女装彼氏〜めちゃくちゃモテる女装男子をモノにするまで〜

黒夜須(くろやす)

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部屋のチャイムがなった。
自分の出で立ちを見て、無視する事に決めた。宅配便だったら申し訳ないと感じたが、今の姿を見られたくなった。
しかし、チャイムは鳴りやまなかった。更に壁を叩く音が聞こえた。
まるで借金取りだ。
「あけろー」
怒鳴り声が聞こえた。
その声に聞き覚えがあり、外を見ると虎司がいた。それこそ無視しようかと思ったが、あまりに怒鳴るので周囲の目を気にして中に入れた。
「なんなの?」
玄関に入った虎司を睨みつけると、彼は目を大きくした。
「その姿だと、完全に男だね」
彼の第一声にイラつき、胸ぐらをつかんだ。
「なんの用よ」
「そ、そんな、怒んないでよ」
力の差を知っている虎司は慌てて両手を上げた。
手を離すと「悠さ」と彼は身なりを整えながら悠の顔を見た。「一香ちゃんに興味があるんだろ」
「はぁ?」
余りにも予想外な発言に眉を寄せ、虎司を睨みつけた。
「だって、授業さぼってまでバイトしている一香ちゃんを見に行ったろ」
悠は公園での出来事を思い出した。
「なんで知っているの?」
眉を潜めると、虎司はへらへらと笑った。
「君が怒っていたから謝ろうと後を追ったんだよ」
「なんで謝るの?」
「一香ちゃん狙いだから、俺が木山さんとくっつけようとした時不機嫌になったんだよな」
「……」
そっちの方向で話を進めるのかと頭痛がした。
「まぁ、分かるけどさ」虎司は大きく頷いた。「男みたいな女よりも、一香ちゃんの方が絶対いいよね」
木山恵は不愛想で危ない思考を持っているが悪い奴ではない。それに正樹の居場所を常に分かる様にしてくれた恩義がある。
「頼むから一香ちゃんは譲ってくれない?」
「……」
「木山さんはかっこいいけど女だから何とかなるじゃん? でもさ悠が本気になったら勝てないから」
「本気……?」
意味が分からなかった。身なりに対して妥協はしたことがない。現在の恰好を言われると返す言葉はないが、外出の際は常に完璧であるという自信があった。
「あぁ、今のその恰好だよ。それで髪を切ったら俺は太刀打ちできない」
悠は眉を寄せて、横にあった鏡を見た。どこからどこを見ても男の自分がいた。スカートやフリルのついたブラウスが似合うようには見えない。見ていて悲しくなってきた。
「それにしても、すごい鏡の数だね」
虎司は廊下の左右に置かれて無数の姿見鏡を見回した。
「たしか、リビングにもあったよね」
ヘらへらと笑う虎司を殴り倒したかった。
この姿見鏡は全て悠の努力の証だ。常に、相手にどうみられているのか確認できるように置いた物だ。
「帰って」
「え?」
悠は虎司を扉の方に向かせると背中を押した。
「帰っていったの」
抵抗する彼を無理やり家から追い出した。
「この後騒いだら警察呼ぶから」
そう言って扉を閉めると鍵を掛けた。扉に寄り掛かると目の前にある姿見鏡で自分の姿を見た。家からでないからと油断した自分を恥じた。
悠は虎司がいなくなった事を覗き窓から確認すると、寝室に入り着て服を乱暴に脱ぐとゴミ箱に捨てた。
箪笥から出した薄い紫色をした上下セットの下着を着た。更に、白いレースが全体にあしらわれた桃色のネグリジェに袖を通した。髪を下ろして丁寧にくしでとかした。
「……可愛いかな」
目の前にあった鏡の中に映った自分の姿を上から下までじっくり見た。
化粧はしていないが、女性らしく見えることに安心した。その途端この姿を正樹に見てほしくなった。彼に可愛いって言ってほしかった。
スマートフォンを手にすると、何度か写真を撮った。それを確認して眉を寄せるとまた写真を撮った。それを何度も繰り返して数十分後、気に入った写真ができた。
「これなら……」
悠は写真を送ろうとして、手を止めた。正樹を囲んでいた小さな女の子たちを思い出した。自分と違い小さく細かった。
正樹は自分を否定のするような人間ではないことを知っているが『どう見られるか』を考えたら怖くなった。
小さくため息をつくと位置情報アプリを起動した。アプリを開くとすぐに正樹の居場所が表示された。
「家かな?」
学校から数駅離れた建物を示していた。正樹の実家の場所は知らないが県外に引っ越したという話は当時聞いていた。
位置情報を頼り調べると学生向けのアパートであり悠は安心した。
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