ツギハギだらけの翼~中学受験という名の戦いに自分の全てか掛けている。ふざけていない、常に本気だ~

黒夜須(くろやす)

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第20話 心の傷

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貴也は机に向かったが、鉛筆が動かせなかった。
彼の勉強への姿勢が気になった。分からない問題を飛ばなさいことや6年の春から過去問やることは塾の指示ではないはずだ。

おびえた態度も気になった。憲貞の傷は手だけはないようだった。

勉強しなくてはいけないのだが、ザワザワと気持ちが落ち着かない。チラリと憲貞を見ると彼は必死に勉強してるようであった。

今は自分の勉強だ。彼の家庭のことはこの時間に考えるべきではない。

自分の頬を叩くと、テキストに視線を移した。

憲貞の存在が気になり、集中するまで時間がかかったがスイッチが入れば問題なかった。いつもより勉強時間が少なかったが予定していた所までは終わり安堵した。

貴也は息をはきながら、椅子から立ち上がると全身をのばした。そして、憲貞の方を見ると彼はローテーブルに突っ伏して寝ていた。貴也はノートをのぞき込んだ。

(ふーん、最初の一問以外はやっているんだね。間違えが多いけど、これからかな)

ベットで寝ようか、と声をかけて肩を叩くと彼は大きな声を上げて飛び起きた。
それに貴也は驚き、身体を引いた。

憲貞は目をつぶったまま、鉛筆を持つと座り直した。

「大丈夫。できる。やれる」

呪文もように繰り返し、ノートに暗号としか思えない文字を書き始めた。

「え? もう寝ようよ」
「大丈夫だって。できる」

優しく伝えたが、怒鳴られた。
憲貞のつぶった目からは涙が流れている。その姿に胸が痛くなった。

(どうすればいいのかな。このままじゃ)

目をつぶり、泣きながら呪いのような文字を書く憲貞の姿は異様であった。

あたりを見回して、ベットからタオルケットを取ると憲貞にかぶせた。
彼は驚いたようで動きが止まった。その好きに後ろから抱き上げてベットへ運ぼうとしたが抵抗されて無理であった。

「できるからー、やるから」
「分かったよ。うん。できる。できるよ」

暴れる憲貞を抱きしめたまま床に倒れそのまま押さえつけた。しばらくすると静かになった。

憲貞はタオルケットで包まれ足しか見えないため、表情はよく分からない。

さらに時間が経つと憲貞から寝息が聞こえ安堵したと同時に自分の体温が上がるのを感じた。
自分の腕の中に憲貞がいると思うと心臓の音が速くなった。

(寝よう。うん。寝よう)

必死に目を瞑り、何も考えないようにしたが眠れなかった。

(寝るってどうやるだっけ)

タオルケット越しに伝わる憲貞の体温。
規則正しい憲貞の寝息。
ほのかにかおる憲貞に匂い。

(俺は何を考えている? 寝る、寝るんだ。えっとそうだ。2、3、5……)

素数を数える事にした。そのうち眠りにはいる事ができた。
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