エルフの魔法剣士、悪役令嬢と共に帝王の暗殺を企む

なめ沢蟹

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洞窟の試験

3話 洞窟の中の渓谷

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 メリンダはビー玉大の宝玉を一つ拾って眺める。
「なぜ結晶化しているのですか? ここはポーリサ王国王都周辺ではないのに」
 無垢な顔で尋ねられた。
 本当に調子が狂う。
 こちらはその拾い上げた手を最大限に警戒しているというのに……。
「ここが大地の魔力に満ちた場所だからだ」
 一応説明しておく。
「というと?」
「例えばな……先ほど君が倒したマッドヴィイパーはおそらく、この洞窟から這い出てきた」
「……?」
「しかし魔力濃度が薄い場所で魔物としての形態を失うとな、宝玉か砕け散る」
「その辺の知識はポーリサ王国民以外はほとんど知らないみたいな」
「そうだな」
 さらに説明するため、私は落ちていた別のストーンラットの宝玉に目をつける。
 見やすいようにランタンで照らした。
「メリンダ、見てろ」
「……!」
 魔法剣を構えた。 
 そして注目される中、小さな宝玉を切っ先で突き刺す。
「お見事」
 ヒューが口笛を拭きながら拍手をしている。
 何だか悪い気はしないものだ。
「えっと、マークさんが剣の腕に長けているのはわかりましたが、これが何か?」
 メリンダはまだわかってない様子だ。
 再びランタンで足元を照らす。
「穴が空いた宝玉をしばらく見ててみろ」
「……あっ!」
「なっ、大地の魔力が満ちた場所では宝玉が破損しても自動で修復して結晶化する」
「これが魔物を倒して宝玉を手に入れる仕組みですか」
 感心している。
 素直なのはいいことだ。
「と、いうことは!」
 メリンダは急に大声を上げる。
 私もヒューも耳がいいのだからもう少しトーンを下げてもらってもいいのだが……。
「ターゲットのダウジングバットも、この洞窟内で倒さなければならないという事ですね?」
 自信に満ちた声で問われる。
 しかし違う。
「ああ、肝心な所が伝わってなかったな」
「そうだな」
 ヒューと顔を見合わせた。
 これは手痛いミスだ。
 今気づいて良かった。
「我々の任務はダウジングバットの宝玉を手に入れることではない」 
「……え?」
「ダウジングバットを生け捕りにしなきゃならないんだ。つまり、私の新たな使い魔にする」
「……」
 難しそうな顔を返された。
 多分これは理解できてないか。

†††††
 
  その後もストーンラットは頻繁に襲ってきた。
 しかし我々の敵ではなかった。
 すべてなぎ払い、確実に洞窟の奥に進んでいく。
「宝玉拾いたいのですが……」
 この状況でメリンダがとんでもない事をいいだした。
 先ほど偽物と宣言したが、仮にも大臣の娘として生きていた者なのにだ。
「おい、我慢しろ。この試験に受かれば、少なくとも食うには困らんくらい賃金が出る」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、俺たちギルドの仕事とか仮の姿だしな。もっともマークはギルドで稼いでる金のほうが遙かに多いはずだが」
「……」
「何しろマークは王国最強の魔導士だからな」
 ヒューの言うとおり、現在私はギルドにおいて、王国において最高の評価を受けている。
 もっとも……。
「それもおそらく今日までだがな。今後私は占いが得意なただの魔法剣士となるだろう」
 深く考えないで語った。
 二人が目を丸くして私を見ている。
「マークさん。何だか知りませんが・・・・・・占いが得意になる。それは重要事項では?」
「……あっ」
「アハハ。スパイの私の前で語っちゃうなんて、案外抜けてるんですね」
「……」
 迂闊だった。
 メリンダがケタケタと笑ってる。
 ……彼女、こんな表情もするのか。
「いや、そこはどうでもいいんだけどさ。仮に最強の魔導士が力を失ったなんて情報が流れても、大抵はブラフと判断するだろうし」
 ヒューは私の迂闊な発言を驚いたわけではないのか。
「その軽い感じ。お前、本当に最強の魔導士の称号に興味がないのな」
 そう言われて考えこむ。
 ちゃんと自分の考えを告げるか。
「私の出す炎と雷はそれぞれサラマンダーとサンダーバードという魔物の恩恵を受けて出している」
「知ってるよ」
「その二体はな、召喚士でもあった我が師から譲り受けたものなのだ」
「へえ、初耳」
「実は師はその二体に制限をかけていてな、どちらにせよあと数カ月で消滅する予定だった」
「え?」
 これは私の兄弟弟子たちにしか話した事がなかった。
「それに、あの時言った通り……最強の魔導士の称号とミーシャの存在、天秤にかけるまでもない」
「お熱いねえ。ま、俺もミーシャ救出には全力で力を貸すぜ。彼女のフルートのファンだしな」
 頼もしい限りだ。
 力強くうなずく。
「あの、盛り上がってる所申し訳ないのですが、行き止まりですよ」 
「な、何?」
 話に夢中になりすぎていた。
 魔力感知がおろそかになっていたか。
 いや……これは魔力感知ではどうしようもないか。
「け、渓谷だと?」
 下のほうから水の流れる音が聞こえる。
 洞窟の先は幅十メートルほどの渓谷の先に見える。
 これは……どうやって先に進むべきか。
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