分で言っていて思う。
先ほどメリンダが倒した魔物が複数現れたら、さすがに危険だ。
ヒューが長剣の袋を剥がした。
臨戦態勢で尋ねてきた。
「ダウジングバットは? 目撃証言って洞窟の中でのものじゃないんだろ?」
「ああ、この辺の森だな」
「洞窟から自然に出てくるのを待つか?」
「得策じゃないな。目撃例は数年に一度。中に入って探して捕まえたほうが早い」
「なるほど、危険はつきものか」
素振りをしている。
なんだかんだで頼りになるやつだ。
ヒューもドラゴニッヒも、三日前の共同任務では見事な腕前を見せてくれた。
「君はどうするんだ?」
振り返って、メリンダのほうを見た。
なんだかんだいって女性だ。
ここで怖じ気づく可能性もある。
「私は能力的に斥候か暗殺向きですね。一対一専門といったところでしょうか」
「い、いや」
「壁役は難しいですが、前衛向きかと」
陣形に関して質問したわけじゃないのだが。
「ん、じゃあ三人前衛って事で、臨機応変に行こう」
「……了解」
「了解です」
いろいろ思うところはあったが、リーダーはヒューだし、決定に従おう。
「しかし、洞窟の入り口、巨大な魔物の口みたいですね」
「確かにな」
メリンダの言うとおり、入り口に垂れ下がったツララのような鍾乳石は牙に見える。
そんな事を言われると、なんだか怖くなってしまう。
「灯りは? どうする?」
少し弱気になった自分を振り払うように二人に質問した。
「あー、言ってなかったっけ? 俺、夜目が利く」
まずはヒューが答える。
初耳だが。
「私は火の魔法を長時間松明代わりにできますので、おかまいなく」
続いてメリンダが答える。
さすが日常に便利な魔法シリーズ。
「なら私は個人で明かりを灯すか」
空間に穴を開けた。
お気に入りの独特なデザインのランタンを取り出した。
「お、魔法剣士にしか扱えないランタンってやつか」
ヒューが興味津々で私の手元を見ている。
「知っているのか?」
「レナードと組んだときにな、たまにあいつが使ってるのを見た」
「そう、これは精霊魔法が使えなくても魔法剣の原理で光を出す魔具なんだ」
説明しながらも、洞窟に近づく。
ヒンヤリとした風が中から吹いてきた。
「魔物、たくさんいますね」
「ああ」
メリンダも感知したか。
この先には……無数の強力な魔物が蠢いている。
メリンダは髪も短くなってスッキリしているが、表情は浮かない。
……先ほど初めて会ったときは無機質で人形のような印象を得たが、感情の揺れ幅が小さいだけでそうでもないのか。
「先ほどの話、信じます?」
少し後ろを歩いていたメリンダが、私とヒューに話しかけてきた。
さて、どう答えるべきか。
「半信半疑だし、もう検証しようもない。というのが本音だな」
正直に答えた。
ヒューも賛同する。
「そうだな。ソレイド王国大臣の一族は全員処刑されたしな」
メリンダはそれを聞いて歩くスピードを速め、私たちの前に出て振り返る。
「それは半分は信じたという事ですか?」
そう解釈したか。
「それはそうだ。君の強さは長年特殊な訓練をしなけば到達できるものではない。特に魔力感知は、幼少期から優秀な指導者が付く事が必須」
「普通は貴族のお嬢さんにそんな訓練させないわな」
語っていて、自分の幼少期を思い出す。
仙人のような師の元、三人の兄弟弟子と共に瞑想や目隠しでの訓練などいろいろな事をした。
「でも、帝国はたまたま本物とすり替えるための、緑色の髪の双子の赤ん坊を用意できた。ここは信じてもらえないと思ったのですが……」
なんだそんな事か。
その辺は帝国が過去に何をしたか予測できる。
「大方、将来ソレイド王国の重要人物になりそうな者を見極め、そいつと似た特徴を持つ人材を確保してたんだろ」
