女装彼氏〜めちゃくちゃモテる女装男子をモノにするまで〜

30

昼休みも後半になると、食堂から人が減っていった。
正樹が作ってくれた弁当は食べながら一つの弁当箱から直箸で正樹と食べているのだと思うと心臓の音がうるさかった。
「悠ここにいたのか」
「へ？」
幸せ気分が一気にぶち壊された。
「虎司、何か用？」
睨みつけたが、効果ないようで彼は腕を組み見下していた。周りにはいつもの女の子たちがいた。
「あれ、恵君？」
女の子が馴れ馴れしく、木山恵を呼んだ。しかし、木山恵は返事をするどころか、女の子の方も見ない。
「私たち、恵君とお話したかったの」
「そうそう」
女の子たちは、横に座っていた河沼一香を押しのけて木山恵を囲んだ。木山恵は嫌な顔していた。
河沼一香は面倒くさそうに頭をかいて「恵、少し話しておいでよ」と言った。
木山恵は目を大きくして首を振った。しかし、再度「行っといで」と強く言われると彼女はしぶしぶ承諾した。
「本当」
「やったー」
「河沼さん話わかるね」
女の子たちは楽しそうにしながら、木山恵を連れ去った。彼女はまるで売られる仔牛のような顔したが、河沼一香は笑顔で手を振っていた。それから、彼女は少し間を置いて目を細めると、仁王立ちしている虎司を冷たい目で見た。
食堂内がざわついていたが、当事者はそれを気にする様子はなかった。
正樹が、悠を守るように立ち上がり前に出た。
「邪魔」虎司は冷たく言った。「君みたいに小さな平凡顔には用がないだよね」
長身で体格の良い虎司に上から睨まれたら恐縮してしまう人間が多いが正樹は一歩も引かない。
「なんで、君に見たいな低身長で平凡な奴に女が集まるんだろうね？　貢いでいるのか？」
完全に挑発している。
「女が集まる？」正樹はキョトンとした。
「ふざけているの？　こんなにかわいい女の子ばかりはべらせて」
「それは、お前じゃねぇの？」
正論だ。さっきまで片手では数えきれない女の子に虎司は囲まれていた。
「レベルが違うでしょ。君の周りにはいるのはあんな取り巻きとは違う」
　虎司は肩をすくめて大きくため息をついた。
「取り巻き」正樹は不快感をはっきり表情に出した。「皆可愛い子たちだろ」
「馬鹿にしているのか？」虎司は眉を寄せた。「一香ちゃんと恵ちゃんだよ。それに悠もあんな女たちとレベルが違うでしょ」
　虎司の言葉を聞いている周囲の人間が不快感を持ち始めていた。しかし、当人は気づいていない。
「勘違いしない方がいい」虎司は正樹を指さし、言葉を強めた。「一香ちゃんや恵ちゃんは金目当てだろうし。悠は一香ちゃん目当てで君に近づいたんだ」
「はぁ？」
正樹の目の色が変わった。さっきまで『不快』程度であったが今は怒りに満ちている。
「ハン。図星か」
いきなり虎司は悠の手を引っ張った。普段なら彼に力比べで負ける事はない。しかし、突然であったためバランスを崩し、虎司の横に連れていかれた。
「君みたいな残念な顔の人間が悠と対等なわけがないでしょ。勿論一香ちゃんや恵ちゃんもだよ」
正樹が黙っていると、虎司は彼が負けを認めたと思たらしく勝ち誇った顔をしている。
「悠、さっきはごめん」突然に虎司は悠に謝罪した。
虎司は周囲には聞こえない声で「一香ちゃんは悠に譲るからさ。俺は恵ちゃんでいいよ」と言った。
酷い思い込みの上に、彼女たちを物と同様に扱う彼に怒りを覚えた。今すぐに虎司をぶん殴りたかったが周囲の目が気になった。
「ほら、一香ちゃんが待ってるよ」
虎司に背中を押され、座っている一香に近づいた。すると、彼女に殺気を向けられた。
その目は『お前がなんとかしないなら覚悟しろうよ』言っている。
「そ、そんなどうしたら……」
虎司が殴り掛かってきたら、応戦することは可能だ。しかし、彼にそのつもりはいない。
正樹がここで手を出せば『負けだ』それが分かっているから抑えているのだろう。彼のにぎられた拳が震えていた。
　虎司の言っている事は全部違うのに堂々としている彼に腹立った。その時、解決方法が頭に浮かんだが、恥ずかしかった。
「じゃ、俺は恵ちゃんの方へいこうかな」
虎司がそう言った瞬間、正樹が地面を蹴った。少しの猶予もないと感じ、悠は正樹を抱きしめ口づけした。
「――ッ」
「‼」
時間が止まった様に、食堂は静まり返った。
足を踏み出した虎司はソレを地面につけることが出来ずに硬直している。
河沼一香だけはニヤリと笑い、『よくやった』と親指を立てている。
正樹から唇を離すと、悠は涙を流した。　
悠の涙にぎょっとしたのは正樹や虎司だけではなかった。食堂中の人間が驚き注目している。
「虎司ひどいよ」
悠は正樹を抱きしめた。彼は目を点にしているが抵抗する様子はない。
「虎司は気に入った子がいるとすぐ私を使って自分のモノにして」
食堂内がざわついた。
「彼女の方が欲しいからって。私に彼氏の方を誘惑しろって毎回……」
「はぁ？」正樹の目の色が変わった。
虎司は状況把握が出来ていない様で目を大きくして黙っている。
「悠ちゃん、それで　恵君にも近づいたの」河沼一香が声を上げた。彼女の目にも涙があった。「だけど、罪悪感で押しつぶされそうになってあたしに相談してくれたのよ」
「相談……？」
虎司の空いた口がふさがらない。
「椎名虎司君は彼氏持ちの子をモノにして捨てるって。その片棒を担ぐのが辛いって」
すると、食堂の隅で手を上げる男の子がいた。
「俺の彼女も椎名君に取られた」
「すぐ振られたわよ」間髪入れずに食堂の反対側にいた女の子が声を上げ彼の方に向かうと、彼も彼女の方に向かい二人は抱き合った。
同じような話が次々と出てきた。
気付けば虎司は怒りに満ちた男性陣に連れていかれた。
これで一件落着と思い胸を下ろした途端、悪寒が走った。
抱きしめている正樹の冷たい笑顔に背筋が凍った。
「ゆうちゃん、具合悪いの？」
正樹はそう言うと、背中を支えられて歩かされた。周囲は同情の目で見ていた。