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上層部会議

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 玉座の間の真上に上層部会議室がある。私もルイもここには足を踏み入れたことがない。上層部しか入れないため当たり前だ。
 ルイと共に正装をして部屋の前までやってきた。扉の前にいた衛兵が私たちの顔を見ると扉を開けてくれた。
 緊張しながら、部屋にはいると義母のエマ第二王妃と叔父のオリバー摂政がいた。二人に挨拶をすると、奥に席に座るように言われた。

「今座っている席が、王と摂政の席になります。しっかり覚えておいてください」

 王妃が淡々と言った。彼女は叔父の様に常に表情のない人間ではない。だから気持ちを押し殺しているように見えた。
 王である夫が無残な死をとげたが休む暇がないのだ。きっとつらい……。

「王と摂政を含む、各役職の権限について渡した書類は読んだかい?」

 叔父はいつもと変わらない様子で私たちに訪ねてきた。私とルイが返事をする。
 この権限についての書類をルイが昨日持ってきた。片手では持ちきれない量の書類をルイと二人で今日の朝まで読んでいたのだ。
 会議中眠くならなかと心配であったが一睡のもしていないのに目がしっかりと覚めている。興奮状態なのだと思った。きっと会議終了したら動けなくなる。

 しばらくしてアーサーが現れた。今回は頭だけではなく片目と首や手も包帯をしていた。きっと見えないところも傷だらけなのだろう。

「アーサー殿……」

 私はアーサーがあいさつをするのを待たずに心配で声をかけた。アーサーはへらへらといつもの笑いを浮かべて手を振った。その様子を眉がさがった叔父がみたいた。そして改めて挨拶をすると席に座った。自力で歩くことができるのだから生活や業務に支障がある後遺症が残る傷はないのだろうと思った。
 アーサーに続き、前摂政であり叔祖母のグレース殿下と前騎士団長であるジョージ殿下が入室した。彼らは挨拶をするとすぐに席についた。

 これで全員そろった。

 実は法務大臣であるアーサーは上層部会議に参加する権利はない。しかし、今回の事件に深く関わっていることともう一つの理由で参加している。

 叔父が全員そろったことを確認するように見渡した。それから簡単な挨拶をすると本題にはいった。

「今回の議題はフィリップ国王陛下とクラーク家について。そして次期役職についてです」

 そういうと叔父は私の顔をみた。フィリップ国王について話せということだ。会議の進行は摂政が行う。そのため次期摂政の私に進行の一部を任せられたのだ。
 フィリップ国王については現場を見ているため話しやすいと叔父は思ってふったのだろう。
 私は以前に貰った資料に視線を落とした。この資料の国王を守っていた騎士名を見て目を疑った。
 映像で見ていた時は二人とも顔を兜に覆われていたので気がつかなかった。私は自分のしでかした罪の重さを感じた。この事を知ってルイは騎士なのだからどんな時も冷静に判断して躊躇することはない。必要なら“仕方ないことだ”と言っていた。
 私は深呼吸をして資料を読み上げる。

 私が話始めるとアーサーが記録を取り始めた。
 会議の記録は宰相が行うが不在であるためアーサーが担った。怪我をしているので心配して見ていたがしっかり記録を始めたので問題はなさそうある。
 私は安心して話始めた。全員知っているが改めて日付を伝えてから内容に入った。

「あの日、城は襲撃を受けました。以前の襲撃とは違い門を通った様子はなく突然、城内部に現れたようです。侵入者はアンドレー。元我が国を王子であり国王陛下の実弟です。アンドレーは国王陛下を狙ったようでした。その時、国王陛下は法務大臣アーサーと宰相クリスティーナと会議を行っていました。奇襲に気が付くとすぐに魔法能力のある法務大臣が応戦し、その間に国王陛下とクリスティーナ宰相は騎士と宰相共に避難しました」

 そこまで話すと周囲の様子を見た。誰もが真剣な表情をしている。グレース殿下とアーサーのこんな真面目な表情を見たのははじめてだ。あの親子はいつもヘラヘラと笑い、掴みにくい。

「ここからは、国王陛下の件は現場にいた国王陛下の護衛部隊、隊長ローガン・ジョーンズそして副団長ウィリム・クラークから情報を含みます」

 そう、あの時も現場にはクリスティーナ宰相の息子である、ウィリアム副団長がいたのだ。以前の襲撃事件で国王が狙われたことから騎士団の実力者が護衛についていた。実力だけでいえば、トーマス騎士団の方が上であるが前回のゲカが回復していない事と彼が護衛に回ると指揮をする人間がいなくなるのだ。
 これを聞いたとき、トーマス騎士団長は以前の襲撃事件で私が庇った事を負に思ってないと感じて安心した。そしたら「負に思っていたとしてもその感情を今は出さない。それは全て終わった後と考えているはず」とルイに言われた。
 ルイの言う事に正論だと思う。