「だな。結果として、大臣になる者に目を付けたわけか。希少な緑色の髪の男女を事前に確保するくらいやりそうだ」
「ああ、何しろルシモス帝国だしな」
「……」
メリンダは目を丸くしている。
「緑色の髪……後の権力者になるであろう者と似た特徴を持つ赤ん坊を確保」
「……?」
「そんな事のために、帝国が長年かけた大がかりな工作が行われた可能性。それは疑わないのですね」
今度はうつむいた。
その姿を見て……。
彼女は何かとてつもない後悔を抱いている。
そんな気がした。
「いやあ。帝国ならそれくらいやるでしょ?」
「え?」
ヒューの言葉にメリンダは驚く。
「そもそもこいつの恋人が浚われたのも、その帝国お得意の壮大な計画の一部みたいだし」
「ヒュー、喋りすぎだ」
気になって制した。
少なくとも私はメリンダをまったく信用していない。
「どちらにせよ、お喋りはもう終わりだな」
ヒューが獣道の先を指さす。
「ダウジングバットが生息する洞窟、多分あれだな」
そこには、少し盛り上がった地形にぽっかりと大きな穴が開いていた。
†††††
先ほど中年のエルフと、文献による記述を思い出す。
自然に二人に説明していた。
「この洞窟はおそらく大地の魔力で満ちている。中には先ほどのマッドヴァイパーのような強力な魔物がウジャウジャいると思え」
自分で言っていて思う。
先ほどメリンダが倒した魔物が複数現れたら、さすがに危険だ。
ヒューが長剣の袋を剥がした。
臨戦態勢で尋ねてきた。
「ダウジングバットは? 目撃証言って洞窟の中でのものじゃないんだろ?」
「ああ、この辺の森だな」
「洞窟から自然に出てくるのを待つか?」
「得策じゃないな。目撃例は数年に一度。中に入って探して捕まえたほうが早い」
「なるほど、危険はつきものか」
素振りをしている。
なんだかんだで頼りになるやつだ。
ヒューもドラゴニッヒも、三日前の共同任務では見事な腕前を見せてくれた。
「君はどうするんだ?」
振り返って、メリンダのほうを見た。
なんだかんだいって女性だ。
ここで怖じ気づく可能性もある。
「私は能力的に斥候か暗殺向きですね。一対一専門といったところでしょうか」
「い、いや」
「壁役は難しいですが、前衛向きかと」
陣形に関して質問したわけじゃないのだが。
「ん、じゃあ三人前衛って事で、臨機応変に行こう」
「……了解」
「了解です」
いろいろ思うところはあったが、リーダーはヒューだし、決定に従おう。
「しかし、洞窟の入り口、巨大な魔物の口みたいですね」
「確かにな」
メリンダの言うとおり、入り口に垂れ下がったツララのような鍾乳石は牙に見える。
そんな事を言われると、なんだか怖くなってしまう。
「灯りは? どうする?」
少し弱気になった自分を振り払うように二人に質問した。
「あー、言ってなかったっけ? 俺、夜目が利く」
まずはヒューが答える。
初耳だが。
「私は火の魔法を長時間松明代わりにできますので、おかまいなく」
続いてメリンダが答える。
さすが日常に便利な魔法シリーズ。
「なら私は個人で明かりを灯すか」
空間に穴を開けた。
お気に入りの独特なデザインのランタンを取り出した。
「お、魔法剣士にしか扱えないランタンってやつか」
ヒューが興味津々で私の手元を見ている。
「知っているのか?」
「レナードと組んだときにな、たまにあいつが使ってるのを見た」
「そう、これは精霊魔法が使えなくても魔法剣の原理で光を出す魔具なんだ」
説明しながらも、洞窟に近づく。
ヒンヤリとした風が中から吹いてきた。
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「ああ」
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