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洞窟の試験
4話 渓谷渡り
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はるか下から流れる水の音。
三人で洞窟内の渓谷の下を見下ろす。
「深いなあ。ってどういう事? なんで進行方向の横向きに渓谷があるんだよ?」
ヒューが不思議そうにしている。
「おそらくだが、ここは二つの細長い洞窟が交差して繋がっているのだな」
考察してみた。
稀にそういう地形があると聞いたことがある。
「どういう事ですか?」
メリンダも尋ねてきた。
「これもおそらくだが、水の流れで出来た天然の洞窟は目の前のもので、ここまで進んできた洞窟は超大型の魔物が巣として掘ったものだろう」
「え?」
その言葉を聞いて二人とも驚く。
「こんなデカい穴掘れる魔物……グランドワーム?」
「だろうな」
「まずくないか? 三日前倒したときは、平原で三人がかりでやっとだったろ? こんな狭い場所で倒せるか?」
そうだ。
ヒューの言うとおり、三日ほど前に彼とドラゴニッヒと共にグランドワームを討伐していた。
その時は苦戦したわけだが……。
「大丈夫だ。おそらくここはその時倒したグランドワームの巣だ。あんなのはそうそういない」
「本当に?」
「ああ。メリンダ、君もこの洞窟内に超大型の魔物の魔力は感じないだろ?」
私に言われて、メリンダは目を閉じる。
……しかし改めて、ショートカットにしてカチューシャを付けた彼女は平民のようだ。
そう、まるでミーシャのような親しみのある……。
「本当だ。いませんね」
「だろ?」
「マッドヴァイパーという魔物はかなりいるようですが」
「げっ」
マッドヴァイパーがいるという言葉にヒューが反応する。
たしかにウジャウジャ一度に出たら困る敵だ。
†††††
マッドヴァイパーが洞窟内にウジャウジャいるとは言っても、あいつらは群れをなさない。
だから戦うとしたら一匹ずつだ。
それに少なくともこの近辺にはいない。
「となると、さしあたって問題はこの渓谷をどう飛び越えるかか」
目の前の渓谷を見た。
改めて、幅は目測二十メートル。
その先に通路に繋がる大穴が見える
「ヒュー、お前二十メートルジャンプできるか?」
「バカ言え」
「だよな。くそっレナードを連れてくるべきだったか」
弟弟子のレンジャーなら、この局面でもなんとかしそうだが。
「あいつだって、この幅は飛び越えられないだろう?」
ヒューが不思議そうな顔をしている。
「いや、ほら。あいつ、足場を二つ作れるわけだ」
「あ、なるほど」
この説明で納得してくれたか。
レナードは特殊な魔法が使える。
それを駆使すれば可能だったのだが……。
「いや、そもそもあいつ、あっちのチームの要だろ?」
「例え話だよ。そもそも浮遊魔法を使える者のほうが適任だ」
「ああ、そういうこと」
「仕方ないから一度外に戻ってロープとモリを調達しよう」
「ははーん。ロープをモリに括り付けて向こうの岩に投げて刺すわけか」
「ああ」
話は決まった。
回れ右をした。
時間がかかるが一度戻らねば。
そんな私たちをメリンダは呼び止める。
「お二人とも、私の魔法なら向こうへ簡単
に渡れます」
「……!」
確かにそうだ。
先ほど彼女が見せた浮遊魔法。
あれなら簡単に渡れるだろう。
「だとしても、長いロープは必要だろう? あいにく私の持っているロープは十メートルほどしかない」
そうなのだ。
時空魔法を利用して、歩く倉庫。
そんな私も今回の事態は読めなかった。
短いロープしか用意していない。
やはり入り口まで戻ろうとした。
「ミーシャさんに早く会いたいのでしょう?」
再度呼び止められる。
「私がお二人を背負って行きますよ」
「え?」
意外すぎる発言が来た。
背が高めとはいえ華奢な女性が、我々を背負って移動?
†††††
……本当にメリンダが私を背負うとか言いだしてる。
どうやって断ろうか。
「メリンダ。我々は急いでいるとは言っても、一分一秒を争うわけではないのだ」
まずはそう語ってみた。
「もしミーシャがもし無事なら、丁重に扱われてるかもしれないんだ」
「……あり得ますね。もしミーシャさんが貴重な人材なら、下手に扱って自殺されても困るはず」
「言いたくないが、無事じゃないならとっくに無事じゃない。だから急ぐとはいっても、慎重さを欠いてまでの話ではない」
伝わったろうか?
