悪役令嬢と薄幸の元伯爵令嬢のかけて欲しい言葉と聞きたくない言葉

なめ沢蟹

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最終章 暴走する悪役令嬢を止める禁句とは

13話 追跡

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 ブルーノと共に階段を駆け上がる。
 そしてそのまま亡き夫人の部屋を出て大広間に出た。
「ちょ、ブルーノ! イーモンさん! その臭いはなに?」
 リリーが金切り声を上げる。  
 そうか、見知らぬ遺体の死臭が染みついてしまったか。
 しかし構ってられない。
「リリー! ベアトリクスは?」
「え? ベアトリクス様? 今さっき、あなたたちと同じ凄い臭い放ってたわよ」
「そうじゃなくて、どこに行った?」
「え? 屋敷の外に走っていったわ」
「・・・・・・!? わかった」
 まずい。
 パニックになってどこかに走っていった。
 正直何をしでかすかわからない。
「兄貴。早くベアトリクス様を見つけないと。なんか嫌な予感がするぜ」
「ああ」
 ブルーノも何かを感じ取ったか。
 焦燥感の溢れる表情をしている。
 正面玄関の扉を開けた。
 森のほうを見てもベアトリクス様の姿はない。
「ベアトリクス様は足が速いからな。とっくにどこかに行ったか」
「どこかって、どこに?」
「大丈夫。心当たりがある。ブルーノ、お前はここに残れ」
「えっ!?」
「亡き夫人の部屋の地下への入り口を封鎖してきてくれ。頼む」
「あ、ああ」
 何か言いたげだったが、ブルーノは私の言葉を了承してくれた。
 そのまま屋敷のほうへ戻っていく。
「・・・・・・さて」
 パニックになったベアトリクス様の行った先はだいたい予測がつく。
 ある意味ケイトとの思い出の・・・・・・あの場所だ。

†††††

 遠い。
 目指してるのは、生前のケイトが使っていた狩猟小屋。
 走れど走れど見えてこない。
 小枝が燕尾服の端を引っ掛け破れる。
 しかしそのまま走った。
「価値観・・・・・・か」
 息切れしながらも、呟いた。
 あの夏の生前のケイトがベアトリクス様を殴った日。
 秘密を知られたと勘違いしたケイトが動揺するほどのものがあの狩猟小屋の地下にはあったのだろう。
 十中八九、ベアトリクス様はあの時それを見ていた。
 それを見た後、しばらく食欲が無くなるような凄惨なものがあった。
 そして、先ほど見知らぬ遺体を見た彼女は平然としていた。
 免疫が出来ていたということだ。
「あそこか!」
 やっと狩猟小屋が見えてきた。
 正確には、狩猟小屋の跡地。
 あの時ベアトリクス様が燃やしてしまったので解体されてしまっているのだが・・・・・・。
「ハァハァ・・・・・」
 息切れが止まらない。
 膝に手をついて休んだ。
「・・・・・・!?」  
 しかし、すぐに背筋を伸ばすことになった。
 真っ青な顔をしたベアトリクス様が、ふらつきながらこっちに向かっているのが見えたのだ。
 ・・・・・・何かを右手に持っている。
「ふふふ。イーモン、よくここがわかりましたわね」
「・・・・・・それはケイトの猟銃」
 私の視線は彼女の右手に固定されていた。
 かつて私が貴族街の地下でケイトに向けられた装飾された銃。
「そういえばケイトは2つ持っていた。もう1つはここにあったんたんですね。ベアトリクス様、それをお渡しください」
 慎重に言葉を選ぶ。
 ベアトリクス様の目が据わっている。
 刺激すると何をしでかすかわからない。
「嫌ですわ。私は、これを使ってケイトの意志を継ぎますの」
「・・・・・・」
「あの夏、この小屋の地下を見た時は・・・・・・ケイトは狂っていると感じましたわ」
「・・・・・・?」
 脈絡もなく語りだした。
 ここは様子を見て内容を聞くべきだ。
「・・・・・・ここの地下には何があったのですか?」
「さっき見た地下の景色と似たようなものでしたわ」
「拷問室?」
「いえ、ただ人を拘束する牢屋のようでした。もっとも、死臭が溢れていたりしている雰囲気はそっくりでしたが」
「・・・・・・遺体があった?」
「ええ、白骨体から・・・・・・銃で撃たれたばかりの死んで間もない遺体までいろいろでしたわ」
「ケイトの狩りの獲物の末路か」
 夏にそれを見たときからベアトリクス様の価値観は少しずつ変わってしまっていたのか。
 やはり凄惨な現場は未成年に見せるものではない。
 ブルーノもあの亡き夫人の部屋の地下室へ連れて行くべきではなかった。
「ベアトリクス様。あなたは、何をしたいのですか?」
 そう質問してみた。
 動機がわからないと、暴走に対処しようがない。
「最初は! 最初はケイトを更正させようと思いましたの」
「・・・・・・!」
 突然叫びだした。
 しかしこちらの動揺が伝わらないように務める。
「それは、夏の時点の話ですか?」
「ええ。あの時はケイトは父君が逮捕されて、自分は貴族から平民になって自暴自棄になってると思いましたわ」
「・・・・・・」
「だから、この小屋の地下は見なかったことにして使えなくなるようにした」
「だから燃やしたのですか?」
「ええ。ケイト、あの子は多分私が地下室を見たことに気づいてなかったみたいでしたわ」
「そうですね。多分あなたが嫌がらせでケイト様の私物を燃やしたと勘違いしていた」
 落ち着き始めたか?
 隙を見て、銃をとりあげれば・・・・・・。
「でも! いろいろ調べて! 私はあの子のやっていたことを認める事にしましたの!」
「ベ、ベアトリクス様。落ち着いてください」
 まずい。
 また興奮しだした。
「・・・・・・!?」
 後ろのほうで何かが動く音がした。
 森に住む獣か?
 しかし今はそれどころじゃない。
「ケイトは正義のために悪人をこらしめていて、狂ってなんかいなくて!」
「・・・・・・」
「だからあの子が死んでから私がその意志を継ごうとしましたの。だって世間のみんなはあの子が狂っていたと思い込んでいたから!」
「・・・・・・」
「でもさっき、気づいてしまいましたの。信頼するあなたの口から聞いて、クルック夫人の日記を見て、やっぱりあの子は狂っていたんだって」
 ベアトリクス様は叫び続ける。
 そして顔色はどんどん真っ赤になっていく。
 これはこのまま様子を見てるのは危険かもしれない。

