6 / 25
初めてのデート編
なんでそこだけ察しが悪いの
しおりを挟む
映画を終えて駅前広場に向かう道中、不意に拓海が訊いてきた。
「さっきの映画館で少し気になったんだけどさ、今日って何かの記念日だっけ?」
「記念日? そういう訳じゃないけど……なんで急に?」
そう訊き返すと拓海は一瞬安堵したように見えたが、すぐに怪訝そうな顔に戻り、そして言った。
「莉乃、一つだけ訊いても良い?」
その言葉に心臓が跳ねる。
「……なに?」
「勘違いなら悪いんだけど……今日の莉乃はいつもと違って見えた。やけに計画的だったし、まるで何かに急かされてるような感じだった」
「……気のせいじゃないの?」
「今日だけならまだしも、高校生になってからずっとそんな感じだろ? 気のせいで片付けられない」
「…………」
サプライズはいつも直前で気づかれるし、小さい頃に実践した悪戯は悉く返り討ちで終わる。
拓海は察しが良い方だと思う。
「……ほんと、私のこと見過ぎじゃない? ストーカーかよ」
「そんなんじゃねーよ。妹が誤った道に進もうとしてたら、誰だって心配になるだろ」
「あ、さりげなく兄貴面しやがって。拓海はむしろ弟でしょ」
「どっちが上とか言われてもなぁ、俺の方が誕生日が早いんだから。莉乃ってそういうところが本当に年下って感じだよな」
「へぇ~? 年上のくせに満足に友達の一人も作れないの~? 年上なのに~?」
「―――……! こいつ…………!」
「あはははっ! すぐキレるじゃん!」
「……ほんとにいい性格してるよ、お前は」
私が笑っていると、拓海は顔を逸らして羞恥を隠していた。この話題に関しては私の方が上だ。
「はぁ……、笑った笑ったー」
「ったく、うるせーな……」
そう言い終えると、拓海は話は終わりだと言わんばかりに静かになった。話題をはぐらかした私に気を利かせ、自分はすでに無関心だのだと装っていた。
「…………ねえ、拓海」
でも、それに気づかない私ではない。隣で見ていれば分かる。
「代わりに一つだけなんでも拓海の言うこと聞いてあげる」
「……は? なんだよ急に」
「確かにストーカー呼びは良くなかったなと思って。まあ、ちょっとの罪滅ぼし的な?」
「別に謝れなんて言ってないだろ。それにさ……」
拓海は口籠ると少しだけ視線を逸らした。
「なんでそっち向くの」
「……気のせいだろ」
覗き見ると僅かに耳が赤い。それを指摘すると、更に向こうを向いてしまった。
「えへへ、ちょっと可愛い。そういうの嫌いじゃないよ」
「うるさい、こっち見んな」
「……ほんとなのに」
嘘偽りのない言葉なのに、拓海は気づかない。
いつも私を見てくれるのに、私の本心に一向に気がつかない。
こんなに近くにいるのに、私の気持ちに寄り添ってくれない。
幼馴染という関係性が私の足枷になっているから。
「(でも、ずっとこのままの関係だったら嫌だな……)」
今より先の未来まで拓海がここにいるとは限らない。
このまま安住していれば、後になってきっと後悔する。
……そんなの嫌だ。
「願い事……今じゃなくても良いからね。部屋でゆっくり考えなよ」
「いや、だから俺は……」
「あ! でも、あっちの類は駄目だからね! できる範囲でって話だから」
「そんなこと考えてねーよ! だから、俺が言いたいのはそうじゃなくって―――」
「いいじゃん別に。そういうものは貰える内に貰っといた方が得だからね。過剰に謙虚だと、むしろ相手に不快感を与えるよ? だから友達ができないんじゃない?」
「…………分かったよ」
そう説くと、拓海は渋々ながら納得してくれた。
「でも、言ったからには断るなよ? 直前でやっぱ止めたは無しだからな」
「断らないよ?」
「だから―――、そういうのが良くないって言いたいんだよ……」
思うところがあるらしいが、私には関係ない。
少しでも私を見てほしい。そして気づいてほしい。そう望んでいるから。
「よし、じゃあこのまま一緒に帰ろっか!」
「え、帰りは別々って最初に言ってたろ? デート気分はどうしたんだよ?」
「今日は特別! 次からちゃんとやるからさ!」
「……ほんとに飽き性だな、莉乃は」
そう言いながらため息をつくが、口元からは薄らと笑みをこぼしていた。拓海も満更でもないらしい。
対する私も同様だろう。手元に鏡がないから確認のしようがないけど。
「ふふっ、そうだね」
拓海の隣は、こんなにも居心地の良い場所なんだから。
「さっきの映画館で少し気になったんだけどさ、今日って何かの記念日だっけ?」
「記念日? そういう訳じゃないけど……なんで急に?」
そう訊き返すと拓海は一瞬安堵したように見えたが、すぐに怪訝そうな顔に戻り、そして言った。
「莉乃、一つだけ訊いても良い?」
その言葉に心臓が跳ねる。