それを聞いた後、メリンダは不思議そうな顔をする。
「もしかして、帝国スパイの私に身を預けるのが危険と考えてます?」
「え?」
言葉に詰まる。
そういう考えがないわけではない。
「いや、その……」
しどろもどろになっている私の肩に、ヒューがポンと手を置いた。
「すまん、マーク」
「え?」
「王子に口止めされてるんだが……浮遊魔法、実は俺も使えるんだわ。お前は俺が背負ってくから安心しろ」
「……」
「俺が魔法を使えること、誰にも言うなよ」
唖然とした。
このヒューという男……ろくに文字も読めないし魔法も使えないが、剣の腕は立つ女たらしな賞金稼ぎで通ってる
実は文字が読めるだけじゃなくて魔法まで使えるのか。
「お前……そのうち実は上級魔法を使えるとか魔力感知もできるとか言い出しそうだな」
「まさか。俺の魔力量は一般人並みだそうだ。お前ならわかるだろ?」
「それは……確かに」
ヒューもメリンダも体内の魔力は私の約百分の一だ。
そんなものか。
「というわけで乗れ」
ヒューが背を向けてしゃがむ。
野郎同士で気持ち悪いが、メリンダにやってもらうよりはいいか。
「頼む」
ヒューに背負われる形になる。
「……」
彼の黒い細長い尻尾が視界に入る。
掴んでみたい衝動に駆られる。
「メリンダ、本当に浮遊魔法使えるんだよな?」
「はい」
「じゃあついてこい」
「わかりました」
「おお!」
ポワンという不思議な音が鳴り響き、ヒューと私の体はゆっくりと浮く。
そして風船のごとく少しずつ渓谷の上を渡る。
少し楽しい。
「ポーリサ王国の浮遊魔法、そんな感じですのね。お先に失礼します」
「……は?」
驚くヒューにかまわず、メリンダは空中を駆ける。
一秒かかるかかからないかで、向こう岸に降り立つ。
「な、なんだありゃ?」
私を背負い、フワフワ浮きながらヒューは叫ぶ。
「帝国の暗殺技術なんだろな」
そう答えるしかなかった。
三人で洞窟内の渓谷の下を見下ろす。
「深いなあ。ってどういう事? なんで進行方向の横向きに渓谷があるんだよ?」
ヒューが不思議そうにしている。
「おそらくだが、ここは二つの細長い洞窟が交差して繋がっているのだな」
考察してみた。
稀にそういう地形があると聞いたことがある。
「どういう事ですか?」
メリンダも尋ねてきた。
「これもおそらくだが、水の流れで出来た天然の洞窟は目の前のもので、ここまで進んできた洞窟は超大型の魔物が巣として掘ったものだろう」
「え?」
その言葉を聞いて二人とも驚く。
「こんなデカい穴掘れる魔物……グランドワーム?」
「だろうな」
「まずくないか? 三日前倒したときは、平原で三人がかりでやっとだったろ? こんな狭い場所で倒せるか?」
そうだ。
ヒューの言うとおり、三日ほど前に彼とドラゴニッヒと共にグランドワームを討伐していた。
その時は苦戦したわけだが……。
「大丈夫だ。おそらくここはその時倒したグランドワームの巣だ。あんなのはそうそういない」
「本当に?」
「ああ。メリンダ、君もこの洞窟内に超大型の魔物の魔力は感じないだろ?」
私に言われて、メリンダは目を閉じる。
……しかし改めて、ショートカットにしてカチューシャを付けた彼女は平民のようだ。
そう、まるでミーシャのような親しみのある……。
「本当だ。いませんね」
「だろ?」
「マッドヴァイパーという魔物はかなりいるようですが」
「げっ」
マッドヴァイパーがいるという言葉にヒューが反応する。
たしかにウジャウジャ一度に出たら困る敵だ。
†††††
マッドヴァイパーが洞窟内にウジャウジャいるとは言っても、あいつらは群れをなさない。
だから戦うとしたら一匹ずつだ。
それに少なくともこの近辺にはいない。
「となると、さしあたって問題はこの渓谷をどう飛び越えるかか」
目の前の渓谷を見た。
改めて、幅は目測二十メートル。
その先に通路に繋がる大穴が見える
「ヒュー、お前二十メートルジャンプできるか?」
「バカ言え」
