悪役令嬢と薄幸の元伯爵令嬢のかけて欲しい言葉と聞きたくない言葉

なめ沢蟹

文字の大きさ
65 / 69
最終章 暴走する悪役令嬢を止める禁句とは

11話 拷問官だった夫人

しおりを挟む
 ベアトリクス様はずっと不気味な表情で笑っている。
 これから起こること、それに対して自分がどう動くか。
 それを考えるだけでワクワクしてたまらないといったところか。
「・・・・・・」
 ふと思う。
 私も・・・・・・。
 女性をゲーム感覚で落とすのを楽しんでいたとき、今の彼女のような表情になっていたのだろうか。
「さあ、イーモン。その日記を読んで聞かせてください」
「・・・・・・ああ」
 今はベアトリクス様の要請に応えるとしよう。
 しかし、その後は私が諭さないと。
 ケイトが私に気付かせてくれたように。
 目の前の少女が歪んだ方向に行くのは止めなくてはならない。
 例え、暴走のはけ口になってしまったとしてもだ。
「その本、思ったより薄いな」
 ブルーノが私のほうにランタンの光を当てながら、そう語る。
「日付が・・・・・・クルック夫人の自殺した月が表示に書いてある」
「へえ」
「おそらく夫人は、月一冊記録を付けていた」
「夫人? どういう事ですの?」
「今パラパラとめくったが、前半と後半が明らかに筆跡が違う」
「・・・・・・!?」
 ベアトリクス様とブルーノが驚く顔が見えた。
 私も少し驚いている。
「ケイトの筆跡は知らなかったが、私は亡きクルック夫人のそれはよく知ってる」
「まあ兄貴は俺くらいの年からクルック家に仕えてたわけだしな」
「ああ」
「・・・・・・一ページ目から読んでくださる?」
「わかった」
 二人とも興味津々か。
 間違いなく、良くない傾向だ。
「では、読むぞ。クルック夫人の書いたところからだ」
「・・・・・・」
 息を飲む音が聞こえた。
 私は古びた日記帳を拷問器具の上に乗せてランタンの光で照らし出す。 
 ふと、どこの誰とも知らない干からびて腐った死体が目に入る。
 私を含めた三人は、もうその存在に慣れ始めている。
 それって、とても怖いことかもしれない。

†††††

 私は見慣れた筆跡のクルック夫人の書いた文章を読み上げる。
「今月は三人の罪人を拷問する予定。王族の方々はいつも通り視察されると思われる」
「・・・・・・拷問?」
「しっ!」
「今月から第二王子様もこの館を訪れる予定だ。地下通路の掃除は念入りにしないと。毎度ながら、マリンやリリーにお願いできたらいいのだけど・・・・・・」
「・・・・・・」
「この地下室や地下通路は、拷問官である私と、あの人以外には秘密だ。今月も私一人でやるしかない」
 ここまで読んだだけで、ベアトリクス様とブルーノに動揺が走っているのがわかる。
「ご、拷問官? なんだそりゃ? 首を括った伯爵夫人が?」
「文章から王族が関わっていることが伺えますわ。おそらく、公務でしょうね」
「うへえ」
 概ね私もベアトリクス様と同意見だ。
 これが・・・・・・夫人が自殺した理由? 
 とにかく続きを読む。
「クルック家の拷問官としての役目は十分に果たした。来期はシュガーラス伯爵家に引き継がれる」
「シュガーラス。名門の伯爵家か」
「・・・・・・ケイトはこの役目を知らずに一生を終える事ができるでしょう。本当に良かった」
「・・・・・・」
「数世代後、クルック家の者は今の私のように役目を引き継ぐはず。それは不憫だが、ケイトはこんな家業を知らないで大人になって欲しい。憧れのベアトリクス嬢にでも対抗意識でも燃やして、ステキなレディーになって、ステキな伴侶を」
「はあ?」 
 日記を読み上げる私の声をさえぎり、ベアトリクス様の素っ頓狂な声が地下に響く。
「ケイトが私に憧れていた? 生前の夫人、ずいぶんとズレてますわ」
「・・・・・・続きを読むぞ」
「え、ええ」
 この先が気になる。
 雑談にならないようにした。
「まさか隠し通路の隣にもう一本隠し通路があったなんて」
「・・・・・・」
「ケイトにすべてを見られていた? いつから? どこまで?」
「・・・・・・」
「罪人を拷問する私を・・・・・・あの子は見ていた? まさか巷で話題の行方不明事件は、ケイトとあの人が? 先ほど見たケイトの目・・・・・・濁っていた」
「こ、これは急展開だな」
「今読んだ所は、日付がクルック夫人が自殺した前日だな」
 つまり、これを書いた次の日に夫人は・・・・・・。
「拷問官、王族が関わる使命をケイトが引き継いでいた? やはりあの子はすごいですわ」
「・・・・・・」
 ベアトリクス様の表情がさらに不気味に歪むのが見えた。
 今まで見たことがない表情だ。
「ベアトリクス様。あなた今、生前のケイト様と似たような雰囲気醸し出してるぜ」
 ブルーノも同じ印象を受けていたか。 
 忠告向きに語る。
 しかし・・・・・・。
「あら、ありがとう」
 ベアトリクス様の返事はトンチンカンなものだった。
「ほめてませんが?」
「・・・・・・? とにかくイーモン、日記の続きを」
「・・・・・・」
 私は返事をしないで日記の続きを読み始める。
「お母様は多分私が今の王族が知らない隠し通路を行き来してる事に気づいてしまった」
「ん? ここからケイト様の日記か」
「おそらく、そうですわね」
「ああ、筆跡が変わってる。・・・・・・読むぞ。・・・・・・だからお母様は首を括った」
「・・・・・・」
「私はどうしよう? 拷問官の役目は私じゃなく、シュガーラス家の嫡男に移るらしいが・・・・・・人を狩るのはもうやめられない。銃におびえて逃げ回る罪人を追いかけるのは、絶頂しそうなほど気分がいい」
「・・・・・・なるほどね」
「ええ、ここからケイトは使命に目覚めたのですわ」
「はあ?」
 ベアトリクス様とブルーノがかみ合ってない。
 私は幸いなことに・・・・・・ブルーノのほうに共感できてる。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

処理中です...