エルフの魔法剣士、悪役令嬢と共に帝王の暗殺を企む

なめ沢蟹

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悪役令嬢との出会い

7話 イメージチェンジ

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 三人でダウジングバットが生息するという洞窟に向かっていた。
 深い森の獣道を歩く。
「そうだマーク。預けていた剣を頼む」
「あ、ああ」
 ヒューにそう言われて、空間に穴を開けた。
 辺りに時空魔法特有の奇妙な音が響く。
「しかしお前がいると便利だな。まさに歩く倉庫」
 誉められたんだかけなされたんだが。
 とにかく、袋に包まれた細長い両手剣を彼に渡す。
 歩きながら、その様子をメリンダが興味深そうに見ていた。
 緑色の髪をかき分けながら、空間に空いた穴から目を離さない。
「……」
 否が応でも警戒してしまう。
 自ら帝国のスパイだと語った彼女。
 その美貌の裏には、どんな考えを持っているのか……。
「マークさん」
「……! なんだ?」 
 話しかけられた。
 どう答えようか迷う。
 さて、何の質問がくる?
 ポーリサ王国の秘密を探ろうとするか。
 それとも、我々の計画を聞き出すつもりか。
「ハサミを貸してもらえませんか?」
「え?」
「歩く倉庫、なら持ってるかなって思って」
「……」
 もちろんハサミは魔法空間に保管してある。
 というか大抵の日用品が置いてある。
「構わないが、何に使うんだ?」
「髪、切りたくてですね。戦闘するにはうっとうしいです」
「あ、ああ」
 とりあえず開けっ放しの穴からハサミを取り出し、手渡した。
 それで我々を襲ってくるということは、さすがにあるまい。
「ありがとうございます」
 メリンダはそう言って懐から櫛を取り出す。
 櫛は持っていたのか。
「本当にこんな所で髪を切るのか? 貴族というのは専属の美容師に整えさせると聞いていたが?」
「ええ、後ろ髪だけでもバッサリと」
 それを聞いたヒューが憤慨する。
「ダメダメ勿体ない。絶世の美女のエメラルドグリーンの髪を斬バラ髪にするなんて、俺が許さない」
 急に怒り出す。
 キレ所がよくわからない。
「えっと、何が気にくわないのですか?」
「せめて俺が整える。安心しろ、美容師としての資格も持ってる」
「ええ? そうなのか?」
「レナードの髪はいつも俺が切ってるんだぞ」
「へ、へえ」
 急に弟弟子の一人の名前を出された。
 あいつの短いツンツン頭、ヒューの作品なのか。
「とにかく、メリンダ嬢。そこの切り株にでも座って」
「ありがとうございます。あと、私の事はメリンダで構いませんよ」
「わかった。それでメリンダ、どのくらい切る?」
「そうですね、せっかくなので思い切り短く」
「……」
 ついていけない。
 しかし輪を乱すのもなんだ。
 少しの間なら待つことにした。
 切った髪が服に入らないように布を肩にかけるメリンダを横目で見た後、空を見上げる。
「ミーシャ……」
 二人に聞こえない程度の音量で呟いてしまっていた。
 王子の話では、希少な体質であるミーシャは浚われても丁重に扱われている可能性があるとの事だった。
 しかし、あの方は決して可能性が高いとは言わなかった。
  
†††††
 
 十分ほど待った。
 森の音と共に、不自然な風の音が聞こえてくる。
 メリンダが精霊魔法で風を作り出し、切り終わった髪を飛ばしている。 
 本当、彼女の魔法は便利と言えば便利だ。
「どうですか? お嬢さま」
 ヒューが大げさなポーズと共に鏡を向ける。 
 メリンダは自分の姿をマジマジと見つめている。
「ありがとうございます。こんなに短くしたのは初めてですけど、気に入りましたわ」
「お誉めの言葉、ありがたき幸せ」
 やっぱりついていけない。
「ああ、でも敵を殺す時に前髪が視界を悪くするんですよね」
「……」
 やっぱり希代の悪女だ。
 発言がえぐい。
「前髪、もう少し切るか?」
「お願いします」
「……!」
 冗談じゃない。
 二人はまだ時間を取るつもりか。
 たまらず私は再び空間に穴を開ける。
 そしてカチューシャを一つ取り出した。
「メリンダ。細かく整えるのは後にしろ。前髪が邪魔ならとりあえずこれを付けとけ」
 強引に手渡した。
 キョトンとした顔を返される。
「カチューシャ……ああ、いいですわね。ヒューさん、やっぱりこのままでいいです」
「ん、そうか」
「マークさん。お借りしますね」
「いや、やるよ。その狩人服と同じで、もう使わない奴だ」
「え? それお前のなの?」
「一時期、本を読む時だけ付けてた」
「そうですか。では、ありがたくいただきます」
 そうしてメリンダは立ち上がり、短く整えた髪にカチューシャを付けた。
「……」
 本人には悪いが、急に気品が無くなった。
 もちろん美人なのに変わりはないが、その辺の女狩人のような風貌になっている。
「おお、可愛いね。俺はこっちの方が似合ってると思うよ」
「本当ですか? じゃあずっとこのスタイルでいこうかな」
 ヒュー……なんだか噂通りな一面が見えてる。 
 もしかして女たらしなのは素なのか。
「どっちにしろいい事だな。今のメリンダを見て、ソレイド王国の元大臣の娘と気づく者は少ないはず」
「あ、変装ですか」
「なるほど。それは良い事かもしれない。何しろ君は常に命を狙われているのだからな」
「そうですね」
 ……自分で言って気づいた。
 そもそもどうして彼女は……。
「メリンダ。どうして君は帝国に刺客を差し向けられているんだ?」
 つい尋ねてしまう。
 スパイを名乗っているのに、教えるわけがないか。
 そう思っていると……。
「口封じですね」
「……!?」
 意外にも答えてくれた。
 しかし、またしても眼光が鋭くなっている。
「実は私、偽物なんですよ。本物のメリンダ・ルイザ・キプリングではありません」
「え?」
「ソレイド王国の宮殿で育った大臣の娘、メリンダ・ルイザ・キプリングの双子の妹。名前すらない影武者、それが私の正体」
「……!?」
 話についていけない。
「どういう事だ? ソレイド王国の大臣は双子の一人を差別して育てたのか?」
 貴族はそういうことをする習慣でもあるのだろうか。 
 ヒューも興味深く聞いている。
「いろいろ納得だが、ソレイド王国には双子が不吉とか迷信でもあるのか?」
「それも違います。約十八年前、帝国は……帝王はソレイド王国の大臣、キプリング家に生まれた赤ん坊と私の姉をすり替えたのです」
「……!?」
「そして姉はそのまま何も知らずキプリング家の子として育ち、瓜二つの双子の妹の私は……ソレイド王国革命のきっかけを作るためだけに育てられました」
 ……これは。
 本当の話なのだろうか。
 しかし、ヒューの言うとおり、いろいろつじつまが合ってくるのも事実。
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