「……なに?」
「勘違いなら悪いんだけど……今日の莉乃はいつもと違って見えた。やけに計画的だったし、まるで何かに急かされてるような感じだった」
「……気のせいじゃないの?」
「今日だけならまだしも、高校生になってからずっとそんな感じだろ? 気のせいで片付けられない」
「…………」
サプライズはいつも直前で気づかれるし、小さい頃に実践した悪戯は悉く返り討ちで終わる。
拓海は察しが良い方だと思う。
「……ほんと、私のこと見過ぎじゃない? ストーカーかよ」
「そんなんじゃねーよ。妹が誤った道に進もうとしてたら、誰だって心配になるだろ」
「あ、さりげなく兄貴面しやがって。拓海はむしろ弟でしょ」
「どっちが上とか言われてもなぁ、俺の方が誕生日が早いんだから。莉乃ってそういうところが本当に年下って感じだよな」
「へぇ~? 年上のくせに満足に友達の一人も作れないの~? 年上なのに~?」
「―――……! こいつ…………!」
「あはははっ! すぐキレるじゃん!」
「……ほんとにいい性格してるよ、お前は」
私が笑っていると、拓海は顔を逸らして羞恥を隠していた。この話題に関しては私の方が上だ。
「はぁ……、笑った笑ったー」
「ったく、うるせーな……」
そう言い終えると、拓海は話は終わりだと言わんばかりに静かになった。話題をはぐらかした私に気を利かせ、自分はすでに無関心だのだと装っていた。
「…………ねえ、拓海」
でも、それに気づかない私ではない。隣で見ていれば分かる。
「代わりに一つだけなんでも拓海の言うこと聞いてあげる」
「……は? なんだよ急に」
「確かにストーカー呼びは良くなかったなと思って。まあ、ちょっとの罪滅ぼし的な?」
「別に謝れなんて言ってないだろ。それにさ……」
拓海は口籠ると少しだけ視線を逸らした。
「なんでそっち向くの」
「……気のせいだろ」
覗き見ると僅かに耳が赤い。それを指摘すると、更に向こうを向いてしまった。
「えへへ、ちょっと可愛い。そういうの嫌いじゃないよ」
「うるさい、こっち見んな」
「……ほんとなのに」
嘘偽りのない言葉なのに、拓海は気づかない。
いつも私を見てくれるのに、私の本心に一向に気がつかない。
こんなに近くにいるのに、私の気持ちに寄り添ってくれない。
幼馴染という関係性が私の足枷になっているから。
「(でも、ずっとこのままの関係だったら嫌だな……)」
今より先の未来まで拓海がここにいるとは限らない。
このまま安住していれば、後になってきっと後悔する。
……そんなの嫌だ。
「願い事……今じゃなくても良いからね。部屋でゆっくり考えなよ」
「いや、だから俺は……」
「あ! でも、あっちの類は駄目だからね! できる範囲でって話だから」
「そんなこと考えてねーよ! だから、俺が言いたいのはそうじゃなくって―――」
「いいじゃん別に。そういうものは貰える内に貰っといた方が得だからね。過剰に謙虚だと、むしろ相手に不快感を与えるよ? だから友達ができないんじゃない?」
「…………分かったよ」
そう説くと、拓海は渋々ながら納得してくれた。
「でも、言ったからには断るなよ? 直前でやっぱ止めたは無しだからな」
「断らないよ?」
「だから―――、そういうのが良くないって言いたいんだよ……」
思うところがあるらしいが、私には関係ない。
少しでも私を見てほしい。そして気づいてほしい。そう望んでいるから。
「よし、じゃあこのまま一緒に帰ろっか!」
「え、帰りは別々って最初に言ってたろ? デート気分はどうしたんだよ?」
「今日は特別! 次からちゃんとやるからさ!」
「……ほんとに飽き性だな、莉乃は」
そう言いながらため息をつくが、口元からは薄らと笑みをこぼしていた。拓海も満更でもないらしい。
対する私も同様だろう。手元に鏡がないから確認のしようがないけど。
「ふふっ、そうだね」
拓海の隣は、こんなにも居心地の良い場所なんだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【完結】指先が触れる距離
山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。
必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。
「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。
手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。
近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる