上 下
119 / 146

グレース殿下の屋敷

しおりを挟む
 太陽が真上を過ぎた頃、馬車がゆっくりと止まった。すると、マリア隊長が私に挨拶をして「しばらくお待ちください」と言って馬車から降りた。
 窓から外の様子を伺うとマリア隊長が外の様子を見ている。きっと安全確認だ。それから他の騎士と言葉を交わすと、ゆっくりと馬車の扉をあけて私に声を掛けてくれた。
 私が馬車を降りると、すぐ側にルイが笑顔で待っていた。ルイの一歩後ろには護衛部隊の四番隊隊長、ジャックがいた。
 ルイはゆっくりと私の近くにくると小さな声で「一緒の馬車が良かった」と言っていた。格上の王族を訪問するのにそういう訳にいかない。クラーク邸に行くように手軽ではない事くらい理解しているはずだ。そうでなければクラーク低訪問の時のように同じ馬車に乗ってきたはずだ。
 貴族のクラーク邸は翌日や当日行くと決めても問題はないが王族のグレース殿下はそういう訳にいかない。緊急でなければ、半月前には訪問の承諾を得ている必要がある。
 ハリーナイトやアンドレーの話をして、すぐに会うことは可能だろう。

「ルカ」

 ルイに名前を呼ばれ、進むように促された。周囲の様子を見るとどうやら私が動くのを待っているようであった。
 私はルイに謝罪すると、足を進めた。私たちの前を護衛部隊の四番隊隊長ジャックと五番隊隊長マリアが歩き、その後ろを私とルイが行く。次に救護部隊の騎士、最後を四番隊と五番隊から各二名の騎士と続いた。その他の騎士は馬車や屋敷の門など外周りの警護についていた。元々の警護騎士がいるため異様な人数になっている。
 これでは重要人物がいると周囲に知らせているようなものだ。実際知らせているのかもしれない。多くの騎士を配備する事で軍事力を示している。暗殺防止のためなには仕方ないことなのだろう。祖母のイザベラ女王は何度も暗殺されそうになったと聞いている。
 王族ってそんなにも狙われるのだろうか。
 前世でも大統領暗殺とかあったからそんなもんなのかもしれない。

 グレース殿下の屋敷の前までくるとジャック隊長が私たちに声を掛け、屋敷の扉に向かった。
 グレース殿下の屋敷には初めてきた。クラーク低よりもずっと小さな屋敷に驚いた。

「小さいと思った? まるで商人の住まいだよね。城から派遣されている護衛騎士以外では雇っている使用人に数名しかないしね」

 ルイの説明に目を細めた。グレース殿下……ルカの記憶にも漫画にも出てきていない。もしかたら、番外編にいたのかもしれないが読んでいないため私は彼女をルイからの情報でしか分からない。
 緊張する。

 扉が開くと現れたのは背の高い美しい方だ。金色の髪を短くし、平民男性のような服を着ており一見男性の様にも見えるが彼女が多分グレース殿下だ。アーサーとそっくりであり、アーサーが年を重ねたらそうなるのかと思った。
 その横にはグレース殿下より頭を一つ高い筋肉質な男性がたっている。彼もグレース殿下と同じような服を着ている。
 小さな屋敷に平民服。これではまるで商人の家庭みたいである。
 二人を見ると隊長たちはひざまずいた。

「グレース殿下、ジョージ殿下、出迎えありがとうございます」

 隊長たちが頭を下げるとグレース殿下はにこやかに微笑んでいる。
 王族夫妻が私たちを玄関まで出迎えに来たらしい。王族が自ら迎える事に驚いた普通は使用人が現れて部屋まで案内する。
 昨日、オリビア嬢の従者ルークを出迎えようとしてルイに私は怒られたところだ。
 もしかたらルイに間違えた情報を教えられたのかと思いルイを見ると彼に目を大きくさせて固まっている。間違えを私に教えたのではない事を彼の行動から理解した。
 周りを見れば私達以外は全員膝を地面につけている。

「お久しぶりでございます。ルイ・アレクサンダー・フィリップです。」

 さっきまで固まっていたルイがいつの間にか復活して頭を下げ挨拶をしている。慌てて、私も名乗り頭を下げた。

「よく、きました。中へ」

 グレース殿下は凛とした声で私達を室内へ招いた。その言葉で全員が立ち上がり扉へ向かった。

 グレース殿下カッコいい。
しおりを挟む

処理中です...