「だよな。くそっレナードを連れてくるべきだったか」
弟弟子のレンジャーなら、この局面でもなんとかしそうだが。
「あいつだって、この幅は飛び越えられないだろう?」
ヒューが不思議そうな顔をしている。
「いや、ほら。あいつ、足場を二つ作れるわけだ」
「あ、なるほど」
この説明で納得してくれたか。
レナードは特殊な魔法が使える。
それを駆使すれば可能だったのだが……。
「いや、そもそもあいつ、あっちのチームの要だろ?」
「例え話だよ。そもそも浮遊魔法を使える者のほうが適任だ」
「ああ、そういうこと」
「仕方ないから一度外に戻ってロープとモリを調達しよう」
「ははーん。ロープをモリに括り付けて向こうの岩に投げて刺すわけか」
「ああ」
話は決まった。
回れ右をした。
時間がかかるが一度戻らねば。
そんな私たちをメリンダは呼び止める。
「お二人とも、私の魔法なら向こうへ簡単
に渡れます」
「……!」
確かにそうだ。
先ほど彼女が見せた浮遊魔法。
あれなら簡単に渡れるだろう。
「だとしても、長いロープは必要だろう? あいにく私の持っているロープは十メートルほどしかない」
そうなのだ。
時空魔法を利用して、歩く倉庫。
そんな私も今回の事態は読めなかった。
短いロープしか用意していない。
やはり入り口まで戻ろうとした。
「ミーシャさんに早く会いたいのでしょう?」
再度呼び止められる。
「私がお二人を背負って行きますよ」
「え?」
意外すぎる発言が来た。
背が高めとはいえ華奢な女性が、我々を背負って移動?
†††††
……本当にメリンダが私を背負うとか言いだしてる。
どうやって断ろうか。
「メリンダ。我々は急いでいるとは言っても、一分一秒を争うわけではないのだ」
まずはそう語ってみた。
「もしミーシャがもし無事なら、丁重に扱われてるかもしれないんだ」
「……あり得ますね。もしミーシャさんが貴重な人材なら、下手に扱って自殺されても困るはず」
「言いたくないが、無事じゃないならとっくに無事じゃない。だから急ぐとはいっても、慎重さを欠いてまでの話ではない」
伝わったろうか?
それを聞いた後、メリンダは不思議そうな顔をする。
「もしかして、帝国スパイの私に身を預けるのが危険と考えてます?」
「え?」
言葉に詰まる。
そういう考えがないわけではない。
「いや、その……」
しどろもどろになっている私の肩に、ヒューがポンと手を置いた。
「すまん、マーク」
「え?」
「王子に口止めされてるんだが……浮遊魔法、実は俺も使えるんだわ。お前は俺が背負ってくから安心しろ」
「……」
「俺が魔法を使えること、誰にも言うなよ」
唖然とした。
このヒューという男……ろくに文字も読めないし魔法も使えないが、剣の腕は立つ女たらしな賞金稼ぎで通ってる
実は文字が読めるだけじゃなくて魔法まで使えるのか。
「お前……そのうち実は上級魔法を使えるとか魔力感知もできるとか言い出しそうだな」
「まさか。俺の魔力量は一般人並みだそうだ。お前ならわかるだろ?」
「それは……確かに」
ヒューもメリンダも体内の魔力は私の約百分の一だ。
そんなものか。
「というわけで乗れ」
ヒューが背を向けてしゃがむ。
野郎同士で気持ち悪いが、メリンダにやってもらうよりはいいか。
「頼む」
ヒューに背負われる形になる。
「……」
彼の黒い細長い尻尾が視界に入る。
掴んでみたい衝動に駆られる。
「メリンダ、本当に浮遊魔法使えるんだよな?」
「はい」
「じゃあついてこい」
「わかりました」
「おお!」
ポワンという不思議な音が鳴り響き、ヒューと私の体はゆっくりと浮く。
そして風船のごとく少しずつ渓谷の上を渡る。
少し楽しい。
「ポーリサ王国の浮遊魔法、そんな感じですのね。お先に失礼します」
「……は?」
驚くヒューにかまわず、メリンダは空中を駆ける。
一秒かかるかかからないかで、向こう岸に降り立つ。
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