上 下
1 / 18

1

しおりを挟む
 多くの店が並び。
多くの人が通り。
多く人が笑っている。
その中に入ると混んでいた道が突然すいた。
 人々は眉をひそめて、口や鼻を手で隠し道を開けた。
 彼は気にとめず使い古された草履を引きずり、足を進めた。砂で足は真っ黒になっていた。着物の多くのシワあり髪は伸び放題で顔が見えない。浮浪者のように見える。
「あ、こっち空いている」
「ばか、そっちはダメだよ」
 小さな子どもを叱る母をらしき人。
 ひそひそと噂話をする人。
 毎回、毎回、同じで見飽きた。
 無言で進むと、突然棒のような物が出てきて転んだ。持っていた魚が地面に転がると一つ残らず踏み蹴られた。
 複数の嘲笑う声。
 魚だけでなく、身体も踏みつけられた。腹部に強い衝撃を感じたかと思うとせり上がって来るものがあった。我慢できずに地面に出した。
「きたねぇー」
踏んずけた人間が騒いだ。
口から出たのは今朝飲んだ川の水だ。それしか身体に入れていないのだから出ようがない。
更に腹部を踏まれたが、もう水はでなかった。
しばらくすると彼らは飽きたようで踏んづけていた人間はいなくなった。
ぼうーっと青い空を見ていると身体の痛みを感じなくなった。
立ち上がると腹部と足が痛んだ。足は地につけるたびに激痛が走った。
「……折れたか」
痛みはすぐに忘れられたが、歩くのに不便であった。
立ちあがった彼に村人は、妖怪でも見るような瞳を向けた。足を引きずり、村外れの家まできた。家といっても建っているのが不思議なくらいのボロ屋だ。
両親が生きていた頃はもう少しきれいであり周りに家もあった。しかし、鬼に責められて今は一軒しかない。
しおりを挟む

処理中です...