 そんなルイを見るとじっと資料を見ているようだ。この辺の話は事前に知っているため聞き流して今後の対策を考えているのだろう。
 国王の件は騎士二人の証言と私たちが映像で見たことと一致している。しかし、そこにはあの時私たちが知らなかった騎士の名前があった。クリスティーナ宰相を打ったのは息子のウィリアム副団長だ。

 アンドレーが去ったところまで話は終わると誰もが重い顔していた。
 ここで何も発言しなくてはクラーク家取り潰しの方向に進んでしまうと思い、私はひと呼吸置いてから口を開いた。

「罪状は王殺し。罪人はクリスティーナ・クラークです。クリスティーナ・クラークは死亡のため裁く事はできません。権力のある貴族が罪を犯した場合は本人のみではなく家の罪としてきました。その理由は家ぐるみで関わりがあるいう考え方です。しかし、罪人を打ったのは息子ウィリアム・クラークです。彼の国への忠誠心は疑いようがありません」

 ウィリアム副団長への信頼は元々厚いため彼を処罰したいと思うものはいない。特にグレース殿下は騎士団に所属していた時ウィリアム副団長と同じ部隊に所属していた。

「更に姪に当たるオリビア・クラーク嬢は私の婚約者候補です。彼女は、私の婚約者になるにあたり魔法契約を結びました」

 その言葉にルイ以外の人間が目を大きくした。余りに表情の動かない叔父ですら「え?」っと、声を漏らした。
 私はルイからもらった契約書をテーブルの上に出した。すると、魔法能力のあるアーサーがすぐに契約書を手にして中身を見ると何度も瞬きをしていた。そして、契約書を元摂政の母グレース殿下に渡すとき何かに伝えていた。声が小さく内容はわからなかった。その言葉にグレース殿下は頷いていた。そして、グレース殿下と契約書に目を通す。

「これを作ったのはルカなのかい?」

 グレース殿下が私の目を見て言った。ここで下手に嘘をついて後で真実が分かったとき信頼を失う。摂政になるからには上層部の信頼をなくすのは致命的だ。だから嘘はつかなかった。

「私ではありません。オリビア・クラーク嬢です。彼女は古代語を理解しています。彼女が魔法陣を書き兄上が発動して契約しました」

「オリビア・クラークはただの貴族だったはずたが」

 グレース殿下が大声をあげた。彼女がここまで大きな声強く言葉を発するのをはじめて聞き驚いた。しかし、深呼吸をして落ち着くと静かに口を開いた。ここで進行役の私が冷静さに欠けることは許されない。

「そうです。ですが魔法能力はありません。だから発動もできません」

「そうではない。私が問題視しているのは古代語を理解して応用していることだ」

 私の台詞にグレース殿下は頭に手をあてて振った。私はグレース殿下が何をそんなに引っかかっているのかわからなかった。

「そんなに問題ですか? オリビア嬢は私ように古代語を全て理解しているわけではなりませんよ。」

「う? その言い方だとルカは古代語を全て理解しているように聞こえる」

 質問したのはグレース殿下だが、驚いているのはグレース殿下だけではない。ルイ以外の全ての人間だ。
 私はルイの方を見ると眉を下げて私を見ているようだ。

 どういう気持ちなのだ?

「アーサー殿だって古代語を理解していますよね」

 私がアーサーの方を見ると彼は肩をすくめていた。グレース殿下は椅子に座り直してテーブルの上で手を組んだ。
 そして、深呼吸をした。それを見て私も座り直した。グレース殿下につられて慌ててしまった。

「余りに驚いてしまったため取り乱してしまった。失礼。まず、アーサーも私も古代語は読めないし理解できない」

「え? でも、アーサー殿は氷の剣を魔法陣なしで出していましたよね」

「ルカみたいに魔法陣なしで発動はできないよ。あれは服に魔法陣を仕込んであっただよね。魔法陣を書けるけど、古代語が分かるわけじゃない。既存の魔法陣を組み合わせている。僕の魔法契約だってここまで拘束はできない」

 よく、わからない事をアーサーは言っている。魔法陣同士を組み合わせるならばその魔法陣に書いてある古代語の意味がわかるだろうし、読めそうなものだ。
 私がわからないような顔している事に気づいたようでアーサーはグレース殿下から私が契約書をもらった。

「例えば、ここに書いてある“嘘をつかない”というものなんだけど、僕は“相手に嘘をつかせない”ようにする事はできない。“嘘をついたら、失明する”というものならなら可能だ。石版魔法陣にある効果から組み合わせているんだ」

「でも、魔法陣の効果がわかるならその魔法陣の古代語を読めるのではないでしょうか」

「読めないよ。魔法陣効果を確認して移しているだけだ。むしろなぜかあの難解な字が覚えられるのか不思議だよ。ちなみに既存魔法陣でも効果の強いものは別に保管されている」

 そこまで話してニコリとして笑うとグレース殿下の方を向いた。そして「話をもどしても?」と聞いていた。グレース殿下は「あぁ」とすまなそう顔していた。
 そんな母の様子をみて、アーサーは勝ち誇ったような笑顔でグレース殿下をみた。
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