†††††

 森の中、緊張感を持って猟銃を持った少女と対峙する。
 まるでケイトと争ったときのようだ。
 しかしあの時のような恐怖はない。
 ベアトリクス様が私に銃を向けることが無いのはわかっているから。
「あの子は狂っていましたわ! 私の大好きだったケイトは本当の快楽殺人鬼でしたの!」
 再び叫び始める。
 もうその顔は涙で溢れ、声は震えていた。
 しかし、これは解決へ向かう流れか?
「ならケイトの意志を継ぐなんて考えは捨てましょう。ケイトへのあなたなりの弔いは、これからじっくり考えていけばいい」
 なるべく穏やかに語りかける。 
 ベストな言葉の選択だと思った。
 とりあえず落ち着いてもらえば、猟銃を取り上げられる。
「・・・・・・!」
 しかし期待とは裏腹に、ベアトリクス様の表情は今までで最高潮に動揺の色を見せ始める。
「だから決めましたの。私もあの子と同じく狂った女になりますわ!」
「な、なぜそうなる?」 
「あの子1人だけが忌み嫌われるのはかわいそうだから!」
「・・・・・・!?」
 まずい。
 言葉の意味がわからない。
 生前のケイトは私とベアトリクス様の性格が似てると言っていた。
 しかし、まったく共感できない。 
 慕っていた故人が世間に悪く言われてる、それが発狂するほどの理由になるのか?
「狂った自分を世間に見せつけたいのですか? なら、私を今ここで撃ち殺しますか?」
 私も動揺していた。
 深く考えてもいない発言を口にしてしまった。
 ただ純粋な疑問をぶつけただけ。
「イーモン。あなたを撃つわけがありませんわ」
「・・・・・・」
 私の言葉に泣き崩れながら答える。
 そうだ。
 それがわかっているから、猟銃を持った彼女を前にしても・・・・・・。
「えっ!?」
 一瞬安堵した自分を呪う。
 ベアトリクス様は、自分に向けて猟銃を向けて、引き金に手をかけていた。
 
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